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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第3章:芽吹く大地と氷の溶解

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第22話:王子の『変化』と『公の宣言』

ヴァイス国、賢者の塔。 あの日、緑化された花畑での「非合理的・・・・・なフリーズ」以来、セオドア・アークライト・ヴァイスの完璧な論理回路には、観測史上、最大のバグが発生していた。


(……非合理的だ)


セオドアは、自らの執務室で、膨大な術式が書き込まれた羊皮紙を前に、ここ数日、何度目かも分からない内省を行っていた。


(あの日、エリアナ・ノエルが見せた「笑顔」。あの視覚情報インプットに対し、私の思考プロセッサが、一時的な機能不全フリーズを起こした)


(原因は? おそらく……『独占欲』。あるいは、それに類似した、極めて非合理的な感情の奔流ほんりゅう


彼は、自らの感情を「バグ」として冷静に分析しようと試みる。


だが、分析すればするほど、導き出される「答え」は、彼が「氷の王子」として築き上げてきた合理性の「外」にあった。


彼女の笑顔(インプ-"ット)は、彼の胸に、「国の損失」とは質の異なる、明確な「個人的な損失」への「恐怖エラー」を発生させたのだ。


(……馬鹿げている。感情にリソースをくなど、最も非効率だ)


セオドアは、一度、思考をリセットしようと試みる。 だが、ダメだった。 彼が合理的な思考に戻ろうとすればするほど、彼の「本能」が、別の「合理的な結論」を叩きつけてくる。


(―――思考を変更する)


セオドアの金色の瞳が、カチリ、と焦点を結んだ。


(個人の感情バグは、一旦、保留ペンディングする)


(だが、『リスク』は、排除しなければならない)


(最大の『リスク』とは何か?―――あの『至宝エリアナ』を、他国に奪われることだ)


(特に、あの愚かな王都アルビオンが、万が一にも、彼女の『真価』に気づき、返還を要求してくる可能性)


そうだ。 彼が今、最も優先すべきタスクは、それだ。


セオドアの思考は、いつもの冷徹な「合理性」を取り戻した。 彼が導き出した「結論」は、もはや「混乱フリーズ」ではない。


自らの「非合理的な感情」さえも「合理的」に正当化し、目的を遂行するための、完璧な「ソリューション」だった。


「―――エリアナ・ノエルという『至宝』を、我が国に、いや、私に完全に『固定ロック』する。それが、現時点で最も『合理的』な判断だ」



◇◇◇



その「合理的」な判断は、数日後、ヴァイス国王が主催する「王宮評議会」の場で、実行に移された。


「賢者の塔」の最上階にある、円卓えんたくの間。 ヴァイス国王(セオドアの父)と、国の重鎮じゅうじんである大臣たちが集う、最高意思決定機関。


その場には、「古代の呪い」を解き、「豊穣ほうじょうの聖女」として大地をよみがえらせた「聖女エリアナ」も、当然のように、セオドアの隣に席を与えられていた。


彼女は、自分が王都で「偽りの番人」と呼ばれていたことが嘘のように、この国の重鎮たちから、尊敬と信頼の眼差まなざしを向けられていた。


「うむ。エリアナ殿の『緑化計画』は、実に素晴らしい」


玉座に座る国王――セオドアの父であり、彼以上に厳格げんかくで知られる老王――が、満足げにうなずく。


「呪いが解けただけでなく、あの『死の大地』が、数週間で穀倉地帯に変わるとはな。まさに『奇跡』だ」


「もったいないお言葉です。私は、『声』に従っただけで……」


エリアナが謙遜けんそんする。 その隣で、セオドアは「当然だ」とでもいうように、無表情で資料をめくっていた。


評議会は、ヴァイス国の輝かしい「未来」について、明るい議題で進んでいた。 ―――その、瞬間までは。


「緊急報告! 王都アルビオンより、正式な『抗議書』であります!」


一人の伝令兵が、血相けっそうを変えて、評議会のに飛び込んできた。 その手には、アルビオン王家の「剣」の紋章が刻まれた、無礼な羊皮紙が握られていた。


「……アルビオンだと?」


国王が、不機嫌そうにまゆをひそめる。 エリアナの体が、びくり、と小さく震えた。 「王都」という言葉が、彼女の心に、今だに暗い「かせ」の記憶を呼び覚ます。


セオドアは、そんな彼女の様子を一瞥いちべつすると、何でもないことのように、伝令兵に告げた。


「読め。その『抗議書』とやらを、全員に聞こえるように」


伝令兵は、ゴクリと息を飲むと、震える声でその「抗議書」を読み上げた。


「は、はい! 『―――貴国が、我が国の『偽りの番人』エリアナ・ノエルを不当にかくまい、共謀きょうぼうして、我が国に『呪い』をかけていることは、明白である!』」


「……何?」


エリアナが、信じられない、という顔で目を見開く。


「『貴国きこくのエリアナが放った『魔物の呪い』により、我が国の騎士団は壊滅かいめつした! これは、明らかな『侵略行為』である!』」


「……」


評議会が、水を打ったように静まり返る。 それは「抗議」ですらなかった。 ジュリアンが逃げ込んだ、「妄想」と「責任転嫁」の、支離滅裂しりめつれつな「宣戦布告」だった。


