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ホラー短編集

地蔵塚

掲載日:2026/01/31

 そりゃあ、不動産屋をしていると、色々な物件を見ますよ。孤独死は珍しくもないし、殺人事件があった物件も扱ったことがあります。

 そうですね、その中でもちょっと変わった『事故物件』の話をしましょうか。


 私、今じゃ手広くやらせてもらってますけど、生まれは山奥の小さな村でして。今で言うところの限界集落目前、といったところです。

 小学校と中学校がひとつの学校で、各学年10人ほどのひとクラスずつ。もちろん高校なんてありません。だから、中学を卒業したら、みんな村を出るんです。


 そんな風でしたから、中学三年の夏休みに、同級生たちと何か思い出作りをしようという話が出ましてね。

 とはいえ、交通の便もない田舎のガキが考えることと言ったら、まぁ、『肝試し』ですわ。


 その村には、ちょっとした言い伝えがあったんです。

 集落から1kmくらい山に入ったところに「地蔵塚」と呼ばれる場所があるんです。

 地蔵塚なんて地名、全国で見れば珍しくもないでしょうが、よくよく考えると、おかしな名前だと思いませんか?


「地蔵」は、子供を守る仏さんと言われてはいますが、交通事故やなんかで人が亡くなった場所に建てられることもある、お墓のような意味も持ってますよね。

「塚」は、こんもりと土が盛られた場所……と、辞書ではなってますけど、まぁ、お墓の意味で取る人が多いでしょう。


「地蔵」と「塚」。似たような意味を重ねた名前なんですよ。

 他の地蔵塚って地名の由来は知りませんけどね、うちの村にあった「地蔵塚」は、まさしくその通りの意味だったんです。


 ――地蔵の墓。


 祀る人がなくなったお地蔵さんが捨てられる場所。地蔵塚はそんな場所なんですよ。


 だから昔から、村の子供たちは「絶対に地蔵塚に近寄るな」と言われて育ちます。ロクに供養もされずに捨てられたお地蔵さんだけならまだしも、「曰く」があって手に負えられなくなったお地蔵さんもあるからと。


 それだけじゃない。山には危険が多くあります。崖から落ちて遭難したり、熊に喰われたり……。

 昔はそんな事故を「神隠し」と呼んで、畏れることを教えてきたんですよね。


 しかし、ネットやなんかで知恵を付けて、賢くなった気になったバカな中学生でしたから。そんな言い伝えが大人の誤魔化しなのはお見通しだった訳です。

 そこで、最後の夏休みの思い出に地蔵塚を見に行こうと、誰からともなくそんな話が出たんですよ。


 こんな時、不思議なもので、賛成するのは男連中ばかりで、女の子たちは「絶対に嫌だ」となるんです。


 不動産屋をしていてもそうです。ご夫婦のお客様が来られると、現実的な暮らしを思い描いているのは奥様で、ご主人は「パチンコが近い」とか「フィットネスクラブがある」とか、言っちゃナンですけど、「どうでもいい」ことに惹かれる方が多いんですよ。


 この時も、性別の差が出たんですな。

「私たちは隣町のショッピングモールに行くから」と、男女で別行動になりました。

 まあ、当然の流れですね。

 仕方なく、男連中だけで、地蔵塚を見に行く計画を立てることになったんです。


 その男連中の中でも、医者の息子は「受験勉強で忙しい」、寺の息子は「お盆は家から出られない」と、不参加を決めましてね。

 残ったのは、いつものバカな連中です……私も含めて。アハハ……。


 私を含めて4人ですね、地蔵塚を見に行くことになったのは。なんやかんやと集まっては、計画を練った訳です。

 まず、親に知られないように口裏合わせをする。夜の山歩きに必要な、懐中電灯だとか虫除けだとかの用意。持ってる者は、当時はガラケーでしたが、携帯電話を忘れるな、と、まあこんな感じです。


 そして、決行の日。

 以前から打ち合わせしていた通り、同級生のトシオん家に泊まるという名目で家を出ました。

 トシオの家は土建屋を営んでいて、休憩室に使うコンテナハウスを持ってたんです。資材置き場でバーベキューやら花火をやって、コンテナハウスに泊まる計画って訳です。ここまでは本当のことだから、お互いの親も同意の上でした。


