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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第4章:王都崩壊と過去との決別

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第27話:王都視点 『遅すぎた後悔』

『キィィィィィィィアアアアアアアアアアアッッ!!』


玉座の間に響き渡ったのは、ジュリアン・レイ・アルビオンが、その治世で聞くはずだった喝采とは似ても似つかない、魔物の狂喜の叫びだった。


リリアナが恐怖のあまり乱射した【歓喜の光】(チャーム・ライト)。


その「幻惑」の魔力は、知性の低い魔物の闘争本能だけを無意味に刺激し、興奮させた。


ステンドグラスを打ち破って侵入してきたガーゴイルの群れは、光を放つリリアナを「餌」あるいは「敵」と認識し、血走った目で、玉座に隠れるジュリアンとリリアナの二人へと、一斉に殺到した。


「い、いやぁぁぁぁぁぁっっ!!」


リリアナの顔から、計算された「愛らしさ」が完全に剥げ落ちていた。


本能的な死の恐怖に、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになり、声は無様に裏返る。


彼女は、もはや「聖女」でも何でもなかった。ただの、怯えた少女だった。


「ジュリアン様! 助けて! 助けてください!」


彼女は、唯一の権力者であり、自分の「価値」を認めてくれたはずの男に、必死にすがりついた。


ガシッ、と。ジュリアンの、王太子の豪奢な礼服の裾を、泥だらけの手で掴む。「いやっ! 助けて! わたくし、死にたくありませ―――」


「―――うるさいッ!!」


ジュリアンの反応は、彼女の予想を、遥かに超えていた。


彼は、リリアナがすがりついてきたその力を利用し、―――ドンッ! と、鈍い音を立てて、彼女の華奢な体を、玉座の陰から、魔物の群れが迫る「前」へと、力任せに突き飛ばした。


「え…………?」


リリアナの思考が、一瞬、停止する。受け身も取れず、無様に広間の中央へと転がり出た彼女は、信じられない、という目で、自分を「盾」にした男を見た。


ジュリアンは、リリアナを突き飛ばした反動で、さらに玉座の奥の暗闇へと後退しながら、顔を恐怖と憎悪に歪ませ、絶叫していた。


「お前のせいだッ!!」


「……じゅ、りあん、さま……?」


「ぜんぶ、お前のせいだ! お前が『本物』だと言ったから! お前が、あの『偽物』(エリアナ)を追放しろと、私をそそのかしたんだろうがッ!」


「お前が、私を騙したんだ! この、偽聖女めが!」


責任転嫁。


自らの愚かな選択を、死の恐怖を前に、ついに認めることができなくなった王太子が、その「人間性の底」を見せた瞬間だった。


自分が「本物」と持て囃し、エリアナを断罪するための「道具」として使ってきた少女を、今度は、魔物から逃れるための「時間稼ぎの盾」として、使い捨てたのだ。


「あ……」


リリアナは、すべてを理解した。


『キィィィィィィッ!』リリアナの絶望を待つこともなく、興奮したガーゴイルが、彼女の頭上から襲いかかった。


「きゃあああああああああああああああああああああああっっ!!」


玉座の間に、最後の悲鳴が響き渡る。


ガーゴイルの鉤爪が、リリアナの柔らかな肩に深々と食い込み、彼女の体を軽々と持ち上げた。


バサリ、バサリ、と、汚い翼の音。魔物は、獲物を得て、高く、高く、舞い上がっていく。


「あ……あ……」


宙吊りにされたリリアナの瞳から、光が消えた。


ジュリアンへの憎しみか、自らの運命への絶望か。


彼女が、その生涯を懸けて磨き上げてきた【歓喜の光】(チャーム・ライト)は、彼女の心が完全に折れたことで、その魔力の輝きを、―――永遠に、失った。


『偽物』の聖女の、惨めな末路だった。


◇◇◇


ジュリアンは、玉座の裏、埃の積もった暗闇の中で、リリアナが連れ去られていく一部始終を、息を殺して見ていた。


(……行った)


ガーゴイルの群れが、リリアナという「新しい玩具」に群がり、玉座の間から飛び去っていく。


その間、数秒。彼は、その数秒を、自らの「機転」によって稼いだと、本気で安堵していた。だが、玉座の間には、まだ敵が残っている。


『..................』


瘴気の穴から這い出してきた、高位アンデッド、「レイス」の群れだ。ガーゴイルとは違い、彼らは「音」や「光」には反応しない。


ただ、冷たく、静かに、「生きている者」の、生命力の「匂い」だけを頼りに、ジュリアンが隠れる、玉座の暗闇へと、ゆらり、ゆらり、と、その輪郭のない体を、近づけてきていた。


「ひ……」


ジュリアンは、声も出せない。全身が、恐怖で、金縛りにあったように動かない。


ガタガタガタガタ……


歯の根が、合わない。


(死ぬ……)


(私が? 王太子である、この私が?)


