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私と夏の終わりにやってきた風物詩

作者: 黒之 政桜

「涼さんって結婚しないんですか?」

 最近色んな人から良く言われる言葉だ。


「う~ん……別に結婚したいと思わないからね。

 特に結婚に憧れもなければ夢も感じないし」


「あのね、そんな考えでいるといつか『枯れ女』になるよー」

 枯れ女? 聞いた事が無いワードだったからあまり気にしてなかったけど、偶々スマホがお勧めしてきた記事に「枯れ女とは?」というタイトルが記載されていた記事が目に入った。

 とりあえず私の中では気にな内容なので読んでみる。


(ふむふむ、枯れ女とは【女性を捨てかけている人】を指し示す言葉らしい)

 友達から「枯れ女になる」なんて言われちゃってるけどさ、私は別に女を捨てているつもりは一切ないよ?

 更に記事を読み進めると、具体的に女性を捨てかけていると判断される行為について記載されているみたいなので、読み進める。


・恋愛に長くご無沙汰身

 ――いきなり一つ当て嵌まってしまった! 彼氏なんてもう5年以上いないからね。

 でもまだ一つ! まだ次があるよね。


・身なりに全く気を使わなくなった

 これは……半分当て嵌まってしまっているかもしれない。

 ファッションやメイク、肌ケアなんかに全く気を使っていない訳じゃないんだけど、以前より明らかに気を使わなくなっているかも……

 まだ次、次がある!



・・・

・・


 現実は非情で、その次なんて無かった……大まかに言うと、この二つが当てはまると「枯れ女」に該当するんだって。

 だからと言って私が現状を改善する気があるのかと言えば、一切無いんだよね~ だって現状この状態で私は、それなりに人生楽しく生きていけるんだもの!

 仕事だってそれなりにやり甲斐を感じて楽しんでやれちゃってるし、休日は趣味友ともそれなりに楽しく過ごせている。

 だからここ数年彼氏がいなくても特段寂しさを感じた事もない。

 要は現状にそれなり満足しちゃってると、身なりなんて仕事とプライベートの場で最低限気を遣えばそれでいいと思っちゃてるし、異性のパートナーが居る必要性だって感じないんだよね。

 つまり今の状況が枯れ女と思われる行動に直結しちゃってる!

 結局の所私は、世間から見るとやっぱり枯れ女に該当するんじゃん!

 こうして私事”小鳥遊 涼”は、35という年齢にしてまた一つ新たな悟りの境地に達したのであった。


「……朝っぱらからこんな事考えてると、何か虚しくなってきたよ」

 朝食を食べながら弄っていたスマホが表示するお勧めの記事にて「枯れ女」に関する記事を覗いてしまった事が運のツキだったみたいで、私は朝からもう既にゲンナリ気味……

 こんな気分で仕事始めるとか嫌だよね~


 そんな朝からブルーな気分でスマホが表示するお勧め記事に再び目をやると、今日も話題の中心は今世間で猛威を振るっている新型ウィルスに関する記事ばかり。

(そんな事さぁ、もうこっちだってとっくに分かり切っている事なんだから、いい加減にウィルスの話題で世間を煽るの止めたら?)

 なんて思うけど報道側としても「言った、言わなかった」をダシに直ぐに荒れてしまう世の中である以上、多少大げさと捉えられても些細な事も大げさに言わざる負えないんだろうな~


 そんな私が考えたってどうしようもない事を考えていると出勤時間が近づいてきた。

 私は会社から渡されたPCの電源を入れると、出勤時間前に本来の私のデスクとWebカメラを繋げた後、出勤時間が来るのを待っている。

 そしてふと準備したPCの先に見えるのは、活動時間を終えてゆっくり休んでいる姿を見せつけてくるアイツの姿が!

(これから私は実に効率の悪い方法を使ってせっせと仕事せにゃ行けないというのに、目の前で堂々と休んでくれちゃうなんて何ともいい身分だよね~!

 君達は!!)

 なんて憎たらしい目で私が見るのは、お兄ちゃんから押し付け……ゴホン、託されたある物だった。

(やっぱり安請負なんてする物じゃなかったな~)

 そんな私の後悔の念など露知らず、PCの向こう側から同僚の朝の挨拶が聴こえてくるのは9月の終わり頃。

 そして戻れるなら戻りたいと思うのは、8月が終わりを迎えるあの日。

 ああ、あの時”NO”と言えなかった情けない私……そんな事を思った所為か、嫌でも私が()()()と暮らす羽目になったあの出来事を思い出してしまう。


 ◇◇◇


 今年も記録的猛暑だった所為か、世間では「果てして8月が終わったら本当に少しは暑さが和らぐのか?」なんて話題で持ち切り。

 そんなまだまだ夏の暑さが続いている時に、突如お兄ちゃんから一本の連絡が入った。

 なんでもこの新型ウィルスが世界の至る所で蔓延しているお陰で、海外渡航するのも厳しい世界状況下だというのに、以前から何度も話題にしていた海外出張がまさか今のタイミングなって急遽決まったらしい。

