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トライク

 翌朝、クララは朝食に買い置きのパンを一つ食べてから、教会内にある車庫へと向かった。

 ここにある乗り物はネオスドリフトの構成員向けに教会がかき集めた貴重品であり、取り扱い注意の数々だ。

 待ち合わせの場所に到着したクララは先に来ているはずのパウロを探すのだが、彼の横には見知らぬ女性の姿。

 初めて見る顔に「あれは誰でだろう」と、クララが小首を傾げるのは当然の流れだ。


「おはようございます」

「おはようクララ。今日はめかしこんでいるね」

「(別に昨日と変わらないんだけれどなあ)」


 挨拶を返すついでにお世辞を投げるパウロに、クララは無表情の裏で小首を傾げる。

 そんなクララの内心を、横にいる彼女は見抜いたようだ。


「こら……ダメじゃないか、よっちゃん。下心丸出しでテキトウに褒めても、女の子からしたら困るだけだって」

「そ、そんなつもりじゃないぞ」

「あの……アナタは?」

「ゴメンねクララちゃん。自己紹介がまだだったね。

 僕はハイジ。コイツと同じ教会の人間で、今回の遠征に同行させて貰うっスよ。キミのことはコイツから聞いているから、クララちゃんは気さくにハイジとでも呼んでおくれ」

「わかりました。ハイジさん」


 クララはハイジのシスター姿に最初は困惑したわけだが、教会の人間ということはマルメガネやパウロと同じGMということだろう。

 たかだか新人の研修を兼ねた遠征にしては、GMを二人も参加させるのは気前がいいなとはクララの素人目にすらわかるほどだ。

 なんせマルメガネとパウロを含めても、今までクララが見たことがある神父は十人にも満たないからだ。

 他所の街の教会も含めれば相当な数がいるのだろうが、ことフナバシに限れば目の前にいるシスターを入れてもまだ一桁人数である。

 それを踏まえれば、自分への対応が破格だと、クララが感じるのは当然の流れだ。


「でもいいんですか? ただでさえ教会は人手不足でしょうに、二人も同行するなんて」

「そんなのクララちゃんが気にする話じゃないっスよ。そもそも今回の遠征はコイツのわがままで、僕はその御守りなんだからさ」

「どういうことですか?」

「気が付かないんならいいのさ。単純に、僕ら教会にもいろいろと都合があると覚えててくれれば」

「意味深な言い方はよせ灰村。クララも困るだろうし」

「良いのかなー。よっちゃんとクララちゃんの二人旅に僕が参加した理由とか、彼女に教えちゃうけど」

「ぐぬぬ」


 結局パウロは「未熟な自分を心配している上司が取った最善策」だと、自分を下げることで真の理由を誤魔化した。

 脇でニヤけるハイジに内心で腹を立てつつも、自分が目の前の少女にお熱だからと本人に知られるよりはとの判断である。

 クララの方は単純に「人手が増えるほうが安心できる」とパウロの同行を快く受け入れた。

 そもそもの話、クララはいかに射撃の腕前が自分が思っている以上であろうとも、心は未だに常人のままでしかない。

 一週間足らずで異世界に順応し、バトル脳になった他のネオスドリフトや極道者と彼女は大きく異なっていた。


「そろそろ準備はいい?」


 車庫で出発前の話し合いを終えた三人は、ハイジの音頭で出発することになった。

 三人が乗る車両はいわゆるトライク。

 バイクと車の中間とも言える三輪車だが、かなりの大型化による居住性の確保と悪路にも対応した足回りの強化を行ったモンスターマシンだ。

 クララは世代ではないのでわからないが、パウロ以上の年齢からすれば昔のアニメやゲームで見たとしか言えない代物。

 名前も聖帝号と言い、世紀末を感じさせる装飾も相まって世代の人間が多い教会関係者の悪ノリが強い車となっていた。

 クララのように元ネタを知らない若者には、派手なバイクにしか見えないのだが。


「それじゃあ出発っスよ。よっちゃんは運転をヨロ」

「それは構わないが、クララにイタズラするなよ?」

「え?」


 クララはパウロの言葉の意味がわからないので、困惑の意味で声が漏れた。


「運転しながらじゃ話しにくいから今のうちに教えておくが、コイツは男なんだ。だからコイツからクララに変なことをしたら、遠慮なく私に助けを求めてくれ」

「しないっスよ、よっちゃんじゃあるまいし」

「え? え!!」


 クララはハイジを完全に女性だと思っていたので、パウロの言葉も嘘だとしか思えないくらいだ。

 とりあえずこの場では混乱しつつも「ハイ」と答えたクララは、聖帝号の後ろにてそっとハイジに耳打ちをする。

 本当に男の人なのかとたずねる彼女に対して、ハイジは冗談交じりに「証拠に触ってみる?」と、自分のある場所を指差す始末。

 クララは幼馴染のそれを思い出し、耳まで赤く染まるほどの赤面である。

 声には出さなかったでパウロはそれに気づかなかったが、気づいたら大人二人は喧嘩になっていたであろう。

 とりあえず出発する三人。

 まずは安全地帯である街の周囲から出るまでは、調べることもないのでのんびりと聖帝号を走らせた。

 聖帝号はオープンタイプの座席で、雨風埃に走行風などの騒音は魔法で軽減している快適仕様。

 モンスターの出現もない平坦な道が続くうちは、ちょっとしたピクニック気分にクララの気も緩んでいた。

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