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灰村

 パウロの手引で教会から銃弾を分けてもらい、マイルームに戻ったクララは衣服を脱ぎ捨てる。

 姿見に写った自分の姿を眺めるクララだが、彼女はその姿に少し違和感を覚えていた。


「はぁ」


 溜息の理由は元の世界における、現実での自分の姿だ。

 クララとしての彼女は胸が薄く全身が細いスレンダー体型なのだが、平井亜由美としての彼女はやや太いぽっちゃり体型。

 そのギャップに彼女は苦しむ。

 本音を言えばクララとしての自分のほうが、痩せていて綺麗だと思っている。

 だがちょっとだけ胸が大きい以外には、悪く言えばおデブな昔の自分が恋しくなっていた。

 このままこの世界でずっと暮らしていくのだろうか?

 もう昔の自分には戻ることはないのだろうか?

 そんな考えが、ベッドに転がった彼女の脳裏に浮かんでいた。


 一方その頃、明日の遠征に向けた準備をするパウロは浮かれていた。

 すっかりクララに惚れた彼は、彼女と一緒に冒険をしてかっこいいところを見せれば、きっと自分に惚れてくれると自惚れているようだ。

 パウロこと義晴は元の世界では未婚で女性と交際した経験もない。

 それは今の世界に来てからの一週間もそうだったわけだが、彼は別世界への転移をきっかけに変わろうとしていた。

 そんな最中に出会ったクララに彼は夢中というわけだ。

 相手の気持ちも考えず、彼は自分の胸のうちに湧き出ている「好き」という感情に暴走していた。

 まさしく恋愛経験の未熟な中年らしさだろう。


「クララは強いが、銃弾がなければか弱い女の子だ。私がしっかりしないとな」


 自信満々に持ち物をチェックするパウロの浮かれ具合は他の神父もちょっと心配になるほどだ。

 これは彼らが以前の義晴を知るからに他ならない。

 元よりネオスドリフトの発足に当たって彼が積極的に参加していること自体が、異世界デビューとも言うべき心変わりだった。

 そんな彼が一人の少女と遠征に行くと言うのだから、彼を知る人物からすれば事案にしか思えない。


「失礼しまーす」


 そして遠征の準備の一環としてパウロはマルメガネに書類を提出した。

 他の神父からの報告もあって、パウロが問題を起こすのではないかと心配したマルメガネは、一人のシスターを呼びつけ、ちょうどその人物が遅れてやってきたところだ。


「休暇中に呼びつけて、一体何の用事っすか? マルさん」

「休暇中で暇を持て余しているからに決まってるだろうハイジ。ついでに言うと、今日は仕事として呼び出したんだから、マルさんは止めろ」


 マルさんという渾名でマルメガネを呼ぶこの人物はハイジ。

 他の神父と同様にセカンド・ユートピアの運営側だった人間の一人である。

 身長が高く、その割には胸は薄くてやや筋張っているが、細くて長い指とスベスベの肌が見目麗しい、いわゆる美人。

 本来、GMは男女問わず神父の格好がデフォルトなのだが、ハイジは本人の希望でシスターの格好をしている。

 そんなハイジはネオスドリフトの活動には消極的で、転移直後の会議でネオスドリフト発足が決まってからは、休暇を理由に仕事を放棄していた。

 もっとも教会側としても、異世界転移という異常事態を前にすれば仕方がないと、ハイジのサボタージュは容認されていた。

 そんな状態で上司から呼びつけられたのだから、ハイジがやる気なくマルメガネを渾名で呼ぶのもある意味当然か。

 ちなみにマルさんというのはアカウント名のマルメガネではなく、彼の本名である丸山からつけている。

 元の世界では上司と部下の関係とはいえ、渾名呼びを許すほどにハイジとマルメガネの仲は良好だった。


「私の申請に対して待ったをかけた上でコイツを呼び出したってことは、もしかして灰村も一緒でなければ許可しないって事ですか? 丸山部長」

「そう怒るなパウロ。そういう態度だからハイジを呼んだのがわからんか?」

「怒っていませんよ」

「でも興奮しすぎじゃないか? よっちゃん」

「部長の前でよっちゃんは止せ」

「すんませんね……佐藤くん。

 でも、部長が休暇中の僕を呼び出した理由はよくわかりましたよ。

 こんなプッツン状態で遠征に行くつもりだなんて、注意力散漫っスね。ちなみに他に、同行者はいるんスか?」

「ああ。クララという、ネオスドリフトに新しく入った女の子だ」

「道理で」


 上司であるマルメガネの思惑を察したハイジはジロジロとした目でパウロを眺めた。

 彼の心配する通り、今のパウロは何をしでかすのか不安でいっぱいのようだ。

 それに行き先を聞けばヤサトということで、それも休暇中にあることをしていたハイジには都合が良かった。

 自分は非協力的とはいえ、今はまだ教会との関係を断つのは早いと判断したハイジは首を縦に振る。


「───わかりました。親愛なる部長のお願いですし、その仕事は引き受けましょう」

「助かるよ」

「あの……私には拒否権はありませんか?」

「あるわけがないだろうパウロ……いいや、佐藤くん!」

「は、はいぃ!」


 こうしてマルメガネの判断で、明日からの遠征にはパウロとハイジ、二人のGMが参加することとなった。

 それをクララが知るのは翌朝の出発直前のことである。

 転移してからいままで、ずっとフナバシから出たことが無かったクララ。

 彼女が初めて経験する外の世界には、思いがけない危険が溢れていた。

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