 そしてなんとお兄ちゃんは、この海外出張に家族を同行させるという思い切り過ぎる決断をした。


 お兄ちゃん曰く「子供達に貴重な体験と経験積ませるまたとないチャンス!」との事だけど、今のこの国の状況なら周囲から大いに非難される事であっても恐れないで決行出来るのは凄いと素直に思った。

 こんな決断力を持ってるからからこそ、お兄ちゃんは「一生ペーペーになりそうな私と違って、超大手の重役候補に選ばれるんだろなー」なんて思って素直に思ってしまった。

 そんな私みたいな極普通の一般人とは違うお兄ちゃんが「海外に行く前に私に託したい物がある」なんて言ってくるものだたから、一体何事? かと思った私は、お兄ちゃんの今住んでる家に行って話を聞くこと。


 そしていざお兄ちゃんの家に行って話を聞いてみると、お兄ちゃんが私に託そうとした物は、お兄ちゃんの息子であり私にとっては会う度につい可愛がってしまう甥っ子事、ゆうくん!

 じゃなくて、お兄ちゃんとゆうくんがこのクソ熱い猛暑の中、態々家から一時間もかけて山奥に行って捕まえて来たカブトムシの飼育だった。

 ちなみに私にカブトムシを託して来た理由というのが【私が自宅出勤なら時差があってもお互い起きてる時間が重なるから、ブトムシの様子が気になった時にライブ配信で様子が見れるから!】だと説明してきたから


「あのねぇ~、私がいくら家に居るって言っても、お互い起きてる私の時間のほとんどが”仕事中”だという事忘れてない!?

 そもそも私カブトムシに興味なんてないんだけど??」

 ハッキリと私にも私の都合がある事を伝えた。

 しかしお兄ちゃんの中では、私がカブトムシを飼う事は決定事項のようで、私の思いと都合を無視するかのように、お兄ちゃんの中では私がカブトムシ飼育を引き継いでくれる前提で話を続けてくるから、私はハッキリと。


「カブトムシの飼育なんて――ぜっっったいに嫌だから!!」


 キッパリ断りの一言を入れてやった。。

 しかしこの程度の事では簡単に折れないお兄ちゃんは「世話してくれた分の報酬は絶対出す」という提案を持ち出してきた。

 そして私も私での言葉に思わず聞く耳を傾ける姿勢を見せてしまったのんだけど、コレが私の過ちの始まりでもあった。

 そんな私の心が揺れ動く様子を見逃さなかったお兄ちゃんは「待ってました」と言わんばかりに、息子であるゆうくんに


「なぁ、ゆう!

 お前も涼姉ちゃんがカブトムシを俺達の代わりに飼ってくれたら嬉しいよなー?」

 っと声を掛けると続いて


「おねぇちゃ~ん! おねが~い!! カブトムシを、ぼくのかわりに、かってください!!!」


 明らかに狙ったタイミングでお兄ちゃんが用意し仕込んだのが丸分かりのセリフを、たどたどしくも一生懸命私に伝えてくるゆうくんは、正直滅茶苦茶かわいいと思った。

 例え言わされてる感がめちゃくちゃ分かっても、その言葉を一生懸命言う姿はとっても可愛らさを感じる何て、この子は天使何かじゃないのかな?

 そんな可愛すぎるゆうくんのお願いとおねだりを前した私は、あっさりとゆう可愛さに落とされてしまった私は、内心嫌々だけど甥っ子が喜ぶ顔を見たいが為だけにカブトムシの飼育を引き継ぐことを承諾してしまった。

 こうして私と夏の終わりにやってきた夏の風物詩との生活が始まった……


 飼育に関する道具に関しては、既にお兄ちゃん達が使ってる物をそのまま譲り受けるだけだったので、特に何も準備する必要がなかった。

 飼育の手順も「餌である昆虫ゼリーが切れたら交換する事と、二日に一回ぐらい霧吹きで土を湿らせてね」と言われたぐらいで、やること自体は単純だった。

 だから説明を聞いた時は「これなら飼育も簡単そうだし手間もかからないと」思ったから、案外大した苦労もなく終わりそうだとこの時は思ったぐらいだしね。

 ちなみに私か代理で飼育する事になったカブトムシは、オスとメスがそれぞれ大きいサイズと小さいサイズが一匹ずつの合計4匹。

 ちなみにゆうくん曰く


 「おおきオスとメスがけっこんしてて、ちいさいオスとメスはあいじんだよ!」

 という説明を受けたけど、ちょっと待って? ゆうくん一体何処でそんな言葉覚えたの??

