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「無能な偽物」と追放された私、隣国の氷の王子に「失われた叡智を持つ至宝」と見抜かれ、全力で溺愛されています  作者: シェルフィールド
第2章:賢者の契約と古代の呪い

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第15話:『古代の呪い』の完全調和

「あなたの『魔導学』と、私の『声』で、この悲劇を終わらせます!」


エリアナの決意に満ちた叫びが、呪いの触手しょくしゅが荒れ狂う地下空間に響き渡る。


セオドアは、彼女の真っ直ぐな瞳を見つめ返すと、その金色の瞳に宿っていた獰猛どうもうな「怒り」を、寸分の狂いもない「絶対的な信頼」へと変換させた。


「……面白い」


彼が、薄く笑った。


「その『こたえ』に、我が国の未来すべてを賭けよう。―――指示を、エリアナ」


セオドアは、エリアナを襲っていた触手を弾き返していた「絶対凍土」の結界を、一瞬にして解除した。


『ギィイイイアアアッ!』 守りを失ったエリアナに、怨念の塊が再び殺到する。


だが、エリアナはもう怯えなかった。 彼女は、セオドアの魔力が即座に自分を護衛する「第二の結界」へと再構築されるのを背中で感じながら、玉座の前に毅然きぜんと進み出た。


彼女は、王都から持ってきた麻袋から、ジュリアンに叩き割られた『古書』の石版――その最大の破片――を取り出すと、玉座の背後にある巨大な「力の石碑」に、両手で強く押し当てた。


「セオドア様!」


「ああ!」


セオドアは、エリアナの背後に立ち、自らの左手を彼女の肩に、右手を「石碑」の、エリアナの手とは反対側へと添える。


二人の「賢者」と「王子」が、引き裂かれた「叡智」を繋ぐ、たった一つの「くさび」となった瞬間だった。


「『声』が示す『調和』の聖句を詠唱します!」


エリアナは、膨大な情報奔流に意識を集中させ、目を閉じた。


「あなたは、私の『声』に合わせて、あなたの魔力を『破壊』ではなく、二つの叡智を繋ぐ『接着剤』として、寸分違たがわず流し込んでください!」


「……無茶を言う」


セオドアが、苦笑とも感嘆ともつかぬ息を漏らす。


それは、大陸最強の魔導学者である彼にして、生涯で最も高難易度の「魔力制御」を要求する、無謀な指示だった。


「だが、合理的な判断だ。―――やれ、エリアナ!」


「はい!」


エリアナは、息を吸い込んだ。 そして、彼女の唇から、王都の地下書庫で響いていた「警告」でも、先ほどの「古代言語」とも違う、魂を震わせるような「聖句」が紡がれ始めた。


それは、人間が発する「音」ではない。 引き裂かれた「叡智」が、数百年の時を超えて再び一つになろうとする、「調和」の旋律そのものだった。


「――― "Kha-ra-s()ia, (ラ) (シ) (ア)" !!」 (嘆キノ同胞ともヨ!)


「――― "Ly()i()-e()-l()" !!」 (我ガ過チ(あやまち)ヨ!)


エリアナの「声」が響くたび、『古書』の石版と「力の石碑」が、まばゆい光を放ち始める。


「ここだ!」


セオドアの全神経が研ぎ澄まされる。


彼は、エリアナの「声」によって励起れいきした二つの叡智の「隙間」に、自らの膨大な魔力を、髪の毛一本よりも細く、鋼よりも強く調整し、完璧なタイミングで流し込んでいく。


魔力が、熱い。


セオドアの魔力は、彼の「氷」の異名とは裏腹に、エリアナの肩を掴む左手を通して、まるで灼熱しゃくねつの奔流のように彼女の体を駆け巡る。


だが、それは「呪い」の熱さではない。


エリアナの「声」という「設計図」に従い、セオドアの「魔力」という「資源」が、壊れた絆を修復していく、温かい「生命」の熱だった。



◇◇◇



『ア……アア……』


玉座に座していた「呪いの核心(怨念の塊)」の動きが、止まった。


エリアナの「聖句」は、怨念の核となっていた『初代番人』の魂に、直接語りかけていた。


『ワレラハ……ヒトツ……』


(あなたは、一人ではなかった)


「――― "N()a()-q()u()i()-s()-t()-r()" !!」 (我ラ(叡智)ハ、ココニかえル!)


