地蔵塚
そりゃあ、不動産屋をしていると、色々な物件を見ますよ。孤独死は珍しくもないし、殺人事件があった物件も扱ったことがあります。
そうですね、その中でもちょっと変わった『事故物件』の話をしましょうか。
私、今じゃ手広くやらせてもらってますけど、生まれは山奥の小さな村でして。今で言うところの限界集落目前、といったところです。
小学校と中学校がひとつの学校で、各学年10人ほどのひとクラスずつ。もちろん高校なんてありません。だから、中学を卒業したら、みんな村を出るんです。
そんな風でしたから、中学三年の夏休みに、同級生たちと何か思い出作りをしようという話が出ましてね。
とはいえ、交通の便もない田舎のガキが考えることと言ったら、まぁ、『肝試し』ですわ。
その村には、ちょっとした言い伝えがあったんです。
集落から1kmくらい山に入ったところに「地蔵塚」と呼ばれる場所があるんです。
地蔵塚なんて地名、全国で見れば珍しくもないでしょうが、よくよく考えると、おかしな名前だと思いませんか?
「地蔵」は、子供を守る仏さんと言われてはいますが、交通事故やなんかで人が亡くなった場所に建てられることもある、お墓のような意味も持ってますよね。
「塚」は、こんもりと土が盛られた場所……と、辞書ではなってますけど、まぁ、お墓の意味で取る人が多いでしょう。
「地蔵」と「塚」。似たような意味を重ねた名前なんですよ。
他の地蔵塚って地名の由来は知りませんけどね、うちの村にあった「地蔵塚」は、まさしくその通りの意味だったんです。
――地蔵の墓。
祀る人がなくなったお地蔵さんが捨てられる場所。地蔵塚はそんな場所なんですよ。
だから昔から、村の子供たちは「絶対に地蔵塚に近寄るな」と言われて育ちます。ロクに供養もされずに捨てられたお地蔵さんだけならまだしも、「曰く」があって手に負えられなくなったお地蔵さんもあるからと。
それだけじゃない。山には危険が多くあります。崖から落ちて遭難したり、熊に喰われたり……。
昔はそんな事故を「神隠し」と呼んで、畏れることを教えてきたんですよね。
しかし、ネットやなんかで知恵を付けて、賢くなった気になったバカな中学生でしたから。そんな言い伝えが大人の誤魔化しなのはお見通しだった訳です。
そこで、最後の夏休みの思い出に地蔵塚を見に行こうと、誰からともなくそんな話が出たんですよ。
こんな時、不思議なもので、賛成するのは男連中ばかりで、女の子たちは「絶対に嫌だ」となるんです。
不動産屋をしていてもそうです。ご夫婦のお客様が来られると、現実的な暮らしを思い描いているのは奥様で、ご主人は「パチンコが近い」とか「フィットネスクラブがある」とか、言っちゃナンですけど、「どうでもいい」ことに惹かれる方が多いんですよ。
この時も、性別の差が出たんですな。
「私たちは隣町のショッピングモールに行くから」と、男女で別行動になりました。
まあ、当然の流れですね。
仕方なく、男連中だけで、地蔵塚を見に行く計画を立てることになったんです。
その男連中の中でも、医者の息子は「受験勉強で忙しい」、寺の息子は「お盆は家から出られない」と、不参加を決めましてね。
残ったのは、いつものバカな連中です……私も含めて。アハハ……。
私を含めて4人ですね、地蔵塚を見に行くことになったのは。なんやかんやと集まっては、計画を練った訳です。
まず、親に知られないように口裏合わせをする。夜の山歩きに必要な、懐中電灯だとか虫除けだとかの用意。持ってる者は、当時はガラケーでしたが、携帯電話を忘れるな、と、まあこんな感じです。
そして、決行の日。
以前から打ち合わせしていた通り、同級生のトシオん家に泊まるという名目で家を出ました。
トシオの家は土建屋を営んでいて、休憩室に使うコンテナハウスを持ってたんです。資材置き場でバーベキューやら花火をやって、コンテナハウスに泊まる計画って訳です。ここまでは本当のことだから、お互いの親も同意の上でした。
でも、本当の計画は、その後。
真夜中を待って、着替えやなんかを入れたスポーツバッグに隠してきた探検道具を持って、出発です。
