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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第1章:偽りの番人と氷の王子

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第3話:『決死の進言』と『嫉妬の烙印』

『瘴気漏出まで、予測刻限―――二十四時にじゅうよじ!』


「―――っ!」


『古書』が発した絶望的な悲鳴に、エリアナは全身の血が逆流するような感覚に襲われた。 二十四時。猶予は、もはや一日もない。


第一封印。


それは、王都の真下に眠る、古代の瘴気を抑えるための文字通りの「蓋」。 もしあれが解放されれば、王都は内側から瘴気に飲まれ、一夜にして魔物の跋扈ばっこする死の大地と化す。これまでの「用水路のヒビ」などとは、比較にさえならない国家滅亡の危機だった。


(ジュリアン殿下に、知らせないと……!)


彼女の脳裏に浮かんだのは、リリアナに夢中になっている婚約者の顔だった。 昨日の演説(『目に見えぬ不安は不要』)を思い出す。匿名の報告書など、今や握りつぶされるのが関の山だ。 こうなれば―――


「……行くしかない」


エリアナは、地味な司書官の制服のまま、地下書庫を飛び出した。 彼女の手には、普段は決して持ち出さぬよう厳命されている、『建国の叡智の書』の本体の一部――警告を発し続ける、冷たい石版の一部を、固く抱きしめていた。



◇◇◇



王宮の祝宴の広間は、昨夜以上の熱気に包まれていた。 ジュリアンが「新しい聖女」リリアナの功績を称え、彼女を正式に「王家の庇護対象とする」と宣言するための祝宴だったからだ。


「リリアナ様こそ、我らが光だ!」


「もはや『番人』などという古い伝統は不要ですな!」


貴族たちがリリアナの「歓喜の光」に当てられ、興奮状態で酒を酌み交わしている。 ジュリアンもまた、リリアナを隣に座らせ、得意満面でその様子を眺めていた。

その、祝宴が最高潮に達した瞬間だった。


ドンッ!!


大理石でできた広間の重い扉が、凄まじい勢いで叩き開けられた。


「な、何事だ!」


音楽が止まり、すべての視線が扉に集中する。 そこに立っていたのは、場違いにもほどがある、埃まみれの司書官だった。


「エリアナ……!」


ジュリアンが、忌々しげにその名を呼ぶ。 エリアナは、肩で息をしながらも、王太子をまっすぐに見据えた。髪は乱れ、眼鏡もずれている。貴族令嬢としての作法など、一切をかなぐり捨てた姿だった。


「ジュリアン殿下! 緊急のご報告があります!」


広間を切り裂くような、切羽詰まった声。 ジュリアンは、自らの晴れ舞台を台無しにされ、顔を怒りに引きつらせた。


「無礼者ッ! 誰が貴様のような地味な女を呼んだ! 私とリリアナの祝宴を妨害する気か!」


「それどころではないのです!」


エリアナは、衛兵の制止を振り切り、玉座の前まで駆け寄った。 そして、抱えてきた石版をジュリアンの前に突きつける。


「『古書』が、過去最大の警告を発しています! 王都地下、第一封印が崩壊を開始しました! 今すぐに手を打たなければ、二十四時までに王都は瘴気に沈みます!」


必死の訴えだった。 エリアナは、この瞬間、自分が婚約者候補であることも、彼に冷遇されていることも忘れていた。ただ、「番人」としての責務を果たすことだけを考えていた。


広間が、水を打ったように静まり返る。 「第一封印」という言葉の重さに、酔っていた貴族たちもさすがに表情をこわばらせた。


ジュリアンも、一瞬だけ「まさか」という顔で石版を見た。 だが―――


「……ひっ」


彼の腕の中で、リリアナが可憐な悲鳴を上げた。 彼女は、まるで恐ろしいものを見るかのようにエリアナ(の持つ石版)を見つめ、わなわなと震え始めた。


「殿下……恐ろしい……」


リリアナは、ジュリアンの腕の中に顔をうずめるように隠れる。 その演技がかった仕草に、ジュリアンはハッと我に返った。そうだ、自分にはこの「本物」の聖女がついている。


「リリアナ? どうしたのだ」


「だって……エリアナ様が……。わたくし、エリアナ様が殿下の婚約者様だから、ずっと我慢しておりましたけれど……」


「何?」


リリアナは、涙を浮かべた瞳でジュリアンを見上げた。 完璧な「被害者」の顔だった。


「エリアナ様は、私が殿下に選ばれたのが、そんなにお気に召さないのですね……?」


「……どういうことだ?」


「だから……だから、こんな恐ろしい『呪い』のようなお話で、わたくしと殿下の祝宴を、台無しにしにいらっしゃったのでは……!」


「なっ……!」


エリアナが息を呑む。 違う、これは呪いなどではない、警告だ、と叫ぼうとする。 だが、それよりも早く、ジュリアンの思考が「最悪の答え」に辿り着いた。



◇◇◇



(―――呪い?)


ジュリアンの脳裏で、リリアナの言葉が反響する。 そうだ。なぜ気づかなかった。

目の前の女は、本ばかりを読みふけり、地下書庫にこもる、暗い女。 一方、リリアナは、光を放ち、人々を幸福にする、明るい聖女。


そんなエリアナが、自分とリリアナの祝宴の、まさにこの瞬間に、わざわざ「王都の崩壊」などという不吉な警告を持ってきた。 タイミングが良すぎる。 これは、警告などではない。


「そうか……そうだったのか、エリアナッ!」


ジュリアンの怒りが、沸点を超えた。 彼は、エリアナの必死の訴えを、全て「嫉妬に狂った、リリアナへの陰湿な嫌がらせ」だと断定したのだ。


「貴様、私の愛するリリアナに『偽りの聖女』の汚名を着せるため、こんな馬鹿げた芝居を打ったのか!」


「違います! これは真実です! 第一封印は本当に……!」


「黙れ!」


ジュリアンは、エリアナが突き出した石版を、床に叩きつけた。 ガシャン! と、歴史的な遺産が、無残に割れる。


「あ……」


「この女を捕えろッ!」


ジュリアンの絶叫が、広間に響き渡った。


「こいつは『番人』ではない! 私の愛するリリアナに呪いをかけようとした、『偽りの魔女』だ!」



お読みいただき、ありがとうございます!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、 ぜひブックマークや、↓の【★★★★★】を押して評価ポイントをいただけますと、 執筆の励みになります!


(※明日の更新も20:00です)

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