 そしてこんな小さな空間の中で夫婦と夫婦それぞれの愛人がいるって、どんな修羅場な環境作ってるの!?

 これ人間だったら【ドロドロしたお昼のドラマ】が絶対始まっちゃうお先真っ暗のとんでもない状況だよ?


(ま~、どうせ言葉の意味も良く分かってないで言ってるんだろうし、カブトムシはそんなドロドロした事とは無縁なんだけどね~)

 なんて事を内心思った私。

 しかしそんなゆうくんの間に受けたらトンデモないカブトムシの相関図は、案外的を得ていた事を預かった初日に私は思い知る事になる。

 この日私は就寝しようと電気を消し、ベッドで寝転がりながらスマホを弄っていると私の耳に突如カブトムシの入った飼育ケースから


”ガシ! ガシ!!”


という謎の音が響き渡ったので、何事かと思った私は咄嗟にベッドから起き上がる!


(え!、どうして飼育ケースからこんな音が?)

 音の原因が気になって仕方がない私は、恐る恐る飼育ケースに近付きその中を覗いて見る事にした。

 するとそこには餌置き場の上にて私の常識を覆す出来事が!

 なんとメスとメスが体を激しくぶつけ合って餌を取り合っていたからもうビックリ!!


(カブトムシって、てっきりオス同士が喧嘩するって思ってけど、人間と同じように女同士のバトルも勃発するんだ……

 もしかしてコレって、ドロドロしたドラマでよく見る妻と愛人によるキャットファイト的なアレなのかな?)

 なんて考えながら壮絶な女同士の争いをドキドキしながら見守っていると、餌場に近付いてくるオスの姿が!

 そして餌場に近付いてきたオスに対してメスは――容赦なくメスは体当たりを仕掛け始めた!

 メスの体当たりを食らったオスは、いそいそとその場から退散していく様子を見て


(何か思ってた状況よりこの飼育環境は、過酷で修羅場な環境なのかもしれないな~)

 そんな事を私は思わずにはいられなかった。

 そしてカブトムシの世界においても怒り狂った女の強さって、底知れない物があるんだね。

 まさかカブトムシの世界においても、男女の関係が複雑だなんて……


 そして飼育開始して三日目になると、飼育ケースの至る所に汚れが目立つようになってきた。

「果たしてこのままこの状態を放置してもいいのか?」

 その事が気になったのでネット検索で調べてみると、どのSNSやブログでも「ちゃんと掃除しないと衛生上良くないから清潔を保つためにも掃除は必須!」との御意見。

 カブトムシ飼育に対する報酬は既に前払いで頂いちゃってる以上、最低限の世話はしない訳にはいかなくなった手前、飼育ケースを掃除する事にする。


「まぁ、そんなに大きくない飼育ケースだから掃除なんてすぐ終わるよね~!」

 なんて私も考えていた時がありました……

 実際にやってみると、カブトムシの飼育ケース掃除って想像以上に手間が掛かるのよ!

 まず飼育ケースの壁に張り付いた汚れは、どうやらカブトムシのオシッコみたいで、壁という壁にへばり付いているから意外としっかり拭かないと取れない!

 特にエサ入れの汚し方なんて特に酷い有様で、もうカブトムシが食べ散らかした昆虫ゼリーで至る所がベトベト!!

 オマケにカブトムシは「あの小さな体にそんな力が?」なんて思わず思っちゃう持ち前のパワーで、エサ入れをひっくり返しちゃうから昆虫ゼリーとエサ入れと土塗れになっちゃうしね!

 更にこの土塗れになったエサ入れが【一番独特の匂い放ってる原因】だったから、嫌でも掃除に力が入っちゃう訳ですよ。


 ネット検索で「カブトムシの飼育なんて他のペットに比べたら簡単だよ☆」なんて記載しているブログを幾つか拝見したけど、結局の所その意見って経験者かつ慣れた人の意見でしかない。

 分かってはいたけど、やはりネットの意見を鵜呑みにするのって危険だよね。

 その事を再認識した今日この頃……


 そして飼い始めてから二週間近く経過すると、季節は9月の上旬になっていた。

 流石に二週間も続けているとちょっとしか日課になりつつあるカブトムシ飼育。

 今日もカブトムシがどんな様子か飼育ケース覗いてみると、二匹のメスの内小さい方のメスが引っ繰り返ったまま動かないので、どうやらその生を全うしたみたい。

 元々カブトムシの寿命は夏が終わるころには「その殆どがその生涯を終える」的な事を耳にした記憶がある。

 私はその短い生涯を終えて、飼育ケース内で一切動かなくなった一匹のメスを見て


(良~し! これであと三匹だ~!!」)

