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6話 いつもと違う場所といつも通り

俺たちがエンターマインの扉をくぐってすぐ。

 目に入ったのは、赤い絨毯の敷かれた長い廊下だった。

 

「マジで家の中みたいだ」


 廊下の幾か所には調度品として小棚が配置されているし、その上には額縁やら、半開きの本が乗っている。

 まるで住民がいて、先ほどまで使っていたような感じさえする。


 ……ただまあ、当然ながらこのダンジョンに住んでいる者はこんなところにいないのだが。


「野生のダンジョンを攻略して、消滅させるには、コアになっている最下層のダンジョンの主を倒すか、外に引っ張り出せばいい、でしたよね、リザさん」


 俺は近くにいるリザに、確認するように声をかけた。


「そうだよー。でもまあ、ダンジョンの主は強力な魔力を持っているからすぐにわかるし、まあ、いくら住んでいるような形跡があっても、この階層に隠れているってことはないかな」

「ですよねえ」


 まあ、浅い階層にいてくれればそれはそれで楽なのだが。

 そうそう楽には終わらないだろうし、緊張感は持ち続けていこう、と一階層の地図を見ながら歩いていると、


「ちょっと。クロノ君……でしたかな?」


 隣に並ぶように歩いているノルグが話しかけてきた。

 先ほど軽く自己紹介をし終えたばかりだが、すぐに名前を憶えてくれたようでありがたい、と思いながら言葉を返す。


「あ、はい。なんでしょうか、ノルグさん」

「前に気を付けてください。既に、生きている物がいますから」


 そう言われた瞬間、


「――!」


 目の前の棚に置かれていた本が弾かれたように、こちらに向かって吹っ飛んできた。

 回転しながら、風切り音を立てて突っ込んでくる。だから、


「――っと、危ないな」


 平手で思い切り、地面にたたき落とした。


「……ッ!」


 何やら紙と紙がこすれるような、しかし生き物のような声を上げて、本は床へ転がった。

 そして、ブルブルと一人でに震え続けている。


「……この本、なんで半開きかと思ったら、生きていたんですね」


 俺の言葉に、ノルグは眼鏡の位置を直しながら頷く。


「はい。今は私の言葉に反応して動きましたが、以前は隣を通りがかった瞬間に襲い掛かってきたという報告もありまして。ええ、つまりは、こういうダンジョンです」


 ノルグの言う通り、そして来て見て感じたけれども、やはり魔王のダンジョンに近い部分がある。

 野性のダンジョンでこういうのは珍しいのだろうか、などと思いながら、

  

「本当にこういう本とか、アイテム系が襲って来るのがメインなのは中々なかったけどな……」

 

 と呟いていると、

 

「あの」

 

 ノルグが、申し訳なさそうに声を飛ばしてきた。

 

「? どうかしましたか?」

「いや……すみません。こんな時に細かくて、若干神経質のようで申し訳ないのですが、あれらを示すのに『アイテム』という言い方は少し違いまして。――我々が相手にしているのは、正確には『レリック』と呼びます」

「ええと……どー違うんで?」


 初めて聞いた単語だ。そして、どういう違いがあるのかもわからない。そう思って聞いたら、ノルグは眼鏡を動かして、


「それはですね。アイテムもレリックも、魔力が籠った物品であることは同じなんですが、ダンジョンで産み出される物は、学術・専門用語的には本来、レリックと呼ぶのです」


 魔王城ではダンジョンの中にあろうが外にあろうが、なんとなく普段通りアイテムと一括りにして呼んでいた。

 けども、そういった専門用語があるとは。


「そして今回の相手は生きているダンジョンの物品なので『リビングレリック』という種別になりますな。まあ、一般的にはアイテムで通じますし、普段使いにはそれで良いのですが……分類をするときはこっちの呼び方をした方が楽なのですよね。それを覚えて頂けると市井の学者としては嬉しいですね」

「ふむう、なるほどなあ」


 と、こちらが相槌を打っていたら、目の前のノルグがはっとしたような表情になった。


「――って……すみませんね。毎回学生たちにそういう講義をしていたものだから、つい学者業の癖で喋ってしまいました。こんな事態になっている中では、細かすぎる事だというのに」


 更に申し訳なさそうな表情になった。けれど、そこまで気にすることはないとこちらとしては思う。何せ、


「あ、いやいや。別に問題ないっすよノルグさん。というか、そういった知識を知れるのは、有り難いですし」


 魔王城以外で学者をしている人から話を聞けるというのも、中々ないし、良い経験なのだから。

 

「こういう事を学べるのも課外講習の良い所ですしね。もっと教えて欲しいくらいですよ」

 