 でも、本当の計画は、その後。


 真夜中を待って、着替えやなんかを入れたスポーツバッグに隠してきた探検道具を持って、出発です。

 コンテナハウスに、交通整理の人がよく被ってる、額のところに懐中電灯が付いたヘルメットあるでしょ? あれがいくつかあったんで、それも拝借しましたね。万が一の時にって、資材置き場の鉄パイプも持っていきましたか。

 バカなガキですから、そんな装備で探検家になった気分です。威勢よく林道に入って行った訳ですよ。


 道案内はユウキです。彼の家は林業をやっていて、よく手伝わされるから、山道をよく知ってました。何なら、地蔵塚のある一帯も、ユウキの家の持ち山みたいでしたね。

 ユウキが先頭で、次がガキ大将のトシオ。もう一人がノブユキで、殿(しんがり)が私だったと記憶してます。

 とはいえ、軽トラが入れるような林道ですから、そこまでの危険はありません。一本道だから迷いようもないし。

 探検と呼ぶにしちゃあ、拍子抜けみたいなモンです。


 それでも、親から色々と聞かされてましたからねぇ……山で「おーい」と呼ばれても、絶対に振り向くな、とか。

 あれ、山の怪とか、そんなヤツとは違う理由なんですよ。

 熊です。

 小熊が母熊を呼ぶ時に、まるで人間みたいな声を出すことがあるんです。

 幸い、私は直接聞いたことはありませんけど、爺さんは戦後の食糧難を生きた人ですから、まぁ、山に関しちゃあ色々あったらしいんです。よく「一人で山に入るな」と、脅されたモンです。


 その話は置いておいて……。

 やっぱりどこの家でも、「山は怖い」っていう話を聞かされてる訳ですよ。

 それに山って、なんかこう、底知れないものがあるでしょ。時々ニュースで、海底一万メートルの深海で新種の生物が発見されたとか、あるじゃないですか。

 山も同じで、普段、人の目がないから、どこかに未知のものが隠れてるんじゃないかと、そんな妄想が頭をよぎる訳です。

 しかも、辺りは真っ暗。懐中電灯の範囲しか見えない漆黒の闇です。木々の隙間にありもしない視線を感じて、私はずっと首を竦めて歩いてました……殿だったんで、情けない顔を隠す必要もなかったんで。


 ユウキとトシオは、夜の山にも慣れてるようでしてね。クワガタなんかを探しに行くには、夜がいいって言うじゃないですか。ヤンチャな二人はそんなことを時々してたらしくて、歌なんかを歌いながら、鉄パイプを振り回して進んでくんです。

 ……まぁ、そんな威勢も、怖いのの裏返しだったのかもしれませんがね。


 整備されているとはいえ山道ですから、1kmと言えど、30分はかかりましたかね。

 突然、ユウキが足を止めて、

「ここだ」

 と言ったんですよ。


 ユウキは光量のある大きな懐中電灯を持ってましたから、それを傍らの斜面に向けたんですよね。


 そこにあったのは、石ころの山。

 沢へ向かう下りの傾斜地に、両手に抱えられるくらいの石ころが、(うずたか)く積み重なってました。『塚』……そうですね、あの状況を言い表すなら、塚と呼ぶのが相応しいかもしれません。


 で、よく見ると、そのひとつひとつがお地蔵さんな訳ですよ。


 どれも古くて、顔も判別できないようなものばかりでしたけどね。苔やら落ち葉やらで汚れて、かつて人に崇められる存在だったとは思えないほど、見る影もない有り様でした。100体は優にあったんじゃないかな。


