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第25話 未体験ゾーンは駆け抜けるように


 九階層も砂漠地帯だった為、当然のように前の階と同じ方法を使って突破する事が出来た。

 そして俺達が訪れた十階層。

 

 そこには小ぎれいな空間が広がっていた。

 二階層ぶりに、神殿の大広間のような形をしているが、二階と異なるのは周辺にゴーレムがいないという事だろう。

 

 というか、敵の気配が一切しない。

 それどころか、部屋の中央に『中間休憩地点。転送ポイントはここに』と印字された看板があるだけだ。

 

「これは……罠だったりするんだろうか?」


 ソフィアに聞くと、彼女は難しそうな表情で首を横に振った。


「うーん、どうでしょうね。私の耳では、特にトラップらしき仕掛けの音は聞き取れないです」

「ボクも周辺の魔力を感知してみたけれど、特にそんな反応は無いね」


 ミスラも特に脅威を感じている様子はなさそうだ。

 そして彼女の報告を皮切りに他の超特進クラスの面々も、

 

「私たち以外には、動いているものは特にないわね。スライムの私でも感じ取れない振動なんて、魔法くらいだけど、それもミスラが否定しているし」

「俺も同意見だ。この辺りの気温や環境は安定しているよ。温度の変化に敏感な竜人としては、安全だと思う」


 そうして皆の意見を言い合う事数分。

 まとめた結果、罠の可能性は極限まで低いため、看板の言葉を信用することにした。

 

「まあ、確かに残り二階層だから。最後の補給をしておきたかったし、ちょうどいいタイミングではあるんだよな」

「そうですねえ。あ、それではユキノさんから預かってきたお弁当、お出ししましょうか。皆さんの分もありますし」

「おお、そうだな。じゃあ、皆でここで食べようか」


 そうして俺達は、気合を入れるためにも、ひとまずの食事休憩に入る事にした。



「こういう特殊なダンジョンは始めてきたけれど、中々面白いな。多少、辛い部分もあるけどさ」

「そうね。大変な所は多いけれど、魔王のダンジョンよりかは大分、切り抜けることが出来ている者ね」


 そんな風に休憩しつつも元気よく喋り合う超特進クラスの面々を、ミスラはソフィアから貰ったサンドイッチを手にしながら眺めていた。

 

「どうしたんだ、ミスラ。ぼーっとして。食欲ないのか」 


 そんなミスラに横に、クロノがやって来た。

 彼はこちらの顔を心配そうな表情で見てくる。


「いやあ、大丈夫だよ。ただ、クロノ君だけじゃなくて、超特進クラスの人たちは凄いなって驚いていただけだからさ」


 その言葉にクロノは、それなら良いが、と息を吐く。そして、


「まあ、ミスラの言う通りだよな。皆、物凄く優秀だから、色々な事が早く進むもんで。ビックリするよなあ」

「クロノ君がそれを言うとなんだかおかしい気はするけれどね。でも、そうだね。……こんなに早く九階層を突破したばかりか、もう二ケタ階層にいるだなんて。その上、ここまでゆったりとリラックスして、ダンジョンでご飯を食べられる時が来るなんて、少し前までのボクらだったら想像も出来なかったよ」


 こんなに色々なヒトが自分たちに協力してくれることも。仲良く喋りながら、冗談を言い合いながらダンジョンに潜る時が来るなんて。

 この魔王城に来る前までは考えつきもしなかった。

 

 だからか、今が物凄く楽しかった。

 それは自分の妹であるアリアも同じらしく、視線の先でクラスメイトと滅茶苦茶楽しそうに笑い合っている。

 

 ……アリアは元々明るいけれど、ダンジョンに潜ったら多少は静かになるんだけどね。

 

 でも、自分と一緒で、みんなと一緒にいられるからか、テンションが高い。 

 そう、ダンジョンに潜る事になって大変な筈なのに、皆と一緒に攻略していくのは楽しいと、ミスラは本気で思う。ただ、それ故に、


「クロノ君。君と、皆に言っておきたい事があるんだけど、時間を少し貰ってもいいかな?」

「うん? 別に構わないんじゃないか。というか、部屋も狭いし、ここで話せばみんなに聞こえると思うし」

「うん、じゃあ、少し話させて貰うね」


 ミスラは手にしていたサンドイッチを一息で平らげるなり立ち上がる。そして、


「皆」


 と声を掛けた。

 すると、それだけで超特進クラスの面々はこちらに向いてくれた。 

 有り難いヒト達だ、と思いながら、ミスラは言葉を続ける。  


「皆、よく聞いて。ここからは、ボクもアリアも未体験なフロアだから、より一層、注意をしなきゃいけない。力を込める必要があるんだよね。始祖だけが最下層にたどり着いたことで、全十二層だと分かってはいるのだけれど。その時の地図は失われてるし、情報も無いから。……正直、どんな危険が待っているのかも分からない」