詠唱が、最高潮に達する。


エリアナが押し当てた『古書』の石版が、ジュリアンによってつけられた「ヒビ」ごと、まばゆい光に包まれていく。


そして、その光は、セオドアの魔力という「接着剤」を得て、巨大な「力の石碑」の表面へと、吸い込まれるように溶け合っていく。


割れた石版が、あるべき場所へと「帰還」していく。 カチリ、と。 数百年ぶりに、最後の「鍵」がはまった音が、二人の脳裏に響き渡った。


『――――――――』


玉座の「怨念」から、最後の「声」が漏れた。 それは、もはや「呪い」でも「嘆き」でもない。 長すぎた苦しみから解放された、「安堵あんど」の吐息だった。


玉座に座していた黒いミイラのような「塊」が、怨嗟えんさ瘴気しょうきを失い、ハラハラと、光の粒子となって崩れていく。


黒い触手は、すでに跡形もなく消え去っていた。 そして、「呪い」の発生源が消滅したことにより、この地下空間全体を覆っていた『中央魔力循環炉』の機能が、劇的な変化を遂げた。


ゴオオオオオオオオ……! 不気味な重低音を響かせていた機械が、静かに、だが力強い鼓動へと変わる。


呪詛じゅそによって黒く汚染されていた歯車やパイプが、本来の色を取り戻していく。 それは、この国を守る「防護障壁」と同じ、澄み切った、美しい「青白い光」だった。


ヴァイス国を数百年蝕むしばみ続けた「古代の呪い」が、二人の「知性」の調和によって、完全に解き放たれ、国を守る「真の祝福」へと生まれ変わった瞬間だった。


大地が、呼吸を再開した。


首都の広場で、奇跡の成就を祈っていた民衆は、その瞬間、自分たちの足元から、温かく、清浄な「魔力」が湧き上がってくるのを感じていた。


「おお……!」


「瘴気が……瘴気が、完全に消えたぞ!」


「見てみろ! 空を!」


人々が見上げた空では、先日の「表層クリーニング」でわずかに見えていただけの「青い防護障壁」が、首都の空全体を覆う、壮麗なオーロラとなって輝いていた。 ヴァイス国に、真の「安定」が訪れたのだ。



◇◇◇



「……終わ、った……」


地下空間が、安定した「青い光」に満たされるのを最後まで見届けたエリアナは、その場に崩れ落ちそうになった。 極度の精神集中と、セオドアの膨大な魔力をその身に受けたことによる消耗が、限界を超えていた。 だが、彼女の体が冷たい石畳に倒れ込むことはなかった。


「―――見事だ、エリアナ」


セオドアが、彼の「絶対凍土」の結界よりもなお素早く、エリアナの消耗しきった体を、その太い腕で力強く抱きとめていた。


「あ……セオドア、さま……」


「喋るな。貴女は今、限界だ」


エリアナは、彼の腕の中で、安心しきったように意識を手放しかけた。 王都では、この呪われた「声」のせいで、追放までされたというのに。 この国では、この「声」のおかげで、国を救い、そして、この「氷の王子」の腕の中にいる。


(……私、役に、立てた……)


セオドアは、腕の中で気を失いかけた「賢者」の、汗に濡れた前髪を、その無骨な指先でそっと払い除けた。 その金色の瞳には、もはや「合理的」な仮面はない。


彼が生涯をかけて探し求めていた「真理(叡智)」を、彼と共に見つけ出し、そして国さえも救ってのけた、唯一無二の存在を見つめる、熱い光だけがあった。


彼は、エリアナの耳元に、彼女にだけ聞こえるように、静かに、だが何よりも強く、告げた。


「君こそが、我が国の……いや、私の『至宝』だ」


その言葉を肯定するように、塔の地上から、首都の民衆が上げる、割れんばかりの歓声が響いてきた。


『うおおおおおおっ! 賢者様、万歳!』


『エリアナ様が、呪いを解き放ってくださったぞ!』


『我らがヴァイス国の、真の救世主だ!』


熱狂的な「賢者」への称賛の声が、新しく生まれ変わったヴァイス国に、高らかに鳴り響いていた。


お読みいただき、ありがとうございます!


面白い、続きが気になる、と思っていただけましたら、 ぜひブックマークや、↓の【★★★★★】を押して評価ポイントをいただけますと、 執筆の励みになります!


(※明日の更新も20:00です)

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