南ぬ島々(ばいぬしまじま)
6月2日
「関東反乱鎮圧のため艦隊を出せ?しなさりんぞ!!(ふざけるな)」
「落てぃ着き(落ち着け)………………」
「いちでーじ(一大事)じゃ!!」
「ぬーやが!(何だ!)」
……………………………………………………………………………………………………
(以下、沖縄方言使いません。難しすぎぃ!)
「敵の船団はデカイぞ!!海が4分に船が6分!!海が4分に船が6分!!」
「発 与那国警備隊
宛 南西軍司令部
「敵軍、上陸開始セリ」
以上!」
「本島に指示を仰げ!砲兵射撃用意!歩兵は住民の避難を急がせろ!!
通信兵!石垣の護衛艦隊に出撃要請!このままだと与那国から西表が落ちるぞ!!」
「はっ!」
10門程の砲が山の中腹から海岸に狙いを定める。
また、通信兵は2台の通信機を使い、本島と石垣に連絡を取る。
「石垣護衛艦隊は動けません!」
「何故だ!理由は!」
「貴重な海上戦力を分散するなと、本島の司令部より通達がきたと…………」
「……あんのクソッタレどもがぁぁぁぁぁああ!!!」
与那国島に怒声が響き渡った。
「敵艦、発砲!」
「隊長!住民は避難させましたが、隊員が!」
既に与那国警備隊2個中隊の内、分かっているだけでも海岸偵察中の3人が敵の艦砲射撃によって死亡していた。
「構うな!悲しむのも悼むのも、戦が終わってからにしろ!分かったら隊の再編成急げ!宇良部から与那国岳で敵を阻止するぞ!」
「海岸から!
敵の上陸が始まりました!予想される兵数、およそ1万!!」
「1万!?こんな島に1万だと!」
「通信はそのように……」
与那国警備隊 隊長 遠弥計赤蜂中佐は数秒思案した後、海岸線の偵察隊に帰還を命じ、宇良部岳山頂より偵察させるようにさせた。
6月2日
0730時
敵軍の軍旗を視認。
艦船の帆には何一つ印が無かったため、敵軍(武装勢力)として扱われていたが、この瞬間より呼び名が変わった。
勿論、この辺りを攻めている以上予想はついていた。
そしてその予想通りの結果だった。
「清・朝鮮連合軍」
あれから約15年。またも侵略がが始まったのだった。
「琉球より緊急通信!平文!!」
「平文だと?なにバカな真似をしとるのだ!!」
皇居の通信室に突如としてやってきた平文通信。
室長は引ったくるように紙を取ると、ざっと流し読みする。
読むにつれて、段々と青い顔になる上司を見、息が荒くなる通信兵。
10秒程で読み終えると、その室長は陸軍省に「暗号」で伝えるよう命じ、通信室を飛び出して行った。
そして、渡された通信文をさっと読んだ兵も、慌てて通信機に飛び付くと、通信回線を開いた。
その頃、那覇司令部 3階 作戦室
「閣下!与那国から再度要請文!
「艦隊ノ派遣ヲ求ム。警備隊ハ内陸部ニテ戦闘中。砲兵攻撃スルモ厳シ。艦隊無クシテ勝チ目無シ」以上!」
「閣下!石垣の護衛艦を出すべきです!このまま与那国、西表と奴等が来る前に叩くべきです!!」
「そうです閣下!今こそ陸海共同で撃滅すべきです!」
「なりませんぞ!
