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第12話 支配の言葉

 俺とソフィアは食堂で遅めの夕食をとっていた。というのも、


「入ったばかりの子に、いきなりダンジョンに潜らせるわけにはいかないからね。とりあえずダンジョンの案内書を渡すから、今日は休んで明日から本格参戦してね」


 というリザの言葉により、その日の午後は遅くまで案内書を読みこみ続けたからだ。


 いきなりダンジョンに潜らせるわけにはいかないと言いつつ、昨日は俺をダンジョンに入れたのは何でなのかとツッコミたかったが、


 ……まあ、奴隷云々でバタバタした気持ちのまま、入るわけにはいかないもんな。


 初代魔王の安全なダンジョンですら、そこそこ危ない罠があった。

 一つの油断や、気の緩みで怪我を負いかねない。


 魔族は頑丈な体を持っている輩が多いが、ソフィアはどうかわからないし、俺はそこまで頑丈ではない。

 だから怪我をしないためにも、今日は別の事をする。

 そのためにソフィアと一緒に食事を取っていた。


「――というわけで、私の吸血鬼としての特性は、強力な再生能力と相手からのエネルギーを吸収できる事、くらいですかね。必ずしも血を吸う必要性はないんですが」

「なるほど」


 食事を取りながら行っていたのは、ソフィアとの情報交換だ。

 それに支配契約がある以上、ソフィアとの付き合いも多少は深くなる。

 だから今日は色々と喋ってお互いの事を知りあっておこう、ということで喋り続けていたのだ。


 自分の使える能力や、種族としての特性以外にも、地元の情報などさまざまな情報を得た。


 ……南方にある吸血鬼の国のお姫様、か。


 結構な立場の女性を支配してしまったものだ、と思いながらお茶を飲んでいると、


「あの、クロノさん?」

「なんだ?」

「私ばかり喋ってしまって申し訳ないというか、クロノさんの口数が少なめな気がするのですけれど、私、話しにくいですかね?」


 ソフィアが心配そうな表情で、おずおずと俺の顔を見上げて来た。

 確かに話すペースは俺が二割、彼女が八割というところだったが、

 

「ああ、いや、そんな事は無い。うっかり命令すると大変なことになるから。あんまり喋らないようにしてるんだ」


 自分の言葉の中に命令的な文言が入ってないか考えながら喋るとそうなっただけだ。

 誤解させてしまってこちらこそ申し訳ないな。


「ソフィアとの会話は楽しいから、聞くことに集中していたのもあるな。ともあれ、話しづらいなんてことは無いぞ」


 そう言うと、ソフィアはホッとしたような笑みを浮かべた。


「あ、ありがとうございます。――でも、そこまでお気遣いしてくれなくとも大丈夫ですよ。世間話で出るような命令なら、そこまで危なくないでしょうし。操られる感覚も私、嫌じゃないですし。何の言葉が命令になるかわからないですけど」

「……君の危機意識レベルはもうちょっと上げた方がいいと思うぞ」


 何がきっかけでどんな命令が出るのか分からないんだし。ただ、そうだな。


「どのレベルが命令判定になるのか、チェックはするべきだな」

「確かに……そうですね。今、チェックしちゃいますか?」

「ああ、ちょうど食事もし終わったところだしな」


 怖がっていても仕方がない。

 打てる手は打っておいた方がいいだろう。

 きっちり調べておけば、うっかりで命令することも減らせるのだし。


 これからダンジョンに潜るにあたって、一々考えながら喋るのも面倒だし。


「さっきの『抱きまくらにしたい』ってのは、命令判定だったんだよな」

「え、ええ。――命令になっちゃってますね。完全に動かされてます……」


 先ほどと同じ言葉を放つと、先ほどと同じようにソフィアは支配されて、俺に抱きついてきた。

 その表情もやはり先ほどと同じで真っ赤だった。


「離れてくれ」

「は、はい」

「……その、何度も抱きついてもらってすまんな。同一条件、あるいは同一行動で試す必要があると思ったんだ。先に説明すべきだったけれど」

「だ、大丈夫ですよ。分かってますから」


 理由に納得してくれて本当に何よりだ。

 まあ、俺としては役得な気持ちが無いわけではないのだが、今は置いておく。

 大事なのは、どこまでが支配してしまう命令か、だ。


「ソフィア『抱きついてくれ』」


 今度は先ほどよりも強く、ギュっと俺の体に手を回してきた。

 柔らかな体が押し付けられる。


「これもまあ、当たり前だが、命令なんだよな」

「そ、そうみたいですね」


 もう一度離れてもらった後、今度は少し考える。そして、


「『抱きついてほしい』ってのはどうだ?」


 言葉を柔らかくして言ってみた。すると、


「あ……これは、セーフ、みたいですね」


 ソフィアは抱きついてこなかった。

 

「なるほど。~してほしい、とかのお願いレベルの言葉なら、この支配契約は発動しないってワケか。ソフィア、体の動きに変化とか、強制的なものはないよな?」

「はい、全く問題ないです」


 ソフィアは自分の体のあちこちを眺めながら頷いた。

 どうやら一つのセーフなラインを見つけたようだ。

 

「言葉のちょっとした差異で判定が変わるみたいだけど、とりあえずこれが分かってよかった。……もう少し付き合ってほしいんだけど、いいか?」

「は、はい、勿論です! クロノさんの……先輩の頼みですからね。断ったりなんてしませんよ!」

「その先輩後輩のノリは止めよう。ともあれ、ありがとうな」


 支配契約の扱いは大変だけれども。

 ソフィアと喋って試していくことで、どうにか理解していけそうだ。


お陰さまで週間ランキング2位になれました。

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