コンテナハウスに、交通整理の人がよく被ってる、額のところに懐中電灯が付いたヘルメットあるでしょ? あれがいくつかあったんで、それも拝借しましたね。万が一の時にって、資材置き場の鉄パイプも持っていきましたか。
バカなガキですから、そんな装備で探検家になった気分です。威勢よく林道に入って行った訳ですよ。
道案内はユウキです。彼の家は林業をやっていて、よく手伝わされるから、山道をよく知ってました。何なら、地蔵塚のある一帯も、ユウキの家の持ち山みたいでしたね。
ユウキが先頭で、次がガキ大将のトシオ。もう一人がノブユキで、殿が私だったと記憶してます。
とはいえ、軽トラが入れるような林道ですから、そこまでの危険はありません。一本道だから迷いようもないし。
探検と呼ぶにしちゃあ、拍子抜けみたいなモンです。
それでも、親から色々と聞かされてましたからねぇ……山で「おーい」と呼ばれても、絶対に振り向くな、とか。
あれ、山の怪とか、そんなヤツとは違う理由なんですよ。
熊です。
小熊が母熊を呼ぶ時に、まるで人間みたいな声を出すことがあるんです。
幸い、私は直接聞いたことはありませんけど、爺さんは戦後の食糧難を生きた人ですから、まぁ、山に関しちゃあ色々あったらしいんです。よく「一人で山に入るな」と、脅されたモンです。
その話は置いておいて……。
やっぱりどこの家でも、「山は怖い」っていう話を聞かされてる訳ですよ。
それに山って、なんかこう、底知れないものがあるでしょ。時々ニュースで、海底一万メートルの深海で新種の生物が発見されたとか、あるじゃないですか。
山も同じで、普段、人の目がないから、どこかに未知のものが隠れてるんじゃないかと、そんな妄想が頭をよぎる訳です。
しかも、辺りは真っ暗。懐中電灯の範囲しか見えない漆黒の闇です。木々の隙間にありもしない視線を感じて、私はずっと首を竦めて歩いてました……殿だったんで、情けない顔を隠す必要もなかったんで。
ユウキとトシオは、夜の山にも慣れてるようでしてね。クワガタなんかを探しに行くには、夜がいいって言うじゃないですか。ヤンチャな二人はそんなことを時々してたらしくて、歌なんかを歌いながら、鉄パイプを振り回して進んでくんです。
……まぁ、そんな威勢も、怖いのの裏返しだったのかもしれませんがね。
整備されているとはいえ山道ですから、1kmと言えど、30分はかかりましたかね。
突然、ユウキが足を止めて、
「ここだ」
と言ったんですよ。
ユウキは光量のある大きな懐中電灯を持ってましたから、それを傍らの斜面に向けたんですよね。
そこにあったのは、石ころの山。
沢へ向かう下りの傾斜地に、両手に抱えられるくらいの石ころが、堆く積み重なってました。『塚』……そうですね、あの状況を言い表すなら、塚と呼ぶのが相応しいかもしれません。
で、よく見ると、そのひとつひとつがお地蔵さんな訳ですよ。
どれも古くて、顔も判別できないようなものばかりでしたけどね。苔やら落ち葉やらで汚れて、かつて人に崇められる存在だったとは思えないほど、見る影もない有り様でした。100体は優にあったんじゃないかな。
そんな異様な光景だったんで、さすがにトシオも黙り込んでました。
私は……当然、尻込みして、一番後ろでユウキの影に隠れてましたよ、ハハハ……。
でも、一番怖がってたのは、黙ってついて来たノブユキです。
彼は大人しくて、頭がいい方でした。正直、こんなバカげたノリによくついて来たなと思ったほどです。まぁ、ユウキとトシオの勢いに、断れなかったんだろうと思います。
そんな彼が、地蔵塚を見るなり、こう言ったんです。
「一刻も早く離れるべきだ」
急にそんなことを言い出すから、「どうしたんだ?」となりますよね。
けれど、何を聞いても首を横に振るばかりなんです。「これは良くない」「早く帰ろう」って。
そうなると、悪ノリするのがバカな男です。
「なにヒヨってんだよ」
って虚勢を張ったのがトシオですね。ユウキもそれに合わせて、
「ただの石だろ」
と、お地蔵さんを蹴る訳です。
私はさすがにそこまでやる気はなかったんですけど、腰抜けと思われるのも嫌で、
「ただの石ころを眺めててもつまらないし、クワガタでも見に行かないか?」
