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災厄

《護衛任務という名の罠》

今回の任務は、政府関係の重要人物カーテル・レイドの護送だった。

いつも通り、淡々と、事務的に終わるはずだった――それが、地獄の始まりとも知らずに。

反抗的な護衛対象、連絡の取れない装甲車、そして待ち受けていたのはかつての因縁と「罠」。

レオとトロイが直面するのは、任務を超えた“選択”だった。


これは、彼らが初めて「この世界のルール」を本当の意味で知る物語。


4話

「何度言ったら分かるんだっ、それは大事な実験資料だっ。丁寧に扱えっ。」


廊下の奥から女性の大きな怒鳴り声が聞こえる。


「それよりもまだ迎えは来ないのかっ、いくらなんでも遅すぎるっ!!!」


話し声から察するにこの声の主がカーテル、今回の護衛対象なのだろう。


「失礼する、アステリアから派遣されたレオ、それからトロイだ。」


扉を開け、中にいたカーテルにレオは声をかけた。


パシッ。


突然、何かがレオの顔面へと飛んでくるがレオは軽々と片手で受け止めた。


「遅すぎるんだよっ、もっと早く来れなかったのかっ。」


ボサボサの黒い髪を後ろで一つに縛り、眼鏡をかけていてもクマが隠れきれていない目の前にいる女性が今回の護衛対象、カーテル・レイドだった。


「時間の指定はされていなかったからな。」


「はんっ、V.Pの犬っころのくせに躾がなってないな。私と話す時は敬語で話せ。」


彼女の嫌な態度にトロイは不満そうに眉をしかめる。


「依頼主から指示されてはいないことをやらない主義でな。俺とこいつの任務はお前を中央部へと届けることだけだ。」


「お前達、二人だけでか?悪いが私はまだ死ぬわけにはいかない。もっと兵隊を連れてこい。」


「お前は何から狙われるんだ?そんなに大層な人間には見えないがな。」


「口の聞き方に気をつけろよっこの馬鹿者がっ!!!!」


また物を投げつけられるがレオは平然とそれを受け取ると机の上に置いた。


「急いでいるのなら早く準備をしろ、こうして言い合いをしている方が時間の無駄だろう。」


「…チッ……そいつの後ろにいるお前っ、この荷物を背負えっ!!!早くしろっ!!!!」


ボッーと辺りを眺めていたトロイは自分のことかと気づくと慌てて荷物を背負うがかなりの重量があり、よろめいてしまう。


「これぐらいの荷物も持てないのかっ、役立たずがっ!!!」


「すんません。」


重い荷物をなんとか背負い込み、トロイとレオは部屋から出ようとするがカーテルは一向に動こうとはしない。


「なぜ来ない?」


「言っただろ、もっと護衛を連れてこいと。」


痺れを切らしたレオはカーテルの腰を掴むと肩に乗せた。


「おろせっ、私を誰だと思っているんだっ!!!」


「俺達も好きであんたみたいな奴の護衛をしているわけじゃない。それにここまで来るのにハイエナ達が…レネゲイズと名乗る集団が何かを企んでいた。問題が起きる前に移動をした方が危険も少ないだろう。」


