クリスマスネタ 1
クリスマスに向けて各国国主、元国主たちが準備をしているようです。
「――――――産多苦労す? かなり大変そうね。…ま、まぁでも一刀の子供なら……その……い、いくらでも…」
赤らめた顔で少し俯く華琳。もしここに春蘭と桂花がいたら華琳に悶えつつ一刀に殺気を送り。稟がいたら過去最高レベルの量の鼻血を噴き出していたであろうくらいの破壊力があった。
だがしかし。
「え? 華琳、今なんて言った? 聞き取れなくて…」
「………なんでもな・い・わ・よっ!!」
「ぐふっ…!? か、華琳さん、オレが一体何を………」
華琳の右拳は正確に一刀の鳩尾を捉え、彼は地に伏せて悶絶していた。
まぁつまりはorz状態である。
それはさておき。
悲しいかな、ハーレムもの主人公の定め。華琳のデレは、全く一刀に伝わらなかった。
「…それで一刀、『くりすます』に産多苦労すとはどういうこと?」
「あ、ああ…簡単に言えば記念日に託[かこ]つけて贈り物をするってことかな」
「ふぅん…ま、たまには臣下を労[いたわ]るのもいいかもね。いいでしょう、その話乗ったわ」
話が決まり、細部をつめようとする2人。が、人生そう上手くはいかないものである。
「どーん♪」
「うおぁっ」
一刀は突然の背後からの衝撃に耐えられず、前のめりになる。
ささやかながらしっかりと自己主張をしている華琳の胸に顔を突っ込み、背中にはとても柔らかい2つの膨らみ。
Q.これは天国ですか?
A.はーい、眠れるチチです。
と、どこかの『かゆ…うま…』なラノベよろしくな感じであった。決して華雄真名、ではない。禁忌である。
「しぇ、雪蓮!」
「なんの話してるのー? って言っても大体聞いてたんだけどね♪」
「…一刀、頬が緩んでるようだから引き締めてあげるわ」
「え? …いひゃい、いひゃいよ華琳」
「…ふん」
未だに雪蓮に抱きつかれている一刀は思い切り両頬を引っ張られて涙目である。
「それで雪蓮? 何が望みかしら。大体予想はつくけど」
「私も混・ぜ・て♪」
「…はぁ、天の御遣い、魏王に加え元呉王。桃香も誘うしか無いわね」
「それなら月と美羽、麗羽も誘ったら?」
「なら蓮華も呼んでくるわね。桃香に言って美以も連れてきて貰っちゃお♪」
一刀は思った。誰か足りない、と。
「…あのさ、白蓮を忘れてない?」
本来ならば気付いた一刀は褒められて良かったはず。
が。
「「忘れてないわよ」」
「え」
2人とも忘れてはいなかった。なのになぜ白蓮の名が出ないと言うと…
「「だって、星は白蓮の客将だっただけで実際は桃香の臣下じゃない」」
核心だった。
「…ああ」
―――大変だったんだなぁ…。
一刀はそう思わずにはいられなかったという。
「さて…ここには『名だたる(名のある)臣下のいる・いた』人たちに集まって貰ったわけだけど…」
クリスマスとサンタクロースについて華琳の誤解をといた一刀はそこで言葉を切り、円卓に着いている人たちを見渡す。
左から順に雪蓮・蓮華・桃香・美以・麗羽・美羽・月。
華琳たっての希望で袁家が隣にくることは避けられていた。
ちなみに美以は桃香の、華琳は一刀の膝の上にちょこんと座っている。
華琳の隣では月が華琳を羨ましそうに見ていた。
「天の国の中でオレの国ではクリスマスって日に贈り物をする習慣があってね、今の平和を導いた臣下たちを労[ねぎら]う意味も込めてパーティー、宴会を開こうかと」
『今の平和』は各国連携のもと五胡を撃退したことを意味する。
魏が呉蜀を倒し統一を果たしたが、自治権を渡してそのまま国を治めさせたため、実質三国同盟状態で人的交流が盛んに行われていた。
それはともかく。
この一刀の提案には皆賛成のようで、次は準備について話し合われる。
「ちなみに私たちには『一刀一日執事券』が支給されるわ」
なんとまあ太っ腹なことか。
「一日中一刀が召し使い。食事・洗濯・掃除などの家事を含めた雑用やはたまた夜伽。とにかく、なんでもござれ。いいと思わない?」
発案者は一刀であるが、夜伽にまで言及はしていなかった。
「へぅぅ…」
どんな想像、いや妄想をしているのか。月は顔を赤くしては頭をぷるぷる振って正気に戻る、ということを繰り返していた。
「じゃ、決定ね。では各自分担を決めましょう」
「さて…私の分担はお酒ね。どうするの?」
華琳の担当は酒。霞や紫苑、祭に桔梗。それと雪蓮・星が大量に飲むので質より量が大事だと思われるが華琳はそんなことを許さない。ちなみに星のために真空調理法で旨味を凝縮した極上モノのメンマも作っている。
「う〜ん…ビールとかワインとか…未成年だからあんまり知らないんだよなー…」
と、その時。
「呼ばれて飛び出てじゅわじゅわじゅわじゅわ〜ん!! ごほん。…ご主人様、私の手助けが必要と見たわぁん」
「真面目な声を出すな息を吹き掛けるな顔が近いんだよ気色悪い」
「んっふ…。…ご主人様、それは違うキャラクターよぉん?」
―――お前今ノったじゃん。
と一刀が思ったかは定かではない。
「とりあえずまぁ…助かるよ」
「え、ちょ、ちょっと一刀? まさか私とこの怪物を2人きりにする気!?」
「だぁ〜れが寝ても覚めても脳裏に焼き付いて離れないほど気持ち悪い化け物ですってぇ〜!?」
「そこまで言って無いわよっ!」
「あらそぉ?」
「…えーと華琳、オレはすぐ抜けるよ? 他の人たちも見なきゃだし…」
「やっぱりそうなのね…ああ」
天を仰ぐ。あるのは天井だけだが。
「わかった、頑張るわ…」
華琳さま、頑張れ! 超頑張れ!
