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第一話 4人の戦士、登場!

 「彼女」らの侵攻のことはくわしく語るものはいなかった。

後の報道では、壊されたのは建物と武器のみで、多少の軽傷者はいても、重傷者、ましては死者などいなかった、とだけ報道されていた。


 自称「侵攻の体験者」と名乗る者たちが、報道番組に顔を隠しつつ特定されないようにしつつ、インタビューされ、人々はその人たちの言葉を信じていた。

いや、信じざるを得なかった。


当時、一般人が侵攻者の姿をほとんど見ることがなかったからというのもあるだろう。

WWWワールドワイドウェブと言われる、世界的な情報ネットワークの存在はあったものの、それに触れるには高価な機器を揃える必要があるうえに、そこにある情報さえも真偽不明なものが多いため、マスコミ・メディアの情報を信じるのが通常の考えであったのかもしれない。


 始まりは、夏の横浜であった。

ここ数年、暑さのせいもあり、蝉の鳴き声もなく、気候の良い日は基地の前で抗議活動を繰り返してる「市民運動家」の方々も連続日数の日めくり以外姿をあらわすことはない。そんな日だった。


「なぁ、あれ、なんだ?」

予算削減のせいもあり、十分な空調設備もない基地での休憩中に一人のパイロットが同僚に向けて囁いた。

「あれ?」

「そ、あれ」

彼の指指す方向にいたのは、耳の上から長めの三つ編みを2つ垂らして、大きめ白衣を来た少女であった。

「……おんなのこ、だな」

同僚も信じられないものを見たように呟く。

「たしか、見学者がいるって話、なかったよな?」

「問い合わせてみる」

そう言うと、一人は内線の場所に向かい、少女を見つけた彼は銃をいつでも抜けるよう、警戒しつつ少女に近づいていった。

「きみ、なんでこんなとこにいるんだい?」

念のため、覚えたての日本語で語りかける。

「兵隊さん?」

「あ、ああ、まいごかい?」

何か、奇妙な感覚があった。

少女から聞こえる声は、幼い外見にふさわしくなにかたどたどしいものに思えた。

それと同時に、年老いた男性の英語が聞こえた気がしたのだ。

「まいご?ちがうかなぁ」

彼が額の汗を拭いつつ問いかけると、眼の前の少女の涼し気な声で笑みを浮かべ答えた。

 

セミや市民運動家の声すら聞こえない酷暑の中、汗一つかかずに。

「離れろ!今日は誰も来ていない!」

来客の確認の済んだ同僚が英語で叫ぶ。

おそらく、日本人と思える少女に気付かれないように。

「じゃあ、こいつはどこから……」

「ふふふ、さよなら、優しい軍人さん」


ブゥン。


耳障りな音が聞こえたと思ったら、少女の後ろに黒い穴が開き、そこから黒尽くめの集団が現れた。


「なんだ、これ?」


 少女の後ろに現れた集団は、目と口のみ出した全身タイツのような姿で、所々に薄い黄色いシミのようなもようがついているものであった。

ピッチリした服装のせいもあり、黒い集団が老若男女様々な年齢の者が居るようにみえる。

そして、それぞれ手には様々な得物をもっている。

ナイフのような小さい刃物、大きな剣、刀のようなもの、飾りのついた杖のようなもの、槍、大きめの銃。

「チギュ」「チギュ」

「なんで……」

黒尽くめの集団が思い思いにつぶやきつつも、少女の後ろから動かず各々の得物を構える。

「あばれたいのか?」

「チギュギュギュ!!!!」「チギュウゥゥゥウウ!」

少女の口元が笑みを浮かべるように歪む。

「よし、あばれろ」

『チ、ギュゥゥゥゥゥゥウウウウ!!!!』

黒尽くめ集団が思い思いに飛び出す。

手に持った得物を、周囲を気にすることなく振り回す。

当然、仲間内にも被害は出ているのだか、お構い無しである。

なにか恨みでもあるかのごとく、兵士や建物、車両に襲いかかっていく。

 

最初こそ面食らった米軍兵士であったが、黒尽くめ集団に通常兵器が効くことがわかった途端、少し冷静さを取り戻し、反撃を始めていた。


「ほぉ、一応対抗できるのか。いいねぇ」

次々倒れていく黒尽くめ軍団と米軍の姿を見て、楽しそうに笑う。

「でもねぇ、簡単には行かないのよ」

袖が余った両腕を振り上げて少女が叫ぶ。

「まだまだだ!これくらいでくたばれるとおもうな、雑魚どもが」

倒れて動かなくなった黒い集団が、ゆっくりと立ち上がる。血を流し、ズタボロになった死骸にしか見えないものが、だ。

「ゾンビかよ……」


あやつり人形のように立ち上がり、数歩歩いたあとは倒される前と同じ、もしくは更に激しく襲いかかってくる姿には恐怖を覚えるものの、ここで引くことが何を意味するか。

 

