筋肉への漏電
目をさますと、椅子にくくられていた。
右手だけは使えるようだが、動かそうと思っても動こうとしない。
「やぁ、やっとお目覚めかい」
甲高い声の、おそらく男が話しかけてくる。
目の前にいるようなのだが、目を開けてみてもはっきりと見ることができない。
「ふむ、実験は成功のようだね」
「は、実験?」
「君は運がいい。私のような高尚さを理解することができる科学者の、後世に長く語り継がれるであろう実験の被験者となったのだから」
こいつ、頭がいかれていると、直感で理解した。
「ふぅむ。ではちょっと動かしてみよう」
ひとりでに右腕が上がる。
「やはりだね。実験は成功だよ」
「お前、俺に何をしたんだ」
「なにも。ああ、なにもしていないというのは嘘だよ。君のからだの神経節には、電極が埋め込まれている。無論、すぐに外せるように、針タイプを使っている。感謝しなさいよ、人間だからここまでの高待遇なのだから」
そもそも実験を了承した記憶もない。
高待遇もへったくれもあるものか」
だが、逃げようとしても逃げられない。
他の腕は一向に動く気配がないからだ。
「はっはぁ、やはり君は逃げようとしたね。他の被験者たちも同じ行動をしたよ。やはりそのあたり、人間の恐怖に対する本能なのかもね」
そういう彼は、空間の中から突然現れた。
「どうしたんだい。鳩が鉄砲食らったかのような顔して」
「いや、それ死んでるんじゃないですかね」
「ふむ、そうだな。あとで実験してみよう」
哀れな鳩、いずれ頭がぶっ飛んだとか、胴体に穴が空いたという鳩が見つかればその犯人はこいつだろう。
「それで、君のように私にツッコミを入れる人間は初めてだ。興味深い」
パチンと指を弾くと、左手と両足をつないでいた何かが外れた。
「どうだね、君。助手にならないか」
「は?」
「とりあえず、今は殺さないでおこう。そのことと交換だ。君を助手として受け入れよう」
人体実験をするような科学者は嫌いだ。
だが、死ぬことはもっと嫌いだ。
「……分かりました」
「よろしい、では君の針をすべて抜かないとね。歓迎するよ。初めての助手君」
彼がそう、明らかな作り笑顔で言った。




