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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第5章:非合理な至宝(最終章)

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第32話:『未来』の『声』(最終話)

「賢者の塔」の最上階は、あの「婚礼の日」以来、ヴァイス国で、もっとも太陽に近い場所となった。


かつては「王の欲望」と「呪い」の怨嗟に閉ざされていた塔は、今や、この国の輝かしい「未来」そのものを設計する、「叡智の心臓部」となっていた。


あの日の式典から、数ヶ月が過ぎた、穏やかな午後。


巨大なガラス窓から差し込む暖かな光の中、「賢者夫妻」の私室となった執務室は、王都の地下書庫にあったカビ臭い埃の匂いとは無縁の、新しい羊皮紙と、セオドアがエリアナのために淹れる紅茶の、知的で甘い香りに満ちていた。


「……ここだ、エリアナ」


「北の緑化大地に建設する、新しい魔導研究所の設計図だが」「合理的に考えて、地脈からの魔力供給ルートが、三パーセントほど非効率だ」


巨大な黒曜石のデスクの上に広げられた設計図。


セオドア・アークライト・ヴァイスが、その完璧な指先で示した一点を、エリアナは、夫の肩に頬を寄せるようにして、一緒に覗き込んでいた。


その距離感は、もはや「契約」で結ばれた「賢者」と「王子」のものではない。深い信頼と、穏やかな愛情で結ばれた、「夫婦」そのものだった。


「……確かに。セオドア様の術式では、ここがボトルネックになっていますね」


「ですが、第五術式そのものを変更するのではなく、地脈に接続する『古代ルーン』の配列を、少し変えてみてはどうでしょう」


「あら……?」


エリアナは、そう言いながら、自らの思考に浮かんだ「最適解」の、さらに「上」を行く可能性に気づき、ふと、顔を上げた。


「セオドア様。少し、待ってください。彼にも、意見を聞いてみます」


「彼?」


セオドアが不思議そうに問い返す。エリアナは、いたずらっぽく微笑むと、執務室の片隅に、今や「国宝」として、そして、二人の「友人」として鎮座している、あの、青い光を放つ「力の石碑」(と、そこに完全に調和した『古書』)へと、そっと、手を触れた。


◇◇◇


かつて、この「声」に触れることは、エリアナにとって「苦痛」であり、「責務」だった。


王都アルビオンの地下書庫で聞こえていた「声」は、常に、『警告。崩落ノ兆候アリ』『危険デンジャー。瘴気漏出マデ、二十四時』といった、国の「破滅」を、彼女たった一人に知らせる、絶望的な「悲鳴」だったからだ。


だが、セオドアと共に、あの玉座に縛り付けられていた『初代番人』の魂を解放し、「叡智」が、あるべき姿に「調和」した、今。エリアナの脳裏に響く「声」は、全く、異なる「音色」を奏でていた。


エリアナは、穏やかな気持ちで、目を閉じる。『叡智』と、彼女の魂が、静かに、同期していく。


『―――"解読者"(エリアナ)ノ思考ト、"設計者"(セオドア)ノ術式ヲ、合理的ニ統合シマス』


脳裏に響いたのは、かつての「悲鳴」ではない。冷静で、知的で、そして、二人の未来を、共に創り出そうとする、信頼に足る「パートナー」としての「声」だった。


『―――[提案]。


新・魔導研究所設計図、北の用水路の魔術回路、第五術式ヲ、"古代ルーン・タイプF"ニ変更。


地脈効率、予測ヨリ、更ニ、10.4パーセントノ上昇ヲ、確認』


「!」


エリアナは、目を見開いた。


「声」が示したのは、セオドアの「術式」と、エリアナの「古代ルーン」の知識を、完璧に融合させた、二人では思いつかなかった、第三の「最適解」だった。


「声」は、もはや、迫り来る「厄災」を警告するだけの、受け身のシステムではない。


エリアナとセオドアという「天才」二人の「知性」を、さらに高みへと押し上げ、共に、国を豊かにするための、「未来を『創造』するパートナー」へと、完全に、生まれ変わっていたのだ。


◇◇◇


「……セオドア様」


エリアナは、「石碑」から手を離し、愛しい夫に向き直った。


その顔は、王都で「責務」に追われていた頃の陰りなど、微塵も感じさせない、自信と、幸福に満ちた、「賢者」の笑顔だった。


「『彼』からの、新しい提案です。第五術式を、こう変更するべき、だそうです」


エリアナが、設計図に新たな術式を描き込むと、セオドアは、「ほう……」と、感嘆の息を漏らした。


「……見事だ。私の魔導学と、君の古代ルーンの知識を、このレベルで融合させるか。……合理的、いや、……『芸術的』だ」


彼は、設計図に描かれた完璧な「解」と、それを提示した妻の顔を、愛おしそうに、交互に見つめた。


「……セオドア様」


エリアナは、そんな彼の視線を受け止め、心の底から、ずっと伝えたかった想いを、改めて、口にした。


「私の『声』を……私を、信じてくれて、……本当に、ありがとうございます」


あの日、王都から追放され、荒野で一人、絶望の淵にいた、あの夜。


世界中の誰もが、彼女の「声」を、「呪い」と、「幻聴」と、「偽物」と罵った中で。この「氷の王子」だけが、彼女を「賢者」と呼び、「至宝」だと言って、その手を、掴んでくれた。


その手が、今、エリアナの顔に、そっと、優しく、伸べられる。


セオドアは、何も言わず、彼女が、婚礼の日から新しくした、あの、銀縁の眼鏡を、そっと、外した。


「え……」


急に、視界が、ぼやける。


だが、セオドアの、熱を宿した金色の瞳だけが、恐ろしいほどの近さで、エリアナの、涙で潤んだ瞳を、まっすぐに、射抜いていた。


「賢者」としての、「叡智」を見るための、眼鏡という「フィルター」を、取り払う。


それは、彼が、今見ているのが、「賢者」エリアナ・ノエルではなく、「妻」である、ただ一人の女性としての、「エリアナ」であるという、何よりの、証だった。


「……礼を言うのは、私の方だ」


セオドアは、その、眼鏡のない、むき出しになったエリアナの、柔らかな額に、まるで、壊れ物に触れるかのように、深く、敬虔な、キスを、落とした。


「君という『叡智』が、私の、凍てついていた世界に、光をくれた」


彼は、額を合わせたまま、エリアナにしか聞こえない声で、あの日の「非合理なバグ」を、生涯の「誓い」へと、昇華させる。


「―――君こそが、私の唯一にして、最高の、『非合理な至宝』だ、エリアナ」


「セオドア様……」


エリアナは、幸せに、目を閉じた。


二人は、巨大なガラス窓の前に、再び、並んで立つ。


眼下には、かつての「死の大地」が、今や、見渡す限りの「緑」と「黄金の穀倉地帯」へと生まれ変わり、新しい研究所の建設に沸き、活気に満ちた国民たちが、笑い合っている。二人が「創造」した、太陽が降り注ぐ、豊かな、豊かな、「未来」が、そこにあった。


エリアナは、自らの手を、夫となった男の、大きな手に、そっと、重ね合わせた。セオドアが、それに応えて、強く、握り返す。


「非合理なバグ」と、「呪いの声」は、今、世界で最も「合理的」な、「愛」と「創造」の形となって、永遠に、ここに、輝き始めた。


(完)


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


もし「少しでも楽しめた」「スカッとした」と感じていただけましたら、

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