 そんな異様な光景だったんで、さすがにトシオも黙り込んでました。

 私は……当然、尻込みして、一番後ろでユウキの影に隠れてましたよ、ハハハ……。


 でも、一番怖がってたのは、黙ってついて来たノブユキです。

 彼は大人しくて、頭がいい方でした。正直、こんなバカげたノリによくついて来たなと思ったほどです。まぁ、ユウキとトシオの勢いに、断れなかったんだろうと思います。


 そんな彼が、地蔵塚を見るなり、こう言ったんです。

「一刻も早く離れるべきだ」


 急にそんなことを言い出すから、「どうしたんだ?」となりますよね。

 けれど、何を聞いても首を横に振るばかりなんです。「これは良くない」「早く帰ろう」って。


 そうなると、悪ノリするのがバカな男です。

「なにヒヨってんだよ」

 って虚勢を張ったのがトシオですね。ユウキもそれに合わせて、

「ただの石だろ」

 と、お地蔵さんを蹴る訳です。


 私はさすがにそこまでやる気はなかったんですけど、腰抜けと思われるのも嫌で、

「ただの石ころを眺めててもつまらないし、クワガタでも見に行かないか?」

 と話を変えて、何とかその場を乗り切ったんです。


 それで、クワガタを何匹か捕まえて、コンテナハウスに戻って朝を迎えました。

 その時は何事もなく、それで解散しました。


 おかしなことに気づいたのは、夏休みが明けてからです。

 ユウキが学校に来てませんでしたから。


 地蔵塚に行った三人が集まって、やっぱり色々と勘ぐる訳ですよ。

「お地蔵さんを蹴ったから、呪われたんじゃないか」

 って。

 それで、ユウキん家に様子を見に行くことになったんです。一応は、宿題を届けに行くという名目もありましたし。


 放課後、三人でユウキの家に行きました。

 しかし、やっぱりユウキは出て来ませんでした。

 その代わり、応対に出たユウキの母親がこう言ったんですよね。


「おまえたち、地蔵塚に行っただろ」


 と、ものすごい剣幕でね。


 私たちは逃げるように、ユウキの家を後にしました。

 そして、溜まり場にしていた廃バス停で顔を見合わせました。


「……やっぱり、マズかったのかもしれない」

 一番蒼白になっていたのはトシオです。彼はお地蔵さんを蹴りはしませんでしたけど、煽ってたようなモンですから。


 その時でしたね、ノブユキがボソッと言ったのは。

「…………やっぱり」

 彼はそう言ったんですよ。


「どういう意味だよ!?」

 トシオがいきり立ってノブユキの首根っこを捕まえましてね。

「おまえ、あの時何か見たのか」

 と。

 ノブユキは引き攣った顔で笑ってました。

「おまえら、あれが見えてなかったのか」

 彼はそう言って、トシオの手を振り払うと、私たちに言いました。


「――地蔵塚全体が大きな赤ん坊の姿になって、斜面を這い上がろうとしてたんだよ」


 さすがのトシオも言葉を失ってました。

 それから間もなく解散したんですが、私はノブユキの後を追って、先程の話を問い正しました。

「本当か? トシオを怖がらせるために言った嘘じゃないのか」

 とね。

 ノブユキは無表情に答えました。

「嘘だったら良かったのにな」


 もう何十年も経ちますが、その時の彼の真っ白な顔色が、未だに忘れられません。


 それから何日も、ユウキは学校に来ませんでした。

 私は彼の様子が気になっていましたが、ユウキの母親の顔を思い出すと、さすがにもう一度、様子を見に行く勇気はありませんでした。

 そこで、彼の妹に聞いてみようと思ったんです。妹は……確か、サチコといったかな。小学6年生で、同じ学校に通ってましたから。

 帰り際にサチコを捕まえて、

「兄さんはどんな調子だ?」

 と聞いたんです。


 サチコは周りを見て、「ちょっと……」と言うと、私を人目のない校門裏の茂みに引っ張っていきましてね。

 そこで、目に涙を浮かべて言いました。


「兄ちゃん……おかしくなっちゃった」


 心臓が縮み上がるとは、このことでしょう。でも、声を掛けた以上、最後まで聞かなければと思い、私はサチコの話を聞きました。


 トシオの家に泊まった次の夜からです。

 ユウキは毎晩、夜中になるとどこかに出かけて行くんです。

 それで、朝になると泥だらけで、ヘトヘトになって玄関先に倒れてる。

 これはどうしたことかと、ある日、両親がユウキの後を尾けたそうなんです。


 ユウキが向かったのは、地蔵塚でした。


 そこでユウキは、山積みのお地蔵さんをひとつひとつ抱え上げて、少し離れた場所へ移す……そんな行為を、一晩じゅう繰り返していたらしいんです。