 そう思わずにはいられなかった。

 正直この喜びをSNSに挙げたいとさえ思ったけど、流石にそんな事したら大いにSNS上で批判されそうだし、そもそも不謹慎だからやらないけどね。

 でもいくら小さな命とはいえ、その生を全うしたものに対してこんな事を平然と考えてしまう私は、やはり生き物を飼う事に向いてないタイプなんだと思った。

 そして内心喜びつつも、既に海外で暮らしているお兄ちゃん達にチャットアプリにて【カブトムシのメスが一匹ご臨終した訃報】ををょっと悲し気な感じを醸し出しながら入れておく。

 そしたらまだ向こうも起きている時間だった為か、直ぐにお兄ちゃんからビデオ通話が入ったので電話を取る。

 するとスマホ画面に最初に映っているのは私の大好きなゆうくん! するとゆうくんは開口一番に


「メス一匹死んじゃったんだね~」

 と、ちょっと寂しそうな声を出しながら私に話しかけるけど、そのちょっと寂しを感じそうな言動とは裏腹に、スマホ越しに映るゆうくんの手には海外で買ってもらった玩具がしっかりと握りしめらている。

 そしてその視線もビデオ通話の相手である私より、手に持っている玩具の方に向かってチ~ラチラ。


(既に興味がカブトムシじゃなくて別の方向に向いてるじゃん!)

 なんて口に出して言いたい気持ちになったけど、そこはグッと押さえてゆうくんと楽しくお喋りをした。

 そしてゆうくんとの楽しいトーク内容は、今ゆうくんの手に握られている玩具がゆうくんの今一番のお気に入りで、終始その玩具に関するトークでゆうくんとの楽しい時間は終わってしまった。

 そしてビデオ通話を切る前にお兄ちゃんに


「もう私がカブトムシ飼う必要ないんじゃない?

 だってゆうくんもうカブトムシに興味なさそうだし~」

 っと、先程のビデオ通話の状況から【私のカブトムシ飼育もう終わらせもいいんじゃないのかな?】案をシレっとお兄ちゃん勧めてみた。

そしてお兄ちゃんからの返答は


「ゆうは何だかんだ言って涼の報告を楽しみにしているから、カブトムシ飼うのは継続に決まってるだろ!」

 と言われて、私の儚い望みは潰えた。

 こうして私とカブトムシの戦い?は、残念ながらまだまだ終わりを迎えれそうにはないみたい……


 時期は変わって9月の中旬。

 最近姿を見せないと思っていたもう一匹の大きめのメスが、腐葉土の中でお亡くなりなっているの発見した。

 そしてお亡くなりになったメスを飼育ケースから出す際に、白い2mmぐらいの薄いクリーム色をした丸い物体が飼育ケース内に一つ転がっている事に気が付く。


「一体なんだろコレ?」

 謎の物体が気になったので最近お世話になりっぱなしのネットを使って調べてみると、どうやらこの小さな丸い物体はカブトムシのメスが産んだ卵みたい。

 そういえばカブトムシを預かる際に


「けっこんしたカブトムシのこどもがみたーい!」


 なんて、ゆうくんが言っていたのをふと思い出した。

 だけど正直言って私は、芋虫とかミミズとか”ウネウネ系の生き物”というのが、見ただけテンションダダ下がりになるぐらい大の苦手!

 だから正直幼虫飼育なんてやりたいとも思わないし、そもそも幼虫の姿を見たいとも思わない!!

 だから私はこの卵をこのまま報告する事なく処理しようと考え始めたのだけど、私はやっぱり自分勝手だからこの卵を自分の手で処理する事を躊躇してしまう。

 その理由は至って単純で、ただ単に

【自分の手を命を卵を処理して自分の手を汚したくないだけ!】


 だから私は何とかして、己の手を汚さずして卵を処理する言い方法が無いかな?と、散々お世話になっているネット記事にてカブトムシの卵について調べてみる事に。

 そして調べてみると私にとっては大変喜ばしい情報がスグに見つかる。


【卵は見つけ次第親と隔離しないと、親が卵を潰してしまいます!】

 という内容の記事を見つけてしまったので、だったら私の取るべき行動はただ一つ。それは


「見て見ぬふり!!!!! コレに限る!!!!!!!!」

 私が愛して止まないゆうくんには悪いんだけど、私の最低限の務めはカブトムシの成虫飼育であって、幼虫飼育というブリーダー染みた事に手を出すつもりはそもそも無いのよ。

 誰が苦手なタイプの生き物を、好き好んで飼育したいと思うかな?

