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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第3章:芽吹く大地と氷の溶解

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第17話:不毛の大地と『緑化計画』

翌朝。


「賢者の塔」の最上階で、エリアナは昨夜『声』から受け取った「新たな課題」を、即座にセオドアに報告していた。


「北の不毛地帯の……地脈が枯渇している?」


セオドアは、エリアナが贈られた髪飾り――彼が「マーカーだ」と言い張ったそれ――を、どこか満足げに(だが本人は無自覚に)眺めながら、彼女の報告に耳を傾けていた。


「はい。『声』によれば、呪いの瘴気しょうきによって、大地そのものの魔力いのちが吸い尽くされてしまった、と」


「……ふむ」


セオドアは、数秒間、その天才的な頭脳で情報を処理すると、すぐに立ち上がった。


「行くぞ、エリアナ」


「え?」


「『百聞は一見に如かず』だ。君の『声』が示す『現場』を、私の『目』で確認する。これほど効率的な調査はない」


彼は、すでに外套がいとうを羽織り、エリアナにも防寒具を手渡していた。


「古代の呪い」という最大の脅威が去った今、二人の関心は、次なる「国の復興」へと、スムーズに移行していた。



◇◇◇



ヴァイス国の首都から、魔導馬車で北へ数時間。


そこは、昨日までのヴァイス国であれば、瘴気に覆われて立ち入ることさえできなかった「死の大地」だった。


馬車を降りたエリアナは、目の前に広がる光景に言葉を失った。


空は、呪いが晴れたことで、抜けるような青空が広がっている。 だというのに。 大地は、まるで違った。


見渡す限り、灰色。 草一本生えず、枯れた木々が、まるで墓標のように立ち並んでいる。地表は乾燥してひび割れ、風が吹くたびに、死んだ土埃つちぼこりが舞い上がるだけだった。


「……これが」


「ああ」


セオドアは、馬車から降り立つと、その「死の大地」に躊躇ちゅうちょなく足を踏み入れ、ひび割れた土をひと掴み、指先でこねるようにして分析した。


「魔力、ゼロ。いや、マイナスか。大地そのものが『餓死』している状態だ」


彼の金色の瞳が、冷静に、だが厳しく細められる。


「これほどの土地が、ただ『放置』されている。国家として、最大の非効率だ」


瘴気があった頃は、この土地の存在そのものが「脅威」だった。 だが、瘴気が晴れた今、この広大な不毛地帯は、ヴァイス国にとって「活用すべき」広大な「負債」となっていた。


「セオドア様、『声』は……」


エリアナは、完全に調和した「叡智」――「古書」と「石碑」のネットワーク――に、意識を集中させた。


もはや、彼女が意識せずとも、『声』は彼女の疑問に、最適な答え(データ)を返してくれる。


『―――解読者エリアナ。現状ヲ分析。地脈ノ完全ナル枯渇ヲ確認。通常ノ農耕魔術デハ、回復不可能』


「やはり、普通のやり方では……」


「当然だ」


セオドアが、エリアナの呟きを引き取る。


「この規模の『死』を覆すには、現代魔導学では、それこそ数百年単位の『地力回復』を待つしかない。合理的ではないな」


セオドアでさえ、「不可能」と断言する。 だが、エリアナの「叡智」は、その「不可能」を覆す答えを持っていた。



◇◇◇



「セオドア様」


エリアナは、彼女の「パートナー」であり、この国で唯一、彼女の「声」の価値を理解している男に、向き直った。


「『声』が、解決策を提示しています」


「……ほう。言ってみろ」


セオドアの金色の瞳に、王都での「呪いの解読」の時と同じ、知的な昂奮こうふんの色が浮かんだ。 彼は、エリアナの『声』が、現代魔導学の「不可能」を、いともたやすく超越することを、すでに知っている。 エリアナは、脳裏に響く『声』の指示を、そのまま言語化した。


