第28話 強制的な飛び入り参加
ミスラ達とフェニックスキメラとの戦闘は長引いていた。
正確には、自分たちが削られていく展開に陥っていたのをどうにかリカバリーしようとして、ここまでずるずると来てしまった。
「く……攻撃が通らない、なんて……!」
「アリア! 焦るな! まだ試せることはあるんだから!」
こちらの攻撃は通らず、相手の熱による被害だけが蓄積している。
その状態に焦燥しつつもミスラたちは、フェニックスキメラに攻撃の手を緩める事は無い。
……倒せないと、皆が倒れてしまうのだから……!
だが、その思いに反して体力は尽き掛けて来ていた。
自分も、隣にいるアリアも、足の踏ん張りがきかなくなっているのが分かった。
「ふむ……フラフラだな。そろそろ倒れるかのう」
「誰が、倒れる物か……!」
余裕を見せてくるフェニックスキメラを前に、ミスラは歯を食いしばって手の中に魔力を練り込む。
それを見たからか、アリアはこそっと声を出してきた。
「ミスラルト。これがラストチャンスよ……。私が全力で突っ込むから、最大の一撃を、ぶつけなさい……!」
「ああ、了解だよ、アリア……!」
それは昔から自分たち姉妹が使ってきたコンビネーションだ。
アリアが突っ込んで、自分が補強しつつ、最後をシメる。
やる事は変わらない。だから、打合せは最小限で終わり、アリアはフェニックスキメラの背後に回る。そして、
「行くわよ……!」
彼女は高速で突っ込んでいった。
炎のベールを体にまとい、タックルよろしく、フェニックスキメラの体につかみかかる。
フェニックスキメラは炎の翼で迎撃するも、
「その程度で、とまらないわよ……!」
逆に翼を弾いて、肉薄した。
そしてそのままフェニックスキメラの体を掴もうとして、
「では、止めずに受け流そう。……妾の体には、炎の状態でも、湯の状態でも、そんな攻撃は効かぬ」
「ッ!」
フェニックスキメラは身体を液状化させ、アリアのタックルを突き抜けさせた。
「ッ!」
熱湯に突っ込むことになったアリアはその熱に顔をゆがめた。
そして勢いも止まらない。ミスラの横をかすめて、大広間の壁まですっ飛んでいく。だが、
「――ミスラルト! 今よ!」
自分の身の事を気にするな、と言わんばかりのアリアの叫びに、ミスラは頷き、その魔法を発動させる。
「凍りつけ……《水竜の息吹》!」
ミスラの両腕から放たれた冷気は、高速でフェニックスキメラの体に巻き付いていく。
絶対零度の、生物ですら凍りつかせる魔法だ。
いくら魔法防護を貫通すると言ってもお湯はお湯でしかない。
冷やせば凍りつき、それで終わりになる。そう思って使った。
「ふむ、一部とはいえ、妾の身体を凍らせるとは、中々よくやったの」
そして狙い通り、フェニックスキメラの翼が凍り付いていく。しかし、
「氷を使わずとも強力な魔力であれば、妾の体を固める事は可能だ。その発想はいい。……がこの程度ではコアには届かせてはやれんけれどな」
凍らせられたのは、フェニックスキメラは翼の一部のみだった。
全身を凍結する事は敵わなかった。
「はあ……はあ……力が足りなかった、か……」
その結果を見てミスラは膝を地に付けた。
魔力と体力の限界が来たのだ。
背後の壁に激突したアリアもまた、先ほどの突撃で力を使い切ったのか倒れていた。
「ふむ、力は出し尽くしたか。では、このまま凍って、油断させておく必要もないな」
フェニックスキメラは炎の体となり、凍り付いた一部を溶かし、そして健常なものへと戻した。。
「く……ここまで来て、勝てない、とはね……」
息を切らしながら、ミスラはフェニックスキメラを見上げる。
自分たちとの戦いでの消耗などほとんど見られない、このダンジョンの守護者を。
「いや、天竜の子孫よ。貴様たちはよく戦った。仲間の為にここまでやれれば合格だが……もう立てないなら、終わりだ。故に、これで決着だ――」
言葉を放ちつつ、フェニックスキメラが翼を振り上げた。
それを見上げながら、しかし、最後まであきらめてはいけない、と。
仲間達がここまで連れて来てくれたのだから、
……攻撃は出来なくても、最後の最後まで、立って挑み続けなきゃ……!
