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プロローグ:ダンジョン作成という名の力試し

「魔族は二十歳になったら魔王城でダンジョンを作成する。それが伝統の風習、か」


 魔王城の地下にある大広間で、俺はそんな言葉を呟いていた。


 部屋の中心には巨大な水晶が置かれ、その周辺を囲うようにして、何十人もの男女が立っている。

 中には竜の鱗や牙を体に備えた、人間離れした姿を持ったものもいるが、


 ……魔族だから当然と言えば当然だよなあ。


 頭に生えた小さい角以外は人間と変わらない見た目の自分からすると、みんな厳つく見えた。


 ……同い年、な筈なんだけどな。


 ここにいる百余名が、今年二十歳を迎えた魔族たちだ。

 魔族は長命な分、子供の数が少ないけれども、今年は割と多い方だという。


 ……昔は魔王城に集まったのが一桁とか、ザラだったらしいし。


 魔族は二十歳になったら、魔王城に赴き、ダンジョンを作成する風習がある。


 そこで自作したダンジョンに住まいながら、魔族としての力の使い方やダンジョンの拡張方法などを魔王城に併設された学園で学んでいくことになる。


 つまり魔王城は、一種の教育機関となっていたりするのだが、


「では、これよりクラス選別試験及び、ダンジョン作成を始めることにする!」


 今、まさにその教育が始まろうとしていた。

 部屋の中央に置かれた巨大な水晶の隣に立つ学園の教授は、手にした名簿を見ながら、今年の入学生を呼び出し始めた。


「吸血魔族のソフィア・グレイブ! 前に」

「あ、私ね」


 最初に呼ばれたのは、細く長い耳と黒い翼を持った少女だ。

 身長はそこまで大きくないが、露出の多い格好と、どこか色気のある白い肌をもった彼女は、妖艶な吸血鬼、という見た目をしている。


「ソフィア君。君は……なるほど、吸血鬼の名門、グレイブ家の貴族なのか。期待しているよ」

「ふふ、ありがとうございます。……それで、この水晶に触れればいいんですか?」

「その通り、この水晶――マザーコアに触れれば、君の能力次第でダンジョンが作成され、コア内に登録される」

「ええっと。学園にいる間は、その登録されたダンジョンに、住むのですよね?」

「そうだ。ただ、学園から出た後も使える一生ものの住まいだ。だから、自分の城をしっかりイメージしたまえ」


 教授に言われながら、吸血鬼は水晶に触れた。

 その瞬間、水晶が薄い赤色に輝く。


 そしてその赤の光は、水晶の表面にダンジョンの地図を映し出していく。


「おお、これはすごい。それも初期で十階層まであるA+級ダンジョンを作るとは。吸血魔族は優秀な一族だが、君はとびきりだな」

「自宅で相応の訓練を積まされましたからね」

「ふむ、では特進クラスに行ってもらおう」


 教授の言葉に室内のみんながざわめく。


「いきなり特進クラス行きとか、今年はやばいのと一緒なのか」

「ああ、名門貴族ってのもあるけど、初作成でA級ダンジョン作るんだから、シャレにならんな……」


 ざわめきの中で俺は、水晶に浮かんだダンジョンの地図を眺めていた。


 ダンジョン作成は、一種の力試しだ。

 強ければ広くて深いものができるし、弱ければ小さくて狭いものが出来上がる。


 だから、魔族の中でも力の強い貴族や王族などははAとかA+とか、凄い評価のダンジョンを作るし、普通の魔族はDとかCとか、ほどほどの評価のモノを作る。


 この結果によって示された能力によって、特進クラスと普通クラスに振り分けられ、教わる内容も変わるらしいのだが、


 ……でも、普通に住まうところなんだから、狭くていいよなあ。


 それこそ四畳半が四部屋作れるくらいの広さがあれば十分だと思う。

 広すぎると移動とか大変そうだし。


 一軒家ぐらいの広さでのんびり平穏に暮らしながら、学園の普通クラスで、力の使い方などを適当に学ぶ。

 

 そして田舎に戻って家業の薬師でも継げばいいや、などと思っていると、


「次。魔人族のクロノ・アルコン」


 二番目に俺の名前が呼ばれたので、前に出た。

 すると教授はこちらの顔を見て、少し首をかしげた。


「クロノ君は……ええと、魔人族なのだよな? ずいぶんと魔族的特徴が薄いようだが……ハーフか何かか?」

「いや、普通の魔族ですよ」


 何の変哲もない田舎生まれて育った魔人族だ。


「そうか……。うむ、失礼な質問だったな」

「いやあ、慣れてますんでお気になさらず。魔人族はほかの種族と違って、極まった特性も持ってませんしね」


 人と違うのは頭に生えた角くらいだし。間違えられても仕方がない。


「そう言ってもらえると有難い。――さて、時間をとらせてすまなかったな。それでは、ダンジョン作成だ。自分の城を軽く想像しながら、このマザーコアに触ってみたまえ」


 城と言われても、自分としては四畳半が四部屋あれば十分、満足できる。

 それが贅沢というのならば、ちょっと広めの一部屋でもいい。

 

 ……まあ、俺がゆったり生活出来そうなら何ができてもいいや。

 

 自分はそこまで力が強いわけでもないし、そこそこのものが出来るだろう。

 これから普通クラスで、どんなまったり生活ができるのか楽しみだ。


 そんな軽い気持ちで、俺が水晶に触れた。その瞬間、


「――!」


 水晶が一気にどす黒く変色した。


「へ?」


 そしてどす黒くなった水晶からは、黒い光が放たれる。

 描かれるのは巨大な地図だ。


 それが水晶の全体を塗りつぶしていた。


 ただ、地図が塗りつぶしたのは水晶だけではない。


「ぬおお!? なんだ、この黒い光!」


 黒い光は部屋全体を埋め尽くすほどに広がって、ダンジョンの全体地図を映し出していた。


「て、天変地異!? なんだか怖いよお……!!」


 その結果、突然のことに水晶周りにいた人々は驚きを露わにし、


「これは――ど、どうなっている!?」


 目の前にいた教師ですらも慌てていた。

 冷や汗を流しながら水晶のあちこちに視線をやっている。

 

 そして数秒後、血の気の引いた顔で教授は、ぽつりと言葉をこぼした。


「よんひゃく、階層……? な、なんだこの広大さは。AとかS級……どころじゃない。これは伝説の魔王クラスのダンジョンじゃぞ……!?」

「はい?」


 教授の言っている意味が、うまく理解できない。

 魔王クラスとか何を言っているんだ。


「き、君は、一体どういう力を持っておるんだ……! というか、何を想像した!」

「いや、どういうって、ただの田舎の平凡魔族なんですが」


 そして想像したのも、普通の住まいになりうるダンジョンだったんですが。

 自分でもどうなっているのかさっぱりだが、


「と、ともあれ、クロノ君。こちらへ来てくれ! そして魔王様の所へ行こう!!」

「えっと……?」


 四畳半四部屋で、落ち着いて楽に暮らす俺の予定からは、少し外れてしまったようだ。


次話は1時ごろに更新します。

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最強の預言者な男が、世界中にいる英雄の弟子に慕われながら冒険者をやる話です。
 100人の英雄を育てた最強預言者は、冒険者になっても世界中の弟子から慕われてます
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