青葉ひより(図工・工作系キッズ向けVTuber)
──るなちゃんのこと、大好きだったよ。
青葉ひよりは、リボンのついたハサミを握りしめて、折り紙をちょきちょき切りながら、今日の配信準備をしていた。
今日つくるのは「るなちゃんロボ」。虹の羽がついた、小さな紙の人形。
胸のところには、ピンク色のシールでハートを貼った。いちばん好きだから。
初めて虹崎るなの歌を聞いたとき、泣いた。びっくりして、止まらなかった。
声がきれいで、光みたいで、どこか悲しくて、ひよりの胸の奥の、誰にも触れたことのない場所がポカポカってした。
だから、好きになった。
るなちゃんみたいになりたいって思った。
隣にいたいって思った。
ずっとそばにいてくれたらって、何度も夢に見た。
好きだったよ。今も好き。
でも、大好きすぎて、もう……わかんなくなっちゃったんだ。
おもちゃも、絵本も、ぬいぐるみも──
ひよりね、大好きなものは最後、バラバラにしちゃうの。
そしたら、“自分だけのもの”になる気がするから。
もう誰の手にも渡らない。自分だけのものになる。
あたしの中で、“それ”は愛情だった。
だから、ひよりは、るなちゃんとひとつになるつもりだったのに──
朝起きたら、るなちゃんはいなくなってた。
なんで? なんでなの?
いっしょになりたかったのに。誰が持っていっちゃったの?
タブレットをつけて、るなちゃんのチャンネルを開こうとした。
でも、画面は真っ白で、何も残っていなかった。
ずっと、いてくれると思ってたのに。
こないだまで、ちゃんといたのに。
ちゃんと“大好きだよ”って伝えたかったのに。
──ねえ、なんで先に行っちゃうの?
なんで? なんでなの、るなちゃん。
涙は出なかった。
ひよりは、ただ壊れたハサミを抱いて眠った。
その日、工作配信はなくなった。
* * *
その動画は、たまたま見ていたリスナーが撮ったものだ。
本当だったら、こんな数秒の配信は「無効な配信」として処理されて、アーカイブには残らない。
しかし、偶然リアルタイムで録画していたため、一般の目に触れることとなった。
それを見た青葉ひよりは、動画を止めて、歌詞を凝視しながら指でなぞる。
「雨がふっても……終わりじゃない。夢を……しんじて──」
「……あいつだ」
ひよりは、ひとり言のようにつぶやいた。それは確信だった。
ひよりは、ただ一度だけ、にっこりと微笑んだ。
その笑顔には、怒りが混ざっていた。