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10人の{厄災}と4人の魔女  作者: Aster/蝦夷菊
第一章 旅の始まり、西風受けて
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第一話 雪解けが誘う

 冬の森で倒れ込んだ狼は、静かに体温が抜けゆくのを感じていた。自分のすぐそこにまで迫った死に、抗うこともなく、その白い雪のような手を風に吹かれ、最後の息を吐く。暗くなった金色の瞳からは、既に魂は消えていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 村の万年雪が解けたというので、久し振りに山を登ってみた。

 何でも「村の辺りが急に暖かくなった」とか。まぁ、それもそうか。私の友人が万年雪の原因を取り除いたんだもの。確か、氷属性の魔力を多量に含んだ鉱物を街灯の灯り代わりにしてたから……だったか。雪を呼ぶし、人体にも少なからず害があるんだと、何年も前に探掘家達に言っておいた筈なんだけどなぁ……。結局、根本的な解決はしてないけど。あの雪に閉ざされた山。あそこで、きっと…………。

 そうそう、自己紹介がまだだった。ちょうど良く子どもが好奇心むき出しで私に着いて来てるから、ここで少し、個人情報をあげることにしよう。


「こんにちは。君達は村の子かな?」


「こんにちはっ」


 礼儀よくお辞儀をして、子供達が頷く。


「お姉さん、お名前は?」


「私は西の魔女アセリア。村の雪が解けたって聞いたから、確認しに来たの」


 屈んで目線を合わせてやると、子ども達はあれこれ指差して質問を投げ掛けてきた。


「この石なぁにー?」


「帽子大きいー! あっ、箒でお空飛んでるんでしょ? 見せて、見せて!」


 純粋な瞳に囲まれて、内心焦る。こういった事には慣れていないから、口ごもってしまう。しかし、それもつかの間──────


「こらーっ! 旅の人を困らせちゃ、だめでしょ。シスターに言いつけちゃうんだからっ」


 手を腰に当て、三つ編みのおさげを垂らしている少女が、大きな声で子ども達を制した。ふう、と息を吐き私が立ち上がる頃には、彼女は私の前までやってきていて、


「ごめんなさい。悪い子じゃないんですよ」


 と謝る。

 私は「いいえ、大丈夫」と言いながら黒と白のロングスカートを軽くはたく。それから綺麗に整えられた杖を取り出し、ばつの悪そうに落ちこむ子ども達に声をかけた。


「君達、好きなものは?」


 目を輝かせた子ども達は、意外にもそろった返答を喜々として叫んだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「ふぅ……」


「どうしたんだい、おじょうさん」


 果物屋の前、真っ赤なグロールの実を手に溜息を吐く。店長のおじいさんが、まだまだ元気の有り余る身体で実をつぶしジュースを作りながら、私に問うた。


「さきほど、ちらりと山の中を見てきました」


「ほぉ。あそこはまだ雪が積もっとるな。寒かったろうに。それで、どうしたんじゃ。……もしや、神のつかいでも見たのか」


「神のつかい……」


 近くも遠くもある、とつぶやく。

 もとより、この地に神は居ないのだから。


「──狼が一匹、死んでいました。綺麗な金色の目をした、雪のような狼が」


「そりゃ、可哀想に。……しかし、ここらにはそんな珍しいの、おったかな…………」


 暫く考えているようだったので、私は持っていたグロールの実を三個買って宿に帰った。あとでこれを長期保存できるものに加工しよう。


 元々この一帯が万年雪だったのもあり、家屋や店、宿泊施設等の建物は殆どが木造のものだ。ソファやイス、寝台、そして廊下や部屋の床には、暖かそうな赤・緑の布が敷かれている。