「ならば尚更、護衛は必要だろうがっ!!」


「数が多ければ安全になるとも思わんがな。」


「貴様らっ、中央部に着いたらこのことは伝えるからなっ!!!」


「無事に辿り着けれればな、いくらでもなんとでも言うがいい。」


暴れるカーテルをそのまま背負いながらレオとトロイは疲れ果てた兵士達に頭を下げると兵隊達は肩をすくめる。

そしてカーテルを担いだままレオ達は市街地を出ようとしたが検問所で二人は足止めを食らった。


「何かあったのか?」


「ここから数キロ離れたところにハイエナ達が道を塞いでいてな。襲撃を仕掛けたんだが、何時間経っても誰も戻ってこないんだ。」


「……。」


レオとトロイは顔を見合わせた。

その場所は二人がダンテと出会ったあの場所だ。


「中央部へと行きたいんだがここからは出られないのか?」


「いや、そんなことはないが危険だぞ。」


「百も承知だ。それにそこは通らずに迂回をする予定だ。」


「それならいいが…気をつけろよ。何が起こるかわからんからな。それともし何か部隊について分かったら知らせてくれ。」


「ああ。」


検問所から出ると二人は来た道とは違う別の道を歩いていく。

今度は装甲車まで戻り、そこから中央部へと戻る予定だ。


「聞こえるか?」

現状を伝えるために。

レオは装甲車へと通信を入れるがなぜか返事がない。


「どうかしたんすかね?」


「わからん……。」


このまま装甲車へと戻るのは正しい選択か。

レオは悩んだ末に違う選択を取ることにした。


「予定を変える。このままV.Pの拠点へ行こう。」


「…歩いて戻るにはここからかなり距離があるっすよ。ただでさえ…厄介な荷物を抱えてんのに。」


「私のことか?お前…下っ端のくせにっ。」


後ろで腕を組んで立っているカーテルがトロイに蹴りを入れていた。


「アステリアのことじゃない、別の拠点だ。ここから少し離れてはいるが歩いていけない距離ではない。マップを確認しつつ、そこへ向かうことにしよう。」


手首の内側につけたデバイスを起動し、マップを表示させるとレオは先行をし、トロイ、それからカーテルを引き連れながら目的地へと向かう。


「……。」

目的地へと向かいながらレオは今回のことを振り返る。

ハイエナ達のバリケードにいた警備の男の会話

『本当に来るのかよ、そのV.Pは。』

まるでレオ達が訪れるのを知っていたかのような会話。

何故、あの場所を通ると知っていたのか。

そして現在、帰りの装甲車に連絡がつかないこと。

任務の最中、装甲車は同じ場所には留まらず、近くの拠点へと移動する、だから最初の位置に戻ったところで装甲車はいない。

事前に連絡を取り、回収を依頼するのだが。

今までに連絡の取れなかったことなどなかった。


全ては偶然なのか…それとも…これは計画をされた罠なのか。


路地を進みながらレオは辺りを警戒しつつ黙り込み、頭の中で出来事を整理していく。

その後ろでトロイとカーテルが喧嘩をしながら歩いていた。

その時だった。


「なっ!?」


突然、鎖がトロイの背負った荷物ごとトロイに巻きつけられ、引きずられていく。


「トロイっ!?」


トロイは身動きが取れず、そのまま大通りへと引きずられていった。

トロイの後を追いかけようとするがカーテルが動こうとはしない。


「あのバカは放っておけっ。私さえいればそれでいいだろうっ。」


「そうはいかんっ、あいつはお前の資料を持っているんだぞっ!!」


「クソッ、最悪の護衛隊だなっ!!!!」


レオとカーテルはトロイの後を追い、大通りへと飛び出した。


「…なんてことだ。」


カーテルがポツリと呟く。


大通りでは最悪の景色が広がっていた。


地面に倒れているトロイの前に大勢のレネゲイズが待ち構えていたのだ。


「すんません…やっちまいました。」


倒れているトロイに手を貸し、起き上がらせるとレオは銃を構えた。


「反省は後だ。まずはこの状況…どうにかするすかない。」


とは言ったが明らかにこちら側は不利だった。

前にいるレネゲイズ、それから左右の建物の上階層からレネゲイズが3人を狙っている。

逃げ場などどこにもない。


「全員、武器をおろせ。」


聞き覚えのある声が聞こえ、レネゲイズの全員が武器を下げる。


「やぁ…レオ。」


「…ダンテ…だったな。」


武器を下げたレネゲイズの中からダンテは姿を現した。


「覚えておいてくれたんだね、嬉しいよ。」


「…目的は?」


「んー彼女…。」


レオの後ろに隠れたカーテルがビクッと体を震わせるとレオの肩を掴んだ。


「こいつを手に入れて何をしたい?何をやるつもりだ?」


「君達と同じだよ、この世界を救うんだ。そのためには彼女が必要なんだ。」


「世界を救うか…略奪者風情が何を言うのやら。」


「君も分かっているだろ、今のこの世の中は奪うことでしか何も得られない。だから仕方なく僕らは奪い、そして生きているんだ。」


「仕方なく…お前の仲間は楽しそうにやってるがな。」


「中にはそう言う人もいるだろうね、なんせ日に日に人数が増えてしまうんだから。」


なんとか会話を途切れさせないようにし、打開策を考えるがどうしても3人が全員、生きて逃げきれるとは考えられない。

だが実行するなら銃を下ろした今しかない。

レオは銃を構えながら自然にデバイスに触れ、トロイにだけ声が聞こえるように通信の設定を変えた。


『トロイ、俺が合図したら威嚇射撃を行い、左右に分かれるぞ。』


『レオ先輩と別に動くんすかっ?俺…正直に言うとすごい不安です』


『もうそれしか他に方法はない。俺が合図をしたら「全員、彼らを狙うように」』


まるで思考を見透かされたかのようにダンテはレオ達の動きを笑いながら制した。


「考えたね…でもだめだよ。」


『…先輩?』


『他に考える、今のは忘れろ』


どうしようもない絶望的な状況。

必死に思考を巡らせ、なんとか全員が生き残れないかと考えていると風を切る音が頭上から聞こえ、その場にいた全員が空を見上げた。


「俺達、3人にヘリまで用意するとはな。」


「悪いけど僕らじゃないよ。」


ヘリが頭上に止まる。

ヘリを注意深く見つめていたダンテはあることに気づき、


「全員っ、今すぐにあのヘリを撃ち落とせっ!!!」


大きな声で叫んだ。


「トロイッ、俺についてこいっ!!!」


レネゲイズ全員の注目がヘリに集まる中、レオはカーテルの手を引き、トロイを連れて全力で路地へと走り込む。


「なんなんすかっ、あれっ!!味方なんすかっ!!」


「味方だっ、それも最強の味方が来たっ。」


激しい銃声が響き渡る中、ヘリの中から黒い塊が地面へと落ちてきた。


ドンッ!!!


砂埃が辺りを囲う。


「…撃て。撃てぇっ、全弾ぶちこむんだっ!!!」


ダンテは叫ぶ。

次に何が現れるのかダンテには分かっていたからだ。


「なんなんですかっ!!!何があの中にいるんですかっ!!!」


ダンテは震える喉で息を呑むと砂埃を睨みつける。

砂埃の中から赤い光が真っ直ぐにレネゲイズを見ていた。


「災厄だ…。」


誰が敵で、誰が味方か。

その境界すら曖昧になるこの世界で、レオとトロイはぎりぎりの決断を迫られた。

命の天秤は常に理不尽に傾き、暴力が会話の代わりを務める。

しかしそんな中、空から現れたのは――“災厄”。


この世界で、名前だけで戦局をひっくり返す存在がいる。

そして、今回その「存在」が、彼らの前に降り立った。

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