「……馬鹿馬鹿ばかばかしい」


一人の大臣が、こめかみを押さえる。


「ジュリアン王太子は、ついに、現実と妄想の区別もつかなくなったか」


「だが、無視はできん」


別の、法務をつかさどる老齢の大臣が、難しい顔でエリアナを見た。


「……聖女エリアナ様。貴女あなたの『叡智』が、我が国に『至宝』級の利益をもたらしたことは、事実。……しかし」


老大臣は、あえて、セオドアの「氷の視線」を浴びながら、懸念けねんを口にした。


「貴女が、あのアルビオン王国の『元王太子妃候補』であったことも、また、事実」


「……」


「アルビオンが、これほど『貴女あなた』に固執こしつし、難癖なんくせをつけてくる以上、我が国としては、貴女の『立場』を、明確にしなければ……」


「―――その通りだ」


老大臣の言葉をさえぎったのは、それまで沈黙していた、セオドア・アークライト・ヴァイス、その人だった。 彼の声は、氷のように冷たく、議場全体を支配した。


「アルビオンの愚行ぐこうは、どうでもいい」


セオドアは、玉座の父王と、評議会の全員を見渡した。


「問題は、法務大臣が言う通り、エリアナの『立場』だ」


彼は、老大臣に向き直る。


「彼女は、王都アルビオンが『偽りの番人』とののしり、『聖約』ごと捨て去った『賢者』だ。……違うか?」


「そ、それは……左様さようですが……」


「そして」


セオドアは、言葉を続ける。 その金色の瞳は、エリアナがこの国に来て以来、見たこともないほどの、強い「意志」の光を宿していた。


「―――彼女は、私が、このヴァイス国に『必要』だと判断し、『選んだ』女性だ」


「捨てた」国と、「選んだ」男。


その鮮烈せんれつな対比に、評議会は息をんだ。



◇◇◇



「……セオドア、様……?」


エリアナは、自分の心臓が、大きく鳴っているのを感じた。


(今、この人……『私が選んだ』と……?)


だが、セオドアの「宣言」は、まだ終わっていなかった。 彼は、王都からの「抗議書」を、まるでゴミでも払うかのように、テーブルの端に押しやった。


そして、玉座の父王に向かって、臣下しんかとしてではなく、一人の「王子」として、高らかに宣言した。 その声は、「私の『至宝』だ」とささやいた、あの時とは比べ物にならないほど、おおやけのものだった。


「父上。及び、評議会の諸君」


「王都アルビオンの、これ以上の『干渉』と『リスク』を、最も『合理的』に、かつ『永続的』に排除する、唯一ゆいいつの『解』を、今、ここで提示する」


セオドアは、ゆっくりと立ち上がると、 呆然ぼうぜんとするエリアナの隣に立ち、彼女の手を、その氷の手袋で、強く、優しく、握りしめた。


「―――賢者エリアナ・ノエルを」


「我がヴァイス国の、『王太子妃』として、正式に招聘しょうへいする」


「……え」


エリアナの思考が、完全に停止した。 王太子妃? 王都で、あれほど「責務」であり、「かせ」でしかなかった、あの「呪い」のような響き。


だが、セオドアが口にする「王太子妃」は、全く違う意味を持っていた。


セオドアは、エリアナの手を握ったまま、評議会の全員を、絶対零度ぜったいれいどの視線で射貫いぬいた。


「―――異論は、認めない」


王都の「聖約」という名の「押し付け」ではない。


国の危機を救い、大地をよみがえらせた「実力」と、 セオドア・アークライトという一人の男の、「非合理的な感情バグ」が「合理的」に導き出した、おおやけの「婚約宣言」。


(……わ、たし、を……?)


(……王太子、妃、に……?)


エリアナは、セオドアの真剣な横顔と、握られた自分の手を見つめながら、 喜びでも、驚きでも、戸惑いでもない、 人生で初めての「幸福」な情報奔流によって、完全に、真っ白になっていた。


お読みいただき、ありがとうございます!


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(※明日の更新も20:00です)

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