 これはまずいと思った両親は、ユウキを家に連れ帰って、地元の住職に相談したんですがね。

 ホラー映画なんかの影響でしょうな。お寺の住職って、悪霊祓いができるようなイメージがあるじゃないですか。でも、実際の住職にそんな力があるはずもなく。

「私にはどうにも……」

 と断られただけで、手の打ちようがない有り様で。


 両親は、ユウキを閉じ込めようと、部屋に外鍵を付けたり、一晩じゅう見張りを立てたり、色々と手を尽くしたようですが、それでも夜中になると、ユウキは出て行ってしまう。

 霊験高いと評判の神主にお祓いをしてもらったり、住職に頼み込んで、本山から偉いお坊さんを呼んで護摩を焚いたり、夏休みじゅう、色々とあったようです。

 狭い村なんで、色々と噂になってたようですけど、その当時、私は本当にクソガキだったので、そんなことも知らずにいたんです。


 サチコの話を聞いてから、私はノブユキのところへ行きました。

 事情を話すと、彼は関わりたくないというような素っ気ない態度だったんですが、私は不安だったんですよね。


 もし、その呪いが、自分たちの身にも降り掛かったらと。


 ノブユキもその思いは同じだったようで、渋々ながら、とにかく地蔵塚の由来を調べてみようと、そんな話になりました。


 次の日から、我々は図書館に通い詰めました。

 小さな村ですから、図書館といっても村にひとつです。学校に併設された、村立図書館がひとつきり。

 そこでノブユキと私は、昔の資料を調べまくりました。


 すると、三十年前の村の記念誌にありましてね。

 村の各地域が記載された地図です。

 それを見ると、確かに林道の脇に「地蔵塚」という地名があります。

 そんな古くからあるのか……と私は思って見てたんですが、ノブユキはあることに気づきましてね。


「今の場所と違う」


 そう言うんです。

「どういうことだ?」

 と、私はノブユキに訊ねました。彼は地図を指さしながら、私に理解できるよう説明しました。


 彼は頭が良かったので、道すがら、ポイントとなる場所を覚えていて、どこを通ったのかが分かっていました。

 それによると、我々が見た地蔵塚のあった場所は、この地図よりも300mほど山を下った場所のはず……彼はそう言うんですよ。

 私も地図をよーく見ましたけど、なるほどと納得しました。

 我々が見た地蔵塚は、沢へ向かう下りの傾斜地にあったのに、この地図では、道の反対側にあることになってます。


 ゾッ……と、変な汗が浮かびましたね。


 それはノブユキも同じなようで、我々は顔を見合わせました。


 ――地蔵塚全体が大きな赤ん坊の姿になって這っている。


 そんなことを考えたのだろう、と私は察しました。ノブユキも、私が同じような考えを持ったと思ったでしょう。


 無数の苔むした石のお地蔵さんが、大きな赤ん坊の姿を形作りながら、ギリ……ギリ……と擦れ合う音を立てて、じわり、じわりと林道を抜けていく……。


 その日は二人とも怖くなって、すぐさま家に帰りました。


 その次の日です。

 学校でノブユキに「ちょっと」と呼ばれて、人気(ひとけ)のない階段下へ行ったんです。

 そこでノブユキは、青ざめた顔で語りました。


 彼の曽祖父は100歳近い高齢だったんですが、頭の方はしっかりしていて、未だに毎日畑仕事をしているような人でして。

 どうしても気になって、ノブユキは曽祖父に聞いたらしいんです。


「地蔵塚って、昔からあるの?」

 と。


 そしたら、彼の曽祖父はこう言いました。


「昔は、もっと山の上にあったのに、だんだんと下に降りて来よる」


 どういう意味だとノブユキが聞くと、曽祖父は彼の顔を見ながら答えました。

 その顔は、とても冗談を言っている風ではなかったと、ノブユキは言ってました。


 ――100年前は、山の上に神社があって、そこにお地蔵さんが祀られていた。

 ところが、世話をする者がいなくなり、神社が廃社になった途端、奇妙なことが起こるようになった。

 綺麗に段に並べられていたお地蔵さんが、全部鳥居の方を向いて倒されている。

 誰の悪戯かと、はじめは村の人たち総出で立て直したんですけど、よくよく考えるとおかしい。


 廃社になった神社に、行く人などいないのだから。


 そもそも、なぜ廃社になったかというと、そこへ向かう道が崖崩れで埋まってしまったからなんですよ。

 お地蔵さんが倒れているのを見つけた人は、鹿を狩る猟師で、道なき道を行く人だったんで不思議はなかったんですが、お地蔵さんが倒されているのが一度や二度じゃなかったから、これはおかしいとなりましてね。

