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見えるもの

 6月30日、午前11時50分。

天気は雨。

白と黒を1対1。

絵の具を混ぜたような空模様。 

雨に打たれる傘は、

自然に反し薄っぺらい音を打ち鳴らす。

彼女はきっと、いや確実に遅れてくる。

雨音が耳に痛い。

ちょっとした気分転換になればいい、

そんなふうに思っていた。


☆ ☆ ☆ ☆


ドアを開けると同時にベルの鳴る音が聞こえる。

アンティーク雑貨に古時計。

時刻は12時過ぎ。

意外にも彼女、七瀬はすでにソファに腰掛けていた。

「遅刻だね、珍しい。」

声音に落ち着きがある。

雨のせいか、それとも気まぐれか。

『雨降ってたから、思ったより時間かかっちゃって。』

嘘ではない、実際いつもより時間がかかった。

「そう、なら許す。」

何だこいつ。

いつも遅れてくるくせに。

『お金借りてる側だよね、、』

早く座れとばかりに睨んでくる。

え、怖いんですけど。

「すぐ返すから。で、たまごサンドでいい?」

『いいけど。』

『奢ってくれるの?』

「そんなわけないじゃん。」

『で、あんたは何頼むのよ?』

「コーヒー」

古時計の針が音を立てる。

「コーヒー!」

『本当に?』

「何、飲めないとでも思ってるんだ。」

『そういうわけじゃ…ないけど。』

「少し迷ったよね?」

なんだか不服そう。

なんとなく窓の外へ目を逸らす。

水滴で霞み、外が良く見えない。

本当に外の世界と隔絶されたように。

「ご注文はお決まりですか?」

『あ、はい。』

いつの間に。

「たまごサンドをお願いします。」

『あと、あんみつで。』

『たまごサンドとあんみつですね、

 ありがとうございます。』

ささっとカウンターへ戻って行ってしまう。

『学校はどう?』

やっぱり聞かれるよな、、

「まあまあだよ。」

言葉を濁す。

嘘はつきたくなかった。 

『そっかー、それにしては、

 浮かない顔してるけど。』

彼女はやけに感が鋭い。

心を見透かされているように

感じることが多々ある。

「雨だからかな。」

『さっきもそんなこと言ってたよね。

 雨アレルギーなの?』

「そんなものないでしょ。」

『あるかもしれないじゃん。』

実際どうなんだろうか、

僕は世界をまだ良く知らない。

「七瀬はどうなの?」

『まあまあだけど。』

「ならよかった。」

『え〜それだけ?

 もっと何か聞いてよ。』

「毎日を満足に過ごせてるならそれで十分。」

『君は満足できていないような言い方だね。』

話せば話すほど漏れ出してしまう。

もういいや。

「そうだよ。」

思わずそのひと言が出でしまった。

もう隠しようもない。

『その言葉を待っていた。』

彼女は微笑む、

梅雨晴れのように。

「まずだ。まともな友達ができていない。」

『というと?』

「話すといえば話す。でもそれだけ。」

『十分じゃないの、何がご不満?』

「他の人はいつものメンバー的なのがいる。

 でも自分はいない。」

『そういうのが欲しいの?』

「そういうわけではない。」

『私に絡まれ過ぎて感覚

 麻痺っちゃってるんじゃないの?』

自分で言うなよ。

でも、それもあるかも。

学校にいる間はだいたい七瀬いたし。

でもそれはなんだか違う。

「それはあるかも。でも、」

『でも?』

「うん、何だろう」

雨脚が一層強まる。

屋根越しにおとがきこえるほどに。

『自分を客観的に見てみたらどう?

 今までそんなの気にしたことあった?』

真正面から目を射止めて。

全てをわかったような顔で。

『君は私と喫茶店で話している。

 これを客観的にみるとどうかな?』

「借金の受け取り。」

『それは主観だ。』

彼女は満を持して言う。

『そう、これはデートでしかない。』

「それ言いたかっただけだろ。」

『え、バレちゃった。』


そんなふうにあしらったが

(かす)かに、何かが掴めたような気がした。

この状況を客観的に見れば、

楽しそうに話す高校生2人に見える。

僕だったらきっと、

羨ましい、楽しそうだなぁ、

と思っているだろう。

そうだとしたらこの時間はきっと、

僕が欲しかったもの。

そんな場面がこれまでもたくさんあったのだろう。

目の前のことに精一杯で、

取りこぼしていただけで。


☆ ☆ ☆ ☆


僕は2人を遠目に眺めていた。


2人はいつも楽しそうに話す。

1人の時も少なからず楽しそうに過ごす。


このたまごサンドもコーヒーも、

そんな彼らの彩りのお供になれるように。

この場所が、

そんな誰かにとっての

岩戸(隠れ家)になれればと思うのです。











お読みいただきありがとうございます。

この2人、まだまだ書いていたいですが

エピソードとしては一旦おしまいです。


毎日過ごすことにに精いっぱいで

見逃してきたもの、取りこぼしてきたもの。

今からでも取り戻せるはず…







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― 新着の感想 ―
どのお話にも落ち着きがあって、楽しく読ませて頂いたのですが、特にこのお話が好きです。 冒頭の語り口、七瀬ちゃんの言葉、青春ですね(*´꒳`*) 『白と黒を1対1』という表現が特に素敵でした。 そして、…
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