表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第4章:王都崩壊と過去との決別

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/32

第24話:王都視点 『崩壊の序曲』

ヴァイス国で、エリアナとセオドアが互いの「非合理的な」感情を確かめ合い、未来への「願い」を固めていた、まさにその時刻。


遠く離れた、きゅう・王都アルビオンは、ヴァイス国の穏やかな光とは対照的な、冷たくじっとりとした「闇」に包まれ始めていた。 その「予兆」は、王都で最も貧しく、最もかえりみられない場所から始まった。


王都、貧民街。


ここは、穀倉地帯の半壊はんかいによる食糧高騰しょくりょうこうとう直撃ちょくげきを、真っ先に受けた場所だった。


さらに、「東の国境結界」のほころびから侵入した魔物まものたち――騎士団きしだんらしたゴブリンやオークの亜種あしゅ――が、夜陰やいんじょうじて真っ先に襲撃しゅうげきするのも、この貧民街だった。


えと、恐怖きょうふ


民衆みんしゅう不満ふまんは、もはやリリアナの「歓喜かんきひかり」ではごまかしれない、殺伐さつばつとしたものになっていた。 だが、かれらがこれから直面ちょくめんする「絶望ぜつぼう」は、そんな「える厄災やくさい」とは、まるで次元じげんちがっていた。


「……な、なんだ……このきり……?」


井戸いどだ! 井戸いどから、くろけむりが……!」


貧民街ひんみんがい共同井戸きょうどういど。 その、わずかなみずもとめてあつまっていた人々(ひとびと)が、悲鳴ひめいげた。


井戸いどふかそこから、まるですみかしたような、つめたい「くろきり」が、ゆらり、ゆらりと、あふしてきたのだ。 それは、うようにひろがり、貧民街ひんみんがいほこりっぽい路地ろじを、またたくしていく。


「ゲホッ……! ゴホッ、ゴホッ……!」


「な、なんだ……いきが……」


「の、のどが……ける……!」


くろきり――瘴気しょうき――をんだ人々(ひとびと)が、次々(つぎつぎ)とそのにうずくまる。 かわいた、異常いじょうせき高熱こうねつにうなされるように、全身ぜんしん痙攣けいれんはじめる。


それは、えでもなく、魔物まものによる外傷がいしょうでもない。 大地だいち内側うちがわから、生命せいめいそのものをくさらせる、純粋じゅんすいな「汚染おせん」だった。


魔物まもの被害ひがいくわえ、このなぞの「やまい」の発生はっせい貧民街ひんみんがいは、完全かんぜんなパニックにおちいった。 そうとするもの


井戸いどふさごうとして、より濃密のうみつ瘴気しょうきまれるもの王都おうとの「ほころび」は、もはやつくろうこともできない「崩壊ほうかい序曲じょきょく」として、 ―――ついに、はじまったのだ。



◇◇◇



「な、なんだと!? 貧民街ひんみんがいで、なぞの『くろきり』だと!?」


王宮おうきゅう玉座ぎょくざ


ジュリアン・レイ・アルビオンは、宰相さいしょうからの緊急報告きんきゅうほうこくに、ヒステリックな金切声かなきりごえげた。


魔物まものの次は、やまいだと!? ふざけるな! 騎士団きしだんなにをしている!」


「そ、それが……騎士団きしだんも、あのきりれると、よろいうえからでも体調たいちょうくずし、せきまらぬと……! もはや、ちかれません!」


使つかえんやつらだ!」


ジュリアンは、玉座ぎょくざひじ力任ちからまかせにたたいた。 飢饉ききん魔物まもの。そして、疫病えきびょう。 まるで、くにほろぼすためのお手本てほんのような厄災やくさいが、エリアナを追放ついほうしてから、わずかすうかげつ月日つきひで、一気いっきせてきた。


(なぜだ……なぜ、わたし王太子おうたいしになった、このかがやかしい時代じだいに、こんな、不吉ふきつなことばかり……!)


「そうだ……」


ジュリアンは、まるで天啓てんけいでもたかのように、玉座ぎょくざとなりで、瘴気しょうき報告ほうこくあおざめてふるえている、少女しょうじょうでつかんだ。


「そうだ、リリアナ! おまえがいる!」


「ひゃっ……!?」


「リリアナ! いまこそ、おまえの『本物ほんもの』のちからせるときだ!」


ジュリアンは、リリアナを無理むりやりたせると、玉座ぎょくざから、民衆みんしゅう不安ふあんこえこえてくるバルコニーへと、彼女かのじょきずってった。


「あの『くろきり』を、浄化じょうかしろ! やまいくるしむたみを、やせ! おまえは、エリアナのような『偽物にせもの』ではなく、『本物ほんもの』の聖女せいじょだろうが!」


「あ、あ、あの、ジュリアン様……! わ、わたくしのちからは、そういう、やまいとか、きりとかを……」


「いいからやれっ!!」


怒鳴どなりつけられ、リリアナは、きながらバルコニーの先端せんたんたされた。 眼下がんかには、王宮おうきゅうまえあつまった、不安ふあんげな民衆みんしゅうかおかおかお


貧民街ひんみんがい方角ほうがくからは、たしかに、あの不吉ふきつな「くろきり」が、王宮おうきゅう地区ちくかって、ゆっくりと、しかし確実かくじつに、せまってきているのがえた。