 寝台の横に置かれた机の上で、日記とペン、それからいつも持ち歩いている魔力を含む植物や鉱物等が記された図鑑を広げた。


 図鑑といっても、友人と共に書いている途中のメモみたいな物ではあるが。


「氷雪の鉄……“スアブ鉱石”。人体に対する害……頭痛と発熱。直接手で触れると肌に霜ができ、凍傷を起こす」


 友人の筆跡が浮かぶ。どうやら、調査した結果をまとめ終わったらしい。

 あの狼の死因は、体内にこの鉱石を溜め込んでいたからだ。口の中が火傷跡でまみれていた。……だが、狼に鉱物を食する習慣は無い。


 考えるとするならば、「鉱物を何者かに含ませられた」か「狼自身がこの鉱物と関わりをもつ種族であるか」だ。

 しかし前者は真っ向から否定できるだろう。何せ、雪山程命を脅かすものはないのだ。野宿をすれば体温を奪われ、歩けば雪に流される危険と隣合わせ。自ら狼一匹を狙って死に追いやる為だけに、わざわざ人に害をなす鉱物を持ち足を向けるなど、馬鹿のやることだ。


「動物には詳しくないけど……鉱物に宿る前例はあるみたいなんだよね」


 とすると、必然的に後者になるわけだけど。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ────シスターはね、自然に凄く詳しいんだよ。

 この前の朝、おさげの少女“ミュリラ”から聞いた情報をもとに、村からそう遠くない丘に住むシスターの家……もとい協会に向かっている途中、


「お姉さん……じゃなかった。アセリアさん! シスターの所に行くんですか?」


 噂をすれば影、というとこか。この前の軽装と異なり、緑と白で統一されたワンピースを着て、ミュリラが立っている。


「私もついていってもよろしいでしょうか?」


 胸元に手を添え、内心不安なのだろう、眉をハの字にしてこちらを見る。

 緑に映える茶髪に、暖かなクリーム色の瞳。まだ十二の子どもとは思えないほどに、彼女の所作や雰囲気は大人びている。

 ミュリラの手を取り、微笑んで私は頷いた。


「なら、道案内をおねがいね」


 石垣の間を通り抜け、私達は木々の巡る道を進み始めた。


 ※ ※ ※ ※ ※



【図鑑】

ー説明ー

 この物語では、毎話終わりに造語・植物や鉱物・生物、登場人物の説明を行います。



“アセリア・アタナシア”

 西の魔女。

 西の森に魔導書店を構える魔女。現在は手品師の弟に店を任せ、友人の頼みで“万年雪の山”へ。

 長年世界を渡る友人と共に植物・鉱物・生物の図鑑を書きすすめているものの、何分人手が足りないので百年経ても世界が有するものの十分の一程度しか記せていない。

 髪は“くすんだ空色”等

 瞳は“夜空”、“青”等

 と文章中で表記される。

 はっきりとした年齢は不明だが、本人曰く“約六百歳”とのこと。

 魔法・魔術の基本である六属性の内(火、水、風、土、光、闇)、火、風、光に適正があり、その全ての術を扱える。(一応他属性は初歩まで扱えるらしい)

 冷静な判断力と人に寄り添う優しさから、いつも頼みごとをされている。

 ちなみに、腰にかけている石は図鑑用のインクや緊急時用の魔導具等きちんと使いみちがある。


“ミュリラ”

 十二歳の少女。しっかりしていて、よく子ども達(年下)の注意をしている。

 特技はからめてが使えること。果物屋の娘だったりする。実はアセリアの魔法を見て一番テンションが上がっていた。


“グロールの実”

 葉の裏に実ができる果物。根が身から茎、そして地中へと伸びているのが特徴。味は甘く、果汁は黒い。

 酒やスイーツ等によく使われる。


“スアブ鉱石”

 雲母のような形をしたひんやりしている鉱物。直接触れると、凍傷が起きる。めちゃ光る。


“爆石”

 アセリアの腰にある石。

 衝撃を受けると熱を出すため、投げて爆弾代わりにする。また、削って水に溶かすとインクになる。

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