 レリックだとか、そういう物品の説明は目の前でモノを見ないと頭に入ってきづらいし。このタイミングで話してくれたのは非常に助かる。

 そう伝えると、ノルグはほっとしたように息を吐く。

 

「そう言って貰えると助かります。まあ、この際ですから、細かいがてら言ってしまうと、レリックにも種類がありまして。リビングレリックよりも知性が高く、より扱いづらい代物をインテリジェント・レリックと呼び、エンターマインのような魔王の遺産――今の我々ですら理解が追い付かない、高度過ぎる構成で出来ているものをオーバー・レリックと呼んだりするのです」

「……うん。何というか、確かに座学じゃなくて、こういう現場で教わらないとこんがらがりそうな種別だ」


 魔王城の一室でこれを述べられても、覚えきれたか分からないなあ、と俺は目の前でいまだにびくびくしている本を見ながら思う。

 

 ……まあ、一番最後に種別されたレリックは、毎回見ているようなものだったけど。


 魔王の遺産にも呼び名があるとは。新知識だった。

 魔王城の外にいる人からも話を聞いていくのは、経験を積むのに有用だ。

 そんなことを思いつつ、リビングレリック(本)の攻撃をさばきながら歩いていく内に、俺たちは、一階層の地図で赤丸を付けられた地点に来ていた。


 そこには大きな扉があった。数人は横並びで通れそうな扉で、それを見ながらノルグは言葉をこぼした。


「この扉の向こうにある部屋。そこに一階層のワープ扉はあります。……が、気を付けてください。この部屋はかなりの難所で、部屋の調度品が一斉に攻撃をしてきますから。そして破壊しても、一度ダンジョンから出ると、また復活しているので、今回も来るでしょうし……」


 彼の言葉を聞くなり、俺たちは軽く目線を合わせた。そして、


「とりあえず俺が一番最初に入ろうと思うけれど、ほかに誰か行く?」

「じゃあ俺も行くぜー」

「わたしも一番乗りしたいわ!」

「マッパーとしては私も行く……」


 というわけで、コーディー、アリア、ユキノと一緒に入ることにした。


「あ、あの、魔王リザ様。彼ら、かなり気軽に決めていますけど、いいのですか?」

「まあ、マップと仕掛けがわかっている以上、多分、誰が入っても同じようなことになると思うんで大丈夫かなあ」


 ノルグがリザに慌てたような声をかけているのを背後にしつつ、俺たちは一気に大扉を開けた。瞬間、


「――」


 わっ、という勢いで、四方からこちらに飛び込んでくるものがあった。

 上方からは照明が落下して、押しつぶしに。

 右方からは鏡がその身を砕きながら突き刺しに。

 左方からは椅子が純粋にぶん殴りに。

 下方からは絨毯が巻き付きに。


 どれも、素早い攻撃だ。けれど、


「じゃあ、いつも通りで」

「ええ、わかってるわ!」

「了解だ、クロノ!」

「排除する」


 上方の照明はアリアが飛び上がりながら、その剛腕で吹き飛ばした。

 右方の鏡は、コーディーの大きく強固な体によるタックルで、すべて受け止められ、そしてはじき返された。

 左方の椅子はユキノの爪で切り裂かれ、バラバラになった。

 そして下方の絨毯は、


「ちょっと大人しくしててくれ」


 巻き付こうとしてくる根本を俺は思い込み、踏み込んだ。それだけで、


 ――ドシン!


 という揺れが部屋の床から発せられ、

 

「……!?」


 踏み込みを受けた絨毯は、ビッ、と音を立てて、裂けた。

 部屋の一面張られていた絨毯だったが、それだけで、もう、動くことはなくなった。

 

 それを確認して、また、ほかの方向で皆が対応した痕跡を見た後、周囲を改めて見渡す。

 室内に特に目立った調度品はない。


「うん。これで、この部屋は突破かな、ノルグさん」


 だから俺は背後にいる、ノルグや外のクラスメイトを見た。すると、

 

「え……? あの、難所をこんな容易く……?」


 俺たちの背後で、ノルグは口をぽかんと開けていた。


「ノルグさん?」

「あ、は、はい。大丈夫、だと、思います」

「よかった。それで、あの剣の模様がある扉がワープ扉?」


 俺は再び部屋の方に視線を送る。

 入り口の対角線上には、剣の模様が刻まれた扉がある。それを指し示しながらノルグに聞くと


「え、ええ。あれが転移用の扉です」

「そっか。なら先に行こうか皆ー」

「了解ー」


 そして、俺たちは、いつも通りの感覚で協力しながら、野生のダンジョンを皆で進んでいく。


 

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