「二つの手順プロセスが必要です」


「第一に、枯渇した地脈の『中核ノード』に対し、外部から強大な『魔力』を直接注入インジェクションする。大地に『栄養』を与える作業です」


「ふむ。それだけなら、私の魔力でも可能だ」


セオドアが、こともなげに言う。国家規模の地脈に魔力を注入するなど、並の王宮魔導師長が束になっても不可能な、まさに「規格外」の力技だった。


「ですが、第二の手順がなければ、魔力は地脈に定着せず、霧散してしまいます」


「……第二の手順、だと?」


「はい」


エリアナは、ごくりと息を呑んだ。 『声』が示しているのは、文字通り「神代」の技術。


「失われた『古代の地術ちじゅつ』。大地そのものに語りかけ、土壌を強制的に『蘇生』させるための……『詠唱』が必要だ、と」


「―――っ!」


その瞬間、セオドアの「氷の王子」の仮面が、驚愕きょうがくに揺らいだ。


「古代地術……だと? 馬鹿な、それは神話の時代の産物だ。文献にこそ残れ、その詠唱は、数千年前に完全に『失われた(ロスト)』はずだ……!」


天才魔導学者である彼が、生涯をかけて探し求めても、触れることすらできなかった「ロストテクノロジー」。


王都では、「不吉な妄想」とジュリアンに罵られたエリアナの「声」は、その「神の領域」の設計図さえも、当たり前のように持っていたのだ。


「エリアナ」


セオドアの声が、かすかに震えている。


「……その『詠唱』、君は、できるのか」


「いいえ」


エリアナは、きっぱりと首を振った。


「私にはできません。ですが―――」


彼女は、自らの胸を指差した。


「この『声』が、その詠唱の『すべて』を知っています」



◇◇◇



セオドアは、数秒間、黙り込んだ。 彼の頭脳が、この「奇跡」を、どう実行すれば最も「合理的」かを、猛スピードで計算していた。 やがて、彼は、その金色の瞳で、目の前の「死の大地」ではなく、ただ一人、エリアナだけを見据えた。


「……そうか」


彼の口元に、あの地下で呪いの中核を見つけた時と同じ、獰猛どうもうなまでの笑みが浮かんだ。 「『鍵』も『設計図』も、すべて君の中にある、というわけだ」


「は、はい」


「ならば、話は早い」


エリアナは、王都にいた頃の自分とは、もう違う。 この「声」の価値を信じてくれるこの人の前でなら、自分もおくすることなく、提案できる。


「私が、『声』の詠唱を担当します」


エリアナは、セオドアの瞳をまっすぐに見つめ返した。


「そして、セオドア様には、その詠唱に合わせて、地脈に『魔力』を注入していただきたいのです。……あの『呪い』を解いた時のように」


二人の、共同作業。 「叡智」のエリアナと、「力(魔導学)」のセオドア。 この二人でなければ、決して成し得ない、国家創生レベルの「奇跡」。


セオドアは、その挑戦的な提案に、心底満足そうに頷いた。


「―――君にならできるだろう」


彼の信頼は、絶対だった。 エリアナの「声」が「できる」と言い、彼女自身が「やる」と言うのなら、彼はそれを実現させるための「手段」を、無制限に提供するだけだ。


「リタ(助手)に命じ、すぐに『賢者の塔』の全リソースを凍結。この『緑化計画』に回せ」


「えっ!? い、いえ、そんな、まずは小規模な実験から……」


「非合理的だ」


セオドアは、エリアナの「常識的な」提案を、一言で切り捨てた。


「君の『声』の正確性リソースは、すでに『古代の呪い』の調和で実証済みだ。実験テストなど時間の無駄だ。やるなら、この不毛地帯すべてを、一気にやる」


「い、一気に、ですか!?」


エリアナは、目の前に広がる、地平線まで続く「死の大地」を見渡して、眩暈めまいがしそうになった。 だが、セオドアは、まるで裏庭の家庭菜園に水をやるかのような口調で、続けた。


「この計画は、我が国の『食糧問題』と『国土問題』を、同時に解決する、最重要国家プロジェクトと認定する」


彼は、彼の「至宝」であり「賢者」であるエリアナに向き直ると、完璧な「氷の王子」の無表情で、こう言い放った。


「合理的に考えて、必要な投資だ」


「―――賢者エリアナ。国の予算は、好きに使え」


それは、王都のジュリアンが聞けば、泡を吹いて倒れそうなほどの、まさに「王子のスケール」でしか成し得ない、とてつもないバックアップの宣言だった。


エリアナとセオドア。 二人の次なる「共同作業(国家プロジェクト)」が、今、静かに、だが確かに始動した。



お読みいただき、ありがとうございます!


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(※明日の更新も20:00です)

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