 こうして私はメスが必死に生んだ生命の源を保護する事も隔離する事もなく、只その場に放置する事に決めた。

 そして翌日、お兄ちゃんから「そろそろ卵とか見つからなかった?」なんて連絡が入った時は、思わず”ドキ”っとして心臓が飛び出るかと思ったし、まさか「私の部屋に監視カメラとか仕込んでないよね?」なんて疑ってしまった。


 もっともそんな事お兄ちゃんがする訳ないし、既に私の幼虫ゼロ計画は遂行中だから私はお兄ちゃんに対してドキドキしつつも「卵は見てないかな~」という連絡を素知らぬ顔で入れ、私が卵を発見したという事実を闇に葬った事で、私が卵を発見したという事実は誰にも知られる事はなかった。


 そしてこれでようやく残りはオス二匹!

 この二匹の命が尽きた時、ようやく私はこの生活から解放される!!

 仕事でもだけどね、遠いと思ったゴールが見えてくると不思議と気持ちって軽くならない?


 そして時は9月の下旬。

 メスと違って中々しぶとい二匹のオスの内、まず先にその生を全うしたのは小さい方のオス。

 そしていよいよ残す所は一番大きなオス一匹のみ!

 ついに私のカブトムシ飼育生活のゴールが目と鼻の先まで来た!!


 そして10月に入り、もはや完全に日課となってしまったカブトムシの様子を私は今日もチェックすれば、朝はどこかでジッとして休んでいる様子見せるカブトムシを目にする。

 それがもはや私の朝の日課となっていたんだけど、この日のカブトムシの様子は何時もと違った。

 普段なら朝はジッとしているのに、今日のカブトムシは珍しく動いていたんだけど、その動きが明らかに鈍くて弱弱しくなっていた。

 その様子は、カブトムシ飼育初心者の私にでさえ【近いうちにこのオスにも死期が訪れる】事を予兆させる……


 だけど弱弱しくても懸命に動くカブトムシの姿は、何とか必死に生きようと足掻いてる姿にも見えてしまう所為か、私は今更になってこのカブトムシを

「もう少し元気に生かしてあげることが出来ないのかな?」

 なんて考えてしまっていた。

 どうやら一カ月ちょっと四六時中一緒にカブトムシと生活していたことで、多少なりカブトムシに情が移ったみたい。

 こんな私を一カ月前の私が見たら「ホント自分勝手なヤツ!」って間違いなくツッコんでそうだし、実際私も今そう思ったよね。


 こうして弱ったカブトムシに元気にする為、再びネットの海を探って「カブトムシが元気になる方法はないのか?」と調べてみる。

 だけど現実は非情で、どのサイトやSNSで調べても「こうなったら寿命」という答えだけしか返ってこなかった。

 そもそも野生採取個体のカブトムシが10月まで生きた時点で、十分長生きしている方らしくて、体の動きが緩慢になるという事は【もう体細胞の老化が進んだ証拠】というのは、どんな生き物も共通との事。

 だから私の「今更感のある足掻きなど既に手遅れだ!」という現実を知ら占めるかのように、最後のオスの動きが緩慢になったのを確認した三日後にオスはピクリとも動く無くなり、その生を全うし終えた……


 こうして私のカブトムシ飼育生活はようやく解放された”解放感”と、多少なり愛着を持ち始めた物を失うという”喪失感”という、何とも矛盾した気持ちが交差する複雑な心境で終わりを迎えた。

 せめて生を全うしたカブトムシ達を供養してあげようと、近くの空き地にでも埋めて簡易的なお墓でも立てようかと思った。

 だけどカブトムシの死骸や飼育で使った腐葉土を他所の土地に混ぜるということは、思わぬ土壌汚染を引き起こしたりする可能性があるので好ましくない。

 という意見を目にしたので、最低限のモラルぐらいは守ろうと思った私は、死体と腐葉土を可燃ごみに捨てて火葬する事にした。

 そしてその旨をお兄ちゃんに伝えるとお兄ちゃんから「捨てる前に幼虫が居ないか確認したい」という連絡が入った。


 こうして私は、もはや甥っ子のゆうくんじゃなくてお兄ちゃんの望みを叶えるべく、態々向こうの都合の良い時間に合わせてビデオ通話にてライブ配信しつつ、幼虫が残っていないか探す事になった。

 それにしてもさ、カブトムシ関連の報告関して一番食い付いてるのって、間違いなくお兄ちゃんだよね?

