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16話 枷の外れ方


 市長の手により、広間に張られた天幕の解除は一瞬で終わった。

 また、フードコートや、出店など、祭りの為に用意されていた施設も、あっという間になくなっていき、

 

「……見通しが良くなったな」

「そうですね。何というか、殺風景になりましたね、クロノさん」


 かつて楽しい時間を過ごした広間は今、戦闘用のフィールドとして使えるようになっていた。


 こうしてみると分かるが、土で出来た路面は硬い。

 円の外周部には頑丈そうな樹木が植え付けられており、更に外壁のようなものもある。

 

 元々、闘技場として扱われていたというのも何となく分かる形状だ。


「それでは、あとはお任せします。ご武運を」

「うん。そちらも避難をよろしくね、市長さん」


 そして、フィールドのセッティングを完了した市長は、予定通り広間から離れて行く。

 

 彼は彼で避難部隊の陣頭指揮を取らなければならないのだから当然だ。

 

 自分たちがやる事は、あとは、この場で相手を待つだけ。

 そう思っていたら、

  

「――皆ー。そっちにデカイのが、行くよ――!!」


 エンターマインの方から、大きな声が響いた。


 見れば向こうから、巨人に腰から下にタックルをしかけて、滑空するように飛び込んでくるイージスの姿があった。

 

 速度を見るにイージスは恐らく、強引に巨人を持ち上げて、山の方から駈け下りてきたのだろう。

 

 そして彼女は勢いそのままに、エンターギガスを路面にこすりつけ、埋め込むように滑って来る。


 だが、そのタックル滑空状態も長くは続かない。

 巨人は路面に体を擦りつけられ、半ば埋まっている状態だが、

  

「切除」


 腕を一振りされる事で、イージスを振りきった。

 そのせいでイージスは滑空の勢いを殺しきれぬまま、

  

「ぐ……」


 こっちまで飛ぶように転がって来た。だから、


「……っと、イージスさん。大丈夫ですか」

「は……ありがとう、クロノ君」


 そんな彼女の体を俺は受け止める。

 力なくぐったりとした彼女の体は所々に熱を持っており、相当な打撲を受けたものと思われた。

 それはリザも分かっているのか、

 

「クロノ……。横に寝かせてあげて。直ぐに治療を開始するから」

「了解っす」


 言われた通りに寝かせるとイージスは、俺達の顔を見た。そして、微笑み、

 

「いやあ。はは……膂力差はどうにもならないというか、みっともない所を見せたね。ただ、準備が出来ている様で何よりだよ」


 そんな事を言い出した。


「やはり、クロノ君たちが残ってくれていた。それも、何よりだ。……けほっ……」


 が、喋る最中に血を吐いた。

 

「ちょ、グリントさん! 内臓が傷ついているから、動かないで!」

「はは、すまないね。一応自覚症状はあったんだが、嬉しくて……」

「嬉しいからって無理に動かないで。……どこまで被害は自覚してるの?」


 リザの質問に、イージスはええと、と口元をモニョモニョとさせた後、


「……私の愛用していた武器と、腕と胸の骨が折れてるくらいだ。あと耳も微妙にやられてバランスがとり辛いから、……戦闘は、もうきついって感じかな」


 力のない目と共に答えを返す。

 意識ははっきりしているようだが、声を出す元気はかなり失われているらしい。だが、戦意は残っている様で、

 

「ただ、長々とまとわりついて、分かった事はあるんだ。その情報を伝えたいんだ、クロノ君。あいつが埋まって動けない内に」


 イージスの視線の先にはエンターギガスがいた。

 先ほどのタックルで路面に減り込み、立ち上がるまで時間が掛かっているようだ。


「情報とはなんですか?」


 だからそのまま聞くと、彼女は頷きながらエンターギガスに視線を向けたまま答えてくる。


「あの巨人は、胸にちょっとだけ穴があるだろう? やや黒ずんだ機械の部分だ。あの奥に、核があるのは、発見したよ」

「核というと、弱点ですか?」

「ああ。魔力の流れがそこから来ているのが見えたから間違いない。ただ問題は……穴は周囲よりもはるかに硬い透明な物質で守られていてね。私だとどうにもならなかった。拳で殴ったらこのザマだったし」


