プロローグ
かつて、蒼い花が咲いた。
それは美しい花だった。しかし、その美しさは人類を破滅へと導く――。
本作は、人類が滅びの淵に立たされた未来の世界で、機械の身体を手にした者たちが、なおも「人間らしさ」と「希望」を求めて戦う物語です。
機械化された兵士、焼かれることで広がる感染、狂気に堕ちる人間。
過酷な世界に抗う者たちの姿を、少しずつ描いていけたらと思っています。
ぜひ、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
XX年前——
ある国に、一本の木が生えた。
一見すれば、どこにでもある木に過ぎない。
しかし、やがてそれは綺麗な蒼い花を咲かせると種を蒔き始めた。
種は風に乗り、山を越え、海を越え、新たな大地へと旅をする。
そして、新たな土地に根を下ろし、静かに成長していった。
未知の植物に気づいた人類は、好奇心を抱き、研究を始める。
新たな生命の可能性に希望を見出し、それが人類の未来を拓くと信じて——
だが、それは間違いだった。
その植物がもたらす未来は、人類にとって——地獄だった。
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ある研究者の記録より
「感染者の症状を確認。花粉を吸い込んでから約三十秒後——発症。
まず咳が出る。咳とともに、喉の奥から鮮血が滲む。
呼吸困難、皮膚の変色。血管が黒く浮き上がり、まるで内部から焼かれているようだ。
患者は悲鳴を上げながらのたうち回る。が、すぐに声も出なくなる。
最後に訪れるのは、——全身崩壊。
感染者は、塵へと変わる。」
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ある科学者が言った。
「これは地球のことを考えずに好き勝手に生き、増えすぎた人類を滅ぼすために——神が生み出した殺戮兵器なのだ」
救う手立ては、なかった。
感染拡大を防ぐ唯一の手段は遺体を焼却することだと考えた。
だが、それもまた、新たな絶望を生んだ。
感染者の焼却によって発生する灰には毒が含まれていた。
それは風に乗り、さらに広がる。逃げ場はない。
焼いても、冷やしても、枯らしても——
植物は絶えず成長し、世界を蝕み続けた。
終焉は、すぐそこにあった。
⸻
神に見放された世界で、人類が選んだ道は——人体の機械化だった。
内臓を、手足を、時にはすべてを機械に置き換える。
生身の身体を捨てることで、花粉の脅威から逃れようとしたのだ。
この計画は成功した。
だが、代償はあまりに大きかった。
機械化された者の中には、狂気に飲まれる者が現れた。
過剰な機械化によって精神が崩壊し、制御不能となる者もいた。
植物。感染者。狂気に堕ちた者。
人類を取り巻く敵は、もはや数え切れない。
終末は、刻一刻と迫っていた。
⸻
だが、人類はまだ諦めなかった。
各国の首脳たちは、燃え盛る都市の映像を見つめながら沈黙した。
誰もが理解していた——国境も、国家も、もはや意味を持たないことを。
「この世界を生き延びるには、共に戦うしかない」
その決断のもと、人類最後の砦が生み出された。
——V.P。
政府直属の特殊部隊。
感染の脅威と戦い、人類を守るために生み出された武力組織。
彼らの主な任務の一つが、「ネクロジェル」の散布だった。
感染者を処理した後、その遺体を完全に分解し、二次感染を防ぐためである。
この薬品は、血液や肉片が飛び散ることなく、静かに対象を溶解させる。
だが、それは決して人道的な処置ではなかった。
ネクロジェルを浴びせられた遺体は、一瞬でゼリー状になり、跡形もなく消えていく。
その光景を見慣れることは決してなく、処理に当たる者たちの心を削り続けた。
それでも、人類が生き延びるために、それを止めることは許されなかった。
V.Pは各国の首都に拠点を築き、「ホワイトタワー」と名付けた。
彼らは今日も戦い続ける。
燃え広がる炎の中で。
撒き散らされる灰の中で。
絶望が支配する世界の中で——
それでも、人類の未来を守るために。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
プロローグでは、この世界がどのようにして終わりを迎え、そしてそれでもなお人類が生き延びようとしているのか、その背景を描きました。
美しいものが必ずしも希望をもたらすとは限らない――
この物語は、そんな逆説の上に成り立っています。
本編からは、実際にこの終末世界を生きる人々の姿を追っていきます。
彼らが何を選び、何を守り、何を失っていくのか。
ぜひ今後も見守っていただけると幸いです。
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