護衛艦隊程度で叩ける敵など高が知れております。そのために動かすなど、逆に石垣以東を危険に晒すだけです!」
「今、考えるべきは敵の侵攻を防ぎ、駆逐することであります!準備が整わないまま攻めては、手痛い反撃を受けかねません!」
与那国からの通信に便乗するかのように、高級参謀らが口を開き始めた。
一部は与那国救援、一部は本島の防衛体制構築。また一部は本土の指示を仰ごうとする。この、もはや混沌以外の何物でも無い状態が、那覇司令部を包み込んでいる中
「閣下!」
「閣下ご決断を!」
「………………護衛艦隊に出動要請。(海軍)石垣護衛基地と那覇の司令部の2つに伝えろ。
それと与那国守備隊には住民の保護を最優先にするよう、再通達せよ。
以上だ」
那覇司令部 司令官 豊見中将は、矢継ぎ早に命令を出すと、部屋を出ていった。
背後から、参謀らの呼び掛ける声が聞こえるが、無視。
扉が閉まる直前に、参謀の1人が飛び出したが、そこに豊見は居らず、ぽつんと1本の万年筆が転がっていた。
「今すぐ車を出せ。場所は乗ったら伝える」
「車……ですか?かしこまりました。数分お待ちください」
豊見は、作戦室から走って1階まで降りると輸送部に車の手配をし、その足で玄関へ向かった。
ちょうど玄関に着く頃、1台の車がやって来た。
「那覇の海軍司令部だ」
「海軍司令部ですか?」
「そうだ。早くしろ」
「……了解」
中将の鬼気迫る雰囲気を感じたのか、運転する兵はいつも以上にスピードを出し、車を走らせた。
陸軍司令部から海沿いの海軍司令部まで大体2km
車は5分程で海軍司令部前に滑り込んだ。
豊見は「ありがとう。帰っていいぞ」と伝えると、司令部入口の歩哨に敬礼すると、そのまま中に入っていった。
事務局長に、海軍那覇司令に会わせるよう要求した豊見は、事務員の制止を無視し、階段を上り司令室前で待機していた。
「ほら、入れよ」
突然、ガチャと音がし、扉が開いた。
豊見は「おう。あんがとな」と返すと、そのまま続いて中に入った。
「で、何の用だ?石垣の護衛艦ならもう連絡済だぞ」
「そうか、助かる。でだな、これは参謀に伝えてないんだが逆上陸を考えていてな。そのために輸送艦も貸して「却下だ」早いな……」
「あんたも知ってるだろ?こっちは本土から艦隊派遣の命令を受けてるんだ。それに本来なら石垣も動かさない予定だったのを動かしたんだぞ?これ以上は無理ってもんだ」
そう言うと、椅子に腰掛けたまま葉巻を吹かす男。
机には「具志川仁」と書かれたネームプレートがあった。
具志川 仁 階級は中将。
つい最近那覇司令に就任した40後半の、髭面のおっさんだ。
「そう言われてもな…………こっち(陸軍)としても与那国に増援を送りってことぐらいわかんだろ?元の配置は少ない、それも戦闘で減少している」
「だからこっちも無理なんだ。わざわざ部下を死地に放り込む真似は出来んし、まともな護衛も無いんだ」
そして、葉巻を1度灰皿に置いてから、こう続けた。
「本土の海軍省に艦隊派遣延期の許可さえ下りれば出す」と。
それを聞いた豊見は通信室を貸して欲しいと頼み、そのまま海軍省に連絡を取った。
結果として、海軍省は艦隊派遣命令自体はそのままにし、陸軍部隊輸送時の護衛用として駆逐艦3隻と軽巡2隻の5隻は派遣艦隊から分離することを認めた。
0958時
南西軍は与那国警備隊の救援として、那覇の海軍輸送艦5隻全てを用い、 計600人(1個大隊)を救援部隊として派遣することを決定。
現在は、翌 3日午前に那覇を発ち、翌翌日の早朝に与那国到着の予定で調整している。
幸い、燃料その他は先日届いたばかりのため、軍艦の腹を一杯にしても余りある量は有る。
油の他に陸海軍の弾薬も、大分前に呉を出た船が昨日無事に着き、一通りの戦闘を行えるだけは有る。ただし、継続して2ヶ月以上戦うとなると、おそらく尽きる。弾薬以前にもしかすると、先に食料が尽きるかもしれないといった状況だ。
食料が足りなくなる理由は簡単だ。本土から運べばいい。
しかし、今のこの状況では無理に近い。
只でさえ、本土で睨みあってる中、沖縄に食料輸送など有り得ないに近いのだ。
このあとには反攻計画もある。迂闊に消費する訳にはいかない。
と言うのが帝国政府の考えだ。
そのため、沖縄は既に配給制が取られ、琉球県と軍がそれを管理している。
ついで、与那国島の疎開計画までも持ち上がってきた。
さすがに、これはまだ確定では無いが、最前線と化した与那国に一般人がいては、率直に言って邪魔と言うことだ。
それが、輸送艦5隻に600人の理由だ。
本来なら1000は乗る船に600しか載せないのは、往路は弾薬等の輸送。
復路は与那国の島民の避難の為だ。
これらは現在、陸海軍と琉球県との間で話が進められている。
そして、ここまでは帝国政府も認識している。しかし、そこから先は、未だ知らない。