 言いながらイージスは手を見せて来た。

 指があらぬ方向に曲がり、砕けている手を。 

 恐らく砕けた後も、その手で殴ったのだろう。指のある位置がおかしくなっていた。


「ッ……」

「酷い……」

 

 それを見て、ソフィアは息を呑み、リザも眉をしかめた。

 

 だが、イージスとしては何てことなさそうに俺達の方を見てきた。

 

「まあ、分かったのは、そこまでだったよ。役に立つかな、クロノ君」

「ええ、充分ですね。……有り難う御座います、イージスさん。じゃあ、あとは、ちょっとやってみます」


 戦闘できる場所はきちんと広く、弱点となる部位も分かっている。ならば、充分以上に有利に戦える。

 そう思いながら、俺は右手首のブレスレットに触れながら立ち上がる。


「あ……『闇光の型』を持ってきたんだね……」


 イージスの零れでるような台詞に俺は頷きながら、一歩を前に出る。


「ええ、こういう手合いだとリーチが足りませんから」


 これを使うのは久しぶり過ぎて、もはや懐かしさすら覚える。

 こんな所で、こんなタイミングで、懐古している暇などないが。


「それじゃあ、リザさん。ソフィア。作戦通り、後ろとイージスさんはお願いします」

「うん、分かったよ、クロノ」

「毎回毎回、前線を任してしまってすみません、クロノさん」

「良いさ。俺は得意な魔法はないし、治療の魔法も使えない。基本的で、平凡な戦闘くらいしか、出来ないんだからな」


 言いながら、俺はさらに前に出る。

 数歩を進み、エンターギガスと相対する。そして手首のブレスレットに再び触れる。

 

「『闇光の型』起動……っと」


 言った瞬間、ブレスレットの闇色がぞわぞわと俺の腕を這っていく。それを肌で感じながら、俺は両の拳を構えて立つ。

 

「さあ、やろうか。エンターギガス。俺達に良くしてくれた街を壊されちゃたまらないからさ。この迷宮都市を壊す前に、――俺がお前を倒そう」



 イージスを抱え、後ろに下がったソフィアが見守る中。

 クロノとエンターギガスの戦闘は、一瞬のうちの開始された。

 

「――!」


 空気が破裂する音と共に。

 クロノとエンターギガスが突進したのだ。

 お互いが迷うことなく一直線に突き進み――

 

 ――ズドッ

 

 ぶつかった瞬間、土煙が巻き起こる共に、そんな音が鳴った。

 重たい物がぶつかって擦りあった様な音だ。

 

 やがて、土煙は晴れると、そこには、クロノとエンターギガスがいた。

 四つ手で、お互いの腕をギリギリと抑えるような姿勢で、だ。

 

「拮抗してる……!?」

 

 お互いに、推している。

 けれど、一歩もお互いに動かない状態だ。

  

 そう判断したのは、自分達だけではなく、目の前で戦っている彼らも同じらしく、


「――迎撃、打撃移行」

「……よいしょッと!」

 

 お互いに弾かれたかのように腕を引き戻す。

 そしてクロノは引き戻した勢いを使って半回転。

 鎖を纏った片側の拳をエンターギガスに叩きつけようとするが、

 

「打撃……!!」


 エンターギガスもまた拳を振るっていた。

 両者の拳は交錯し、

 

「っ……」


 クロノが顔面に拳を受けた。

 

「クロノが、打撃を食らった……!?」

「いや、違います。クロノさんの一撃も、入っています」

 

 ほんのコンマ数秒の差で、エンターギガスも腹部に一撃を食らっていた。

 それだけで、

 

 ――ズザッ!

 

 と、お互いに数メートル、立ったまま飛ばされた。

 地面に自分の足で跡を付けさせられていく。


 互角だ。

 お互いに譲らない。

 

 それが分かっているのか、

 

「まだまだ行くぞ……!」

「打撃継続……!!」


 お互いに再び拳を振るい始める。

 起きる現象は、先ほどと同じく相打ち。拮抗状態だ。

 

 それを見て、ソフィアはリザと一緒に唖然とし、

 

「はは……私ですら吹っ飛ばされていたパワーと対等にやりあうとは……流石だ、クロノ君」


 目の前で座り込んでいるイージスは、そんな風に力のない笑みを浮かべてふらふらと動いていた。


「あ、グリントさん、喋らないで。骨を繋いでいるんだから。ソフィアちゃんもこの人、抑えちゃって」

「は、はい!」

 