と話を変えて、何とかその場を乗り切ったんです。
それで、クワガタを何匹か捕まえて、コンテナハウスに戻って朝を迎えました。
その時は何事もなく、それで解散しました。
おかしなことに気づいたのは、夏休みが明けてからです。
ユウキが学校に来てませんでしたから。
地蔵塚に行った三人が集まって、やっぱり色々と勘ぐる訳ですよ。
「お地蔵さんを蹴ったから、呪われたんじゃないか」
って。
それで、ユウキん家に様子を見に行くことになったんです。一応は、宿題を届けに行くという名目もありましたし。
放課後、三人でユウキの家に行きました。
しかし、やっぱりユウキは出て来ませんでした。
その代わり、応対に出たユウキの母親がこう言ったんですよね。
「おまえたち、地蔵塚に行っただろ」
と、ものすごい剣幕でね。
私たちは逃げるように、ユウキの家を後にしました。
そして、溜まり場にしていた廃バス停で顔を見合わせました。
「……やっぱり、マズかったのかもしれない」
一番蒼白になっていたのはトシオです。彼はお地蔵さんを蹴りはしませんでしたけど、煽ってたようなモンですから。
その時でしたね、ノブユキがボソッと言ったのは。
「…………やっぱり」
彼はそう言ったんですよ。
「どういう意味だよ!?」
トシオがいきり立ってノブユキの首根っこを捕まえましてね。
「おまえ、あの時何か見たのか」
と。
ノブユキは引き攣った顔で笑ってました。
「おまえら、あれが見えてなかったのか」
彼はそう言って、トシオの手を振り払うと、私たちに言いました。
「――地蔵塚全体が大きな赤ん坊の姿になって、斜面を這い上がろうとしてたんだよ」
さすがのトシオも言葉を失ってました。
それから間もなく解散したんですが、私はノブユキの後を追って、先程の話を問い正しました。
「本当か? トシオを怖がらせるために言った嘘じゃないのか」
とね。
ノブユキは無表情に答えました。
「嘘だったら良かったのにな」
もう何十年も経ちますが、その時の彼の真っ白な顔色が、未だに忘れられません。
それから何日も、ユウキは学校に来ませんでした。
私は彼の様子が気になっていましたが、ユウキの母親の顔を思い出すと、さすがにもう一度、様子を見に行く勇気はありませんでした。
そこで、彼の妹に聞いてみようと思ったんです。妹は……確か、サチコといったかな。小学6年生で、同じ学校に通ってましたから。
帰り際にサチコを捕まえて、
「兄さんはどんな調子だ?」
と聞いたんです。
サチコは周りを見て、「ちょっと……」と言うと、私を人目のない校門裏の茂みに引っ張っていきましてね。
そこで、目に涙を浮かべて言いました。
「兄ちゃん……おかしくなっちゃった」
心臓が縮み上がるとは、このことでしょう。でも、声を掛けた以上、最後まで聞かなければと思い、私はサチコの話を聞きました。
トシオの家に泊まった次の夜からです。
ユウキは毎晩、夜中になるとどこかに出かけて行くんです。
それで、朝になると泥だらけで、ヘトヘトになって玄関先に倒れてる。
これはどうしたことかと、ある日、両親がユウキの後を尾けたそうなんです。
ユウキが向かったのは、地蔵塚でした。
そこでユウキは、山積みのお地蔵さんをひとつひとつ抱え上げて、少し離れた場所へ移す……そんな行為を、一晩じゅう繰り返していたらしいんです。
これはまずいと思った両親は、ユウキを家に連れ帰って、地元の住職に相談したんですがね。
ホラー映画なんかの影響でしょうな。お寺の住職って、悪霊祓いができるようなイメージがあるじゃないですか。でも、実際の住職にそんな力があるはずもなく。
「私にはどうにも……」
と断られただけで、手の打ちようがない有り様で。
両親は、ユウキを閉じ込めようと、部屋に外鍵を付けたり、一晩じゅう見張りを立てたり、色々と手を尽くしたようですが、それでも夜中になると、ユウキは出て行ってしまう。
霊験高いと評判の神主にお祓いをしてもらったり、住職に頼み込んで、本山から偉いお坊さんを呼んで護摩を焚いたり、夏休みじゅう、色々とあったようです。
狭い村なんで、色々と噂になってたようですけど、その当時、私は本当にクソガキだったので、そんなことも知らずにいたんです。
