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8話 生きているモノ


 俺達は生者の館の、四階層にたどり着いていた。

 

 ……ノルグさん達、迷宮都市の調査部隊によると、この次でラスト階層らしいけど……結局四階層までずっと屋敷型だったな。

 

 ここまで探索して来たのは全て、家の形をしていた。

 魔王のダンジョンではあまり無かったもので、正直な話、今後の家づくりにかなり参考になった。

 

 ……どの部屋も、リビングレリックはいたけれど、基本的に調和がとれた綺麗な部屋だったからなあ。

 

 本がたくさんならんだ書斎があったと思えば、子供用の遊び道具が転がっている子供部屋もあったし、運動器具が並ぶスポーツ用の一室もあった。

 

 なんというか、部屋作りのお手本集が沢山ならんでいるような気分だった。

 基本的に入ってすぐにレリックが襲ってこなければ部屋を観察できたし、動線を邪魔しない家具の置き方なども学べた。

 

 ……このダンジョンにはいれたのは、かなり今後の役に立ちそうな気がするな。

 

 思わぬ知識が増強出来て、非常に運が良かった。

 

 ……ただ、まだ攻略が完了している訳ではないから、気は抜けんな。

  

 魔王のダンジョンや覇竜のダンジョンのように、階層で変容する可能性もあるし。

 油断出来るような場所ではない。

 注意の意識は捨てずに行こう。そう思いながら、俺はクラスメイトと手分けして家を探索したあと、皆と合流しようと歩いていた。 

 すると、

 

「……?」


 俺の背後から、コロコロと音がした。

 見れば、そこにはキャスター付きの小さなチェストが動いていて、俺の元にゆっくりと近寄って来ていた。

 そして、俺が見ている事を察したのか、何やらくるくるその場で回り始めた。

 

「これは……さっき調べた部屋にあったチェスト……だよな」


 それが、部屋を出て来てなお、付いてきたという事だろうか。だが、何のためにここまで付いて来ているんだろう。

 くるくる回った後、恐る恐る俺に近づいて来て、その場で止まったし。

 止まった勢いでか引き出しが空くが、何も入っていないし。

 

 そのまま、観察しても、攻撃してくる気配はない。

 魔力を溜めている感じもしない。

 

 ……なんだろう。


 俺が少し歩くと、慌てたようにころころと付いてくる。

 止まると、チェストも止まる。そして引き出しを開ける。

 

 なんだか犬か何かを見ているようだ、と思いながらチェストを見ていると、


「あ、クロノさん。時間を過ぎても集合場所にいらっしゃらないと思ったら、こっちにいたんですね」


 ソフィアがクラスメイトと共にこちらへ来た。

 

「ああ、悪い。ちょっと、よく分からないモノに付いて来られて、確かめている内に時間食ってたな」

「いえいえ、それは別に構いませんが。……よく分からないモノって、そのちっちゃなチェストですか?」

「うん。さっきからずっと付いて来てるんだが、攻撃してこないし、敵意も感じられなくてな。どしたもんかと思ってるんだよ」


 今も俺の傍にいるだけだし。

 俺のセリフに、クラスメイトと共に来ていたリザも頷いている。


「確かに攻撃的な感じはしてないねえ。……何か、引き出しの所を動かしてはいるみたいだけど」

「ですね。さっきから足を止める度に、引き出しを開けるんですよ、こいつ」

「もしかして、何か入れて欲しいって事じゃない?」

「え? これ、そんな意思表示をしてるって事なんですか」


 言いながら、チェストを見ると、飛び出した引き出しを上下に動かした。

 

「これは……肯定の頷き?」


 言うとまた上下に動かした。

 それを見て、おお!とクラスメイト達の中にいたノルグが声を上げた。


「意思の疎通が出来る……! ということは、このチェスト、割と知性が発達した、インテリジェントレリックですな……!!」


 その声はやや興奮気味だ。


「えっと、それはさっき話してくれた、知性のある凄いレリックって奴ですよね」

「そうです! ただのリビングレリックではなく、インテリジェントレリックともなれば、自らの意思で行動を決めますし。敵意がないのは、そのせいでしょう。彼らは自分の敵味方をダンジョンの主に関係なく自分で選びますので。恐らくクロノ君に懐いた、という事です」


