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白い箱の中で 後編

 どうして?これは夢?


 でも、目の前のハンバーグはあたたかそうだし、おなかもすいている。


「とりあえず、食べてみよう」

するとまたどこからともなく、箸が現れた。


「……おいしい」

今まで食べた中でいちばん、うまく表せないけれど、かんぺきな味だった。量もちょうどいい。そしてこのハンバーグを食べた感覚があるってことは、これは現実に起こっていることなんだろうな。なぞだ……。


食べ終わって落ち着くと、もうぜんぶどうでもよくなった。来てすぐはわけがわからなくて慌てたけど、なんと言ってもわたしがずっと望んでいた理想の世界だ。


「マンガが読みたい!この間読んでおもしろかったやつの続きがいいな!」と言えばそのマンガが目の前にぽんと現れるし、「甘いものが食べたい!高級なチョコで!」と言えばゆめちゃんのおうちでごちそうになったことがある高そうなチョコがたくさん降ってきた。


 なんて素敵な世界。


 ずっとやってみたかった新作のゲームも、高くて買ってもらえなかったぬいぐるみも、食べてみたかったおかしも着てみたかったお洋服も、なんでもすべて手に入った。


 嫌なことは何ひとつない、わたしだけの空間!


 飽きるまで遊んで、おなかがすいたら好きなものを食べて、疲れたらふっかふかのベッドで眠る日々。かいとくんとゆめちゃんの言葉がほんの少し頭の中をちらつくこともあったけど、それでも白い箱は最高だ。


ああ、なんで急にわたしはここに来られたんだろうと思っていたけれど、もしかしたら七夕の神さまがお願い事を叶えてくれたのかもしれない!


そこまで考えてから、急にみんなに会いたくなった。遊びまくっていてあまりさびしさを感じる暇がなかったけれど、なにせここにはわたしひとりしかいないから。


そういえば、外の世界はどうなっているんだろう。わたしがいなくなって、みんな心配していないかな?お父さんとかお母さんが、わたしを探して困ってないといいけど……。


 あ、そっか、こういうときこそ!


「お父さんとお母さんと友だちみんな……わたしが大切にしたいなって思っている全員が、わたしがいなくなったことを気にしませんように」


これでよしっと。


 あとは、

「さびしいから久しぶりにゆめちゃんとお話ししたいな」


そう言うと、お決まりのシステムでゆめちゃんが目の前に現れた。


「ゆめちゃん久しぶ……」

「かなちゃんおはよー!今日ね、漢字のテストあるんだって。さいあくだあ……。でも頑張らなくちゃね!だってゆめ、お医者さんになるんだもん!……ってあれ?かなちゃん?どうしたの?」


久しぶりに会ったはずのゆめちゃんはいつも通りで。……なのになんだかちがうひとみたいだった。


「ううん。なんでも、ない」

「ここすごいね。かなちゃんの理想の世界だ!かいととけんやと、よかったねーって話してたんだよ?」


ゆめちゃんがいつもみたくにーっと笑う。


「かいとくんも?」

「うん!そうだよ?」


だけど、その笑顔をまぶしいとは思えなかった。


「ゆめちゃんとかいとくんは、白い箱を反対してたのに?」

「うん!だって、かなちゃんがお願いしたことが叶ったんでしょ?……ねえ、やっぱり変だよ?どうかした?」


 かなちゃんのほうが、変だよ。と思うのに、なぜだかうまく口を動かせなかった。


 「……ぜんぜん大丈夫だよ!ありがとう。これから学校なんでしょ?漢字テスト頑張ってね」


「そーお?ならいいや!じゃあね!」

ぶんぶんと手を振るゆめちゃんにわたしも手を振り返すと、ゆめちゃんは消えていった。


 心配しないでほしいと願ったのは私だ。今も別に心配させたいわけじゃないし、ゆめちゃんの言うとおり、願いが叶ってうれしい。それに、白い箱も否定されなかった。喜んでいいはずなのに。


 でも、それって本当にゆめちゃんなの?と、心の奥の方で、もうひとりのわたしがつぶやく。今のゆめちゃんは、わたしが会いたかったゆめちゃんじゃないような気がした。


 全てが思い通りの世界。



 本当に?



