上陸地点ハ「丁」
申し訳ありません。
遅れました。
「何処からの連絡だ?現在地は!?」
「松前警察署からです!!敵艦隊は松前沖約8km地点、堂々と探照灯を灯しながら松前港に接近中!」
「松前ぇ?あんな田舎に乗り込んで何を…………」
司令部参謀や辻は考える。
「松前警察より追加です!!敵艦隊の陣形が突然乱れ始めたとのこと。その直前に発砲炎らしきものを確認したともきております」
「発砲炎?………………まさか」
5月29日
2200時
ゆっくりと松前港に近づく影。速度は18ノット。陣形は小型艦の回りを大型艦が囲んでいる。よくある輪形陣だ。
「ヤロウ…………堂々と明かり点けやがって…………」
「なに。それだけ狙いやすやないか」
3つの影が輪形陣に突っ込むようにして近づいている。
「距離を間違えんな……こっちは16(ノット)、向こうは18(ノット)。置いてかれたら作戦失敗や。うまーく突っ込むようにするんやで…………」
新月まであと2.3日という頃であるから、月明かりはほとんどない。海の上を走っている明かりだけを頼りに進んで行く。
「距離4000!」
長針が2を過ぎた頃、もう4000m程の至近距離まで近づいていた。もし、この状態で気づかれたなら、あっという間に穴だらけになって消えていくだろう。
「にしても、気づかんもんやな………………」
このまま突入出来るのでは?
そのような空気が艦隊を覆う。
「そろそろ準備せぇよ…………弾込めたか?んで、弾込めは10秒以内や。絶対守るんやで」
「大丈夫や。あんだけ訓練したんやで?今更……」
「慢心はアカンで。絶対にな」
ビュービューと風の吹く甲板には、機銃手が待機し、大量の帯式弾倉(150発)を抱えた装填手が次弾装填がすぐ出来るよう、準備を進める。
また、機銃2門はあるが砲の無い後部甲板。
どうにか、攻撃力増強を目指したが、結局の所時間が足りずそのままになっている。
しかし、それでも諦めないのがこの「大日本帝国海軍 北方艦隊小樽駐留艦隊」だ。
敵との距離が1000mを切ると、手空きの海兵が、陸軍の小銃片手に後部甲板に出、号令と共に一斉射撃。そして、数射した後、急ぎ艦内に戻っていく。
一般の小銃程度でなんとかなるのか?という疑問も出たが、輸送艦の機銃手にでも当たればいいじゃないか。このような感じで、決まってしまったのだった。
「距離2000切った!!!」
見張りからの連絡。波は落ち着いている。ここまで来ると、帝国海軍の艦ならば、撃てば間違いなく当たる距離だ。
それは勿論、敵もだ。それも、自分より数は3倍、砲門数は7倍以上だろう。駆逐艦でも連装砲を搭載しているというのに、樺太型は………………
「大室さんよ。やっぱ甲板から小銃は危なくねえか?下手すっと1発で数十の兵隊がドカンやぞ」
慎重に舵を切る中田航海長の言葉に、艦長 大室 見永も再度考え込む。
「確かに危険やけと……」
「それで死んだら元も子も無いちゅうこっちゃ」
「………………他の艦は知らんよな?」
「知らんやろ。こっちの中だけで決めたんやし」
「せやな…………よし!中止や!!甲板上がってぶっぱなすんは中止!!」
そして、すぐ艦内電話を手に取り、射撃隊の待機室になっている食堂に繋げる。
「…………なるほど。…………了解………………んで、このあとは?…………待機?…………分かった。そんじゃ」
「隊長。なんかあったんですか?」
「いや、射撃は中止やとよ。もしこれで死なれたら困るて」
「なっ!!俺らは死なへん!!」
「せや!艦長は、俺らが簡単に死や思とんか!?」
『死にそうやから止めたんやろ………………』
「せやったら、俺らん力見せつけたろうやないか!」
「おおっ!!」
「やるか!!」
「よっしゃ!せやったら緊急艇降ろさせろ!アレは25ノットは出たはずや。好!!鍵縄取ってこい!!」
好と呼ばれた男が「応よ!」と叫びながら部屋を飛び出していく。
「今の内ん緊急艇降ろしの奴を黙らせとけ!吉岡ァ!お前が行け!」
吉岡と呼ばれた若い兵が敬礼しながら走っていく。