 相変わらずの早口だが、目の前のチェストが多少、頭が良いのは分かった。まあ、敵意が無いのは分かったけれども、

 

「懐かれても、どーすればいいのか分からないんだよなあ」


 と、首をかしげていると、

 

「……!」


 チェストが棚を大きく開き、上方に動かした。何かを受けようとする動作に見える。

 なんだ、と思って視点を棚の方に向ける。何もないが、棚から直線状の地点には俺のポケットがあり、そこからクシャクシャのハンカチが落ちそうになっているのが分かった。

 先ほど汗を拭いてから突っ込んだものだけれど、


「えっと……これ? 入れてほしいのか?」


 問いかけると、棚を上下させる頷きを返してきた。

 

「入れてみれば、クロノ」

 

 それを見て、リザがそんな事を言ってきた。


「あの……入れても大丈夫だと思います?」

「それはね。一応、私、機械や物体の構造を見るのは得意だけど、その子、ハンカチ一枚を破壊兵器に変えるような魔力はしてないし、構造もしてないから。インテリジェントレリックの効果を確かめるためにも、やってみるのはアリだと思うよ?」

「なるほど……じゃあ、試しに」


 慎重に俺はハンカチ一枚を引き出しの中に落とした。

 ハンカチを受け取ったチェストは引き出しをしめるなり、くるくると回り始めた。

 

 嬉しいのだろうか。ぴょんぴょん飛び跳ねてもいる。

 

 本当にテンションの高い犬みたいだな、と思っていたら、


「……!!」


 チェストは回転を止め、こちらに引き出しを向けて、ゆっくりと開けてきた。

 すると、その中には、綺麗に皺が伸び、また汗汚れなども掻き消えた、新品の様なハンカチが畳まれた状態で置かれていた。

 

「……これは、受け取れと?」


 頷きが来た。

 受け取ってみるとほのかに暖かい。

 良い香りもする。


「何か凄く綺麗になってて有り難いけど、これは、君がやったのか?」

「……!」


 問いを飛ばすと、肯定がきた。

 というか、有り難い、の一言でまた喜んでいるらしい。

 ぴょんぴょんし始めた。そんなチェストを見ていると、


「……回転中の構造を軽く見てたけどさ。どうやら、洗濯機と、クリーニング機能付きのチェスト、だったみたいだね、」

「マジか……!」


 背後からリザの説明が来た。

 なるほど、目の前のチェストの正体が判明したが、結構予想外のモノが来た。

 屋敷型のダンジョンだからそういうものが置かれていてもおかしくはないんだろうけれど。

 

「いや、うん。自宅に置いてあったら便利な奴ですけど……なんで俺に着いて来たんだろう」

「さあ、持ち帰って欲しいんじゃないかな、自分の事」

「え? 勝手に持って帰っても、いいんですかね?」


 あったら便利だから、持って帰りたいレベルであることは確かだ。

 

 正直、割と欲しい。

 

 けれど、そもそもこの野性のダンジョンから持ち帰っていいんだろうか、と思っていると、ノルグが声を飛ばしてきた。


「それは別に大丈夫ですよ、クロノ君。ダンジョンの主を倒すか、ここから出しさえすれば所有権が移るので、持って帰っても問題ないですし。レリックを持ち帰れるのは、ダンジョンを攻略した者の特権ですので。勿論、ダンジョンから消滅する前に、持ち出さないといけないのですが……この分だとこの後の階層も着いて来そうですし、そこは平気な気がします」

「ああ……なるほど」


 確かに、このチェストは離れようとしないしな。


「それじゃあ、お言葉に甘えて。持って帰れるように頑張りますか、ね」

 

 その一言で、またチェストがぴょんぴょん飛び跳ね始めた。

 そんな嬉しそうなインテリジェントレリックを引き連れて、俺達は四階層でもワープ扉を見つける為に、足を進めて行くのだった。

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