第11話 これからの方針
数分後
応接間の隣の部屋から爆発音が響いた。
そして隣の部屋と繋がる扉が開くと、煙と共にリザが出てきた。
「けほっ。いやあ、これ、だめだね――。マザーコアが支配されている以上、私の方では解除できないや」
「魔王様もですか?」
「初代の発明品だからね。頑丈だから壊せないし、解体も出来ないブラックボックスも多すぎるし。正直、マザーコアを何とかするのは現状では無理だね」
顔のあちこちに付いた煤を拭いながら、リザは続けて言う。
「まあ、幸いだったのは、支配契約の効果は軽度ってことだけど」
「軽度って、命令の絶対順守があるのに、ですか?」
それでも軽度という感覚は、俺にはよくわからない。
「うーんとね、本当に怖い奴は、相手の力全て支配して封じるとか、生命活動を封じるとか、そういうレベルだから。命令らしい命令をされると体が動くってやつは軽い方なんだよね。――ソフィアちゃんは体を操られる感じとか、今、している?」
「先ほどクロノさんに抱きついてしまっている時は勝手に動いている感じでしたが、今は大丈夫ですね」
「そう。なら、やっぱり軽度の支配契約だね。本当にそれだけは不幸中の幸いだった」
リザはソフィアの鎖を見回してから、椅子に座った。
「現状の確認を済ませたところでこれからどうするかだけど……とりあえずクロノとソフィアちゃんには全力でサポート体制を作らせて貰いたいんだ。何かしてほしい事とかある?」
「そうですね……。とりあえず、この事は対外的に秘密にしてもらえると助かります」
リザの質問に俺はまずそう答えた。
彼女が来る前に、ソフィアと少し話をしていたのだが、その結果、俺の平穏のためにも秘密厳守は絶対に必要だということが分かった。
「あ、ああ、それは勿論だとも! ですよね、魔王様」
「うん、そこはきっちりさせてもらうよ。ソフィアちゃんもそれでいいんだよね?」
「はい。私自身は、別に公開しても支障はないので良いんですが、この事を知ったらお父様、勘違いして怒るかもしれませんので」
「ソフィアちゃんのお父様というと、吸血鬼の王様ってこと?」
リザの言葉に、ソフィアはコクリと頷く。
「怒ったお父様とクロノさんが激突したら、……多分クロノさんが六割くらい勝つんじゃないかと予想しますけれど、このあたりが更地になる可能性もありますから。支配契約と奴隷化に関しては、内密にでお願いします」
随分と冷静に判断しているように見えるが、この子は俺を過大評価しすぎだと思う。
『吸血鬼の王様』という言葉的に強そうな奴と、戦いたくはない。
「というか、俺、そうなったら逃げますからね?」
魔族全体の風習だし、気楽に一年間過ごせるからここに来たんだ。
そこに『吸血鬼の王様』と戦うなんてイベントがあって溜まるものか。
気楽さがないのなら即座に脱出するつもりだ。
全力で一週間くらい走り続ければ、どうにか田舎にはたどり着けるだろう。
「こ、これは絶対に秘密としよう。今のところ私と魔王様だけにしか知られていないしな」
「そうだね。それが一番だ。それに……解除すること事態は、そこまで手詰まりってワケじゃないんだし」
「え? そうなんですか?」
さっきマザーコアをどうにかするのは無理と言っていたはずだが。他に方法があるんだろうか。
「魔王のダンジョンに潜って行けば、解除方法や、解除できる道具は出てくると思う。特に、初代魔王の力を分析していた二代目魔王のダンジョンなら、初代魔王の力を解除する道具とか、そういうものが多いし」
そんなリザのセリフにソフィアは目を見開いて驚いた。
「ま、魔王様のダンジョンですか? あ、あの、それって今や、場所すらも秘匿されているという、伝説の場所ですよね?!」
魔王のダンジョンというのは伝説級だったのか。今さら知ったよ。
「そのダンジョンだよ。そこで、支配契約を解除する道具を掘り当てるために。私は全力で君たちに協力するよ。――その間は申し訳ないけれど、ちょっと奴隷……というか支配契約を続けてもらう形になるけど、本当にごめんね?」
リザは頭を下げながら俺とソフィアに言って来た。
するとソフィアは、ほほ笑みながら首を横に振った。
「ああ、いえ、私は大丈夫ですよ。クロノさんは、変な命令とかする人じゃないって、おしゃべりしていると分かったので」
この子の俺に対する信頼はどこからきているんだ。
もっと人を疑う癖をつけた方がいいんじゃないか、と逆に心配になってくる。
「まあでも、確かに、俺も変な命令をする気はないしな。このまま内密にしてくれるなら、それでいいですよ、リザさん」
そういうと、リザは頭を上げた。その顔には安堵が浮かんでいて、
「ありがとー。君たちの力になれるなら何だってするから! 何でも言ってね!」
リザは俺とソフィアの手をぎゅっと握ってきた。
その手は少し冷たかった。
彼女も不安で緊張していたのかもしれないな、とリザの体温を感じていると、
「あ、それと、予定を前倒しにして、ソフィアちゃんも今から超特進クラスに入ろうか。トップ2だから、色々と教育した後の方でって思っていたけれど、いいよね」
「ちょ、超特進、クラス? ええと、なんですか、それ?」
ソフィアはいつぞやの俺と同じような質問をしていた。
やっぱり一般的には知られていないようだ。
「超特進クラスっていうのはね私と数人の魔族。それと、クロノが入っている特別なグループの事だよ。この学園の運営を司る、重要なクラスさ」
「そんな凄そうな場所に、く、クロノさんも入っているんですか?!」
「まあな」
入ったのは昨日だけれども。
「初日から、そんなところに入っているなんて、とんでもないです……」
「そうだねえ。だからまあ、クロノはソフィアちゃんの先輩になるってことだね」
「あ、そういうことになりますよね。よ、よろしくお願いしますね、クロノ先輩」
「その呼び方は、何かおかしい気がするけどな。でもまあ、よろしく」
というわけで、俺は超特進クラスに入って二日目で、同級生でお姫様の後輩を手に入れたようだ。