 それを見てソフィアはリザと共に慌てて彼女の体を押さえていく。


「魔王リザ。何を慌てているんだい」

「そりゃ、慌てるさ。あのクロノと力で渡り合える敵が目の前にいるんだよ? 治療が済まないと、迂闊に逃げる事も出来ないから、応急処置だけでも済ませないと……」


 そうだ。

 クロノと力で拮抗するような相手は今まで中々いなかった。今までクロノは何度も巨大な物を相手に戦ってきている。

 

 けれど、今回のエンターギガスは、巨体に加え、クロノに対抗できるだけの力と防御力があるらしい。


 現に、今、クロノの顔には僅かに出血が見られていた。

 あれだけガシガシ殴られているのに殆ど血が出ていないのには驚くけれども、


「やばいね、あの巨人。クロノがあんなに攻撃を受けるだなんて」


 そうだ。元々クロノは攻撃をそこまで受けるタイプではない。

 上手くいなしていくタイプであるのに、今回はそうじゃない。


「リーチが足りないとは仰ってましたが、こんな事が起きるなんて……」

「……これは、長期戦になるかも……」


 エンターギガスもクロノの打撃を受けて、幾か所にへこみがあるものの、まだまだ速度もパワーも衰えを見せていない。


「長期戦の場合、クロノさんにスタミナがあるとはいえ……危ないのでは……」

 

 そうだ。あの巨人に体力やスタミナといった概念が存在するのかは分からない。

 クロノも無尽蔵のスタミナというか、彼が疲れている所を見た事がないとはいえ、限界は恐らく存在している筈で。

 どっちのスタミナが長持ちするのかの勝負になると、相手が仮に疲労を無視して動き続けられるタイプの場合、戦況は悪くなるだろう。

 自分たちが参戦しても、あの速度とパワーについていけるかどうかは怪しいのだから。


 ……クロノさんが付かれる前に、その前に破壊出来れば、問題ないでしょうが。

 

 内部に核を持っている以上、そこを破壊すればいい筈だが、打撃はそこまで届いていない。

 だが、届く可能性を持っているのは現状、彼しかいない。

 

 ……もしもクロノさんが疲れたら、私たちがインターセプトして、回復するまでは粘る事は出来る筈ですし……。

 

 その時が来たら、自分達の体で時間を稼ごう。

 それくらい大変な戦いなのだから、覚悟は出来ている。

 

 そう思いながら、ソフィアが戦いを見守っていた。

 その時だ。

 

「待ってよ。何よ、あれ……」


 レイピアが震え出したのは。


「え……どうかしましたか、レイピアさん」

「ど、どうもこうもないわよ……分からないの? あ、あの物体の、異様なレリックの力が」


 レイピアは、体は勿論、声も震えていた。

 過呼吸のような状態だ。

 

「エンターギガス……の事ですよね。やはりレイピアさんが震えるほどなんですか……」


 強力なインテリジェントレリックであるレイピアですら、怯えるものなのだ。

 余程の力を秘めているのだろう。そう思っていたのだが、


「それじゃない。それじゃないのよソフィア」

「え?」


 レイピアはプルプルと柄を振った。


「わ、私が言っているのはあの青年の事よ。今も腕の何かと共鳴するように、段々力が増幅している彼の事よ……」

「え……っと、クロノさんの、事です?」


 聞き返す、肯定が来た。


「そうよ。あ、あんなの、おかしいわ。あれは、レリックの魔力なのに、明らかに異様だもの。彼が持っている魔力に反応して、肉体を変質させていっているもの……! あんなの、武器といっていいモノじゃない……。毒とか、薬とか、そっちの方がまだ似ているわよ……!!」


 レイピアの声はだんだんと上ずっていく。

 それに合わせるようにして、クロノの体は変容していた。

 

 先ほどまでは、黒い鎖で手足を覆っていた彼の姿は今はもうなく、

 

「あれは……?!」

「『闇光の型――変換モード炎装バルカン』展開装着、完了……!」

 

 クロノの声が発せられると同時、燃え上がるような黒い光を放つ鎧を、その身に纏った姿へ変わっていたのだ。



 『闇光の型』を変化させ、全身に張り巡らせた状態で、俺は首や肩ををぐるぐると回していた。


「――ったく、もう。やっぱり展開に時間が掛かるな、これ!」


 久しぶりなのも加わって、更に時間を食った。

 そこそこ食らってしまった、と口を切った事で溜まった血を吐き捨てて、両の手を握る。

 

