第23話 知らず知らずの内に重ねられるバフ
三階層は先程と同じような神殿の様な地形で、ゴーレムが襲って来るだけのフロアだった。
その為、二階層と同じ攻略法を使って、さっさと魔法陣を見つける事に成功した。
そして今、俺達は四階層に到着していたのだが、
「これはまた、緑豊かな場所に来たもんだなー」
「ええ、今までの人工的な建物や洞窟とは打って変わって、凄い森ですね、クロノさん……」
そこは鬱蒼とした森林が広がっている場所だった。
大木がそこらかしこに生えており、非常に見通しが悪い。更には、
「わっ……と」
「大丈夫かソフィア」
「は、はいー。ここ、見通しだけじゃなくて、足場も悪いですね」
足元が樹木の根っこで隆起しているのだ。
普通に歩くだけでもそこそこ苦労するくらいには凸凹していた。そして極め付きには、
「きゃっ! また虫系のモンスターが振ってきてるわよ! しかも……今度はパラライズスパイダーとか、毒持ちじゃないの!」
「うわ、マジか! 皆気を付けろ――!」
背後、同級生たちが空から降って来る、一メートルほどの蜘蛛を相手に騒いでいる。
先ほどから数分に一度のペースで虫系モンスターが襲い掛かってきているのだ。
「つまり……悪環境に、休めない程の襲撃があるこの森林の中から、転送ポイントを探すわけか、ミスラ」
言うとミスラは吐息しながら頷いた。
「うん、そうなんだ。この森林フロアは滅茶苦茶広い上に、地形が分かり辛くて転送ポイントが探しづらいんだよね……。どこかの地面にある、ということしか決まっていないし」
ミスラは苦い過去を思い出すようにつぶやく。
その言葉に、アリアも力強く首を振る。
「本当、本当に辛かったわ! ただただ広くて、前回はこの層を降りるのに、半日も費やしたんだから!」
「その上、ここから六階層までこの広い森林フロアが続くからね。精神的にも辛くなるよ……」
大分気が滅入った風に言って来る。
それだけ前回の探索で苦労した場所なのだろう。けれども、
「まあ、こういうフロアが続くなら、俺達としてはやり易くていいんだけど」
そう言ったら、天竜の二人は首を傾げた。
「え……っと?」
「クロノ、それは、どういう意味かしら?」
「いや、言ったままだけれど。こういう広いダンジョンで物を探すっていうのは慣れているんだよ。な、ソフィア」
「はい。魔王のダンジョンで結構経験を積ませて貰いましたからね。じゃあ、ここではいつも通りやりますか?」
「それがいいかもな。おーい、皆、十代目魔王のダンジョン探索フォーメーションで行こうか」
俺は背後で虫を相手にしていた皆に声を掛ける。
すると彼らは手を振ってくる。そして、
「りょーかいだ、クロノー。じゃあ、各自で伐採、もしくは探索開始ー!」
超特進クラスの中心にいた、コーディーがそう言った瞬間、超特進クラスの面々は、樹木の合間を縫うようにして走り始めた。
「う、うそ、どうしてそんな風に動けるの?」
「み、皆、はやい……?!」
そして数分もしない内に、森の奥から声が響いた。
「おーい、こっちこっち。転送ポイント見つけたぞー。集まってくれー」
「はいよー」
どうやら、早速見つかったらしい。
やや気を抜いた声のやり取りを聞きながら、俺は、集合の合図を出した同級生の一人がいる方に向かう。
すると、そこにはしっかり、青と赤の光を放つ魔法陣があった。
「よし、これで次の階層にいけるな、ミスラ。……ってあれ、ミスラ?」
振り返って俺たちの後を付いてきたミスラに声を掛けようとしたら、彼女が口を開けたまま固まっている事に気付いた。ミスラだけじゃない。アリアもだ。
「あれ、麻痺毒でも喰らったか?」
「あ、でしたら、麻痺回復のポーションがありますよ、クロノさん」
「そうか。じゃあ、使うか」
何やら麻痺っているようなので、装備品の一つである麻痺回復ポーションを掛けようとしたら、ミスラはようやく動き出した。
「おや、動けるって事は麻痺じゃなかったのか、ミスラ。そうならそうと言ってくれよ。心配しただろ」
「あ、うん、ゴメンって……ってそうじゃなくて!」
「おお、急に興奮してどうした?」
「そ、そりゃ、興奮するでしょ! だ、だって、な、なんで皆、こんなに手際がいいの?!」
ミスラは両手をぶんぶん振りながら超特進クラスのメンバーに向かって言った。いつも冷静な彼女にしては珍しい行動だ。
更にそんな行動をとるのは、彼女だけではない。
アリアもだ。
「そう……そうよ! あたし達が初見だと半日も掛かっちゃうほど広い場所なのに、皆はどうしてそんな風に動けるの……!」
天竜二人の驚きの視線で見られた超特進クラスの面々は顔を見合わせた後、
「あー……なんだろうな。クロノに付き合って、十代目魔王のダンジョンや、他の魔王のダンジョンに行っていたら、鍛えられたんだろうな」
「多分、そうでしょうね。魔王のダンジョンって容赦なく広くて、私たちだと大体死にかけてるけど、大体はクロノがとんでもない動きをして探索をするモノだから。私たちの動きがそっちに近づいているのかもしれないわね」
超特進クラスの面々は言いながら頷き合っている。
それを見て、ぎこちない動きでミスラは俺を見て来る。
「ま、魔王のダンジョンってそんなに凄い所なの? クロノ君が、とんでもない動作をしなきゃいけないくらいの……」
「ああ、そういやミスラたちは潜った事がないんだったな。……まあ、それなりに危ない場所であることは確かかもなあ」
色々と面白い物が見られるところでもあるけれど、偶に本気で殺す気でくるような罠も仕掛けられているし。
「そ、そうなんだ。クロノ君レベルで危ないって思えるダンジョンなんだ……。それは確かに、皆が鍛えられる、かもね……うん、なんか納得したよ」
「? 何を納得したのか微妙に分からんが、とりあえず、次の階層に行っても大丈夫か?」
「う、うん。ボクは問題ないよ。アリアも大丈夫」
「も、勿論。勿論よ」
どうやら二人のぼーっとした状態も治ったようだ。
「よしよし。じゃあ、皆、転送ポイントに入るぞー。ここから数層は同じ森林地帯が続くらしいから、同じ感覚で挑もう」
「おうよクロノ。気を抜かずにいつも通りに挑むかー」
そんな感じで俺達は、覇竜のダンジョン第四層を突破した。
「魔王のダンジョンに鍛えられたヒトたち……物凄く頼もしいわね、ミスラルト」
「う、うん。クロノだけじゃなくて、超特進クラスの皆も、凄かったんだね……」
天竜の感動するような、それでいてちょっと呆れたような声を聞きながら。