 「最後に幼虫残ってないかのチェックしろ」

 なんて、ゆうくんの意見聞く前に私と話を付けてくるぐらいだし!

 これぞよく聞く「子供と始めた事が、実は大人の方がハマってる」の典型的な例なんだなーっと思った。

 

 こうして燃えるゴミの袋の中に、飼育ケース内に残っていた腐葉土を広げると、特に幼虫の姿は見当たらい。

 それは当然! だって私が計画的に卵が残らない状況を意図的に作ったんだから。

 そんな私の計略なんて露も知らないのお兄ちゃんとゆうくんは、スマホ越しに私がビニール袋に広げた腐葉土の中から一生懸命幼虫を探している。

 ゆうくんは期待が籠った眼差しで、ごみ袋に広がった腐葉土を覗いているけど


(そんなに一生懸命探した所で無駄だよ~)

 可愛い甥っ子の期待を裏切るようで悪いけど、私だって苦手な物は出来るだけ避けたいと思う極めて普通の人間だから許してね。

 そんな事を考えながら、お兄ちゃんの指示に従って土を弄っていると


「ねぇ、りょうおねえちゃん! いまなんかうごいたよ!!」

(そんな事ある訳ないよ~)

 と思いつつ、スマホ越しに大きな反応をみせたゆうくんの言葉に従って、何かが動いたという場所を穿り返してみると


「ひっ!!!!!!!!!!!」


 思わず声にならない声が出てしまう! 

 私が声にならない声を上げてしまった理由……それは私が誕生させないように策を講じたハズである小さなカブトムシの幼虫が、たった一匹だけど”モゾモゾ”と動いていたからに他ならなかった……

 こうして終わりを迎えたと思っていた私のカブトムシ飼育生活は、幼虫飼育という名の望んでない次のステージへと進むことに。

 まさか策士策に溺れるという事を、カブトムシから教わる羽目になるとは――生き物の子孫を残そうとする力、実に恐るべし!


 こうして始まったダダ下がりのテンションの中始まった幼虫飼育聖愛k津。

 しかし意外にも成虫飼育を経験していると、成虫飼育に比べてほとんどやる事がないという意外な事実が発覚したのは素直に嬉しかったよね!

 幼虫飼育でやる事と言ったら、餌である腐葉土を三カ月に一度ぐらい交換する事、そして湿度の管理ぐらいだった。

 成虫飼育のように餌を頻繁に交換したり、ケースの掃除を頻繁にやる必要がないと分かると、非常に楽に感じてしまうのは、きっと成虫飼育経験の成せる技かな?


 もっとも大した手間もトラブルもなさそうと思っていた幼虫飼育だったけど、幼虫飼育においても一点だけ私的には成虫飼育より遥かに嫌なトラブルに見舞われる。

 それはキノコバエという羽虫の発生だった……

 このキノコバエと言う羽虫は、ハエと言う名前が付いているけどハエの仲間じゃなければ、ハエのように人間や食べ物に付いたりする事はないんだけど、それでも自分の部屋に置いてある物の中に大量の羽虫が湧いている光景と、小さい羽虫が自分の部屋を飛び回っている現状を目の当たりするのは、非常に気分が悪かったので


「良し、幼虫飼うの止めよ!!!」

 と本気で思った事もあった。

 けど


「せっかくそこそこ幼虫大きくしたのに、ココで止めるのって、途中で投げ出した感があって嫌じゃない?」

 という思いもそれなりに強かった所為か

【羽虫対策が出来たら飼育を続けよう!】

 なんて我ながら前向きに考えてしまうったのは、成虫と違って幼虫は時間を重ねる度に大きくなるので、あんなグロテクスな生き物でも不思議と私が育てている感があったから?

 まぁ、単にまたしても飼ってる物に対して愛着湧いちゃってたからなんだろうね。

 だからと言って決して触りたいとは露にも思わないけど!!!

 でも幼虫が大きくなっていく様は見ていて面白かったし、成長を間近で見ていると「どうせなら大きくしてあげようかな」なんて考えた時は、自分でも笑いそうになったけどね。


 こうしてコレで何度目になるか分からないネット検索にて「幼虫が大きくなる方法」と「発生した羽虫の対策方法」を調べてみると、これまた人によっていろんな意見が出て来る。

 もっとも専門的な事はやろうなんて思ってもいなかったので、調べた中でも私でも出来そうな事だけをチョイスする事にした!


 まず羽虫対策として、羽虫は幼虫の餌となる腐葉土から発生するので、発生した場所から外に出さなけばこれ以上被害は広がらないとの事。

 だからとりあえず飼育ケースを100均に売ってる洗濯ネットの中に入れて、羽虫が外に出れないようした。

 そしてその状態で羽虫が湧いたらドライヤーの熱を当てて羽虫を駆除!

