西近江航空戦
5月30日 0700時
神足飛行場
「こちら管制!一戦隊(第一戦闘隊)一番機、二番機離陸!!
………………脚の引き込み確認!」
29日の夜8時頃。航空省より直接、偵察命令を受けた一戦隊は、直ちに一戦隊員全員を召集し、偵察班の編成に着手。
隊長機は確定だが、初の実戦に誰が行くのか。これが揉めに揉めてしまい、隊長 藤堂 高敏大佐が一戦隊副隊長
二番機 後閑弥太郎少佐を任命。
結果、隊長と副隊長が偵察任務を遂行し、他は緊急時用に待機することになった。
「無線の調子は?」
「上々。神足も良好です」
草津市上空3000mを、横に並びながら無線で話す。
「後、20分もすれば名古屋上空だ。気を引き締めてかかるぞ」
「了解」
それから20分後
0735時
名古屋上空
「名古屋上空に敵機無し!」
「これより偵察を開始する!後閑!撮影は任せた!」
「了解!!」
単座の戦闘機で偵察し、記録を残す以上、2機の内、1機が警戒、もう1機が撮影になる。
「名古屋基地の撮影完了!」
「……ガッ……名古屋から関ヶ原、大垣まで……道……偵察を頼む」
「了解!ちょいと無線が逝ったか?」
急に聞こえの悪くなった無線から聞こえる管制の声。
一応、内容は聞き取れたため、名古屋から関ヶ原へ向け、東海道沿いに進む。
「敵機無し……で、下も大軍が居るわけでも無いか……」
大垣までの道に、反乱軍の大軍が移動している兆候は見られない。
敵機も居らず、段々とのんびりした空気が漂い始める。
「大垣上空!」
「……敵影無し」
「よし。偵察終了だ。帰還する」
大垣上空を通過し、敵を確認できなかった偵察班は、そのまま関ヶ原上空をぐるりと旋回し、下の陸軍部隊に、航空機の威容を見せつけつつ帰還した。
「…………着陸……許可する。着陸を……可する。」
「なんだ?調子悪いな」
琵琶湖沿いに帰ってきた二機は、着陸許可の無線を聞き取り、ゆっくりと着陸体勢に移る。
引き込まれていた脚が出、段々と地面に近づく。
キュッという音をたてて、着陸。プロペラの回転が遅くなり、着陸後左に見える格納庫前辺りでプロペラが停止。そのまま機も止まる。
「これが写真か。確かに受け取った」
直ぐ様、待ち構えていた航空省職員がカメラを受け取り、帝都に戻っていく。
その後ろでは、緊急時用に待機していた他の隊員たちが手を振っている。
航空戦では無いとはいえ、帝国航空軍初の実戦だ。軍トップの技量を誇る一戦隊隊長・副隊長だが、なにかあったらと思うと、やはりハラハラしたのだろう。
走って近づいて来たかと思うと、万歳と叫びながら2人を胴上げし始めた。
「おいこら!良い年してみっともないな!」
「危ないから下ろせ!ほら!」
口ではそんなことを言っている2人もニコニコと笑っており、本心から止めるように言っているとは、誰も思っていなかった。
「まったく!止めろと言っただろ!」
「隊長……めっちゃ喜んでたやないですか。副長と一緒に」
「そうっすよ隊長。楽しかった嬉しかったって認めたら良いじゃないすか」
「…………ああそうさ楽しかったさ!!人生初の胴上げは楽しかったよ!!」
「隊長が暴露したぞ!」
「おいこらっ!何勝手に広めようと「広めないとは言ってませんから!」おい!」
「全員逃げろ!バラバラに生きるんじゃ!!」
「待てい!待たんかぁぁあ!!」
恐らく止めに入るであろう後閑の居ない隙に、藤堂を巧く誘導し、言質を取った。
そして、良い年した大人の鬼ごっこが始まる…………
『プ~~~~~~~~~!!!』
「警戒警報発令。警戒警報発令。一戦隊員は直ちに格納庫前へ集合せよ。繰り返す。一戦隊員は直ちに格納庫前へ集合せよ」
けたたましいサイレンが鳴り響き、戦闘要員らが一斉に走り出す。
「関ヶ原陣地より陸軍省経由の緊急通信だ!反乱軍の航空隊が接近中。数は13機!一戦隊は直ちに離陸し、反乱軍航空機を撃滅せよ!!