 

 上層階よりも性質の悪いトラップが満載かもしれない。より凶暴なモンスターが出るかも知れない。

 そんな危険性があるからこそ、ミスラは皆に尋ねる。


「もしも、体調が悪いとか、疲れているとか、攻略する気分が乗らなくなったヒトは遠慮なく言って欲しいんだ。このダンジョンでは十分も寝ころべば、脱出できるし、今なら安全に出れるからさ」 


 無理に挑んで怪我をしてほしくない。

 大切な仲間達だからこそ、そう思って問いかけた。

 ここまで付き合ってくれただけでもとんでもなく有り難い事なのだから。この辺で脱出しようという人が出ても良い、とそう思って。けれど、

 

「りょーかいりょーかい。気分が悪くなったら自己判断で倒れるわー」

「そうね。無茶はしないから安心して頂戴、ミスラルト」

「そうそう。まあ、ここまで来たんだ。最後まで手伝わせて貰うつもりだけどな」


 皆は笑ってそう言った。

 離脱しようとする人は、いなかった。


「ってなわけで、皆のやる気は十分みたいだぞ、ミスラ。勿論、俺も含めてな」


 横にいるクロノもそう言ってくれた。


 思わず目が潤んでしまう。

 そんな自分を見てか、アリアがこちらに近寄って手を握って来る

 

「ミスラルト、あたしたちは本当に、有り難い仲間に恵まれたのね」

「そうだね……魔王城に来て、本当良かったよ、アリア」

「ええ。でも安心するのは早いわよ。まだ、攻略はしていないんだから!」

「うん。そうだね。最後まで気を抜かないようにしないと」


 ふう、とミスラは一度深く呼吸をする。そして、


「それじゃ、皆。休息も済んだし、気合いを入れて進もう!」

「ああ!」


 そうして休息を終えた後、ミスラは仲間と共に未体験のフロアに進んでいくのだった。



 十一階層に入った俺達がまず見た光景は、広大な湖だった。

 正確には、俺達はフロアの中央にある小さな島のような土地にいて、その周囲が水面で埋め尽くされていたのだ。

  

「ここは、湖のフロアか?」

「いや、ただの湖じゃないみたいですよ、クロノさん。見てください」


 ソフィアの視線の先、湖の水面は、ボコボコと沸騰していた。


「これは……お湯か」

「ですね。湯気は微かに出ているだけですが、蒸し暑さが凄いです……」


 ソフィアの顔には汗が浮かんでいる。

 彼女だけではない。

 ここに来た皆が額や肌に汗を浮かばせていた。


「……この蒸し風呂状態だと体力の消耗が激しくなるな」

「そうだね。出来るだけ早い所、転送ポイントを見つけたい所だけど、陸地がもう、殆ど無いんだよね……」


 そう、ここから見える範囲に陸地は俺達が十四人が乗っかっている場所以外無かった。

 

 それくらいフロア一面がお湯で出来た湖に埋め尽くされているのである。

 中々厳しい環境に置かれたものだ、と俺が頬を掻いていると、

 

「あっ!」


 アリアが急に彼方を指さして叫んだ。


「どうしたんだ、アリア」

「向こう! 向こうを見て! あの浅瀬に、魔法陣が見えたの!」


 彼女が言葉に従い指差す先を見ると、確かにそこには赤と青に光る魔法陣があった。

 

「俺達が触れる前に、見えてるって、どういうことなんだ?」

「もしかしたら、この湖のお湯に魔力が含まれていて、それに反応しているのかもしれないね。とはいえ、もうちょっと近くで見ないと、本物かも分からないけれど」


 ミスラは冷静に分析しながら言う。

 それに対して、アリアは首を縦に振る。

 

