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10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第一章 旅の始まり、西風受けて
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第四話 金色の君

 狼の死体は、まだ綺麗な状態だった。

 服や髪についた雪をはらって、振り返る。向こうから歩いてくる友人は、ぜぇぜぇと呼吸を荒げてやって来た。


「……や、やぁ。ふぅ…………アセリア」


「全く。空から来れば良かったのに。それか、扉だって使えるでしょ?」


「あれは好きな所にワープできる代物じゃないからね。というか、空を飛べるのは俺じゃなくて君だろ」


 薄紫の髪と、橙色の瞳。左目に貼っているガーゼと、左耳から垂れる人参のイヤリングは彼女の特徴だ。


「────アリス」


「うん?」


 膝に手を置くアリスは首だけをこちらに向けて、瞬きを繰り返している。


「そっちの魔法使いさん達にちゃんと確認してから来た?」


「もちろん。マリ……いや、メリーベルに朝捕まえられたからな。『どこ行くんですか』って聞かれたから────」


 と、その会話の途中で思わずアリスの頭を叩く。


「──いでっ」


「報連相が大切だってあんなに……! 聞かれなきゃ言わないって、もう…………」


 頭をわざとらしく押さえ、アリスが苦笑するが、視線はすぐに狼の骸へと注がれている。私は五歩ほど下がって、アリスの背を眺めた。


「……魂が無いな。メリーベルの時と同じだ」


「呼び戻せそう?」


「どうだろうな……まぁ、やってみるか」


 右手を前に伸ばし、アリスは左手でガーゼを取る。その目は夜空に星を映し出したような色で、憐れむように細まっていた。

 やがて光が彼女の腕と狼を包み込むと、狼の体は崩れ、粒子になって固まり、宙に浮かぶ。骨が形成され、周りに肉が付き、長い白髪が顔を隠す。

 アリスは着ていた上着をその人型に着させてやり、抱きかかえた。


「さて、戻るか?」


「ううん。山頂まで登るよ」


「……マジかよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「ここに居る魔女って、君の妹か?」


「そうだよ。血が繋がっているとは、言い切れないけど、そういうものと思ってくれて構わないわ」


 先程と同じように歩いて来るのかと思ったが、今度は木と木を器用に飛び回ってついて来ている。猿みたいだな、と思いつつも、単純な武力では彼女の方が上なので、黙っておく。

 急に怒って剣を投げられても面倒だし。


「多分、山頂でマナの調節をしてる筈……“もしも”があっても、命をけずる行為はしないって、約束したしね」


 そう言って、私は抱えた人型を見る。


「シスターとも、かな」


 アリスを呼ぶ為とはいえ、図鑑の紙を千切ったのが悔やまれる。しかし、事情説明等の面倒事を避けるには、これが一番だったろう。


「そろそろ着くぞ」


 吹雪が強く、油断すれば飛んでくる氷に肌を裂かれる。異常なまでの寒さに、息がこれでもかと白く息づく。

 アリスは枝につかまったまま体を前後に勢い良く振って手を離し、雪に着地。


「ん、こりゃ俺通れなくねぇか」


「いや」


 人型を彼女にまかせて、力任せに────


「えいっ」


 ドゴン。と鈍い音が響き、鳥が驚いて羽ばたいていく。と同時、薄い膜は破れ、山頂の洞窟は客を追い出さんとばかりに、外とは比べられない程の強風を吹かせ、今にも吹き飛ばされそうだ。


「な……中々に強引だな────ちょっと借りるぞ!」


 アリスが私の腰から石を取り出し、問答無用で思い切り投げる。

 コツン、と洞窟の入り口そばの石に当たると、それは砕け、代わりに爆発した。私と彼女は二人して爆風にのってくる小石が目に入らないよう覆った。


「ふぅ……とりあえず、氷はどうにかなったな」


「…………」


 何も言えず、私はスカートをはたいて足早に歩き出し、洞窟の中へ向かう。


 ※ ※ ※ ※ ※


「アセロラ────っ!」


 突然の来訪に驚いた様子で、北の魔女────“アセロラ・グラキエス”は振り返って、その真っ赤な瞳を丸くする。


「アセリア姉さん!?」


 それも当然だろう。爆発音が聞こえたと思えば、見知った顔に初対面の人型二人(一人は抱えられている)が現れるのだから。

 しかし、彼女は何をしにきたのか、幸いにも察してくれたようで、


「力足らずでごめんなさい! でもお願い……手伝って!」


「アリス、その子の命の石をこっちに」


 頷きながら、狼(聖獣)であった人型のそれを取る。白色の光沢を覗かせる魂石はひかれるようにして雪の像にはまった。像は雪山の全体をかたどったもので、たしかに万年雪の根源であると見える。膨大なマナが渦をまくそれに手を伸ばすと、アセロラも続いた。


 頬にかする風が肌を軽く傷付けたが、気にしている暇はない。

 喉元で薄く吐く息にのせて呪文を唱え始める。光が渦に混ざり、弧を描いて像に吸い込まれた。


「今度こそ……この雪を終わらせる!」


 どっと白い光が溢れ、その周りを暖かな火が包み込んだ。

 最後に見えたのは、華麗に剣を振りさばいてつっこむアリスの姿だった。


 ※ ※ ※ ※ ※



【図鑑】

“アセロラ・グラキエス”

 北の魔女。

 北の雪山で二百年間マナの調節をする魔女。

 髪は“黒がかった漆の色”

 目は“赤”、“いちごの色”

 等と表記される。

 来ているコートは先代の北の魔女の形見。

 適正は氷、土、水属性。

 アセリアを姉として慕っており、敬語とタメ口の混ざった独特な話し方をする。

 ちなみに一人称は俺。

 先代との関係は明らかになっていないものの、当人は“お母様”と呼んでいる。

 アリスと似た瞳だが、こちらは先天性のもので、特に力が備わっているわけではない。しかし、彼女の先祖には“星”に関わる逸話があるとか。

 また、アセリアは実の姉では無いが、魔女の血の繋がりとしてみれば、妹にあたるだろう、多分。


“アリス・ウッド”

 別の世界からやってきた男勝りな口調の少女。左目には自国の魔女からかけられた呪いが残っており、その魔女を殺す為“メリーベル”一同と旅をしている。鈴の岬と世界とを行き来できる権利をもつ。死人を呼び戻す力があるらしい。

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