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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第4章:王都崩壊と過去との決別

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第23話:『王太子妃』への戸惑いと『決意』

ヴァイス国、王宮評議会、円卓えんたく


国王や大臣たちが退席し、先ほどまでの喧噪けんそうが嘘のように静まり返った室内。


セオドア・アークライト・ヴァイスの「異論は認めない」というおおやけの婚約宣言は、あまりにも衝撃的すぎて、エリアナ・ノエルは、まだ、その場から一歩も動けずにいた。


「…………」


(わ、たしが……王太子妃……?)


(セオドア様の……?)


頭が真っ白になる。


王都で、ジュリアン殿下の婚約者であった時、「王太子妃」という言葉は、彼女にとって「責務」であり、「呪い」であり、「地味な女」である自分には不相応ふそうおうだと嘲笑ちょうしょうされるための「かせ」でしかなかった。


だが、今。 セオドアが放ったその言葉は、王都の「聖約」とは、まるで重さが違った。


あれは「合理的」な氷の王子が、王都からの抗議こうぎを完璧に論破ろんぱするために放った、最大の「政治的ブラフ」だったのではないか。


「……セオドア様」


エリアナは、ようやく絞り出すような声で、隣に立つ男を見上げた。


彼は、評議会が終わったというのに、まだ彼女の手を握ったまま、離そうとしなかった。


「あ、あの……先ほどの『王太子妃』というのは……」


「言葉通りの意味だが」


セオドアは、こともなげに答える。 その金色の瞳は、評議会での絶対零度ぜったいれいど冷徹れいてつさから、いつもの「合理的」な魔導学者のものに戻っていた。


……いや、戻っている、ように見えた。


「で、ですが……!」


エリアナは、勇気を振り絞って、彼の手をそっと(しかし、強く)握り返した。


もう、王都にいた頃のように、一方的に侮辱ぶじょくされ、おびえるだけの彼女ではない。 この「氷の王子」とは、対等たいとうな「契約」と「信頼」で結ばれているはずだ。


だからこそ、聞かなければならなかった。


「あれは、私という『至宝』を、ヴァイス国に……いいえ、セオドア様ご自身に、完全に縛り付けるための、最も『合理的』な、『政治的判断』だったの、ですか?」


それは、エリアナが持ちうる、最大の懸念けねんだった。 王都では「聖約の責務」という「道具」として縛り付けられた。 ヴァイス国では「国家の至宝」という「道具」として縛り付けられる。


(……もし、そうだとしたら、私は……)


それは、あまりにも、悲しい。



◇◇◇



エリアナの、震える問い。


その問いの「本質」を、セオドア・アークライトという男は、瞬時しゅんじに理解した。


(……『政治的判断』、か)


彼は、一瞬、黙った。 そして、いつもの彼なら、こう答えただろう。


『そうだ。君という最高機密さいこうきみつ叡智えいちを、他国(とくに王都)の干渉かんしょうから守り、我が国に永続的えいぞくてきな利益をもたらすための、最も合理的なリスクヘッジだ』と。


だが、彼は、そう言わなかった。


あの日、花畑で彼女の笑顔えがおを見て「フリーズ」した、あの「非合理的なバグ」が、もはや彼の思考しこうの「中枢ちゅうすう」をめていることを、彼自身が、もう、自覚じかくせざるを得なかったからだ。


「……違う」


セオドアは、握っていたエリアナの手を、さらに強く握りしめた。 その声は、いつもの冷静な響き(ひびき)を、わずかに失っていた。


「……君という『叡智』を失う、というリスクヘッジ。その側面そくめんは、認める。現に、王都の愚かな抗議こうぎは、あれで完全に沈黙ちんもくさせられる」


「では、やはり……」


エリアナの表情が、わずかにくもる。


「だが」 セオドアは、言葉を続けた。 彼は、自らの「バグ」を、自らの「非合理」を、初めて「論理ろんり」ではなく、「感情かんじょう」のまま、口にした。


「……それ以上に、だ」


「セオドア様……?」


「あの日。緑化りょっかされた大地で、君が笑ったのを見た時」


セオドアは、あの時の「フリーズ」を思い出し、わずかに、こめかみを押さえた。


「……私の思考しこうは、一時的いちじてきに、機能不全きのうふぜんおちいった」


「えっ!?」


「合理的に説明せつめいできない。だが、あの瞬間しゅんかん、私の思考しこうは、国家の利益りえきでも、魔導学まどうがく真理しんりでもない、『何か』に、完全に上書うわがきされた」