 コレを一カ月ぐらい繰り返していると、いつの間にか羽虫事キノコバエは一切発生しなくなった。

 こうして羽虫対策と処理が無事に解決したので、次は幼虫を大きくする為に私がやれそうな事をやってみる事にする。


 まず手を出したのが【幼虫が大きくなる!】というどの界隈でもよく聞くような触れ込みの入った腐葉土を購入して、飼育ケースに導入してみる。

 要はお金の力に頼っただけなんだけど、幼虫用の高級腐葉土一袋の値段なんて人間の食べてる高級食材からすればウン十分の一の値段だし、最近外出がめっきり減ってお金を使う事が減った事もあって

「これで幼虫が大きくなるならいっか!」

 と思うと、千円程度の出費なんて何とも思わない出費に感じた。

 そしてこの事を友達に話したら


「自分にお金かけないで、カブトムシなんかにお金かけてるから枯れ女化が進むんだって……」

 って言われて呆れられちゃったけどね。


 そして私が幼虫を大きくするためにもう一つ出来そうな事が、低温飼育と呼ばれる飼育方法だった。

 カブトムシの幼虫って冬になって飼育ケース内の温度が10℃を下回ると、気温が上がる春が来るまで活動を停止するらしい。

 だからあえて冬場に幼虫が緩慢に活動すると言われる温度である15℃程度に保って、冬でも幼虫の成長を促す飼育方法があるらしい。

 ちなみにこの温度超えて暖かくし過ぎちゃうと、カブトムシが本来より早い段階で蛹になってしまう事もあるんだって。

 もっとも私はそこまで厳密に温度管理が出来る自信は無いから、とりあえず冬場は暖房の効果が及ばない玄関に飼育ケースを移しといて、飼育ケースは適当なサイズの段ボールに入れた。

 そして段ボールの中に宅配便なんかでよく使われる緩衝材を入れて、幼虫飼育用の人工温室のような物を作ってみた。

 結果はどうなるか春にならないと分からないけど、我ながら苦手だと思う存在に対してここまで手間を掛けてしまうのは、やるならとことんやらないと気が済まない性格だからかな?


 こうして寒い冬が終わり三月の終盤になると、気温が夜でも15℃を下回らない環境になった。

 だから私は低温飼育用の段ボールに入れて飼育していたカブトムシの幼虫を、再び自室に戻して再び目の届く範囲での飼育を再開する。

 冬が終わって気温が暖かくなってきたことを知ると、カブトムシの幼虫は蛹に変化する前に今まで以上の大食漢へと変貌すると複数で書かれていたけど、確かに春になってから幼虫の食欲は大いに増した。

 なんせこの時期だけは餌である腐葉土交換を一カ月に一回やったからね!

 この時”面白いな”と思ったのは、腐葉土交換を一気に全部交換してしまうと幼虫は自分の匂いが付いてない腐葉土を嫌がるんだって。

 そしてそれが原因で、幼虫は飼育ケース内で暴れ回って無駄なエネルギーを使ってしまうから、幼虫が大きくなりにくいだとか。

 その情報を知った時私は「意外とカブトムシも人間のように我儘な所があるんだな~」なんて思ってしまった。


 こうして古い腐葉土と新しい腐葉土を混ぜるために、一端幼虫を土から穿り返す事に。

 そして幼虫を腐葉土から出してみると、幼虫の体は500円玉より大きくなっていて、体長だけでいったら10センチぐらいになっていた。

 始めて見た時は2センチぐらいだった事を考えると、脅威の成長スピードだと思う。

 そして幼虫の体色が白から薄い黄色に変化している事にも気が付いた。

 どうやら黄色に変化すると蛹へと変化する準備が始まった兆候らしく、このまま順調にいけば6月ごろには蛹に変化するらしい。

 という事は、私の幼虫飼育生活もゴールが徐々に見えてきたみたい。


 そして五月なり、再度の幼虫の餌となる腐葉土の交換をするためにもう一度土から幼虫を穿り返してみると、幼虫はブログ記事に書かれていたように更に黄色味を帯びた体色に変化していた。

 どうやらコレが私にとってこの幼虫の為に出来る最後のお世話になりそうだね。


 後は蛹になるのをじっくり待つだけなんだけど、カブトムシの幼虫ってケース内を動き回って意外と見える場所に頻繁に姿を見せてくれるから、ゆうくん達に飼育状況を伝えるのも楽だったから、てっきり蛹も見える場所で作ってくれると私は勝手に思い込んでいた。

 だけど蛹を見える場所で作ってくれるかどうかは運が絡むみたいで「絶対に飼育ケースから見える場所に作ってくれるとは限らない」という事実を知ったのは6月の終わり頃!