(こんな、訳のわからない、化け物の手にかかって……?)


(いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!)


死の恐怖が、極限に達した、その瞬間。ジュリアンの脳裏に、突如、忘れていた「記憶」が、鮮烈にフラッシュバックした。


―――『ジュリアン殿下! 緊急のご報告があります!』あれは、いつだったか。祝宴の広間。埃まみれの、あの地味な女。エリアナ・ノエル。


―――『『古書』が、過去最大の警告を発しています! 王都地下、第一封印が崩壊を開始しました!』ああ、そうだ。彼女は、そう叫んでいた。今、この国で起きている、この惨状そのものを、あの時、指をさして、叫んでいた。


―――『違います! これは嫉妬などではない! 真実です!』


そうだ。彼女は、そうも言っていた。涙を浮かべて、必死に、訴えていた。自分は、それを。リリアナへの「嫉妬」だ、「呪い」だ、「妄想」だと、一蹴し、あまつさえ、国宝である『古書』を床に叩きつけ、彼女に「偽物の魔女」の烙印を押し、国から、追放した。


「…………あ」


ジュリアンの、恐怖に見開かれた瞳から、熱いのか、冷たいのかもわからない、一筋の「液体」が、こぼれ落ちた。


「あ…………ぁ…………」


「…………あぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」


レイスの群れが、すぐそこまで迫っている。王宮の外からは、都市が崩壊していく轟音と、民の断末魔が聞こえ続けている。この、地獄のような現実と、エリアナの「警告」が、ジュリアンの頭の中で、恐ろしいほどの正確さで、―――完全に、一致した。


「…………本物は…………」


ジュリアンの唇が、絶望に、震えた。


「…………エリアナ、だった…………」


「あいつの……あいつの言う通り、だったんだ…………!」


遅すぎた後悔。国のすべてが、自らの手によって崩壊し、自らの命が、今、尽きようとしている、まさに、その瞬間になって、彼は、自分が「偽物」と断じ、捨て去った女こそが、この国の、唯一の「本物」であり、「救い」であったことを、―――ついに、自覚した。


「うわ……あ……ああああああっ!」


声にならない呻きが、暗闇に響く。レイスが、その「声」に反応し、暗闇に向かって、一斉に手を伸ばした。


「ひっ……!」


ジュリアンは、死にたくなかった。


この私が、こんなところでは、終われない。後悔と恐怖で、狂いそうになる思考の中、彼は、最後の「希望」を、見つけた。


(そ、そうだ……エリアナだ!)


(あいつが「本物」なら……あいつなら、この状況を、何とかできる!)


(あいつは、ヴァイス国にいる! あの『氷の王子』と、一緒に……!)


ジュリアンは、玉座の陰を這いずり回った。


レイスに背中を掴まれ、生命力を吸われかけながらも、転がるようにして、壁際に設置された、ある「装置」へと辿り着く。王族専用の、緊急用「魔力通信機」だ。


(そうだ、エリアナを呼べ!)


(あいつは『番人』だ! この国の『番人』だったんだ!)


(なら、この国を救う『責務』がある!)


リリアナを突き飛ばした、その汚れた手で。ジュリアンは、震える指に、ありったけの魔力を込め、ヴァイス国の王宮へと、回線を接続した。


ズ、ズズ……


ノイズと共に、通信機の水晶が、かろうじて光を帯びる。レイスの冷たい手が、彼の足首を掴んだ、まさにその瞬間。ジュリアンは、水晶に向かって、泣きじゃくりながら、最高に、身勝手で、最高に、見苦しい「懇願」を、絶叫した。


「エリアナ! 聞こえるか! エリアナ!」


「助けてくれ! 戻ってきてくれ!」


「私が悪かった! お前が、お前が『本物』だったんだ!」


「私が、間違っていた……!」


「だから! だから、国を……いや、この私を、助けろ!!」


「お前は『番人』だろうがッ!」


「私の国を救う、『責務』があるだろうがああああああっっ!!」


『............』


レイスの冷たい手が、彼の顔を、覆った。

お読みいただき、ありがとうございます!


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(※明日の更新も20:00です)

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