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とある島国の戦争

作者: つくも

時に、統一暦158年。

 世界は、列強とその他弱者というふうに分けられるようになった。

 そんな中で、弱者に分類されるとある南方の島で新型装甲艦が就役した。

 列強から見たらそれこそ植民地用の二等艦といった性能だが、問題はそこではなかった。

 弱者に分類される国が、列強の力を借りずに建造したことが、それこそが問題であった。

 就役式は大々的に行なわれ各国の代表が見に来た。

 そのフネの名をソトールという、現地の言葉で希望という意味である。

 全長82m

 全幅18m

 基準排水量8560t

 武装

  24cm連装前装式砲 2基2門

  8cm単装後装式砲  12基12門

 本級の最大の特徴はその巨大な前装砲で、露砲塔式だったため列強の中でも陸軍傾向が強く、舷側砲艦しか持たないノルクリ帝国などであれば勝てるとも考えられた。

 そんなソトール、意外なことに参加した戦争はたったの一度しかない。


 統一暦162年

 植民地拡大を目論む国家がいた。

 その国はかつてはとてもとても強大で偉大な帝国だったが、長年の平和によって政治は腐り、軍は時代遅れとなっていた。

 だからこそ焦った。このままでは崩壊してしまうと。

 其処に丁度良い規模の島国があった。

 大きすぎず、小さすぎず。

 かつては帝国に貢物を捧げる国の一つだった。

 そして、資源が豊富。

 陸軍もそこまで大きくなく、海軍もそれに準ずるように思える。

 そしてそれに比べて我が国は、帝国の軍は時代遅れとはいえ規模は大きい。

 数だけなら列強にすら勝る。

 これで吸収しようと思わないわけがなかった。

 統一暦162年2月10日、帝国はその島国に対して、とある条件を提案した。これはそれを要約すると、

 一つ、帝国に服従すること

 二つ、全ての現地人の土地は帝国のものとすること

 三つ、軍は解体すること

 四つ、これらを受け入れること 

 五つ、もしこれに逆らった場合に置いては武力を行使する

 つまるところの宣戦布告である。

 当然島国は反対する。

 しかし、回答期限である同月25日、島国は拒否し、開戦。

 後にユールス戦争と呼ばれることとなる近代史において非常に重要な戦争となった。


 開戦してから1週間で一番帝国に近い島が取られた。

 現地は血の海となっていて、いたるところに住民の死体が転がっていた。

 ある死体は腹を切られており、いくつか内臓がなかった。

 とある親子の死体は酷かった。

 母の腹は裂かれ、中から引っ張り出された腸で子が首を絞められて殺された。

 当然、略奪は行われた。

 ありとあらゆるものが奪われた。

 この島の住民は戦前には1200人いた。

 戦後は死体も含めて900人しか確認できなかった。

 帝国の部隊は大型の帆船に大量のボートを載せて沿岸にいた。

 帝国の帆船は列強風にいうならば戦列艦で、側面に並べられた大量の砲がまず島を砲撃する。

 これによってまず海岸陣地の対艦能力を失う。

 海岸陣地には急場拵えではあるが砲陣地を用意しており、その砲は前装式では有るが威力自体は悪くなく、十分に引き付けることで戦列艦でも撃沈できるはずだった。

 しかし引き付ける前に砲陣地を破壊されては何もできない。

 そうして一連の砲撃が終わったらボートに兵士が満載され、島へと上陸する。

 上陸した部隊は島の生き残りを襲う。官民関係なく襲う。

 これは列強の観戦武官によって指摘されていたが、帝国は気にしなかった。


 開戦から一ヶ月。

 大小合わせて五つ以上の島を奪われ、兵1000を失っている。

 また帝国は現在進行系で6つの島へとその魔の手を伸ばしていた。

 そして、後にヤナール岩礁戦と呼ばれる一大海戦が起きた。

 帝国の主力は同海域における最大の島、ヤナール島へと移動を開始していた。

 帝国はここまで連戦連勝、多少の疲労はあれど士気は上々。

 ヤナールへと艦隊主力は展開し始めていた。

 ここへ単縦陣で島国の第一艦隊が島裏から現れ殴り込んできた。

 第一艦隊の編成は前から

 装甲艦ソトール ユーラネ

 防護巡洋艦 カール ノーラ シーレ

 水雷艇 ユール ビラー スラート

 である。対する帝国は