「そうね! 近くで見ないと分からないなら、私が先に行ってくるわ!」

「え? で、でもアリアさん。どう見てもこの湖は沸騰しているんですが……」


 心配そうな声を上げるソフィアに対して、アリアは微笑と共に首を横に振る。


「ちっちっ。甘いわよソフィア。私の表皮は炎の熱すら遮断する魔法防護で守られているんだから。この程度へっちゃらよ!」


 アリアは自信満々に胸を張りながら、自らの肌をアピールする。

 

「ああ、そうだね。アリアは炎の使い手だから、熱に対してとても強い魔法的な防護を持っているんだよ」

「そうだったんですか」

「ええ、だからね。こんなお湯なんてさっさと泳いで渡ってしまうわ。本物だったら、魔法で防護を掛けてみんなで乗れば良いしね!」


 言いながらアリアは靴を脱ぎ、


「それじゃ行ってくるわね!」


 と、水面に片足を振れさせた瞬間、


「ッ!? あっつううううい――!」


 仰け反るように、飛び上がるのだった。


 

「……え?」


 ミスラはアリアが物凄い勢いで飛び跳ねて、後退するのを見た。

 

 ……なんで、熱がっているんだ?

 

 炎と熱に強い彼女が、お湯程度にこんな反応をするところを、初めて見たミスラは一瞬思考を凍らせたのだが、

 

「あっつい、あっついわ、ミスラルト! 水をお願い!」

「ッ、そうだね! 《水竜のベール》……!」


 ミスラは自らの両手を彼女の足を包むように構える。

 するとアリアの足が、水の球体に包まれていった。


「ふいー、ありがとう、ミスラルト」

「どういたしまして。でも、何があったんだい、アリア。君が熱で飛び跳ねるなんて」

「何がも無いわ! このお湯、凄くあっついの! 足がヒリヒリするわ……!」


 アリアの言う通り、彼女の足の一部は赤く火傷を負った様な状態になっていた。

 つまり彼女の熱に対する魔法防護が効いていないという事になる。

 

 でもアリアはしっかり防護を展開している。だからもしかすると。

 

「このお湯は魔法防護を貫通するのかもしれない……」


 その言葉に、アリアは眉をひそめてじっと足を見た。


「そう、そうね。その可能性が高いわ。普通のお湯かと思ったけれど、特殊な液体な可能性が高いわ……。私の表皮には三重の耐熱防護があるのに、何かを弾いた感触はなかったもの」


 アリアも感触で自分と同じ結論にたどり着いたようだ。

 天竜の鱗は一枚一枚に耐熱防護が掛かっているため、高い防御能力を誇る。それは人間の体になっても表皮に適用される防護だ。

 けれど、それを突破されたら純粋な肉体しか残らない。それ故、今回は火傷を負ってしまったのだろう。

 

 お湯の特性と効果は分かった。だが、だからこそ、


「これは、危ない場所だ……」


 そんなミスラの考えに、後ろにいた、超特進クラスのメンバーたちも同意して来る。

 

「マジか。……どんな防護があっても貫通して来るとか。ただのお湯なのに、強力過ぎるだろ……」 

「ええ、炎に強いアリアさんでこれだものね……。これは困ったわ……」


 今回ばかりは超特進クラスの面々も眉を顰める危険度のようだ。

 みな、難しい顔で、湖を見ている。


「これ、どう突破する? 転送の魔法陣は見えているのに……いけないだなんて、結構悔しいんだが」

「そうね。ウチの中で空を飛べる奴は何人かいるけれど……それでもあの魔法陣が湯の中にあるんだから、絶対に浸からなきゃいけないし」

「あたしなら表皮そのものは強いし、回復魔法を掛ければちょっと火傷が残るだけで進めるかもしれないけれど……。でも、あたし以外は……」

「うん。ボクもそこまで強い方じゃないから、ね……」


 肉体へのダメージ覚悟で、あの転送ポイントを踏むしかないんだろうか。 

 とはいえ、危険な賭けだ。

 

 この先で何が待っているか分からない以上、皆に無理をさせるわけには行かない。 

 

 どうしたものか。

 超特進クラスの皆と一緒にミスラは悩む。

 何か使える物は無いか、と思いながらミスラが周囲を見ていたら、

 

「あれ?」


 クロノが、熱湯の中にいた。というか、


「おう」

 

 自分と目が合って声を出していた。

 その声で皆も気づいたようで一斉にクロノの方を見た。

 

 そんなこちらの様子をクロノは不思議そうな目で見ていて、 

 

