道…またも、馬車。
村の出入口を出て、来たときとは違って、馬車道を見えないけど川の下流側に向かって進む。
この世界に来てすぐの頃…今もすぐではあるけど本当にすぐの頃は隠れて移動してたのに、堂々と歩けるとは…。
でも、変わったことはそれだけじゃない。
なぜなら、あの頃とは違って、今の私にはナイフと水筒,火打ち石があるのだ!
これでお魚が食べれない事もないし、多少なら喉が乾いても飲める。ちょっと高かったけど、必要経費だからオッケー。
暫く歩いていると、なんか前方が喧しい。なにかトラブルがあったみたいだ。幸いにも戦闘音…は聞いたこと無いけど、それらしい音は聞こえてこない。
だから多分、魔物とか盗賊?山賊とかじゃないと思う。
ちょっと様子を窺うだけなら大丈夫かな?
少し進んで、様子が見えるくらいの所までカーブした道を進んでチラッと確認してみる。
どうやら、馬車が脱輪してるみたいだ。
異世界系の作品でよく見るような幌馬車が、恐らく轍か何かに落ちたんだと思う。
「あっ!良いところに。ごめんなさいちょっと助けて~。」
チラチラ見てたのがバレたみたいで、助けを求められてしまった。
といっても、子供1人加わった所で何か変わるとは思わないけど…。とりあえず行くかぁ…。
「えっ…と何すれば。」
馬車を後ろから押してる男の人に声をかけてみる。
「ああ。手伝ってくれるのか。ありがとう。」
「う~ん。じゃあ一緒に押してくれるか?」
押すかぁ…
馬車を押してる二人、お姉さんの隣に付いて、馬車を力一杯に押す。
うん。案の定動かない。
当たり前だ、ロングソード?…片手で持てるようなサイズの、長い剣を持ってる人が押しても駄目なんだから私が加わった所でお察しよ。
どうしようか…
う~ん。馬車じゃなくて、車だったら前に無理に進むよりも戻った方が良いときもあるらしいけど…。前に馬がいる関係上、バックは難しいし…。
他に轍から脱出するには…、う~ん。布を車輪に噛ませる…のは地面が悪い時だし。
後はジャッキアップ…?
ジャッキは無いけど、似たようなことは出来なくはない。ただ…。
う~ん…。
「はぁ…内緒にしてくださいよ。」
押すのを一旦やめて、周りの様子を確認する。
幸い、周りに他の人は居ない。それに加えて、都合の良さそうな大きい石も見つけた。
石の近くに近づいて、『ストレージ』で石を収納する。流石にこの大きさの石は重すぎて持てません。魚を取るときの石でもかなり重かったのに…。
その後は簡単。馬車の側面に行って、『ストレージ』からさっきの石と閂を取り出し、石の上に閂を置く。
これで簡単、簡易テコの原理~!
なんて準備してるのを、目を丸くしながら見てた冒険者さんたちに手伝ってもらう。
「えっと…それじゃあ、この板を押して下さい。」
多分、私じゃあ動かないので…
剣を持ってるお兄さんが、閂を押してくれる。
流石、冒険者。1人力で少しだけ馬車が浮いた。デッカイ剣持ってるだけある。
後は、車輪と地面の間に何か噛ませるだけ……。
…ん?何噛ませよう?そこを考えてなかった。木の板とかがベストだけど、閂はテコで使ってちゃってる。
「おい!まだか。そろそろキツイんだけど…。」
あっ、ヤバい忘れてた。
周りを適当に見て、それらしい石を持ってきて噛ませた。
「すみません、降ろして大丈夫です。」
お兄さんが馬車を下ろして、御者の席に居た人が馬を出す。
無事、馬車が轍から抜けたみたいだ。よかった…。
「いや、ありがとうな。おかげですぐに抜け出せた。」
力一杯に馬車を持ち上げてたから、息を切らしながらお礼を言ってくれた。
「いえ、大丈夫です。」
「ねぇねぇ、キミ。どこ行くの?」
何処だろう?何も決まってないけど、とりあえずは…
「マイタイ、ですかね。」
そう言うと、嬉しそうに笑顔になった。
「それなら一緒に行こ~。」
「私たちもマイタイが目的地なんだ。」
一緒に……。うん、いいかもしれない。
ひとりで行くより楽しいだろうし、何より馬車に乗ったら歩くよりは早いだろうから。
「いいんですか?」
「良いでしょ?ねっ、リーダー!」
リーダーって呼ばれたお兄さんが、苦笑いしながら頷いてくれた。
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
「うん!」