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5話 決め方


 市長が自分たちの前から去り、テントの奥に引っ込んで数十秒後。

 彼から詳しい説明を受けてくれ、といって町長が連れてきたのは、ヘルメットの様な帽子を被り、分厚いメガネをかけた壮年の男性だった。


 線の細い体をした彼の手には分厚いバインダーを抱えている。


 その男性を見た瞬間、リザは、あー、と声を上げた。

 

「調査員って、ノルグさんだったんだ。お久しぶりー」

「あ、はい。本当にお久しいですな、魔王リザ様。……本来ならば、今日はこのような形でお話をするつもりではなかったんですが」


 随分と親しいようだ。

 この人も市長と同じくリザの知り合いなんだろう。


「リザさん、紹介をお願いして貰ってもいいですか」

「あ、うん。こちら、迷宮都市で学者をやってるノルグさん。課外講習があるごとに、学生たちに臨時講義を開いてくれる人なんだよ」


 リザの紹介に合わせて、ノルグと呼ばれた壮年の男性はきびきびとした動きで、ペコリと会釈してくる。


「私、ダンジョン研究を生業としております、ノルグと申します。魔王リザが常々、『今年は凄いんだよ!』と自慢していた超特進クラスの皆様とお会いできて光栄です」


 会釈が終わるなり、真剣な表情になった彼は、


「そして、今回、件のダンジョン攻略を手伝って頂けるかもしれないとの事で私が来たわけですが。正直……その判断は説明の後の方が良いかと思っておりますな。大事な学生さん達に、説明なしのリスクを負わせすぎるわけにはいきませんから」


 俺たちの目をまっすぐ見るようにして、そんなことを告げてきた。

 心配半分、忠告半分といった色が見える。


「ノルグさん、結構、たくさんのダンジョンを見ているよね? それでも、ヤバイ判定なの?」

「ええ。少なくとも、長年迷宮都市のダンジョンを研究してはきましたが、これまでは、無かった形態なので」


 そこまで言ってから、ノルグは一息つき、バインダーの中身を眺めてから、


「そうですね。……それを説明するためにも、場所を移しましょうか。ここだとデータはありますが、雰囲気が分かり辛いでしょうから。念には念を入れて、現地へ行って色々とお話をさせてください」


リザが超特進クラスの面々やノルグ、市長と共に訪れたのは、集会所から数分の所にある巨大な山――エンダーマインの中腹だ。


 機械が所々に顔を出している山には、いろいろな形をしたドアが出来ており、それぞれの前に看板が立っている。

 どれもダンジョンの名と、データを書き記したものだ。


 そして自分たちの目の前にある四角いドアの前にある看板にはこう書いてある。

 

 『【生者の館】:難易度・特級。危険。許可を受けたもの以外、立ち入るべからず。モンスターが出現した際は本部に連絡を――』


 その内容を改めて確かめるように、看板に触れながらノルグは言う。


「これが件のダンジョン。難易度特級、『生者の館』です」

「なるほど。ここが……確かに奇妙な魔力を感じる、かな」

「魔王リザ様もそう思いますか。私もです。それで調べたところ、ダンジョンの形状は室内型で。広大な豪邸型ダンジョンになっていることが分かりました。先ほど、お手元に配った資料に一階層の地図も載せてあります」


 と、リザはここに来る最中渡された紙を見る。

 そこには、家の見取り図のようなものが掛かれている。これが今回のダンジョンの構造のようだが、


「何十部屋とある豪邸の内、次の階層に移る扉がひとつ、置かれている、んだね」

「はい。それを開ければ次の階層にいけるようですが……調査で進むことが出来たのは二階層まで。それ以降は調査出来ておりません。ただ……ダンジョンから発せられる魔力量を計測したところ、恐らく存在しても五階層まで、というような場所ですね」

