表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/130

第16話 支配力の顕現

 ゲートキーパーの背後にあった扉を開いて中に入ると、そこは棘の山で覆われていた。

 棘の一本一本が太い杭のようなもので出来ており、とても凶悪な内装をしていた。


「うわ、これはすごいねえ。この部屋には入ったことがなかったんだけど……まさかこんな危ない場所だったなんて」

「そうですね。というかリザさんでも入ったことがないって、二代目魔王のダンジョンってそんなに探索されてないんですか?」

「そうだよ。ほかの歴代魔王のダンジョンが広いし、お宝もいっぱい出るしで、手が回っていなかったんだよ」


 初代魔王のダンジョンに比べて、二代目魔王のダンジョンについて、リザが解説してこなかったのはそのせいか。

 ゲートキーパーやマタンゴなどについては知っているようだが、細かいところまで調べ切れていないようだ。


「一応、今回先に入っている人とか、好奇心旺盛な人が時折入っていたりはしたんだけど。ドミネイターズのメンバーは二ケタもいないからね。手が少ないんだよ」

「なるほど……」


 となると、この二代目魔王ダンジョンには遺産がかなり眠っているということなんだろうな。

 元よりこのダンジョンに入った目的は、支配契約をどうにかする遺産を探すことだから、必要以上に荒らされてないのは、ありがたい話だ。そんなことを思っていると、


「クロノさん。この部屋、向こうまでトゲトゲしていて危ないですよ。しかも地面でバネみたいな音がギシギシ行ってますし、たぶん跳ね上がってくる部分もあるかと思います」


 ソフィアが遠くのほうを見つめながら言ってきた。

 

「おお、さすが吸血鬼のソフィア。目と耳がいいなあ」

「ありがとうございます。このくらいは役に立たないと、クロノさんに申し訳ないですからね」


 ソフィアは言いながら、嬉しそうにほほ笑んだ。

 彼女のおかげで、この部屋には罠が仕掛けられていることが分かった。おそらく、初代魔王みたいな槍衾だろう。

 

 物騒な罠が好きだよなあ、と思いつつも同時に、ラッキーだと思う。

 

「リザさん、このダンジョンの床って動かしても大丈夫ですかね?」

「え? う、うん、大丈夫だと思うけど、動くかな? 一応初代魔王よりも二代目のほうがダンジョンを支配する力は強かったと思うんだけど」

「ああ、そうなんですか。……まあ、駄目元でやってみますよ」


 通じなかったら別の手段を考えればいい。

 そう思って俺は床に触れて、

 

「横に回って槍をへし折ってくれ」


 ダンジョンに命令するように言ってみた。

 瞬間、俺の腕から、黒い光の鎖のようなものが出て、ダンジョンの床に突き刺さった。そして、

 

 ――ゴゴ……!!

 

 と、鎖が自動的に引かれて、床が回った。一回二回ではなく、十回くらいくるくる回った。

 その結果、床に突き出ていた棘のすべてがへし折られ、なぎ倒された。

 後に残るのは、無残な棘の残骸と、綺麗になった平面の床だけだった。


「動いたな……」 

「……動きましたね」

「動いちゃったねー」

 

 俺は唖然として、ソフィアは茫然として、リザは苦笑をしていた。

 

「いやあ、二代目魔王とか関係なかったね。完全にダンジョンを支配できちゃっているよ」

「みたいですね。……というか、俺から変な黒い鎖が出たんですけれど。なんですか、これ」


 今も、俺の肘辺りから出た鎖は床とつながっている。

 手で触れてみれば、ほのかに暖かな温度があり、それでいて硬い感触が返ってくる。

 なんだか物質っぽいが、魔人族に鎖を出す特殊能力なんてないし、一体どうなっているんだ。


「それは支配する力の元みたいなものでね、『支配の鎖』っていうんだ。ソフィアちゃんを支配するときにも出ていたでしょ?」

「ええ、まあ」

「基本的に、ダンジョンを支配する力と奴隷を作る力ってのは一緒でね。魂を支配するか空間を支配するかなんだ。だから、その鎖をダンジョンにつなげれば空間を支配できるし、ソフィアちゃんの魂も支配できるってわけ」


