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影の問いかけ

ある日届いた、差出人不明の一通のメール。

それは、レオを“過去”へと導くための招待状だった。

危険な予感を抱えながら向かった先で、彼が対峙したのは一人の男の死、そして自らの手で奪った少女の面影――


壊れた部屋、塞がれた出口、そして崩れゆく心。


第六話では、レオの背負う罪と、ルナという存在が彼にもたらす“変化”の兆しが描かれます。

命の重さとは、記憶とは、そして赦しとは――その問いに、彼はどう向き合うのか。


次の日

レオは珍しくぐっすりと眠れることができた。

鏡の前に立ち、自分の顔を見つめる。

いつもとは違い、健康そうにも見える。

なぜ突然に変化が訪れたのかレオにはわからなかった。

準備を済ませ、パソコンの前へと歩くと画面にメールの案内が映し出されている。

そこには送り主のわからないメールが届いていた。

内容はある場所でレオを待っていると書かれている。

指示された場所は市街地の外。

誰から送られたものかは分からないがレオは向かうことに決め、装備を整え、目的地へと向かう。


検問所を抜け、区域外へと出る。

薄暗い分厚い雲が空を覆い、雨が降りそうな嫌な天気だった。

レオは警戒しつつも急足で建物へと侵入すると階段を上がり屋上へと上がり、指定された建物を覗く。

人の気配はない、罠の可能性は低いようにも見える。

用心深く建物を覗いていると後ろから足音が聞こえた。

すぐに銃を取り出し、後ろを振り返るがそこにいたのはルナだった。

ルナは昨日、レオから貰ったおもちゃの銃をレオへと向かって構えていた。


「まったく…何しているんだ。」


「何って…ただの散歩。」


銃をしまうとルナも銃をしまい、レオの隣へと足を運ぶ。


「今日もお仕事なの?」


「いや、違う。」


「ならそんな格好で何をしてるの?」


「あそこの建物に用があるんだ。」


レオの指さす建物を目を細めながらルナは見ている。


「何かあそこにあるの?」


「いや…あそこで誰か待っているらしい。」


「危険じゃない?」


「だからこうして警戒してるんだ。」


「ふーん。」


つまらなそうにルナは言うと立ち上がり、レオの手を引き歩き出そうとする。


「なんのつもりだ?」


「早く行こうよ、人はいなさそうなんでしょ?」


「お前を連れていくとは言っていない。」


ルナの手を振り解き、レオは一人で向かおうとするが餌を与えた動物のように後ろをついてきてしまう。

足速に歩くがルナも付いてくる。


「危険だからお前はくるな。」


「大丈夫だよ、私にはこれがあるし。それにあなたもいるんだし。」


おもちゃの銃を見せびらかし、いたずらっ子の笑顔でレオの顔を覗く。

そんな無邪気なルナにレオは頭を押さえた。


「何が待っているのか、俺にも分からない。俺一人なら対処できるがお前がいたら…わかるだろ?」


「わかんないかな、それに私…こう見えて強いから。」


また銃を取り出すとぱしゅんぱしゅんと言いながら銃を撃つフリをするルナにレオはまた頭を押さえた。


「…勝手にしろ、その代わり…俺のそばを離れるなよ。」


「わかった。」


返事をしたルナはレオの後ろにピッタリとくっつき、レオは歩きにくそうに目的地へ向かう。

あのメールを送った相手。

どこでアドレスを手に入れたのか。

なぜ自分なのか。

頭の中を整理しつつ、警戒をする。

建物へと侵入するがやはり人気はない。

外では雨が降り始め、雨音が建物内へと響き渡り、音が頼りにならない状況へと変わってしまった。


「いやな…空気。」


「本当にな…何か異変に気づいたら教えてくれ。」


「了解。」


レオとルナは階段を上がり、指定された部屋へと歩いて向かう。

階段を上がりきり、廊下へと出る。

静かで薄気味が悪い。

ルナも恐怖を感じたのかレオの裾を掴み、銃を強く握る。

扉の前に立つとレオは静かに扉を開き、ルナとともに中へと入った。

足音を立てずにゆっくりと歩いていく。

廊下の奥にある扉を開き、部屋の中へと入ろうとしたその時だった。


ガタンッ、ガガッ、ゴーンッ


入り口の扉が瓦礫で塞がれてしまった。


「…ルナ…絶対に俺の指示に従えよ。」


頷くルナを背にレオは部屋の中へと入り、椅子に座っている何かに銃口を向ける。


「貴様か…俺をここへ招いたのはっ。」


返事がない。

恐る恐るレオは近づくとレオは銃を下ろした。

椅子に座っていたのは眼鏡をかけた痩せた男だった。


「その人…死んでるよ。」


男の顎下から血が流れ、手はだらしなく地面へと垂れている。

傷跡から察するに自殺をしたのだろう。

ここに呼び出されたのには何か理由があるはず。

あたりを見まわし、何かないかと探しているとルナがあるものを見つけた。

机の上に置かれた大きな箱、カチッカチッと音を立てている。

ゆっくりとふたに手を伸ばし、蓋を開こうとするルナの手をレオは止めた。


「触らない方がいい、おそらくそれは…爆弾だ。」


レオから一切れの紙を渡され、ルナはそこに書かれた文字を読んだ。


ヴァルチャーズへ

貴様がやったことはわかっている。

だからお前を殺すことにした。

逃すつもりはない、私と共に

娘と共に死んでくれ。


「ヴァルチャーズって?」