「だがまあ、これで間合いはマシになったな」


 両の手には大きな拳型の外殻が付いている。

 これだけでも間合いは大分違う。そう思いながら、

  

「……ハイジョ……!!」


 突っ込んで拳を振るってくるエンターギガスに対し、


「……!!」


 先ほどと同じように、前に走って拳を振るった。

 そして、再び同じタイミングで、両者の拳は放たれた。

 当然、お互いに着弾するが、

 

「――!?」


 俺の拳が当たった瞬間、エンターギガスの体が後方に吹っ飛んだ。

 そのまま床を転がり、跳ね飛ばされ、広間の樹木に激突して止まった。

 

 対し、相手の拳を受けた俺の体は、数センチ後ろにずれただけに収まった。

 

「うん、力のノリも、踏ん張りも、全然違うな」


 相手が吹っ飛んだことで力が減衰したのもあるが、鎧と化した『闇光の型』が俺の体をしっかり補助してくれているのもある。

 

 ……この便利さ、懐かしいな。

 

 子供の頃、体格が足りない時に巨大なモノを相手取るのにも使った。その時の記憶もあるが、今使ってみても改めて有り難いものだ。

 

 手も足も、これで安全に、振るう事が出来るようになったのだから。


「さあ、エンターギガス。もう一回行こうか」

 

 俺は、立ち上がりつつあるエンターギガスに近づきながら両の拳を構える。

 まだ装備されて、体が完全にこなれていない状態ではあるが、


「これからの俺の一撃は、もっと速く重く届くぞ……!!」



 クロノとエンターギガスの拳が何度も交錯していくのを、ソフィアはリザ達と共に見ていた。


 だが、最初期に起きていた殴り合いとは程遠く、

 

「クロノさんが……打ち勝ってます……」


 真正面から殴り合っている筈なのに、体格差もあって、エンターギガスの拳を受けている筈なのに、

 

「お……!」


 殴って押しているのは、クロノの方だった。

 黒い炎の様なものを纏ってから、一気に打撃のペースが変わったのだ。というか、


「クロノさんの動き、いつもより、早い、ですよね……!?」

「うん。今までよりも、洗練されているというか、凄く慣れている気がするよ……?」


 自分の声に、リザも賛同してくる。

 そう。今までもとんでもない速度と威力で、クロノは様々なモンスターを倒してきていた。 

 けれど、今の動きは、これまで見ていたどの動きとも違った。

 

 それもこれも、あの鎧が要因なのか、と思っていたら、

 

「それは当然さ……」


 下方から声がした。

 それは治療中で床に寝かせているイージスのもので、


「多分、だけどさ。君たちが見ていたのは、彼が魔力で全身を強化した、力任せの、直線的な動きだろう?」

「え、ええと……? た、確かに、直線的な動きは多かった気はしますが」

「う、うん。偶に鎖を使って変則的な攻撃はしていたけれど、それ以外は基本的にまっすぐな攻撃ばかりだったね」


 自分達の反応に、だろうね、とイージスは言う。

 そして彼女は、クロノにまとわりつく黒い炎のような物を指さし、


「あの兵装を、『闇光の型』を纏い、安全性を装備に任せた彼は、もっと自分の動きに集中が出来るんだ」

「安全性?」

「ああ。装備をすれば、強くなるのは当然なんだけどね。……彼の場合は、力が強すぎて、生身で強引に振るうと、自分の方が壊れるんだよ。だから、装備をさせない事は、彼の動きを封じる、拘束の一つだったとも言えるんだ」


 は、と息を吐くイージスの目は色気すら見える。

 そんな視線でイージスは目の前の光景を堪能しているようだった。


「ああ、あれが本来の彼の動き。――彼が故郷で、幼少期から、肉体を壊し、魂がすり減るほどに叩き込まれていた物なのだから……」




 クロノは久しぶりの感触を味わっていた。

 

 ……ああ、良いな。

 

 エンターギガスの拳打が来るが、それに合わせて、カウンターする。

 相手の硬さは考えずに、加減無しで振るった。


 ――ガン!

