老夫婦のコーヒー
老夫婦のコーヒー。
この店の運命を決めると言っても過言ではない。
この店の最重要課題である。
この2人に認められてこそ
うちのコーヒーは完成する。
そう祖父は言っていた。
そして本日はその第7回戦、
運命の戦いが幕を開ける。
〜第1回戦〜
オーラから感じ取れた…
この2人だ。
間違いない…
見た目は普通の装いだが、
いや、普通すぎる。
気が付かないだろ、こんなの。
気を取り直して、まずはメニュー表を。
『コーヒーを2つお願いしたい。』
そんな目で見ないでくれ。
とりあえず受け取ってくれよ…
「かしこまりました。」
気を取り直して…
これさっきも思ったな。
何度も練習した。
全神経を注いで最高の一杯を
お届けしてみせる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そんなこんなで迎えた第7回戦である。
過去6回は何も言ってこなかった。
多分お気に召さなかったのだろう。
「お待たせしました。」
『どうも。』
このやり取りも7回目だ。
まずはひとくち。
表情は…
まぁ、いつも通りだ。
全てを飲み、こちらを見る。
うん。わからん。
いつも通りレジにやってくる。
『また来るよ。』
また次か…
そう思っていた矢先、
ふと、お婆さんが囁く。
『美味かった、と言いたかったみたい。
彼、分かりづらいとこあるの。』
もっとわかりやすくしてくれ。
こっち見たのが、
美味くなったな。
だったの…?
え、あれ?
この店の平穏は保たれた。
お読みいただきありがとうございます。
私自身もなかなか、
素直になれない場面が多々あります。
それでもさすがに、おじいさん。
感想の一言ぐらいはっきり言ってほしいです。
(自分で書きながら何言ってんだという話ですが…)