 わたしが願ったはずなのに、どうしてこんなにもやもやするの。



☆☆☆



 ゆめちゃんと話したあとしばらくは気持ちが晴れなかったけど、ある程度時間が経つとこの世界の素晴らしさでまたすべてがどうでもよくなった。

おいしいごはんに、楽しいことだけしていればいい生活。

わたしが望んだままなのだから。


 ゆめちゃんと話したのがはるか前に感じるほど時間が経った頃。だいぶこの世界を満喫したわたしは、かんぺきなごはんの味に少し飽きてきていた。


「今日はお母さんが作ってくれたような味のごはんがいいな」


出てきたのはオムライス。ひと口食べると、ぶわああっと幸せになれるあの感じが好きだ。


「いただきます」

ぱくっといつものように口に運ぶ。


「あれ?」

なんとなく違う……? 気のせいかな。


まあいいかとすべて食べ終わったあと、いつものように「食器を片づけて」と声をかけた。

「っていうか口にするシステムめんどくさいや。わたしが思ったら叶えるシステムに変えてほしい!」



 白い箱は、本当になんでも叶えてくれる。



 そこからの日々は、ありえないくらいに楽ちんだった。おなかがすいたと思ったらもう目の前に食べたいものがあるし、背中がかゆいと思ったらその瞬間に治ってしまう。


いつしかわたしは、何かをしたいと思わなくなった。だって、願いはすべて思い浮かんだその瞬間に叶っていったから。



☆☆☆



そうしてどのくらいたったんだろう。


ゆめちゃんと話してから、ここには一度も誰かを呼んでいない。なんとなく、あのときの違和感を感じるのが怖かったんだと思う。

会いたいと思うような人にはもうすでに心配させないようにと箱にお願いしたあとだったから、誰を呼ぶこともできなかったのだ。


そしてふと、本当にふと、こうきくんはどうしているかな。と思った。わたしがいなくなってすっきりしているだろうな。なんて。



すると目の前に、こうきくんがいた。



え?ちょっとまってよ箱さん何してるの?!ストップ!思ったら叶うオーダーシステムやっぱストップ!!!

何がうれしくて自分に意地悪してくる人と会わなくちゃいけないの?!今すぐこうきくんを帰して!!……ってあれ?


あ、そっかわたし、思った通りのオーダーとめたんだっけ。慌てながらも、「こうきくんを元の……」と唱え始めると、こうきくんが静かに泣いていることに気づいた。


「え……?」

どうして?


「良かった…………。ごめん、ほんとにごめん……」


泣きながら謝り続けるこうきくんを見て、そういえばわたし、こうきくんの前でこの白い箱に消えたのか。とどこか冷静に思った。


「ずっと謝りたかったんだ。かながここがいいって思っていたとしても、追い込んだこととか、その前の意地悪とか全部」


ありえないことが起きているはずなのに、なぜだかゆめちゃんと話したときみたいな違和感がこうきくんにはなかった。よっぽど今のこうきくんの方がいつも通りじゃないのに。


「どうして急に?どうして……?」

久しぶりにまともに声を出したせいで、わたしの声は少しだけがさがさしていた。


「ずっと後悔してたんだ。俺のせいでかなが急にいなくなったときから、外の世界で」

本当にごめんなさい。とこうきくんは深く頭を下げた。


「わたしのこと、嫌いなんじゃないの?」

声が震えた。



「好きだよ」



顔をあげたこうきくんが、私の目をまっすぐ見て言った。強くはっきりと響く声だったのに、声色は脳みそが爆発しそうになるくらい優しくてわけがわからなくなる。


「俺の方を見て。って方法を、俺は間違えまくってた。本当にごめん。いなくなってから気づくなんて遅すぎ……え?!」


 泣きたくなかったのに。泣くつもりなんてなかったのに。


そう。わたしはきっとさみしかったのだ。ゆめちゃんもけんやくんもかいとくんも、みんなが私のいない世界を当たり前に生きていて、あまりよく思っていなかった場所にわたしがいても、みんなよかったねと言うだけで。


「ごめん。しか今の俺は言えない、けど」


こうきくんが苦しそうに口を開く。

「身勝手だな。でも俺は、かながいない世界は嫌だ」


 瞬間、スイッチがぷつんと切れるように、わたしは声をあげて泣いた。


 もうとっくに気づいていた。楽ちんなことと楽しいことは違うこと。全部がうまくいく世界は意外とつまらないこと。この世界はきっと、思い通りにいかないからーーーー。



「帰、る?」

こうきくんがおずおずと聞いた。


帰りたい。でも今さらどんな顔をして帰るの? わたしのせいでみんながみんなじゃなくなっちゃった世界に。ここから出たいと言えばきっとすぐに出られるけれど……怖い。


心配させないようにと願ったことを取り消せばいい?

でもそれは、今急にそれが解けたら何が起こるかわからないからもっと怖い。

それに時間だって経ってしまっている。もしかしたらもう、みんなは小学生じゃないかも。


「……こうきくんって今何歳?」

突然の質問にこうきくんが目を丸くする。


「帰りたい、んだけどどれくらい時間がーー」



☆☆☆



 『ばん!』という音ではっとした。


「なにおまえ!白い箱ほしいんだって?」

聞き覚えのある言葉、見覚えのある道。


「戻って、きた、の?」

「は? おまえ何言って……」


「こうきくん」


いきなり名前を呼んだせいで、こうきくんの肩がびくっとはねる。


「わたし、もういじわるされるの嫌だ。だから、言いたいことがあるならかっこ悪い方法じゃなくて、ちゃんと私に伝えて」

その代わり私も、この世界と戦うから。と心の中でつぶやく。こうきくんはわたしの変化にびっくりした様子でこちらを見ていた。



☆☆☆



二回目の『好き』は、それから二年ほど経ってから聞けることになる。


「そういえばつけてた。胸元に赤い花」

あのときは必死で、これの意味に気づけなかったなあ。とそっと笑う。


「どしたの?」

たった今、恋人になった彼は首を傾げる。


「ううん。ねぇ、聞いてくれる?」


――私も未だにほんとのことなのかわかんないんだけどね?



「たまに、白い箱が欲しいな。って思うことがあったのーー」




 

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