「俺達、V.Pのことだ。V.Pを嫌っている奴らは俺たちのことをハゲタカと例えるんだ。勝手に領域に侵入し…何もかもを奪うことからな。」


「ハゲタカ…ね。」


写真たての写真をじっと見ているレオの後ろからルナも同じように写真を見つめた。

そこには死んでいる男と見覚えのある少女が映し出されていた。


「このこって?」


「ああ、俺が殺した少女だ。」


写真の少女はレオが殺した少女だった。

路地裏で始末した感染対象。

この男との関係は分からないがその復讐だろう。

レオは男の隣に座ると写真を手に取り、見つめた。

写真の中の少女は男と親しげに笑っている。

この男の大切な存在だったのだろう。

男の顔には涙の跡が残っていた。

逃げも慌てずもしないレオにルナは違和感を感じる。


「逃げないの?」


「……。」


「レオっ!!」


ルナの声にハッと我に帰るがレオは動こうとはしない。

何かを思い詰めたようにただ黙って写真を見ていた。


「まさかだけど…このまま受け入れるの?」


「…いや…。」


「そう…。」


小さな声でルナは呟くとレオの隣に座り、目を瞑った。


「何をしているんだ。」


「出口は瓦礫で塞がれちゃったし、私一人じゃ…どうしようもない。」


「……悪かったな、やっぱり連れてくるべきじゃなかった。」


「まぁ…無理についてきたのは私だから。けど…そう思うのなら私のために出口を探して欲しいんだけどね。」


「……。」


レオは無言で立ち上がると部屋のあちこちを移動し、何かを確かめている。

そして寝室の扉を開くと何かを見つけ、その場で床を叩き始めた。


「何してるの?」


「ここから出られる。」


そう言うとレオは木材を手に取り、床を何度も叩き始める。

大きな打撃音と共に床から軋む音が聞こえ、床が崩れ落ちた。


「床が脆くなっていたことには気づいていなかったんだな。詰めのあまい素人によくあることだ。…これで外に出られるだろ。逃げたきゃ、逃げればいい。」


「なら早く行かなきゃ、このままここにいたら本当に死ぬよ。」


「……。」


「レオ、私の手を握って。」


迷いを表すレオにルナは手を差し伸べた。

だがレオは手を取ろうとはせずに黙って差し伸べられた手を見つめている。


「レオ…ここから逃げるのっ。早くっ!!!」


ルナの声に体が勝手に動いたレオは手を取り、ルナを担ぐと下の階へと飛び降りた。

ルナは自分が動かない限り、この場から絶対に動かないつもりだったのだろう。

ルナの決死の想いが伝わったレオはルナだけは絶対に死なせたくないと体が勝手に動き始めた。

なぜそんなふうに思えたのか、分からない。

でも一つだけ分かるのはレオにとってルナの存在が何かを変えるきっかけになってくれる。

レオはそう確信をした。

そして爆弾が爆発する前に急いで建物から出ようと階段を駆け降りる。


バンッ!!!!


激しい音がレオ達の元へと届き、このままでは建物の崩壊に巻き込まれると判断したレオはルナを庇いながら窓から下へと飛び降りた。

ルナに傷をつけないために背中から地面へと着地する。


「ぐっ!!」


背中に酷い痛みが生じるがすぐに立ち上がるとルナの手を引き、崩壊する建物から逃げ延びた。


「はぁ…はぁ…。」


「レオッ!!!」


その場に倒れ込むレオにルナは駆け寄るとレオを抱きしめる。

ルナの体から体温が伝わり、ルナの無事を確認するとレオは安心して目を閉じた。


「…きて。」


声が聞こえる。


「起きて…。」


誰かがレオに声をかけている。

レオはゆっくりと瞼を開けた。

目の前に広がるのは闇、しかし闇の中に一人の少女が立っている。

少女はこちらを見るとゆっくりと近づいてきた。


「何で…。」

表情が見えない。

ただ少女からは冷たい空気を肌に感じる。

レオの前に立つと少女はゆっくりと顔を上げた。


「私を殺したの?」


少女の顔は血に染められ、焦点が合っていない。

ギュッと少女から首を絞められる。

だがレオは何も抵抗をしなかった。

むしろこのまま殺されるのならそれでもいいと受け入れていた。

しかし、少女は抵抗しないレオの首から手を離すと悲しそうな辛そうな表情をして歩いていってしまう。


「……すまなかった。」


「私を殺したこと…後悔してるの?」


「……。」


「言葉だけの謝罪なんていらないっ、本当に気持ちがあるのならっ……もう…いい。私はあなたを恨まない、あなたを殺さない。あなたみたいにっなりたくないからっ!!!」


少女の言葉がレオの心に突き刺さり、頭を抑えながらレオは一人、暗闇に包まれながらしゃがみこむのだった。




このエピソードでは、レオがこれまで“任務”として割り切ってきた行為――人の命を奪うという行動が、ひとつのかたちで返ってくる場面を描きました。


生き残ることを選び、少女の手を握ったその瞬間。

彼の中で何かが変わりはじめます。


まだその変化は小さく、そして痛みを伴うものですが、きっとレオにとっては“赦し”への第一歩だったのではないかと感じています。


ルナとの関係も、ただの“お守り役”から、互いに影響を与え合うものへと変わっていく兆しが出てきました。


第七話では、さ、にカイルとトロイ、それぞれの葛藤が交差していきます。

よければ、引き続きお付き合いください。


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