大鵜取防衛戦③ ~勧告~
「ふざけるなっ!!!」
「バキッ」という音ともに、腕を叩きつけられた机が折れる。
「気持ちは分かるのですが………………机は壊さないでください。こっちの仕事なんで…………」
「んなもん分かってる!!」
「だから机を蹴っ飛ばさないでって………………」
木片と化した「元」机が宙を舞う。
「今すぐ伝えろ。「徹底抗戦」だ。速射砲(元歩兵砲)も機銃も小銃もありったけ使って構わん。増援の部隊にもそう伝えろ。」
そう言って、宗冬はドアノブに手をかけた。
「はっ!」
頼りになる副官の声を聞いた宗冬は、満足げに頷き、部屋を出ていった。
「…………………………ほんと、机壊して仕事増やさないでくださいよ………………」
そして、静まり返った部屋での副官の嘆きは誰にも聞こえなかった。そして、これからも嘆きが止まることは無かったのだった……
5月9日 1000時
大鵜取防衛陣地
「貴様らも知っていると思うが、露助共が降伏勧告を突きつけてきた。そして、今日がその回答期限だ。勿論!我々は降伏などしない。そうだな!!」
「「「「応っ!!」」」」
「今日の仕事は露助共への鉛玉プレゼント大会だ。ありったけの鉛玉をくれてやれ!生かして返すな!!!」
そして、軍刀を天高く掲げて、言った。
「全員生きて帰る!!分かったかバカ共!!!」
「「「「「「応っ!!!」」」」」」
そして、それは侵攻中のロシア軍にも聞こえていた。それほどに大きな声だったのだ。
「敵、距離1000!数………………計測不能!なれど2万は越えてる!?」
「敵が見えたら速射!800で機銃!500で小銃!分かったな!!」
「了解!」
「撃てぇい!!!」
砲にしてはやたら小さい砲撃音とともに、大隊直属の2門が撃ち始める。
「敵に命中!しかし、接近中!」
「機銃、射撃用意!」
土嚢の間から見える黒い筒がガチャガチャと音をたてる。
「射撃用意良し!!」
「距離800!」
「撃ち方用意!
てえっ!!」
機銃弾の直撃を受け吹き飛ぶロシア兵。そして、砲弾は地面をめくり上げて、ロシア兵に土の雨を降らせる。
「敵、なおも接近!!」
「「「ураааааааа(ウラー)!!!」」」
静まり返った日本軍陣地にロシア兵の声が響きわたる。
「500切った!!」
「弾はいくらでもある!撃って撃って撃ちまくれや!!」
「「「「応よ!!!!!」」」」
守備兵3300の小銃が一斉に火を吹く。ロシア軍第1陣の兵はバタバタと倒れ、隙間を抜けた弾が第2陣の兵士にも突き刺さる。
「敵はまだまだおるぞ!撃て撃て撃てぇ!!!」
宗冬も前線で銃を構えるが、一向に敵兵が減った気配が無い。
「チッ。野郎……どんだけ集めてきてんだ!!」
「敵、増援です!!数、3000!!」
「最左翼の田野村中尉より入電!「敵ノ攻勢強シ。退却許可求ム」以上!」
「なんとかして持ちこたえさせろ!余裕があるのは何処だ!?」
「……ここです!!」
「よし…………吉田ァ!!小隊連れて田野村のとこに行け!」
「了解!吉田班!ただちに準備!」
「「了解!」」
「残り400!!」
「敵の残りは!?」
「………………不明!!多すぎる!!」
と、同時に通信が入った。
「何だ!?」
「こちら、最右翼の浜田!最右翼の陣地は陥落寸前!!増援求む!」
「バカたれ!!何があった!!」
「大佐!!奴等、3000近く集めて来やがった!!」
「3000!?」
「今は陣地内で押さえてるが…………いつ抜けるかもわかんねぇ。すまない、おやっさん!」
「………………分かった。切るぞ。………………………………」
そのまま、宗冬は立ち尽くした。
「敵陣地一部攻略!」
「Хорошо(ハラショー)!!予定通り、このままどんどん進むよう命じたまえ。」
「ですが、犠牲が………………」
「構わん。」
「………………了解いたしました。」
これで私も将軍だな。いやはや長い道のりだった…………徴兵され戦い、やっと将軍への道筋が見えてきた……
「失敗するわけには、いかんのだよ………………」
ロシア帝国陸軍 南樺太攻略軍司令 将軍イワン・ロゲルスキーは独り言のように呟いた。
5月8日 1900時
陸軍大臣室
コンコン
「入れ。」
「失礼するぞ。」
「失礼するんやったら帰って。」
「分かったー。………………とは言わんからな!」
「で、なんだ?」
いつも通り、茶(今回は緑茶)を出しながら聞く。
「野牛からだ。ほら。」
「またやらかしたのか………………………………で、こうなったと。」
「らしいな。」
「諜報部としては?」
これを聞いとかないと、話が繋がらなくなるかもしれないからな。
「どうするもこうするも…………無視しかないだろ。」
「同感だ。しっかし、これは参ったな……大泊からの派遣は1200送れるかどうか、他は移動中。」
いっそのこと後退させようか?幸い、知取まで一般人は来てないし…………いや、陣地が無いな。確か、大鵜取の次が小沼だったか?さすがに、小沼まで退却は………………
「………………い!…………おい!」
「…………お、おう。何だ?」
「いきなり黙りやがって……まぁいい。で、どうする?ついでに、ここだから言っておくが、ロシア軍の兵数だの指揮系統だのは分からんからな。シベリアには部員が送れん。」
「そうか…………分かった。こっちでなんとかしてみよう。ありがとうな。」
「じゃあな。」
戸がゆっくりと閉まる。今日の仕事はもう終わった。何もすることがない。
「茶でも飲むか…………いや、さっき飲んだな。」
いや、これが仕事だな。それも真っ先に終わらせるべきな……
「樺太からの日本軍及び日本人の完全撤収。」
「アイヌ民族との条約破棄。」
「以上の条件がのめないなら、力ずくで追い出す。」
こんなクソみたいな条件をほいほいのむ訳にはいかない。そして、力ずくで追い出されるなぞ軍の恥も同然。
「しっかし……これはまずい…………対馬よりもまずい。」
今回は、場所が悪すぎる。陸兵を送るには時間がかかる。海軍は樺太型と木造ばかり。南樺太の軍の規模は小さいし、小沼まで退くわけにもいかない。唯一、大泊にいる砲兵は列車輸送だと時間がかかりすぎる。頼みの揚陸艦は移動中。
「まったく…………なんでこんなに仕事が増えるんだ…………」
その夜、大臣室に明かりが絶えることは無かった。