「降ろす時ん音出すなよ!そーっと降ろして突っ込むんや「突っ込ますか!?」なっ…………大室!」
「テメエのやるこたぁお見通しや!!神妙にせい!!」
してやったり!とした顔で詰め寄る大室。入り口に陣取られた以上、他の者たちも動けない。
「ここで艦ぶん捕ったら勝ちや!!ここで取らんでいつ捕るねん!」
「せや!上陸されたら負けなんや!!」
ギャーギャーと騒がしくなる食堂。
「ええい黙らんかぁ!!!」
机を「ドン!」と叩きながら怒鳴る大室。その剣幕に、食堂内がサッと静まる。
「中止になったんは中止!おとなしゅう待っとれ!!ええな!!」
そういい残すと、クルッと後ろを向き、扉を開けた。
「見張り残しとく。次、なんかやらかしよったらタダで帰さん!!覚えとけ!!」
「バン!」と音を立てて扉が閉まる。
「クソッタレ…………なんかええ方法は無いんか…………」
「さすがにアカン。今回は止めとこや」
結局、止められたため、艦奪取計画は中止に終わった。
2220時
「距離1000切った!」
「そろそろ気づかれっぞ!!」
中田の言葉に、艦橋全体が緊張感に包まれる。
「…………砲戦用意!!」
大室の言葉に、艦全体が騒がしくなる。
砲戦用意の号令と共に準備に入る機銃手。観測手が距離と速度から最適な仰角等を計算し、通信兵は他の艦に攻撃準備を伝え、浸水防止の隔壁が閉められ始める。
「砲戦用意良し!!」
しばらくすると、準備完了の連絡が入った。
「…………目標、敵輸送艦。撃ち方始め!奴等は味方やない!帝国に逆らう逆賊や!徹底的にやれ!!!」
命令により、微調整された主砲が火を噴いた。
弾は一瞬で目標に到達。命中した輸送艦は炎を噴き上げ、炎上する。
後続の2隻もすぐ射撃を開始。パニック陥った敵艦隊を横目に、どんどんと突っ込んでいく。
「よっしゃ!そろそろ本気出せや!!!」
大室の命令で、段々と早くなる樺太型3番艦 「豊原」
「樺太型がいくらポンコツや言うても、機関だけは新品や!!」
旧型艦艇として名高い樺太型。それでも駆逐艦と同様の主缶・主機に積み替えたので、速力だけは最高25ノット近く出るようになっている。
それでも脱出用の緊急艇と同程度というのは一体…………?
「距離400!」
「砲がこっち向いてきとる!撃たれっぞ!!」
「進路塞ぎに来とる!どうするんや!」
近づくにつれ、次々発生する問題。
パニックが収まりだした敵も、そろそろ反撃に転じようとする頃だろう。
1隻の駆逐艦は速力を上げ、艦隊の進路を塞ぎにやって来る。
「進路はうまいこと避け!敵の弾はなんとかして避け!!」
「ホンマん大丈夫なんかそれ!?」
「撃ってきよった!!」
中田の叫び声に混じり、見張りの叫び声も伝声管から伝わってくる。
ガーン!!
「被害報告!!」
「艦尾をかすっただけや!支障なし!せやけど、このまま何もせんかったらマズイで!!」
後部甲板から伝えられた被害報告。今回は大丈夫だったが、次の弾はどうなるか分からない。距離も、必中距離と言っていい距離。今、外れたのは、運が良いだけだ。
「輸送艦3隻炎上中!せやけど駆逐2軽巡1が砲向けてきよる!さすがに避けれんで!!」
次々に入る報告。気づくと、後部甲板の機銃も射撃開始。敵駆逐艦の艦橋や見張りを狙い、撃ち続ける。
「距離200!」
「撃たれんぞ!!」
敵艦の直前100mを通過しようとするが、当然敵も狙っている。
「砲潰せ!!漢気見せてみ!!」
予想進路上に向け、移動する敵の砲。この砲を撃ち抜けときた。
「艦長!当たらん訳無いやろ!!」
「撃てぇぇぇぇえええい!!!」
伝声管を伝って聞こえる砲手の声。
それに答えるように、大室の大声で命じる。
「当たれや!!」
「豊原」の思いを、小樽艦隊3隻の思いを載せた弾は
放たれなかった。
「主砲塔及び調理室付近に命中弾!死傷者多数!!」
「手空きの奴ぁタンカ持って運べや!!」
「イテェ!イテェよぉぉおお!!!」
「クソッ!左目、左目は何処いったんや!!」
「おい!しっかりせい!!起きんか!!」