 おぼろげながら、それを感じるゆえに引き金を引き続けるものの、銃弾も体力も無限ではない。

 それは、兵士だけでなく、基地に居るものすべてが動かなくなるまで続けられた。

当然、戦闘要員のみではなく、すべて、である。


 他の場所でも似たようなことは行われた。


ある場所では、長身のビキニアーマーと大剣を持った女性が。

別の場所では、軍服に見える女性が率いる機械化部隊が。


同じく殲滅戦を仕掛けていた。


3つの軍勢による侵攻は、徐々に、しかし、確実に日本列島の軍事施設のすべてを破壊していった。


 日本国内に潜ませていた内通者から、そのことを知った周辺国はそれそれの思惑によって行動を開始した。


ある国は、自軍の兵士や家族、基地で働くものの敵討ちを。

ある国は、反抗能力を失った様に見える日本への侵攻。

ある国は、「日本を解放」するために。


表向きは日本国内の抵抗勢力を助けると言い、自軍を差し向けてた。


各国は空から、海から、四方から行動したのだが。


上陸することなく、すべて沈んでいった。


とある国が最終手段として、日本列島を消し去るほどのミサイルを打ち込むための手段を取ったとき。


そのミサイル基地は消滅した。


 この事実をもって、他国は自分たちの国に被害がでなければ、日本に対する侵攻はしない。

そう結論付け、秘密裏に各国は「彼女」らと条約を結んだ。


そして一ヶ月後、基地のなくなった日本に、静けさがもどった。



 日本に「平和」が与えられて一年。

軍事施設がないことと、「不適切な」広告が街から消えたこと以外、人々の生活に変化はなかった。

他にも「不適切な書物」「不適切な職業」などの不適切な様々なものがなくなったものの、それは大したことでもない。

 「彼女」たちの侵攻前から徐々に行われていた、一部の「識者」たちによる「不適切」な存在をなくす活動が実った証であるからである。

街に広がっていた、毒々しい広告や、騒がしいTV番組、出版物がなくなり、街が灰色になっていったが、それはある種の人々が先導し、皆が望んだ結果。

だから、問題などはない。そう思わされていた。


 『われわれは平和を手にいれたのです。戦後、ずっと望んでいた本当の平和を』

いつものように街宣車の上に立ち、次期総理有力候補と言われる女性議員の声が街にひびく。

選挙が近いわけではない。

民衆の前での演説が、人心を掴み、次の総理になるための行動である。

『かつて、この国は大罪を犯しました。そう、アジアの国々を蹂躙し、多くの人々を殺めたのです』

いつものように、ショートヘアに白いスーツ。

大げさなゼスチャーで、感情たっぷりの口調で演説は続く。

『われわれは、永遠に償うために武力を捨て、被害国の方々からの許しをいただくまで、永遠に謝罪をするべきでした。

ですが、あるときに変化が訪れました。

そうです!そらから降りてきた方々の救いの手です!』

いつもの公演である。

聞きに来ている観衆も、おそらくいつもの人々なのだろう。

熱狂的に声を上げ、女性議員を称える声を上げている。


「救い?」


そのなかにひとり、怒りを浮かべるものがいた。

赤みがかかったショートヘアに、袖をまくった赤いゆったり目のアウターの下には地味なシャツ。

ショートパンツの中肉中背の女性である。

『彼女たちは、教えてくれたのです。武器などいらない。

必要なのは対話だと!』

女性議員の声が熱を帯び、いつものことを大げさにまくし立て始める。

日本は悪であった。

その日本から、我々を解放し、周辺国と会話にて平和を作った救世主を讃えよ、と。


「ふざけるな」

「ち?静かに!次期総理のありがたいお言葉だ!」

 

赤い少女の声が震えるが、そばにいる観衆の一人がたしなめるように言う。

「侵略者の手先で、奴らの言葉の代弁者でしかないやつが何を!」

「きさま!」「反抗者か!」「おさえろ!」

少女のわ声に対し、周りが殺気立つ。

反抗者と呼ばれるものは消去処分。

噂にしか聞こえない言葉が、観衆の口から次々に上がる。


「噂は事実なのがよくわかるねぇ。あの議員さんも、改造された下っ端なのかな?」

「したっぱ?」

議員の額に青筋が浮き上がる。

「わたしを、そのへんの、れんちゅうと、おなじだと?」

よっぽど腹に据えかねるようで、言葉がカタコトになってきた。

「そうだろ?えらいさんの言葉をそのまま垂れ流すなんざ、下っ端のやることだろうに」

赤い少女が、舞台の演技のように派手な言葉と動きで挑発をする。

「ふざけるな。下っ端ってのは、お前の周りにいる、チギュどものことなんだヨォォォォォ!!!!!」

『チギュウゥゥゥウウ』

議員はマイクを使うことも忘れ、大声を上げると、周りの観衆の大半が、溶けたチーズのような黄色いシミのような模様付きの黒尽くめの姿に変わる。


「あら、事実言ったらおこった?