セオドアは、エリアナの(度の強い)眼鏡めがねおくにある、戸惑とまどひとみを、まっすぐに射貫いぬいた。 彼の金色のひとみは、もはや「氷」ではなく、「熱」を宿していた。


「―――君を、だれにも渡したくない」


それは、ジュリアンがリリアナに向けた、表層的ひょうそうてきな「情欲じょうよく」ではない。 セオドアという男が、生涯しょうがいで初めて、自らの「合理性」の「外」に見つけた、「非合理的な感情バグ」そのものだった。


「エリアナ」


「……これは、『政治的判断』ではない」 「―――私個人の、『ねがい』だ」



◇◇◇



「…………っ」


エリアナの、大きく見開みひらかれたひとみから、熱いしずくが、一筋ひとすじ、こぼれちた。


(……『願い』……)


王都おうとでは、だれも、彼女かのじょに「ねがい」など、いだかなかった。


父も、母も、彼女かのじょを「聖約せいやく番人ばんにん」という「責務せきむ」の「道具どうぐ」としてあつかった。


ジュリアンは、彼女かのじょを「聖約せいやくかせ」という「邪魔者じゃまもの」としてあつかった。


だが、今。 目のめのまえおとこは。 彼女かのじょの「叡智えいち」を「至宝しほう」とび、 彼女かのじょの「笑顔えがお」に「機能不全フリーズ」をこし、 そして、 彼女かのじょという「個人こじん」を、「だれにもわたしたくない」と、「ねがって」くれている。


「……あ……」


「……う……」


なみだが、まらなかった。


王都おうとながした、くやなみだでも、かななみだでもない。 このくにて、初めて「価値かち」をみとめられ、 初めて「ひと」としてあつかわれ、 そして、初めて「一人の女性じょせい」として「のぞまれて」いる。


その「幸福こうふく」が、せきったように、あふしてきた。


「エリアナ……?」


セオドアが、彼女かのじょなみだに(合理的に)狼狽ろうばいする。


「ま、待て。私の『非合理的な告白こくはく』が、きみの『不快ふかい』という感情かんじょう誘発ゆうはつしたか? だとしたら、即時そくじ撤回てっかいを―――」


「ちがいますっ!」


エリアナは、なみだと、そして、笑顔えがおで、くびよこった。 彼女かのじょは、セオドアににぎられたままだったを、みずからの意思いしで、 ―――強く、強く、にぎかえした。


「……うれしい、です」


「……セオドア様の、『願い』に……」


「……わたくしも、こたえたい」


エリアナは、かれをまっすぐにつめ、 王都おうとの「かせ」から、完全かんぜんはなたれた、 最高さいこう笑顔えがおで、った。


「―――はい。……よろこんで……!」


二人が、たがいのを、かたく、むすわせた、 その、瞬間しゅんかん


賢者けんじゃとう」の、さらに奥深おくふかく。 「古代こだいのろい」からはなたれ、ヴァイスくにの「叡智えいち」として調和ちょうわした、巨大きょだいな「石碑せきひ」が、 まるで、二人の「新しい聖約せいやく」を祝福しゅくふくするかのように、 おだやかで、あたたかな、あおひかりを、 一瞬いっしゅんはなった。


―――そして、 それとは、対照的たいしょうてきに。 とおく、とおく、はなれた、 いまや「きゅう王都おうとばれる、 あの、アルビオン王国おうこくの、地下ちかふかく。


古書こしょ」が、かつて、エリアナに、 最大さいだいの「警告けいこく」を、 はっつづけていた、 「第一だいいち封印ふういん」の、 その、中心部ちゅうしんぶで。


パキリ。


と、 なにかが、 決定的に、 くだける、 ちいさな、ちいさな、 おとがした。



お読みいただき、ありがとうございます!


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(※明日の更新も20:00です)

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