サチコの話を聞いてから、私はノブユキのところへ行きました。
事情を話すと、彼は関わりたくないというような素っ気ない態度だったんですが、私は不安だったんですよね。
もし、その呪いが、自分たちの身にも降り掛かったらと。
ノブユキもその思いは同じだったようで、渋々ながら、とにかく地蔵塚の由来を調べてみようと、そんな話になりました。
次の日から、我々は図書館に通い詰めました。
小さな村ですから、図書館といっても村にひとつです。学校に併設された、村立図書館がひとつきり。
そこでノブユキと私は、昔の資料を調べまくりました。
すると、三十年前の村の記念誌にありましてね。
村の各地域が記載された地図です。
それを見ると、確かに林道の脇に「地蔵塚」という地名があります。
そんな古くからあるのか……と私は思って見てたんですが、ノブユキはあることに気づきましてね。
「今の場所と違う」
そう言うんです。
「どういうことだ?」
と、私はノブユキに訊ねました。彼は地図を指さしながら、私に理解できるよう説明しました。
彼は頭が良かったので、道すがら、ポイントとなる場所を覚えていて、どこを通ったのかが分かっていました。
それによると、我々が見た地蔵塚のあった場所は、この地図よりも300mほど山を下った場所のはず……彼はそう言うんですよ。
私も地図をよーく見ましたけど、なるほどと納得しました。
我々が見た地蔵塚は、沢へ向かう下りの傾斜地にあったのに、この地図では、道の反対側にあることになってます。
ゾッ……と、変な汗が浮かびましたね。
それはノブユキも同じなようで、我々は顔を見合わせました。
――地蔵塚全体が大きな赤ん坊の姿になって這っている。
そんなことを考えたのだろう、と私は察しました。ノブユキも、私が同じような考えを持ったと思ったでしょう。
無数の苔むした石のお地蔵さんが、大きな赤ん坊の姿を形作りながら、ギリ……ギリ……と擦れ合う音を立てて、じわり、じわりと林道を抜けていく……。
その日は二人とも怖くなって、すぐさま家に帰りました。
その次の日です。
学校でノブユキに「ちょっと」と呼ばれて、人気のない階段下へ行ったんです。
そこでノブユキは、青ざめた顔で語りました。
彼の曽祖父は100歳近い高齢だったんですが、頭の方はしっかりしていて、未だに毎日畑仕事をしているような人でして。
どうしても気になって、ノブユキは曽祖父に聞いたらしいんです。
「地蔵塚って、昔からあるの?」
と。
そしたら、彼の曽祖父はこう言いました。
「昔は、もっと山の上にあったのに、だんだんと下に降りて来よる」
どういう意味だとノブユキが聞くと、曽祖父は彼の顔を見ながら答えました。
その顔は、とても冗談を言っている風ではなかったと、ノブユキは言ってました。
――100年前は、山の上に神社があって、そこにお地蔵さんが祀られていた。
ところが、世話をする者がいなくなり、神社が廃社になった途端、奇妙なことが起こるようになった。
綺麗に段に並べられていたお地蔵さんが、全部鳥居の方を向いて倒されている。
誰の悪戯かと、はじめは村の人たち総出で立て直したんですけど、よくよく考えるとおかしい。
廃社になった神社に、行く人などいないのだから。
そもそも、なぜ廃社になったかというと、そこへ向かう道が崖崩れで埋まってしまったからなんですよ。
お地蔵さんが倒れているのを見つけた人は、鹿を狩る猟師で、道なき道を行く人だったんで不思議はなかったんですが、お地蔵さんが倒されているのが一度や二度じゃなかったから、これはおかしいとなりましてね。
誰も神社には近づかないように――そういう風になったそうです。
ところが、何年か経った後。
別の人がたまたま神社の近くを通りかかったら、お地蔵さんが全部、石段の下まで転がり落ちていた。
こうなると、気味悪くて誰も手を出しません。
そのうち、崖崩れのあった場所を越し、林道へ出て……と、地蔵塚は徐々に村へと近づいてくる――。
話の途中で、ノブユキは怖くて泣きだしたそうです。そして曽祖父に、地蔵塚へ行ったこと、ユウキがおかしくなったことを伝えたそうです。