「月、どんな感じ?」
「あ、ご主人さま。上手くいきそうです」
「それなら良かった。しかし管理人は万能か…いや、それにしても月にはお菓子作りは向いてるみたいだね」
「へぅ…///」
今、月が作っているのはケーキ。ショートにチョコにモンブランなど様々な種類がある。
材料は諸外国との交易で得、作り方は貂蝉による。
これは主に鈴々・恋・季衣など用である。
1人各1切れずつ支給される―――当然食べきれるように小さめになるが―――が、彼女らにはワンホールまるごとプレゼントされるのだ。
それに他は料理人が貂蝉の特訓を受け作ったものだが、3人に渡されるそれらはみな月の手作りとなるという点で特別である。
「正直めったに見られない恋の笑顔が見られるんじゃないかなと思ってるよ」
「そう出来るよう、一生懸命心を込めて頑張ります♪」
月の笑顔に心身ともに何かリフレッシュした一刀だった。
「雪れ…」
「いいなーいいなーいいなー華琳いいなー」
「…はい?」
雪蓮の様子を見に来てみれば、唐突にそう言われ、一刀は訳が分からないという顔をしている。
「華琳の担当は酒よね?」
「そうだけど…って」
「試飲し放題じゃない!」
あぁやっぱり、と一刀は思った。
「…なら雪蓮、醸造できる?」
「無理よ。飲み専だし」
「ですよねー」
華琳は万能であるから良い、雪蓮は酒は好きだが消費するのみである。
当然作れるわけがなかった。
「我慢して自分の仕事をしてくれよ」
「ま、『一刀一日執事券』でたっぷり楽しませて貰うからいいんだけど……と言うか何よ『熊と猪を捕ってくる』って」
「いやぁ…まぁ、ね?」
書類仕事をしない雪蓮は細かい作業もめんどくさがりそうなため、料理に使う材料として熊と猪の捕獲を命じられていた。
「カラダの火照りは一刀に静めてもらうから、帰ってきたら覚えてさない♪」
「か、覚悟しておきます」
次に一刀は桃香・蓮華・美羽・美以のもとに向かう。
「あ、ご主人さま♪」
「やあ。大分進んでるみたいだね」
「あら一刀。そうね…大分集中力が必要だけど、皆が喜ぶ顔を見られるなら苦にならないわ」
彼女たちは今、パーティー用の装飾を作っていた。
桃香は持ち前の、手先の器用さで着々と進めているが蓮華は少しお疲れのようだ。
「あ…ちょっと待っててね」
「「?」」
言い残し、一刀は部屋を出ていく。出てから小走りであるところへ向かい…
「お待たせ」
「どこに行ってたの…って」
「うん、お茶。余り根を詰めるのも逆効果だからさ」
装飾作りを手伝っていた侍女に私たちがやりますと言われても、いいからいいからと言ってお茶を出す一刀の評価がうなぎ登りだったのは言うまでもない。
そして蓮華がむくれたのも言わずもがなである。
最後は―――
「おーっほっほっほ! 服飾の選定をこの私に任せるなんて流石は一刀さんですわね! 見事皆さんにぴったりの『どれす』を作り出して差し上げますわ♪」
―――勿論、麗羽のところ。麗羽にはドレスのデザインをさせている。
以前の麗羽ならば見た目がきらびやかなものしか作り出さなかっただろうが、天の知識で思考を誘導しゴージャスからシックまで、幅広いものを手がけるようになった。
さらに今までは見たものを買うだけであったが才能が開花したのだろうか、デザイナーとして活躍していたりする。
「期待してるよ…っとそういやオレのは?」
「勿論お作りしましたわ。既に図面は提出しましたので当日を楽しみにしていてくださいな」
明日に続く!