 74門艦 パーラス ガラール ソレビー スナイデー

 ハレーテ ベルーネ シュルース フレート

 ユナイデー ナーエス マイデール

 である。このとき帝国艦隊は島に対して側面を見せる形で展開していた。

 ここに島裏から出てきた艦隊は戦列艦たちからみてやや横よりの斜め前からの出現で、砲門の全てを島に向けていた帝国艦隊はほとんど対応できなかった。

 対応した艦もいたものの、ここは岩礁海域。船底に穴が空いてしまった。

 戦列艦たちは新型艦で、船体全体に約5センチの鉄板を張り付けていた。

 これが悪かった。木造もしくは一部のみ鉄なら多少無理をして座礁から逃れられただろう。

 しかし、この5センチの鉄板はそれを許さなかった。

 岩に穴を開けられて、さらに奥に食い込んで鉄板の形が曲がる。

 しかも厚みがあるから応急処置をしようにも曲がった鉄板を処理できない。

 そして未だ満足いく状態になっていない帝国艦隊へ第一艦隊は砲撃を仕掛ける。

 その石炭燃焼式3段式レシプロ機関は出力に物を言わせて前進しつつ、このあたりの海域を熟知した操舵士が巧みな動きを艦にさせる。

 前装式とはいえど24cm砲の徹甲弾の威力は強力で、工兵にとってあんなに硬かった鉄板もまるで紙のように貫通する。

 このとき使われた徹甲弾は新開発のもので、信管がかなり敏感にできていた。

 これは相手の戦列艦の装甲が鉄でなおかつ5センチしかないからであった。

 貫通した砲弾はその敏感な信管が作動してすぐ爆発する。

 砲弾の真ん中あたりの爆薬が割れた砲弾の欠片を熱を持たせて弾き飛ばす。

 運が悪い艦は一撃で弾薬庫に誘爆した。

 沈まなくとも、艦内は地獄絵図だった。

 帝国艦隊の悪夢はソトール級だけではないそれらに引き連れられてきた巡洋艦や水雷艇は非常に危険だった。         

 これらの艦艇が搭載する小口径砲は一発の威力に劣るものの、連発性能は素晴らしく、日々の訓練の成果も出て瞬く間に戦列艦たちを蜂の巣にする。

 特に榴弾は凄まじかった。

 未だ基礎構造が木造な戦列艦はすぐに艦内に火が回る。

 略奪品や嗜好品の酒を摘んでいたりするフネは酷かった。外から必死に水を汲んでいる水兵もいたが彼らは其処で水の中を何かが泡の線を残しながら近づいてくるのを見た。

 魚雷である。彼らがその正体を知らないのも無理はなイ。当時魚雷は列強でも半ば見放された兵器であり、実戦データがどこの国にもなかったからである。

 そしてその魚雷が当たる前に水兵は息絶えた、8cm砲の直撃だった。水雷艇は十分に接近しており、その武装を余すことなく使えたからである。

 そして、30秒もしないうちに魚雷はいくつかの大きな水柱を立てた。そのほとんどは岩礁に当たったものだが、2発ほど敵艦に当たった。それぞれが戦列艦の鉄板をめくり上がらせ、船内に爆風を撒き散らし、竜骨を折り、中へと水を侵入させた。

 直撃であるがゆえに破孔が大きく、そして歪んだ鉄板が邪魔をしてそのまま岩礁の一部として鎮座した。

 デッキからはポロポロと海におちる影があったが、どれも赤く見える。

 デッキにあんなにたくさんあったボートはみな吹き飛び燃やされてしまい、だれも助けることができなくなっていた。

 まだ戦闘が終わったわけではない。

 戦列艦はすでに1隻しか残っていなかったか、そこへソトール級2隻の斉射がくる。

 この戦いで帝国側は侵攻作戦の主力を喪った。


 このあとは、やり返しであった。

 奪われた島の敵部隊を艦砲射撃で制圧、混乱しているところに上陸し、奪還。

 各地に点在する戦列艦たちも戦列を組んでいなければただの船に過ぎない。

 ましてやそのご自慢の74もの砲はソトール級の装甲を貫通することができなかったのである。

 しかし、ソトール級2番艦ユーラネはその幌がついただけの第1露砲塔に被弾し反対側の第2露砲塔をえぐった。これによって、主砲要員を丸ごと一基半失っている。


 ヤナール岩礁戦で勢いを失った帝国は条件付きで降伏。

 その内容は、賠償金以外の請求を認めないというものだった。

 これによって勝利を得たこの島国が、敵艦隊を潰せば遅かれ早かれ戦争は終わるというやや間違った方向教訓を得たのはまた別の話。

感想などいただけるととても嬉しいです。

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