すると曽祖父は、ウンウンと聞いた後、
「なるほどな、地蔵が一人で歩く訳がない。誰かを呼んで運ばせていたのか」
と納得していたようです。
ノブユキの話はここまでで、私も泣きたい気分になりながら彼に言いましたよ。
「オチはないのか。何か解決法があるんだろう?」
と。
けれど、そんなものがあるはずもなく。ノブユキは首を横に振るばかりでした。
けれど、ユウキの異変は村じゅうに伝わってましたから、地蔵塚を何とかしなければと、そんな話になっていたんです。
私とノブユキも、当時村長だったトシオの家に呼ばれて、集まった村の人たちにめちゃくちゃ怒られましたよ。
そこで、トシオの父親が言ったんです。
「子供ばかりを責めたところで解決はしない。それよりも、地蔵を元の場所へ戻した方が良いのではないか」
トシオの家は土建屋なので、土木機械を持ってますから、それを使って運んでしまおうと、そういう訳です。
反対する人はいませんでした。なので翌日から、地蔵塚を山の上へ運ぶ作業が始まりました。
一応はお地蔵さんですから、クレーンで丁寧にトラックに積んで、山の上へ運ぶんです。
土砂崩れのあった場所も削って道を開いて、元あった神社の境内の草を刈って、元あったように並べたんですね。
それから一通りお祓いをして。
とりあえずこれでいいだろうとなりました。
――しかしですな。
それからほんの数日後のことです。
うちの父のところに電話があって、血相を変えて出て行くもんだから、私も気になってついて行ったんです。
そしたら、トシオん家の資材置き場に、地蔵の山があったんですよ。
その前で、泥だらけになったトシオの父親が、放心したように突っ立ってました。
――――アハハ、長々とすいませんね。
事故物件と全然関係ないじゃないかと。
分かります。けれど、ここから不動産屋の話になるんですよ。
先程言ったように、うちの村には高校がありませんでしたから、中学を卒業したら村を出るんです。
私は近隣の街の高校に進みました。
トシオは村で通信高校に通いながら、家業を継いだらしいですね。大した奴ですよ……まぁ、父親がああなってしまっては、そうせざるを得なかったでしょうが。
ノブユキは頭が良かったので、遠くの街の有名な高校に進学したようです。
高校を卒業してから、私は東京の大学に進学して、そのまま不動産屋を開いた訳ですが、何年か前、驚くような再会がありましてね。
なんと、ノブユキが客としてやって来たんです。
懐かしいな、どうしてたのかと、お互いに老けた顔を突き合わせて話をしてたんですがね、ノブユキも東京に就職して、郊外に一軒家を建てたと言ってました。
それで、彼がうちに来た用というのが、「家を売りたい」という話でしてね。
手狭になってきたから、もっと広い家に住み替えたいと。
普通、結婚して子供が増えたと思うじゃないですか。ところが住民票なんかを見ると、彼はずっと独身なんです。
「何で手狭になったんだ?」
と、気になって聞いてみたんですがね、どうも要領を得ない。
まあとりあえず物件を見せてくれと、私は彼の車で彼の家に向かった訳です。
ありましたよ……地蔵の山が。
庭にも玄関先にも家の中にも。
敷地を埋め尽くさんばかりにお地蔵さんが積み重なってる訳です。
逃げ出したかったですよ。
しかし、仕事ですからね。グッと堪えて、
「どうしたんだ、これは?」
と彼に訊ねました。
ノブユキは私の顔を見ずに、ただ遠くを眺めて突っ立ってるだけでした。
それから間も無く、ノブユキは精神病院に入院したらしいです。
それで、親族から彼の家を何とかして欲しいと相談されましてね。
これを事故物件と言わずに、何と言うでしょうか。
幾らでも構わないからと言われたんでね、相場から、お地蔵さんの処理費用と、瑕疵のある分を差し引いた値段で土地を購入した訳ですよ。
……え? その土地ですか?
さて、どうしたっけなぁ……。
あぁ、この子。
重くないかと。そりゃ重いですよ――石ですから。
増えてくんですよね、自然と。
なぜでしょう。
うちもそろそろ、事務所をもっと広い場所に移設しないといけませんな……。
……………………。
ギリ……