 なるほど。鎖の名称と効果はわかった。けれども、


「今まで、こんな鎖出なかったんですが、なんで今になって出たんですかね」

「えっとね、『支配の鎖』というのは支配力の強い魔族じゃないとまず顕現させられないんだ。クロノにはそれだけの力があったし、実は今までにもうっすらとした鎖が出ていたりしたんだよね」

「え? 本当ですか」

「うん、本当。私と最初に潜った時も、ほんのちょっぴりだけ、鎖が見えていたもの」


 気づかなかった。というか、その時は、ダンジョンが動いてしまう事態に目を取られすぎて、自分の肘なんて見たことがなかった。


「それでクロノはあれからいくらか、ダンジョンを操る練習したでしょ?」

「ええ、まあ、少しは」

「うん、だから慣れて、力の発揮が存分になされるようになって、鎖が顕現したんだろうね。この後、もっと慣れればもっと多くの鎖を出せると思うけど……いやあ、本当にクロノにはびっくりさせられるよ」


 自分の体から鎖が出てくるとか、俺のほうがびっくりだよ。

 金属的な感触は全くしないし重さもほとんど感じない。

 

 それなのに物質的で、引っ張ってみるとなかなかの強靭度をしているので、微妙な気持ちもするし。

 

「クロノさん、なんだか鎖をまとっている姿、格好いいですよ」


 ソフィアはキラキラした目でそんなことを言ってくる。

 俺にはこの鎖が格好いいとは思えないのだが、感性の違いだろうな。

 

 そんなことを考えながら、床から手を放して肘を振ると、鎖が掻き消えた。

 どうやらダンジョンの支配をやめると、鎖は消えるらしい。

 

「あー……すげえ変な気分です」

「あはは、特殊能力の一つだと思えばいいよ。それに……ほら! この部屋も探索できるようになったんだから、いいじゃない!」


 リザはそう言って励ましてくる。確かに彼女の言う通り、棘がなくなったのでこの部屋を見回ることができるようになった。

 

「まあ、そうっすね。軽く探索しますか」

 

 室内はおよそ十メートル四方の四角い形をしており、壁や天井、床は樹木で出来ている。

 足元に棘が散らばる床の上を、俺たちは歩いていく。とりあえず三人でバラバラに動いて何かないか探し回る。すると、

 

「あ、部屋の中心になんだか窪みがあるな」


 棘を蹴り飛ばしながら歩いていたら、小さな丸い穴を見つけた。  

 中には水晶のような石が入っている。

 

「なんですかね、これ」


 俺がしゃがんでそれを取ると、どれどれとリザが近づいてきた。

 そして、その石を見た瞬間、リザは目を見開いた。

  

「く、クロノ! それって『契約印石』だよ?! またすごいものを見つけてくれたね……!」


 何やら驚いているが、専門用語で話されてもよくわからないぞ。

 

「契約印石って、なんですかね?」

「ダンジョンに発生するモンスターと支配契約を結んでいる石だよ! 二代目魔王の発明品でね、ここに支配の力を印として刻んで、モンスターたちを統括しているんだ!」

「へえ、いいお宝なんですか?」

「い、いいとか、そういうレベルじゃないよ。これを改造すればモンスターを家畜化したり、町に入ってこれないようにしたり出来る、凄いものなんだ……! 今までもいくつか見つかっているけれど、本当に利用価値が高いんだよ!」


 リザは鼻息を荒くして力説してくる。

 なんだか相当にいいものだったらしい。

 

「全く、クロノといると本当に退屈しないよ。ともあれ、遺産発見おめでとう、クロノ。また所有品が増えたね」

「えっと……これも俺が所有していいんですか?」


 価値とかわかっていないのにいいんだろうか。そう思って問うと、当然のように頷かれた。 


「もちろん。だって、クロノが見つけたんだし。売るも売らないも自由だよ」

「わー、おめでとうございます、クロノさん」


 ソフィアも拍手をして祝福してくれている。

 

 そんなわけで、ちょっと俺には価値が分かりにくかったのだけれど。

 二回目のダンジョン探索でも無事、遺産を発見できたようだった。


いつも応援ありがとうございます。

ブクマ、評価、感想など、とてもモチベに繋がっております。

今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●同時連載作品のご紹介
こちらの連載も応援して頂けると助かります!
最強の預言者な男が、世界中にいる英雄の弟子に慕われながら冒険者をやる話です。
 100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます
https://ncode.syosetu.com/n2477fb/

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