「い、いやぁぁ……!」


リリアナは、はんばパニックになりながら、みずからの「能力のうりょく」を、最大出力さいだいしゅつりょく解放かいほうした。


「【歓喜かんきひから】(チャーム・ライト)ッッ!!」


まばゆい、黄金おうごんひかり王都おうとたみ熱狂ねっきょうさせ、ジュリアンのこころつかんだ、「奇跡きせき」のかがやき。


そのひかりは、王宮おうきゅうから王都おうと全体ぜんたいらしすかのように、つよく、つよく、はなたれた。


あつまっていた民衆みんしゅうも、そのひかりてられ、一瞬いっしゅん、うっとりとした表情ひょうじょうかべる。


だが。


そのひかりは、せまる「くろきり」にとどくと、 ―――ただ、とおけただけだった。


黄金おうごんひかりなかで、「瘴気しょうき」は、なん影響えいきょうけることなく、 むしろ、ひかり嘲笑あざわらうかのように、 より一層いっそう、そのくろさをして、ゆらめいている。


幻惑げんわく」のひかりは、「物理的ぶつりてき」な汚染おせんである瘴気しょうきたいして、 まったく、 なんの、 効果こうかも、なかった。


「……うそ……」


リリアナのかおから、く。 そして、その光景こうけいを、民衆みんしゅうていた。


「…………」


「…………おい」


「…………えてないぞ」


ひかりが……あのくろきりを、素通すどおりしてる……」


「ていうか、貧民街ひんみんがいのほう、まだせきこえこえるぞ!?」


あつまっていた民衆みんしゅうの、「幻惑げんわく」による陶酔とうすいは、 「え」という現実げんじつと、「やまい」という現実げんじつまえに、 完全かんぜんに、効力こうりょくうしなった。


かれらが、リリアナにけるは、もはや「崇拝すうはい」ではない。 「疑惑ぎわく」と、「いかり」だった。


「あの聖女様せいじょさまは……いったい、なになんだ?」


ひかってるだけじゃないか!」


「そうだ! 魔物まもの興奮こうふんさせるだけだったし、今度こんどきりにもかない!」


はらふくれねえ! やまいなおせねえ!」


「あのひとは……ただ、うたっておどる(まぼろしせる)だけか!?」


「ひっ……!」


民衆みんしゅうからはなたれる、しの敵意てきい


リリアナは、そのにへたりみ、くずれた。


「ちがう、わたくしは、わたくしは……!」


「な……なぜだ……」


ジュリアンもまた、バルコニーのうえで、愕然がくぜんとしていた。 しんじていた「本物ほんもの」の奇跡きせきが、 またしても、 現実げんじつの「厄災やくさい」のまえに、 なんやくにも、たなかった。



◇◇◇



「もう……おしまいです……」


玉座ぎょくざ


リリアナがわめきながらがってきても、ジュリアンは、うつろなで、ただ玉座ぎょくざすわむだけだった。


そこへ、あのいた宰相さいしょうが、 死人しびとのようなかおで、 ふるえるあしで、 ジュリアンのまえへと、うようにすすた。


「……殿下でんか


「……うるさい、いまかんがえている……」


殿下でんかッ!!」


宰相さいしょうが、しぼすような、 しかし、玉座ぎょくざすべてにひびわたる、 悲痛ひつうこえげた。


「……もはや、リリアナさまでは、無理むりですッ……!」


「なっ……!」


「あれは……あの『くろきり』は、ただのやまいではございません!」


宰相さいしょうは、王宮おうきゅうふる記録きろく管理かんりする立場たちばとして、 そして、かつて「匿名とくめい報告書ほうこくしょ」のあまりの正確せいかくさに、したいた一人ひとりとして、 ついに、 その「真実しんじつ」を、 くちにしてしまった。


「あれこそが……あれこそがッ……!」


「かつて、『番人ばんにん』が……エリアナ・ノエルさまが!」


いのちけて、警告けいこくしておられた……!」


「『地下ちか封印ふういん』の、 ―――『崩壊ほうかい』に、 ほかなりませんぞッ!!」


「―――――」


ときが、まった。 ジュリアンの思考しこうが、完全かんぜんに、停止ていしする。


エリアナ。 封印ふういん崩壊ほうかいねたみ。 のろい。 偽物にせもの追放ついほう


(あ……)


(あ……)


「だ、だまれぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」


ジュリアンは、みみふさぎ、 玉座ぎょくざからころちるようにして、 現実げんじつきつけた宰相さいしょうを、ばした。


だまれ! だまれ! だまれッ!」


「あんなおんなの、あんな『偽物にせもの』の『妄想もうそう』が……!」


現実げんじつになるわけがない!」


わたしは、間違まちがってない……! わたしは、『本物ほんもの』を、えらんだんだ……!」


そうさけぶ、ジュリアンのかおは、 みずからの「正当性せいとうせい」をしんじる、 かがやかしい王太子おうたいしのものですらなく、 ただ、 せまる「破滅はめつ」の足音あしおとおびえる、 あわれな子供こどものように、 恐怖きょうふで、 蒼白そうはくになっていた。



お読みいただき、ありがとうございます!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、 ぜひブックマークや、↓の【★★★★★】を押して評価ポイントをいただけますと、 執筆の励みになります!


(※明日の更新も20:00です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