 誰も神社には近づかないように――そういう風になったそうです。


 ところが、何年か経った後。

 別の人がたまたま神社の近くを通りかかったら、お地蔵さんが全部、石段の下まで転がり落ちていた。

 こうなると、気味悪くて誰も手を出しません。

 そのうち、崖崩れのあった場所を越し、林道へ出て……と、地蔵塚は徐々に村へと近づいてくる――。


 話の途中で、ノブユキは怖くて泣きだしたそうです。そして曽祖父に、地蔵塚へ行ったこと、ユウキがおかしくなったことを伝えたそうです。

 すると曽祖父は、ウンウンと聞いた後、

「なるほどな、地蔵が一人で歩く訳がない。誰かを呼んで運ばせていたのか」

 と納得していたようです。


 ノブユキの話はここまでで、私も泣きたい気分になりながら彼に言いましたよ。

「オチはないのか。何か解決法があるんだろう?」

 と。

 けれど、そんなものがあるはずもなく。ノブユキは首を横に振るばかりでした。


 けれど、ユウキの異変は村じゅうに伝わってましたから、地蔵塚を何とかしなければと、そんな話になっていたんです。

 私とノブユキも、当時村長だったトシオの家に呼ばれて、集まった村の人たちにめちゃくちゃ怒られましたよ。


 そこで、トシオの父親が言ったんです。

「子供ばかりを責めたところで解決はしない。それよりも、地蔵を元の場所へ戻した方が良いのではないか」


 トシオの家は土建屋なので、土木機械を持ってますから、それを使って運んでしまおうと、そういう訳です。

 反対する人はいませんでした。なので翌日から、地蔵塚を山の上へ運ぶ作業が始まりました。

 一応はお地蔵さんですから、クレーンで丁寧にトラックに積んで、山の上へ運ぶんです。

 土砂崩れのあった場所も削って道を開いて、元あった神社の境内の草を刈って、元あったように並べたんですね。

 それから一通りお祓いをして。

 とりあえずこれでいいだろうとなりました。


 ――しかしですな。

 それからほんの数日後のことです。


 うちの父のところに電話があって、血相を変えて出て行くもんだから、私も気になってついて行ったんです。


 そしたら、トシオん家の資材置き場に、地蔵の山があったんですよ。


 その前で、泥だらけになったトシオの父親が、放心したように突っ立ってました。



 ――――アハハ、長々とすいませんね。

 事故物件と全然関係ないじゃないかと。

 分かります。けれど、ここから不動産屋の話になるんですよ。


 先程言ったように、うちの村には高校がありませんでしたから、中学を卒業したら村を出るんです。

 私は近隣の街の高校に進みました。

 トシオは村で通信高校に通いながら、家業を継いだらしいですね。大した奴ですよ……まぁ、父親がああなってしまっては、そうせざるを得なかったでしょうが。

 ノブユキは頭が良かったので、遠くの街の有名な高校に進学したようです。


 高校を卒業してから、私は東京の大学に進学して、そのまま不動産屋を開いた訳ですが、何年か前、驚くような再会がありましてね。

 なんと、ノブユキが客としてやって来たんです。

 懐かしいな、どうしてたのかと、お互いに老けた顔を突き合わせて話をしてたんですがね、ノブユキも東京に就職して、郊外に一軒家を建てたと言ってました。

 それで、彼がうちに来た用というのが、「家を売りたい」という話でしてね。

 手狭になってきたから、もっと広い家に住み替えたいと。


 普通、結婚して子供が増えたと思うじゃないですか。ところが住民票なんかを見ると、彼はずっと独身なんです。

「何で手狭になったんだ?」

 と、気になって聞いてみたんですがね、どうも要領を得ない。

 まあとりあえず物件を見せてくれと、私は彼の車で彼の家に向かった訳です。



 ありましたよ……地蔵の山が。



 庭にも玄関先にも家の中にも。

 敷地を埋め尽くさんばかりにお地蔵さんが積み重なってる訳です。


 逃げ出したかったですよ。

 しかし、仕事ですからね。グッと堪えて、

「どうしたんだ、これは?」

 と彼に訊ねました。

 ノブユキは私の顔を見ずに、ただ遠くを眺めて突っ立ってるだけでした。


 それから間も無く、ノブユキは精神病院に入院したらしいです。

 それで、親族から彼の家を何とかして欲しいと相談されましてね。


 これを事故物件と言わずに、何と言うでしょうか。


 幾らでも構わないからと言われたんでね、相場から、お地蔵さんの処理費用と、瑕疵のある分を差し引いた値段で土地を購入した訳ですよ。


 ……え? その土地ですか?


 さて、どうしたっけなぁ……。


 あぁ、この子。

 重くないかと。そりゃ重いですよ――石ですから。

 増えてくんですよね、自然と。

 なぜでしょう。


 うちもそろそろ、事務所をもっと広い場所に移設しないといけませんな……。



 ……………………。









































































































































 ギリ……

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