北樺太方面軍①
「歩兵第73師団291連隊、連隊長 牟田口廉也大佐以下、総数2400名。北樺太方面軍として参りました。」
「290連隊、連隊長の柳生だ。よろしく頼む。」
5月21日 午前10時のことだった。
5月16日 1100時
大日本帝国陸軍 讃岐善通寺基地
「これより!我々291連隊は、北樺太方面軍として樺太へ向かう!!1300より順次坂出港へ移動。その後、陸軍船にて樺太敷香へ向かう。質問は!?
無いな!?それでは解散!!」
「大佐。「甲」の到着が遅れているようですが、乗船に影響は無さそうです。」
「遅れ?同じ陸軍軍人として、精神がたるんどる輩が居るのは困るな。」
『別にたるんでる訳じゃないと思いますけどね。』
「我々の乗船に問題がないなら良いじゃないですか。」
「それもそうだな。
よしっ!我々も準備しようではないか!!」
「はっ!(もう何回目だろ。これ聞くの。準備終わってるってのに………………)」
1300時
国鉄善通寺駅
「「「バンザーイ!!バンザーイ!!」」」
「全く。民衆も騒がしいな。」
「家族が出ていくんです。これぐらいはいいじゃないですか。」
「それもそうだな。上に立つ者は寛容でなければならんしな。」
『たるんどる輩がどうとか、全然寛容じゃ無かったような…………』
「さて。長谷川君。我々もそろそろ乗り込もうか。」
「はっ。」
汽車に揺られること40分。1番列車が坂出港駅に到着。しかし、6番列車まであるので、最後の列車の到着は1700頃だ。ちなみに、それを聞いた我らが連隊長は
「精神がたるんどる!1500時までに到着させよ!」
とのこと。
そして、これを聞いた6番列車勢
「「「ふざけんなよ!!!」」」
結局、1700時に合流した。
その後、船内では特に異常も無く、落ち着いていた。食事時にも文句を言わず、まるで牟田口らしくない雰囲気であった。
しかし、夜な夜な部屋で何かをしているのが気になってしょうがない。危険なことでなければいいのだが……
いよいよ、明日の朝に敷香に到着する。我々は当面の間、この最北の地で生きなければならない。
この連隊長で大丈夫だろうか…………
ある連隊参謀の日記
「彼らが291連隊。同じ73師の部隊か。なかなかいい面してやがるな。」
「面がいいからって、こっちと同じように扱わないでくださいよ。同じ師団の連隊同士でドンパチとか嫌ですからね。」
「おいおい。俺が弁えてないってか?いつも弁えてるじゃないか。」
『再三の注意と言う名の警告を無視して、突撃してる連隊長は一体何を弁えてる?』
「まぁ、どうせ昼飯の時にでも話すだろうから、関係悪化させんよう頑張るよ。」
「ほんと頼みますよ?何かあったときに一番キツいのはこっちなんですから。」
「分かった分かった。大船に乗った気でいればいいさ。」
『やべぇ。心配すぎて腹痛てぇ…………いや、胃が痛てぇのか……』
5月21日 1235時
敷香司令部 食堂
「あっ、柳生大佐。」
「柳生で構わんよ。牟田口大佐。」
「……やはり付けたままでいきましょう。付けずに呼ぶのは不自然です。」
「奇遇だな。私もそう思うよ。」
そういって、2人は腰掛ける。
「今日の昼はうどんです。」
釜揚げうどんが2つ、運ばれてくる。その横の皿には、サツマイモとちくわの天ぷらがのせられている。
「そういや、牟田口大佐は善通寺から来たとか。うちの連隊の料理担当も讃岐の人間でね。彼が手作りするうどんは絶品だよ。」
「それは楽しみですな。私も毎日のようにうどんを食べていたものですから。」
そう言うと、牟田口は箸を取った。
「いただきます。」
「…………………………………………………美味い…………うどんのコシの中と口の中に広がるハーモニー!!!!こんなに美味いうどんは久々だよ!この頃、本場讃岐でも手を抜く奴が多くてね、兵たちも格付けに必死だったよ……」
「彼は讃岐うどんの店の次男ですからね。うどん作りは陸軍一ですよ。」
そう言って、柳生もうどんをすすり始める。
「やっぱりこいつのうどんは美味い!日本一だ!!」
「おかわりもご用意してありますので。」
「素晴らしい!君!291連隊に移る気は無いかね?」
「勧誘!?」
結果、1時間近く昼食に費やしましたとさ。ちゃんちゃん
1400時
敷香司令部
「早くこの天幕生活も終わらせたいものだな。」
「資源は回ってきてるんですか?」
「いや、本土の基地建設に回された。ここに来るのは少しだけだな。」
「なるほど………………」
司令部に戻った柳生は、書類仕事に追われていた。
敷香司令部(基地)建設の資源配分。戦死した兵の補充に訓練。食料や弾薬の輸送に防衛線構築の申請処理等々………………
「ちょっと肩代わりしてくれんか?」
「ダメです。」
もう10回目になる副官への「お願い」も、毎日書類書類だと本気で頼むようになってくる。
「肩代わりしろよ!?上司の仕事くらい手伝えよアァ!!!」
「いや、こっちも忙しいんですよ……誰かの書類ミスの直しとか直しとか直しとかですね。ほんっと、いい年して漢字ミスばかり…………こっちの身にもなってみてくださいよ。」
「漢字!?俺は正しい漢字書いてるぞ!!」
「はい。」
そういって、紙が1枚手渡された。
「「司令部」は「指令部」ではありません。司らなくてどうするんです?」
「いや、まあ…………そのだな。」
「間違えたんですよね?」
「それにはな。深い事情が有って「無いですよね?」無いです。」
顔が青ざめてきた柳生に、止めの一言が刺さった。
「連隊長なんですから、「簡単な」漢字くらい間違えないようにしてください。分かりましたか?」
「はい………………」
小声でボソッと、呟くように答えた柳生の顔は、灰のように真っ白だった。
5月23日 0600時
敷香司令部前
「これより!我々は北樺太に向かうッ!食料は15日分だ。そしてオハに着けば海軍の船が待っている。我々は何としてもそこに辿り着かねばならないッ!これは大陸命なのである!!」
『大陸命?』
『大陸命って何だ?』
『大陸名?大陸の名前か?』
『大陸迷だって?』
『大陸姪?誰だよ。』
『いや、俺が聞きてえよ……』
「道中、道があるとはいえ過酷だろう。それでもッ!我々は進まなければならない!!………………………………本日0730時に出発する。各員、それまでに準備を済ませるように。」
『『『『『結局大陸命ってなんだよ!!』』』』』
「それでは、解散ッ!!!」
牟田口は、すたすたと歩いていく。その場に残されたのは大陸命が何なのかよくわからない将兵たちだった。
0730時
「291連隊。総数2400名。全員揃いました。」
長谷川の言葉に、牟田口は大きく頷くと、軍刀を抜き払い叫んだ。
「オハに向けて、進軍するッ!!」
「「「はっ!」」」
290連隊全員の敬礼の壁を通り、ロシア帝国が作った道を北へ北へと進んでいった。
あけましておめでとうございます。
2016年も「大日本帝国天皇記」を宜しくお願いいたします。
新しい小説書こっかなぁ…………




