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函館ヲ死守セヨ

お久しぶりです。

「関東の陸海空軍が反乱か…………」

「………………それで、我々は…………?」

1度だけ、数年間の陸軍省勤務をした以外、とにかく北方に居続けた辻。


その軍人生活も今年で終わる予定だった。


「…………神はこのジジイを休ませてくれんようじゃな」


「…………まさか」

最後の最後に皇国を裏切るのか!?

そう考えた通信兵は、顔色を青くした。彼の家族は堺にいる。

もし、反乱側が負ければ裏切り者の家族に何がおきるか……

逆に反乱軍に占領されたとしても、どうなるか…………


そのためには、北方軍が帝国側に付き、帝国が勝つことが必要だった。


「…………………………帝国側に付く」

パッと顔色が明るくなった兵を見た辻は、「海軍側と連絡を取るように」と、命じ、退出させた。


「全く…………60過ぎのジジイですら退けん…………この世も大変だの…………」


その声は窓を揺らす風の音にかき消された。









「北方の海軍も帝国側に付く……か」

30分もすると、北方艦隊司令部から返答が来た。


「これなら………………北方艦隊に出せる艦を問い合わせろ!同時に函館市街地に防衛線を引く!主だった幹部を集めよ!!!」



5月29日 1000時

北方守備軍2階 小会議室



「海軍からの返答来ました。これが一覧です」


会議室に集まった8人の男。そこに、先ほどの通信兵が書類を配っていく。

「海軍は…………これだけしか出せんのか?」

砲兵第30師団師団長 立花 貞秀(さだひで)少将が誰とも無く問いかけた。

「出せんと言っとる以上、無理に要求する訳にもいかんしなぁ…………さすがにこれだけでは足りぬということは、向こうも分かっとるとは思うんじゃが…………」


その書類に書かれている支援艦艇数は、樺太型6隻のみ。樺太型が旧型駆逐艦レベルの艦艇であることを考えると、到底、青森艦隊からの攻撃を防ぐことは不可能だ。


「ただ、北方艦隊自体、主戦力の樺太型は18隻…………これでは6隻しか出せんのも仕方ないか……」

辻の悔しがっているような諦めているような、複雑な声が小会議室(へや)を包み込む。


あくまで主力艦隊の充実が図られたため、北の要の海軍北方艦隊は未だに樺太型以上の艦艇が存在しない状態が続いている。

何故なら、緊急時は青森から艦艇を出すことを想定し、北方艦隊は平時の警戒と先行偵察、函館から樺太・千島への輸送任務につくようになっていたからだ。


「しかし、これでは…………」

歩兵第52師団師団長 下村少将も立花少将に続く。


「致し方無い。海軍がそこまで使えん以上、我々で対処せざるをえん」

辻はこの重い空気を吹き飛ばすかのように、少し明るい声で喋り始めた。


「まずは、この地図を見てくれたまえ。それと、これが反乱軍の有する最大水上戦力一覧だ」

函館周辺から青森までの地図を広げ、続いて艦名の書かれた紙を地図の横に広げる。


「敵の水上戦力に対応できる戦力を、我々は有しない」

そう言いながら、一覧表の一部を指差す。

「上陸可能な艦は、昔の208輸送の後継、小笠原型輸送艦が青森・木更津に5隻ずつ。しかし、この艦は揚陸は不可であるから………………ここと、ここ。それとこの計3地点が予想上陸地点じゃ」

地図の3地点に筆で丸をつけながら、話続ける。


「これ以外に、2000トン級の艦が入れる港は、函館周辺に無い。「甲」は…………さすがに奪われてはなかろう。


まず、この地点。便宜上「甲」と呼称するが」

地図で丸をつけた地点の1つ。「江差港」を指差し、こう続けた。


「江差に駐屯する陸軍は歩兵53師団隷下の829連隊の兵。その数は600だ。敵が本気で上陸に来た場合…………1隻に200人。10隻に載るのは約2000人。青森配備の5隻でも1000人だ。それに輸送艦搭載のニ糎機銃に護衛の軍艦。これが来た場合、江差では防げまい」


