第26話 微妙に親切な設計
最下層である十二階層に降りた俺達は、
「マジか」
このダンジョンにきて一番の戸惑いを浮かべる事になった。
何故なら、そこは、
「十二階層って、この部屋だけなの、か?」
今までで一番小さな部屋だったのだ。
七角形をしたこの部屋、それこそ超特進クラスが集まる部屋よりも少し小さい程度で、とてもダンジョンとは言い難い場所だった。
中央には四角い机があり、その周囲に空間があるという構造だが、十四人も入ると、少し窮屈ささえも感じる。
外周部には白い柱が幾本も立っていて、壁は白い岩で出来ている。
それは今までも何回か見ているが、ここまで小さいのが最下層フロアだとは予想が出来なかった。
「というかこれで、攻略完了、でいいのか、ミスラ?」
「え、いや、この腕の契約が光っている限り、攻略はなされていな筈なんだけど、どうだろう……。始祖の報告書では最奥を護る巨大なモンスターがいるっていう情報があったんだけども……」
「モンスターねえ。でも、この狭い部屋にモンスターの姿なんて見当たらないぞ」
そんな気配も感じられないし。
どうすれば攻略扱いになるんだろうなあ、と思っていたら、
「あ、見てください、クロノさん。部屋の外周部が光ってますよ」
ソフィアが何やら見つけたようだ。
視線を動かしてみれば、確かに部屋の端、それぞれの角に七つの光が浮かんでいるのが見えた。
「あれは転送ポイントの光に見えるが……」
「そうですね。でもそれが七つってどういう事なんでしょう……」
と、ソフィアと共に首を傾げていると、
「クロノ、クロノ! こっちにも文字が浮かんできたわ!」
今度はアリアが声を上げた。
見れば彼女は、部屋の中央にある机に目線を落としている。彼女につられて俺は勿論、超特進クラスの面々も、机に目を向けた。すると、そこには、
『正解は一つだけ。踏まれなかった転送ポイントは即時消去。アタリを引かなければ強制排出』
との、文章で刻まれていた。
「おいおい、これってまさか……このうちの一つだけが正解ってことか?」
「この文章をそのまま読むなら、そうだろうね……」
「ここまで来て運で進み方が決まるとか、酷いわ、このダンジョン!」
アリアは憤慨している。
確かに、七分の一を引かなければ強制的にダンジョンから追い出されると考えると、あまりに横暴なルールだ。
攻略させる気が無いと言える。いやまあ、ダンジョンの仕掛けなんて攻略を防ぐためのモノなんだから当然なのだけれども。
……でも、ここまで来たら、最後まで行きたいしなあ。
天竜の姉妹をコノダンジョンカラ解き放つためにも、ここの攻略は必須な訳で。出来るだけ確実にアタリを引きたいのだけれども、と思って、
「あ、そうだ」
閃いた。
「どうしたんだい、クロノ君」
「いや、ここに十四人もいるだろ? だから、全員で違う魔法陣を同タイミングで踏んだら、良いんじゃないか?」
「あ」
俺の言葉に一瞬沈黙が生まれた。
そう、今は頭数があるのだ。
だとしたら、それぞれのグループに分かれて、アタリを引きに行けば良い。
そう伝えると、ミスラも理解した様で、
「あ……そっか。ボクたち二人だけじゃなくて、皆がいるんだから。それでいいんだよね!」
力強く両手を握った。更にはアリアも、
「行ける、行けるわよ、その方法! それなら確実にアタリに行けるし、転送の魔法陣は発動まで猶予もあるし、タイミングはそこまで厳密じゃないもの! ――ありがとう、クロノ!」
嬉しそうに声を発しながら抱き着いてくる。
「はは、まあ、冷静に考えれば皆気付けたことだからな。そこまで礼を言う事じゃないさ。それよりも大事なのは、どういうグループ分けをするか、だろうよ。……この先にはモンスターがいるかもしれないんだから」
そう。さっきミスラは巨大なモンスターが最奥に待ち構えていると言った。