「そこまで分かっているんだ。……で、どこが危ないの?」


 この資料には危険な理由は書かれていない。

 だから問うたら、


「それは……分かりやすくいいますと、ダンジョン内に、『生きている道具』が幾つも発生しているのです」


 ノルグは言葉を選ぶようにしながら、言ってきた。

 更に彼の言葉は止まらず続き、


「生きている道具、というと、ゴーレムみたいな無機物が動いてるってこと?」

「はい。強力な魔力で、そこら中のモノが生きています。本来、そういうモノはそうそう見れるモノではないのですが、このダンジョンの中ではそこら中にあります。凶暴なモノから大人しいものまで、様々な種類が観測できました。そして――何気なく置かれているものが牙をむいてくるので、油断が出来ないという事も分かっています。強力な魔力が宿っていることから、ある程度の防護は貫通してきますし、攻略部隊の何人もが、予想外の所からの攻撃で不意を打たれてやられています」


 少し長めの説明を早口で一気に話し終えた彼は、しかし、一息吸うだけで言葉を再開させ、


「魔力が付与された家具や道具がたくさんあるので、そういうものを狙っていくのであれば良い宝物庫とも言えますが。それを差し置いても、負傷の危険は高く。入るのにリスク有る気の抜けないダンジョンなんです。以上、説明でしたが、何かご質問はありますか?」


 ここまで言ってから、言葉を止めた。それを見て、リザは苦笑する。

 

 ……相変わらず物事を説明するときは早回しになる人だなあ、ノルグさんは。


 でも、お蔭で内情は大体理解した。

 ダンジョンの特性も、ある程度は。


 そう思い、説明を頭の中で反芻させながら、リザは数秒目を瞑って考えた。


 そして、超特進クラスの面々の顔を見た。


 皆の表情がよく見える。


 それだけ自分としては、何となく周りの雰囲気から、彼らが取ろうとする行動は分かるのだけれども、


「さて、皆ー。どうする?」


 敢えて、リザは聞くことにした。



 リザに問いかけられ、俺はクラスメイト達と顔を見合わせた。  

 そして、皆で頷いて、一番先頭にいた俺がリザに対して答えた。


「いや、なんというか、思ったより、普通っぽいっすね」


 そんな俺たちの意見がまとまった言葉に、


「……え?」


 ノルグや市長は首を傾げた。

 そして、目を丸くしていた。


 この答えが意外だったらしい。

 だが、俺たちとしては、説明を受けてなお、意外性は少なく。

 むしろいつも通りだなあ、という感じが抜けなかった。何故なら


「クロノの言う通りだよなー。魔王のダンジョンにも生きているアイテムとかいっぱいいたし、殺意向けてくるの結構多いし」

「ゴーレムは動いてたり、モンスターがごろごろしてたり、宝箱が手を生やしてぶん殴って来たり、普通にあったものね!」

「あったね……。というかアリアにはグーで行ったのに、ボクに対しては抱きしめて来ようとしていたね、あの宝箱……。もう不意打ちとかは慣れっこだけど、あれはびっくりした……」


 などと口々に思い出を語っているが、正直、魔王のダンジョンで気が抜けないのは、もはや普通の事である。

 なにしろ、生きているアイテムが襲って来るトラップなど日常茶飯事なのだから。


「よくよく考えると、私たちよくもまあ、無事でいますよねえ。いや、本当に危ないときはクロノさんがいて、守ってくれているから、なんですけども」

「いやあ、みんな殆ど自分たちだけで解決していると思うけどなあ」

 

 気を抜いたら大けがに繋がる状況のダンジョンを何度も何度も潜ってきているのだし。俺が何かをしているというより、みんなの認識がしっかり警戒モードに入っていることが大きいだろう。


 だからまあ、そういったことには慣れていると言っても良い。

 だとするならば、

 

「今回のダンジョンには、行ってみてもいい気がする、かな」


 今回の旅行の目的の一つに困っている人がいたら助ける、というのもあるし。

 何より、困っている人がいる中で、落ち着いて祭りを楽しめるかというか、微妙な所だし。 

 そう思って、言うと、

 