 

 と、硬質な物がぶつかる音が響くが、こちらにはほんの少しの衝撃しか来ない。

 

「……グ……!」


 けれど、それでも十分、エンターギガスを吹き飛ばすことができる。

 遠慮なく、打撃できているからだ。

  

 自分の保護を考えず、殴れるし、蹴れる。


「……ああ、とても楽だよ」


 考えずに、身についた動きだけでいい。

 普通に拳を振るってもいい。


 意識的に拳を守る事も無い。

 そう考えるだけで、俺の体はスムーズに動いていた。

 

「迎撃……続行……」 


 吹き飛んだエンターギガスはすぐさまこちらへ向かい、右腕をたかだかと構え、

 

「重厚打撃……!!」

 

 上から振り下ろしてきた。

 重さと巨体を生かして押し潰してくるつもりだろう。けれど、

  

「いきなりその動きは、鈍いぞ、エンターギガス」


 そんな予備動作の多い攻撃を素直に待つことはない。

 こちらへ来るエンターギガスの腕を、俺は足の降り上げで止め、そのまま蹴り弾いた。

 その衝撃で、エンターギガスの上半身は天上へと伸びて行く。

 当然、そうなれば、無防備な上半身をさらけ出す事になる。

 

「……迎撃……拒否。防御……!!」

 

 気付き、もう片腕を防御に回すが、

 

「やはり鈍いぜ、エンターギガス」


 構えた腕ごと、思い切り殴り飛ばした。

 

 黒い炎で防護された拳は、しかしその威力は確実にエンターギガスに伝え、

 

「――!?」 


 片腕を千切り飛ばした。

 そのまま、飛んだ腕に引っ張られるようにエンターギガス本体も後方へたたらを踏むが、

 

「グ……ア……」


 声色が変わり、その場に踏ん張った。

 それだけではない。

 目の色も赤く光る物に変わり、

  

「攻撃目標、確定。集中……!!」


 今までと違う雰囲気で、こちらに完全に敵意が向けてきた。

 

「命令却下、拒否ヲ却下、破壊優先……優先ンン……!!」

 

 何やら、思考がおかしくなったのか。

 吐いている言葉がぶれ始めた。

 

 しかしそれに呼応するように敵意は増しており、更には、

 

「腕を、拳を肥大化させるか」 

 

 全身の機械や岩石を残った右腕に集めているようだった。

 いや、それだけではなく、地面からも土を集めて、腕の肥大化に回している。

 

 足や顔はは少しずつ細くなっていくが、腕はそれ反して、どんどん太く歪に巨大化していく。

 

 ……コアを守る部分以外を全て攻撃に回すか。

 

 向こうも腹をくくってるのか、右腕に質量を集め、最大の一撃を放つ気のようだ。

 ならば、今がチャンスとも言える。


「オーケーだ。その細い体で耐えてみろ、エンターギガス」


 俺も右こぶしを引いて構える。

 その構えは、闇光の型・装炎を使ったときのみ、使うべしと教わったもの。

 

「破壊、実行ゥ……!!」


 構えを前に、エンターギガスが拳を放ってきた。

 だが、それで構わない。

 これは、相手の攻撃に合わせ、その攻撃ごと相手を打ち破る事を目的とした技。 完璧に使えば、どのような攻撃が来ても打ちぬけると叩き込まれたモノなのだから。


「さあ、燃えて撃ち抜け。――《デーモニッシュ・バルカンスマッシュ》……!!」 


 俺は引いた右拳を相手の拳に衝突させるようにしてぶち込んだ。

 

 瞬間、俺の右腕から、闇の炎と光が混じった、拳型の光弾が突き進む。

 その光弾はエンターギガスの拳を打撃するなり、呑み込み、

 

「――!?」


 ばらばらに破壊した。

 

 更にそれだけではとどまらず、ほんの一瞬で、エンターギガスの胴体は拳型に撃ち抜かれた。そして、

 

「……トメテ、イタダキ、感謝……」


 そんな言葉を零しながら、エンターギガスは塵となって消えてくのだった。



 目の前で崩壊していく、魔王の遺産から現れた巨人と、そしてそれを打倒した黒い炎を纏う青年を見て、イージスはかつてを思い返していた。

 

 そしてその思いを溢れさせるように、ぽつりと、誰にも聞こえない程小さな声で呟いた。


「あれと――三代目魔王の傑作と打ち合えているということは、私にあの武装を託した理由は、ここにあったのか。魔王様、あれが最後の最高傑作の力なのですね……!」


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