ならば転送された先で闘いになる可能性もある。
だとしたら、戦力的にちょうどいい分け方をした方が安全だろう。
そんな俺の考えは、超特進クラスの面々も分かっているようで、
「クロノの言う通りだ。とりあえずは二人ずつ、七つに分けるか」
「オッケー。じゃあ、息を合わせて動けるヒトと組んでいこう」
軽く相談をしながら俺達がさらっとグループ分けをした。
結果、ミスラはアリアと。
俺はソフィアと組むことになった。
この二グループは大体いつも一緒にいるから、という事で決まったものだ。
あとの超特進クラスのメンバーもそれぞれコンビを作って、あっという間に七つのコンビが完成する事になった。
そして、それぞれが七つの角の前に立った。
「あとは入るだけですね、クロノさん」
「そうだな。まあこの後、誰がアタリを引くかは分からないけれども、とりあえずミスラやアリアの為に攻略しておきたい所ではあるな」
そういうと、俺たちの隣の角にいるミスラが苦笑した。
「あはは、ありがとう。でも……皆は安全第一で行ってよ。もしもアタリを引いても、危険な目にあってしまったのなら、脱出しちゃっていいから」
「そうよ! あたしたちはダンジョンはまた挑めばいいけど、身体は壊したら元も子もないんだから! 命は大事にして貰わないと悲しくなるもの!」
ミスラだけじゃなく、アリアまでそんな事を言ってくるものだから、俺はコーディーたちと顔を見合わせて、笑みを交わした。
この優しい姉妹を、こんなダンジョンからさっさと開放するために、頑張ろうと、そういう意味を込めて。そしてその意思は共有できた様で、
「うん。そうだな。身の守りは最優先にしつつ、ギリギリまで粘って、出来るだけ攻略を狙う感じでいこうか、皆」
「おうよ!」
超特進クラスのメンバーからは威勢のいい返事が来た。最下層ということで、気合も入れ直せたし、
「――じゃあ、行くぞ皆。……せえのッ!」
そのまま俺達は、七つの転送ポイントにほぼ同時に踏み込んだ。
瞬間、俺達はそれぞれ光に包まれ、転送された。
そして、俺がソフィアと共に訪れる事になった、そこは
「……なんだこりゃ」
「部屋、でしょうか……?」
先ほどの部屋よりもはるかに狭い、石造りの部屋だった。
●
俺とソフィアは部屋につくなり、まず探索を始めた。
とはいえ、数歩も歩けば行き止まりな部屋だ。
調べられるようなモノも少なかった。
「出口もなければ窓もない。あるのは壁に掛かった白い板だけ、って、何だこの部屋」
天井は高さにして三メートルほどあるものの、面積が狭すぎて、とても窮屈に感じる。
そして辺りをペタペタ触れても、転送用の魔法陣が現れる事はなかった。
つまり、ここは、
「ハズレの部屋か?」
「そのようです、ね……」
それ以外に認識の仕様がないよなあ、と俺がソフィアと共に苦笑いを浮かべた瞬間だ。
――ズズン!
と、鈍い衝撃が部屋に響いた。
「……なんだ?」
「さ、さあ、何か重たい物が落ちたような振動でしたが……って、クロノさん! 白いな板が光ってますよ!」
ソフィアが言い終えるのと同じくらいのタイミングで、
――パッ。
と、部屋の一面に張り付けてあった白板が強く光った。
そして、薄らと、映像を映し始めた。
「……なんだ、こりゃ?」
「マザーコアのダンジョン投影みたいですね、これ」
ソフィアの言う通り、白板は物体を映し出していく。
数秒もしない内に、その像ははっきりと見えてくる。そしてそこに映っているのは、
「ミスラさんとアリアさん!?」
何やら焦った顔をしている天竜の姉妹だ。更には、
「いや、それだけじゃない。大型の鳥みたいなやつが……二人を攻撃してやがるな」
彼女たちに危害を加える存在ががいたのだ。
炎で燃え上がらせたような体躯を持つ、巨大な鳥が。