それでは、かかれっ!」
神足基地司令 佐々木 孝吾少将の号令で一斉に走り出した隊員たち。
既に整備員が機ごとに待機し、エンジンをつけている。
「一番機、出撃!」
まず、隊長 藤堂機が出撃。
続いて副隊長 後閑機が出、どんどんと続いていく。
そして、数分後
第一戦闘隊13機全機が離陸した。
1000時
「……ガガッ……敵機は竜……を西に帝都に近づいて……る。速やかに迎撃せよ」
「ったく。こんなときにイカれやがって!」
編隊を組み、帝都上空を通過。
山科上空に差し掛かろうとしていた。
「こちら隊長機。敵機は13機だが、別動隊が存在する可能性が高い。各機、十分に警戒せよ
っと、敵機のお出ましだ。同じ帝国軍人だと思うなよ。あいつらは陛下に仇なす逆賊だ。これ以上帝都に近づけさせるな!」
そして藤堂機がバンクし、速度を上げると、他の機も速度を上げ、反乱軍航空隊に接近していった。
「敵機……丸に「三」!第三戦闘隊です!」
「管制………………敵編隊応答無し。迎撃……せよ。繰り返……迎撃を開始……」
「了解!
迎撃命令が出た!この逆賊共を生かして返すな!全機、突撃!!」
管制からの命令を受け、全機突撃の指示を出す藤堂。
「「「………………………………」」」
「……おい、お前ら。まさかとは思うが……」
「申し訳ありません隊長!私は……同じ帝国の者を殺せません!!」
「貴様ァ!!奴等は帝国軍人ではないと言っておるだろうが!
軍服を着た逆賊だ!国賊だぞ!!」
「ですが!彼らとて同じ軍人。一度話せば……」
「管制は会話済みだ!それでもなお、迎撃するようにとの命令が来た。最早、話し合いでは無「やってみなければ分かりません!私がやります!皆に責任を負わせるわけにはいきませんから」………………おいおい。責任は常に俺が取るって言ったろ?」
そして、ゆっくりと深呼吸すると
「いっちょぶちかましてこい!!」
こう、言い放った。
「了解です!!
管制!管制!聞こえるか!?」
「……ガッ……ザザ…………ガガッ……ガッ……」
「管制?管制!?」
「無線が壊れたか?ちょっと待ってろ
おい管制!応答せよ!」
「…………………………」
「後閑!管制に呼び掛けろ!」
「…………な…………か……たい……」
「無線が壊れたってより、こりゃ…………妨害じゃねえか」
戦闘回避の方法も、もう無い。
敵機との距離はおよそ2500m
こちらの高度は6000。敵は5000
戦闘が回避できないとなれば、次は時間との勝負。
藤堂は急ぎ風防を開くと、赤色の信号弾を1発。青色の信号弾を2発。上空へ撃った。
赤1発は非常事態
青2発は各個攻撃開始
数分後、帝国政府軍第一戦闘隊13機は、高度6500mから高度5000m付近の反乱軍第三戦闘隊に突撃。
位置的に太陽が三戦隊の奥に見える。
やたら眩しいが、それだけで怖じ気づいていてはいられない。
第三戦闘隊から発せられる妨害電波。それは敵味方関わらずに妨害する比較的強力な電波だ。
互いに通信不可の状態での戦闘が今、始まる。
高度を生かして攻撃する一戦隊。
太陽を武器に突撃する三戦隊。
機体自体の性能は一戦隊が上だが、機体を左右に動かしながら回避する敵機になかなか命中弾が出ない。
いや、回避が巧いと言うより心が乱れてると言った方がいいか。
敵が、元「帝国軍人」だという心が残ってるからか、弾も威嚇のように、敵機から大きく外れている。
一戦隊13機の中で、まともに攻撃できているのは、1番・2番機と5番機のみと言っても過言ではない。
それでも、逃げに徹する敵機に命中させるのは難しく、戦闘に支障が無い程度の掠り傷程度しか与えられていない。
帝都上空まで、残り29km