 出来れば経過報告用の写真と動画撮影しやすい場所で幼虫くんには蛹になってほしかった。


 だけど、もうこの時期になると幼虫は蛹になる準備を始めている可能性があるので、下手に幼虫を土から掘り返すと蛹になる準備を邪魔されたストレスとなってしまうらしく【その所為で蛹から成虫へと変化する際に羽化不全という症状を引き起こして死んでしまうケースがある!】という情報を事前に得ていたから、もう下手に手出しは出来ない状況なんだよね。

 だからもう私に出来る事と言ったら、このまま無事に羽化してくる事を願うしかないみたい。


 そして時期は七月の終わり。

 海外からお兄ちゃん家族が一度日本に帰国するという連絡と、そのついでに「カブトムシの幼虫がどうなったのか見たい」という連絡が入ったので、私の家にお兄ちゃんとゆうくんが来る事になった。

 約一年ぶり再開したお兄ちゃん家族だったけど、海外に行っても変わらず元気な姿を見せてくれた事に安心したし、ゆうくんが一年でまた成長している姿を見ると

(子供ってのはやっぱり成長が早いんだね)

 と強く思ってしまったのは、やっぱり私が今家で飼ってるアイツの成長と重なったからからかな?


 そしてカブトムシの幼虫がどうなっているかという要望に応えるべく、私は土を慎重に穿り返してみる。

 本来なら自然に出て来るのを待つのが一番いいんだろうけど、羽化不全で死んでしまっている可能性も否定出来ないの状況なので、その事を心配しつつ恐る恐る土を掘り返していると、突如土の中から楕円の空間が現れ、そこには無事に蛹から羽化したメスのカブトムシの姿が!

 ちなみに大きさは5.5センチぐらいだった。


 大きく育ったのかは良く分からないけど、私としては手塩に掛けて育てた幼虫が立派に成虫へと成長した姿を無事に見る事が出来て、私は大いに感動していた。

 だけど本来の飼い主?であるゆうくんは「メスじゃなくてオスが良かった~」っと不満気の様子で、シレっと私の感動に水を差して来るのだが、こればっかりは育てた私にしか分からない感動なので仕方がないと思う。


 そして私は今、お兄ちゃんとゆうくん、そして私が育て上げたカブトムシのメスと共に、私が育てたカブトムシのメスの親を捕まえたという場所に来ている。


「じゃあバイバイしよっか」

「うん、バイバイ~」

 私は育てたカブトムシのメスをこれ以上育てる気はなかったので、本来カブトムシが居るべき形にカブトムシを戻す事にした。

 我ながら自分勝手な考えかもしれないんだけど、私がこのまま飼い続けた所で私はブリーダーのように繁殖させる気が一切ない。

 そうなるとこのメスは、本来生物として全うすべき目的である子孫繁栄に携わる事すら出来ないんだよね。

 だったら本来居るべき場所に戻してあげて、本来の生を全うさせるように生きさせた方が、私に買い殺されるよりはよっぽどマシだと私は思った。

 ちなみにその旨をお兄ちゃん達に伝えると、この事に対して文句を言ってきたんだけど、それは案の定というか、一番カブトムシにハマってる様子を見せたもんね~

 しかし「このメスの生き方をどうするか」を決める権利があるのは、育てた私の特権だと思うし

「そんなに育てたかったら自分で育ててよ!」って言ってやったら、渋々私の言う事に従う様子をお兄ちゃんは見せたけど、そりゃそうだよね。


「だって他人任せに育てさせといて文句ばっかり言っても、それって発言力ゼロですから!

 文句があるなら何事も自分でやってから言いましょう」

 って言うじゃない?


(しかし何事も実際にやってみないとその本質は見えてこないという事を、カブトムシから再度教わるなんてね~

 幼虫が育つ姿見てあんな楽しい気持ちになるんなら、あれが我が子だったら私は一体どうなっちゃうんだろ?)

 そんな事をふと思いつつ、私はカブトムシが森の中に消えて行くのを見届けるのであった。

最後までこの作品を読んで頂きありがとうございました。


何事もやってみないと本質は見えてこないし、やってみたら思わぬ影響を受ける事ってありませんか?

今回はそんな出来事を書いてみましたが、この作品が面白いと思ったら是非評価や感想等を頂けると、次の作品をより面白く書くために糧にさせて頂きますので、よろしくお願いします。


それではまた宜しければ、次の作品でお会いしましょう。

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