「……うん? どうしたんだみんな。来ないのか?」

「行けるか――!! というか、何してるんだクロノ――!?」

「いや、アリアが飛び込んでいたから、俺も進もうとしただけ何だが……」


 そこには、沸騰する湯の中に入って平然としているクロノがいたのだ。

 

 ●


 俺は湖で立ち泳ぎをしながら、陸地にいる皆の声を聞いていた。


「ちょ、ちょっと待てよ、クロノ! 溶岩みたいに沸き立ってる湖だぞ?! 熱くないのか!?」

「いや、かなり熱いぞ。我慢は出来るけどな」

「が、我慢って……え? 火傷とか、しないの?」

「これくらいなら大丈夫かな。故郷で爺さんが好んでいた風呂の温度とか、ちょうどこの位だったし」

「な、なんだって……?」

「田舎に住んでいるとさ、風呂を薪で沸かすんだが、めっちゃ熱が入るから、シャレにならない温度になるんだよなあ」


 ただ、歳を取ると温度に鈍くなるから、熱い風呂を好むようになるから、この位が丁度いいんだ、と爺さんたちは言っていた。

 同じ風呂を使う俺からすると勘弁して頂きたい温度だったのだが、子供の頃から入れられてると、大分体が順応するようで、


「今でも入るのは辛いけど、我慢が可能になったってワケなんだ」

「え……? いやまあ、確かにお湯の温度は上がると思うけれど……これに、普通に耐えられるのはおかしくないかな……?」

「あ、一応言っておくけど、長時間は無理だぞ。のぼせるから」


 正直泳いでいたくないくらいには熱いのだ。そう伝えると、


「あ、うん。無理の基準がちょっと違うかもしれない。……ボクらは、ちょっと熱すぎて入れないって意味で無理だからさ」

「ああ、そうなのか。じゃあ、泳ぐのはなしか」

「「うん。ナシだね」」


 真顔で皆が声を揃えて告げてくる。

 そうか。なら、仕方がないな。他の方法を取るべきだろう。

 

 とはいえ、転送ポイントの位置が分かっているのであれば、やり様はいくらでもある。


「なら……じゃあ、浅瀬まで橋を作るか」

「橋?」

「うん。そこの方は普通の岩盤だからさ。ちょっと待っててくれ」


 俺は水面から見える岩盤に向けて支配の鎖を伸ばす。そして、

 

「岩盤よ、細く長くせり上がってくれ」


 指示をした刹那。

 岩盤が徐々に水面に向かって上がってくる。

 

 やがて岩盤の一部が水面から突き出て、陸地が僅かに増える。

 とはいえ、一人二人が歩けるだけの面積は確保できた。

 

「あとは、向こうの転送ポイントだな」

 

 今度は転送ポイントの方に鎖を飛ばし、ポイント周辺の湖底をせり上げる。 

 

 ……ポイントそのものを弄って不具合が出ると不味いからな。

 

 動かすのはあくまで周りだ。そのまま転送ポイントを陸地で囲う。

 あとは内部に残ったお湯を、適当に掻きだせば、 

 

「これでよし。お湯に入らずに済むぞー!」


 と、俺は転送ポイント脇の陸地で、濡れた服を絞りながら皆に告げる。

 すると、超特進クラスのメンバーはおっかなびっくり、こちらまで歩いてきて、そして転送ポイント前に到着した。

 

「これで移動できるな。……って、大丈夫かミスラ。何だかふらふらしているけど」

「あ、平気だよ。ただ、熱湯風呂を泳げる人を初めて見た認識がおかしくなっているだけだから……」

「ミスラルトさん。大丈夫ですよ。私たちも初めて見ましたから」

「やっぱり、クロノを見てると、もうちょっと頑張れるかもって気持ちになるな、うん」


 何やら皆でぶつぶつと呟いているけれど、問題が無いというのであればいいだろう。


「よし、じゃあ、ラスト階層行くかー」

「お、おー」


 そうして俺達は、ラストの十二階層へと転送されるのであった。



コンパクトに纏めようとしたら滅茶苦茶本文が長くなりました。難しい……!


いつも応援ありがとうございます。

面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価など、よろしくお願いします!


そして3月2日に『平凡魔族の英雄ライフ』3巻が発売されます! どうぞよろしくお願い致します。

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こちらの連載も応援して頂けると助かります!
最強の預言者な男が、世界中にいる英雄の弟子に慕われながら冒険者をやる話です。
 100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます
https://ncode.syosetu.com/n2477fb/

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