「クロノに賛成ー」

「異議なしー」


 クラスメイト達も肯定的な反応を返してくる。隣にいるユキノやソフィアなども、当然のように行く意思を見せている。


「あたしも、そう。マッパーとしては行ってみたい」

「ユキノさんはそういうの好きですよね。……私も、魔力がある家具とか、家型のダンジョンに興味はありますし。行ってみたいと思っていますが」

「ああ、そこは俺もあるな」


 何しろ、俺のダンジョンはいまだに殺風景だ。

 参考になりそうなダンジョンだし、見てみたいと思う。


「わたし、わたしも、力を試すのに入ってみたいと思うわ!」

「まあ、そういうことなら、ボクも行こうかな。クロノ君とダンジョンに入る機会は、みんなに比べたら全然少ないしね」


 天竜の双子も俄然やる気の模様だし。


 どうやら、意見は一致したようだ。

 というか、行きたくない、と思っているクラスメイトが一人もいない。結構血の気が多いようで俺の村の祭りに向いているかもなあ、と思いつつ、


「俺たちはそんな感じです、リザさん」


 リザに返事をした。

 すると、リザは歯を見せる嬉しそうな笑みを浮かべた。


「了解了解ー。やっぱりそうだよね!」


 そしてそんな表情のまま、やや呆然とした表情をしているノルグや市長の方を向く。


「というわけで、ノルグさん、市長さん。皆、手伝う気、マンマンだってさ」


 リザの言葉を聞いて、まず市長の表情が呆然から少し動いた。


「え、ええと、よ、よろしいのですか?」

「当然。私は学生の意思を尊重するからね。そして彼らの力を信じているから、全く問題ないと思っているし」


 と、リザは言ったあとで、俺たちの方を向く。 


「あ、ただ、皆の活躍を見届けたいから。私も、皆のサポートとして潜って良いかな?」


 彼女の言葉に対し、俺たちは再び顔を見合わせ、頷きあう。そして、


「もちろんですよ。リザさんが一緒に来てくれるなら心強いですし」

「あはは、そう言ってくれると嬉しいな。というわけで、市長さん。ノルグさん。私を含めた皆で攻略に臨むよ」


 改めて述べられた表明で、ようやく飲み込めたのだろうか、ノルグや市長の表情が戻っていく。そして、二人そろって礼をした。


「あ、有り難うございます魔王様……」

「いやいや、お礼を言うなら私じゃなくって、クラスの皆だし、まだ挑むと決めただけなんだから早いって」

「では、クラスの皆様に感謝を。ええ、ご協力していただけるだけでも感謝というか……こちらとしては何も支援できずに申し訳ないのですし――っとそうだ」


 言いながら市長は何かを思いついたのか。

 横のノルグを見た。そして、


「このノルグをこのまま同伴させて貰っても宜しいですか? 案内役としても一流ですし、先に潜っている者としてお話もリアルタイムで聞けますし、いざとなった時、逃げるための道具もたっぷり持ち合わせていますから」


 彼の肩をぽんとたたきながら、俺たちに向けて言ってきた。

 確かに一度潜った経験のある人がいると、ダンジョン探索が楽に進むのでありがたいけれども、そんな簡単に決めていいんだろうか。

 そう思っていたが、当のノルグは乗り気のようで、


「私の方は問題ありません。いつでも再調査や再探索できるように準備はしっかりしておりますので、皆様がよろしければ、同伴をお願いしたく思います」


 そんなことを言ってきた。やる気は抜群のようだ。ならば、


「では、一緒によろしくお願いします、ノルグさん」

「はい、足を引っ張らないようにしますので、どうぞよろしく」


 などと、俺たちとノルグが軽く挨拶を交わしていると、リザは市長の方に顔を向けていて、

 

「それじゃあ、有り難くノルグさんをお借りするね、市長さん」

「いえいえ。お気をつけていってらっしゃいませ、魔王様。そして超特進クラスの皆さま……!」

 市長の、力を振り絞るような声の見送りを背中に受けながら、俺達は生者の館の入り口前に立つ。そして、


「それじゃあ、課外講習で初めてのダンジョン攻略に行こうか!」

「はい!」


 旅行初日からいきなりではあるものの、ダンジョンに挑むことになった俺達は、何となくの新鮮味を感じながら。

 エンターマインの山頂にある入り口から、ダンジョンへと入っていくのだった。

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