やーねー、次期総理最優秀候補なのに」

「ダァマァレェェェェエ!」

「チィギュウゥゥゥゥゥウ!!」

大半の黒尽くめ、チギュと呼ばれた連中が、赤い少女に襲いかかる。

たった一人の少女に、大勢のチギュが襲いかかるさまを見る、数少ない一般人が何もできず、佇んでいると、少女のいたあたりに赤い光がひろがった。

「エレメント!チャージ!」

「チギュ!」

赤い光の中から、全身真っ赤な姿が現れた。

頭はヘルメットのようなものに覆われ、全身を覆う服は体の線がかろうじてわかるサイズだろうか。

手袋とブーツで、肌の見える部分はすべて覆われ、先程の少女の面影は全く見えないほどだ。

「フレイム・ソード」

軽く腰を落とし、なにもない左腰のあたりにある剣に手を添えるポーズを取ると、赤い光がにじみ出て、剣の形になる。

光に吹き飛ばされた、チギュたちはその剣を構えた姿に一瞬怯むものの、女性議員の

「ナニヲミテイルゥ、アイテハヒトリダ、ヤレェェェェ」

という、カタコトの叫びに押され再び襲いかかる。

が、バラバラに襲いかかるチギュが、彼女に触れることは一切叶わず、つぎつぎ斬り伏せられていく。


「あーあ。今日みるだけだっていってたのに。なにやってんのよ」

「まぁ、あのタワゴト聞いたら、腹も立つっしょ。あたしもだけど」

「しかたね。手伝うしかないわな」

その場を逃げ出そうとする数少ない一般人のなか、三人の女性が少し離れたところで乱闘を眺めつつ、呆れたように前に歩き出す。

三人の左手に付けられた、大きな流線型の飾りのついたブレスレットのようなものを掲げると、飾りの下半分をずらし、そこにできたくぼみに、大きめのメダルのようなものをはめ込んだ。

『エレメント・チャージ!』

三人が叫ぶと、それぞれ、青、黄、緑の光に包まれ、光と同じ色のスーツにをまとった姿になった。

「レイン・アロー!」

青い姿の女性が左手を上にかざすと、弓のような光が現れ、弦のような部分を引くと点に無数の矢がとび、上からチギュに向かって降り注ぐ。

「ウインド・ブーメラン!」

緑の姿の女性が、右手に現れた光のブーメランをチギュの集団に向かって投げつける。

「アース・ハンマー」

黄色の女性が振りかぶると、黄色い光がハンマーの形になり、チギュの群れに飛び込み、つぎつぎ薙ぎ払っていく。


その様子を見ていた議員に焦りの声を上げる。

「ヨクモ、ヨクモ、ワタシニサカラッタァアアア」

議員の体が透明になっていき、体のあちこちから触手のようなものが伸びだす。

「チ?チギュ?」

その触手がチギュにまとわりつくと、吸収されるように溶けていく。

チギュと呼ばれるものの、悲痛な叫びが響き渡る。

「ナァニモノダァ、キサマァア」

議員の体はもはや、人というより、人の形をしたスライム状のなにかに変わっていた。

「自らの欲望のため、侵略者に力を貸し、真実を貶める」

「それらの行先を阻むため」

勝利の道(ビクトリーロード)をつきすすむ」

「VR戦隊 エレメント・ファイター、ここに推参!」

四人の攻撃と、議員による吸収によって減ったチギュを斬り伏せつつ。四人が名乗りをあげる。

「ダァマァレェェェェエ、オマエハダマッテ、ワタシニクワレロォォォオ」

軟体生物と化した議員が、赤い戦士に襲いかかる。

「黙るのは」

上段に構えた剣で袈裟懸けにし、体の真ん中あたりで踵を返し、Vの字を描く様に切りつけた。

斜めに切り上げた勢いのまま、赤い戦士が背を向けるとVの字の切り口が光を放った後、その姿が爆散した。

次期総理候補と言われた女性議員が、化け物になり、消滅した。

その場にいた僅かな一般人からすれば、理解しがたいことであろう。


たとえ現実であっても。


現実を認められず、呆然としていた少数の人々が自我を取り戻し、周囲を見渡したときは、なにもなかった。

爆発のあとはおろか、次期総理候補の女性議員が行った公演の跡さえも。


後日、女性議員の失踪が報じられたが、カラフルな四人と、黒尽くめ集団の話は触れられることはなかった。

その場にいた人々も、気の所為だったのだと思い込み日常に戻っていった。


 戻りたかった、というべきであろう。

似たような「怪人」がこのあと、各地であらわれ、カラフルな戦士と戦いを繰り広げることになるのだから。


続く。

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