と、ミスラが震える足に力を籠め、立とうした瞬間だ。
――ドゴオン!
と巨大な破裂音がした。
フェニックスキメラの攻撃の音では無い。
「む、なんじゃ!?」
なにせ、目の前でフェニックスキメラは驚いていたのだから。
ミスラも何事だ、と音をした方向を見る。それは、自分たちの背後。
そこには、アリアがめり込んでいた大広間の外壁があった。だが、今や大きく崩れ落ちていた。そして、土煙の先には、、
「間に合ったから、参戦しにきたぞミスラ、アリア。――まだ、俺達の協力は終わってないからな」
そんな声を放つ、両手に黒い鎖を巻き付けたクロノが立っていたのだ。
●
俺は、壁を開けた時に近くにいたアリアを抱き上げながら、あちこちに焼けこげたり、凍結した跡を残した大広間を見やる。
「今までの部屋に比べると、凄く広く感じるな、こりゃあ」
狭い部屋に転送された後だと尚更その広さを感じる、と思いながら俺は目の前にいるミスラの元まで進む。彼女は、アリアを抱き上げた俺を見て、身を震わせていた。
「クロノ……くん? どうして、ここに?」
「そりゃ、二人が頑張っているんだから、俺も頑張って来なきゃ駄目だろうさ。あと、俺だけじゃないぞ」
俺は疲弊しながらも立とうとしているミスラに手を貸して起こしつつ、背後をみた。そこには、一人の少女が息を切らしながら走って来ており、
「く、クロノさん。進むの速すぎですよー!」
「ソフィアさん……?」
「ああ、俺と一緒に転送されたからな。来てもらったんだ。で、ソフィア、到着して直ぐ所悪いが、二人の保護を頼めるか?」
俺は肩に担いだアリアと、手を貸すミスラを見て言った。
するとソフィアは一瞬戸惑いの表情を浮かべたものの、
「え? ……あ、はい。大丈夫です。しっかりお守りしますよ」
直ぐに納得した様で、頷いてくれた。
「ありがとう。お陰で安心して戦えるよ」
彼女の防御力は知っている。落石や落盤程度、衝撃の余波が行っても、あの二人を護れるだろう。
有り難い、と思いながら、俺は振り返る。
そこには部屋の中央で俺をねめつけてくる炎の怪鳥がいた。
「貴様……どうやってここまで来た。檻とここまでの間には、数百メートルは続く分厚い岩盤があるというのに…………!」
「決まっているだろ。物理的に掘って来たんだよ。あの穴はきっちり、檻とやらに繋がっているしな」
俺は背後の大穴を指し示し、そして、削った岩の欠片が付着した鎖を見せて告げてやる。
彼女たちが戦っているであろう音を頼りに、俺はここを目指してずっと掘り続けたのだ。
「しかし、数百メートルか。道理で時間が大分掛かった訳だ。……まあ、穴掘りなんて、田舎でやった時以来だったから仕方ないんだけどさ」
「穴掘りって優しい表現で済まないと思いますよ、クロノさん……。ダンジョンを操作して、動かしては削ってを繰り返してって、速過ぎましたし」
「操作……妾のダンジョンを操作した、だと……!? 妾の支配を上回る魔力とでもいうのか?!」
「まあ、岩盤に自発的に移動して貰ったりはしたし、どっちかと言うと穴掘りというか掘削だったかもな。何にせよ、ダンジョン操作のお陰で結構楽に出来たから、体力も残せたし良かったよ」
言いながら、俺は鎖にこびりついた岩や土を払う。
そういったごみを取り除かれた鎖はそのまま、俺の手足に巻き付いていく。
「――って、訳でさ。ここからは俺が相手だ、フェニックスキメラ」
俺は頭にある魔人の角を砕いた後で、両手を構える。
それだけで、体中から噴き出した魔力が静かに、手足に集中していく。
「仲間を助けるために……全力で挑ませて貰うぜ」