面々の顔色が悪くなる中、辻は「しかし」と続ける。


「しかし、江差から函館までは1本の県道、2路線の線路のみしかない。県道を歩くには距離がある、汽車は上陸と同時に出れば……」


「江差からの移動は厳しくなる。そういう訳だな」

立花が「うんうん」と、頷きながら言った。


「その通り。敵もわざわざ面倒な事はするまい。であるならば、この……「乙」地点。森港も同様と判断される。

そうなれば、残るのは………………」


そう言って、「バン!」と机を叩き、最後の丸を指差した。


「「丙」地点。


おそらくはここであろうと判断しておる。

………………そして、函館防衛のため、砲兵は函館山陣地に移動。侵入する敵艦隊を砲撃、必ず撃沈せよ。歩兵は函館駅前に防衛線を引け。市民には避難準備警報を出すよう、県に要請。急げ!!」


辻の怒鳴り声に、弾かれるように飛び出して行った通信兵。

各師団長も、敬礼が終わると同時に走り出す。


その後、松前県知事 南部 義実(よしざね)と、国鉄松前運輸総管区長 石田 助彦(すけひこ)との会談により

「松前県(全域)での配給制実施」

「函館市内へ避難準備警報の発令」

「国鉄江差線・松前線・函館本線の旅客列車数3割減(貨物列車は2割減)」

といったことが決定した。


1300時

徳川幕府軍を自称する者より、平文通信が届く。

内容は

「北方守備軍及び北方艦隊、航空軍第五戦闘隊の完全降服。回答期限は午後10時」

当然、反乱軍が降服を促すような事態は予想されていた。


そのため、1400時には函館湾沿岸に住む住民の一時避難が始まった。

運転本数を減らし、函館駅に待機させておいた列車を用い、大沼まで避難させる。

幸い、住民も北方守備軍の函館防衛戦に理解を示し、協力的であったため避難自体は順調に進み、5時間後には沿岸住民の大半が避難。また、茂辺地・木古内方面の住民は国鉄松前線(江差線は七飯から厚沢部を経由し江差へ。松前線は函館湾をぐるりと回るように、木古内から江差へ向かう)を利用し、湯ノ岱村周辺に避難した。




2000時

函館駅前


「穴掘れぇ!」

「「「そーれ!!!」」」


暗闇に包まれた町に、篝火が淡く浮かび上がり、掘り出された土麻袋に詰められ、陣地の前に積み上げられていく。

「遅い!もっと(はよ)せんか!!」

先任曹長の怒鳴り声が響き渡り、兵たちは声を張り上げ土を掘り返していく。


「この調子なら、2200までには完成しそうか」

ゆっくり歩きながら、陣地を視察する辻。


「本当に、ここに来るかどうかも分からんが…………」


兵が聞けば士気に大きく影響しそうな一言だったが、曹長らの怒鳴り声と兵たちの声で、隣にいた護衛の兵にも聞こえずに済んだ。






2150時

半月に照らされる海。

そこに黒い影が進んで行く。

大きい影から小さい影まで、その数は九


ゆっくりゆっくりと海を割りながら進んで行く………………











2200時


「幕府軍」からの無電通信が北方守備軍総司令部に繋がる。


「返答を聞かせてもらおう」

「………………降伏はせぬ!!!力ずくでかかってこい!相手になってやるわ!この子童(こわっぱ)共がぁ!!!」

完全に喧嘩を売られた「幕府軍」も

「…………いいだろう。後で吠え面かいても知らんぞ!!!」

売られた喧嘩を思いっきり買い、

この瞬間、松前を懸けた戦争が始まったのだった。



北方守備軍総司令部 地下司令部

「敵艦隊は!?」

「見当たりません!!」

函館山監視所や、海岸沿いに配備した兵から「敵艦隊発見」の連絡が一向に来ない。


「まさか、今日は何もしてないのか?いや、そんな馬鹿な…………」


2220時

降伏勧告拒否から20分が経った。が、未だ敵艦隊は見つからない。









「敵艦隊発見!!」

司令部が、今日は来ないのだろうと落ち着き始めた頃、その連絡は突然やって来た。

次回更新は3月11日です。

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