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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
98/130

異世界でのペナルティーキック

 シュンがボールを持っていないときに、魔法で吹き飛ばされてしまった。

 この異世界においてそのプレイはファールを取られてしまう。激しい接触プレイが多いエルドラドサッカーでも、ボールを持っていない選手に攻撃を仕掛けるのは審判が笛を鳴らす行為であるのだ。

『ここでマギドラグ魔導学院、絶好のチャンスを得ました! PKです!』

 PK。

 すなわちペナルティーキック。

 キッカーとゴールキーパーが一対一の状態で行われる、一騎打ちの勝負だ。

 点の取り合いが多発するエルドラドサッカーにおいても、やはりサッカーと言う競技の一点は重い。

 ペナルティーキックの一点はどちらのチームにとっても大きいものであり、この一戦は負けられない。

「い、イクオスさん。すまねえっス……シュンを止めようとしたんですが……」

「なっちまったもんは仕方ねえ、引きずるな。おいシガー、止めてきな」

「ハイ!」

 意気揚々とシガーがゴールの前に立つ。

 対して、マギドラグ魔導学院の方はどの選手が出るかというと、

「俺が行ってきます!」

 シュンが前に出る。

『やはりここでシュン選手が出る! ストライカーとしてここで出るのは当然でしょう!』

「シュン、体は大丈夫なのか?」

「ええ、もう痛みは引きました。問題ないです」

「ゴール決めちゃえ!」

 チームの皆に心配と応援をされながら、シュンは敵陣のペナルティーエリアへと向かっていく。

「ねえねえイルマ。これってどっちが有利なの?」

「キッカー側に決まってんだろ、アホ」

「ぶー! アホじゃないよパイプ! どっちが勝ちやすいのか聞いているの!」

「質問変わってねーよ。ようはあれっスよね、シガーとシュン、どっちが勝つかだろ?」

「そうそう! まあ、シガーが勝つよね!」

「…………」

 あらためてイクオスにそう聞くも、何も言葉を発せずゴールを見続けていた。

「イルマ?」

「……シガーがそう簡単に負けると思うか? 勝つのかこっちさ」

 しばらく黙った後、そう答えるイクオス。

「だよね!」

(イクオスの奴、シュンのことを警戒しているな。シュンと何度も対面し、シュートを止めたからこそわかる。ストライカーとしての実力が別格だと)

 パイプはイクオスの様子をうかがいながらそう考えた。 

(なにがきついかって、ペナルティーキックはキッカーがボールを蹴った後、ゴールキーパーが触れるかゴールポストに当たってキッカー以外の選手が触れるまで魔法の使用は禁止なんだ)

 エルドラドサッカーのルールの一つ。

『ペナルティーキックの時、魔法の使用を禁止。使用が可能となるのはゴールキーパーがボールに触れてキャッチかシュートを止める、もしくはシュートを弾いたとき他の選手がボールに触れた場合である』と。

 ゆえにこの一騎打ちでは魔法は使えない。

 すなわち、ペナルティーキックは選手の身体能力とサッカーの技量の純粋なぶつけ合いなのだ。

 そうなると断然、サッカーの技量が高いシュンのほうが軍配が上がる。

「なあイクオスさん……俺、不安なんすけど」

「いや、止めれるさ。アイツのパワーなら魔法を使ってねえシュンのシュートぐらい止めれる」

「そうそう! シガー信じておうえんすれば止めてくれるよ!」

「……まあ、ホーラの言う通り、応援は大事ではあるっスね」

 ペナルティーキックの勝負には一騎打ちを行う二人以外、誰も干渉できない。味方の勝利を祈り応援するしかない。

 シュンとシガーがペナルティーエリア内でにらみ合い、すでに勝負は始まっている。

『シュン選手とシガー選手の一騎打ち! このペナルティーキックは試合の行方を大きく揺るがすターニングポイントと言っていいでしょう! シュン選手が決めれば同点! 前半終了したときの点数、二対四の点差を埋めることができます。ゆえにどちらもこのPKには絶対に勝ちたいという思いがあるはずです!」

 実況のメロエウタの言葉通り、このペナルティーキックの一点はどちらにとっても大きい一点。

 たかが一点ではない。

 試合の流れが大きく変わる一点。その一点はマギドラグからしてみれば同点打になり、ダーディススクラプにとってはファールによって生まれた最大のピンチを乗り越えたことになる。

「大事な一点をかけたペナルティーキック。プレッシャーはかかるけどシュンなら大丈夫よ」

「シュン君ゴールを決めて!」

「ヴィルカーナさんならどこ狙うの?」

「まっすぐゴールキーパーごとゴールに叩き込むわ」

「し、シンプル……」

 ベンチにいるレイカたちもシュンを応援する。

 両チームのどの選手も固唾を飲んで見守る。

「さてと……」

 ボールとゴールを同時に見つめながらシュンはどこに打つか考える。 

(確かにペナルティーキックはキッカーが完全有利だ)

 PKにおいてキッカーが約八割ゴールを決める、前世ではそういうデータがあった。

 大きいゴールに人間の体では全部防ごうなんて到底無理、しかもキッカーは誰に邪魔をされず、自身の最大限の力でシュートを放つことができる。それを止めるのは打った後に反応して止めるのは不可能と言っていいだろう。

 ゆえにキッカーの動きや思考を読み、そしてコースを予測して止める。ゴールキーパーがシュートを止める手段はそれしかない。

 だからこそPKはキッカーが断然有利。

 キッカーが緊張してゴールを外すか、ゴールキーパーがシュートのコースを読みで当てるか。

 それでようやく止めれる。

(だが、この異世界のペナルティーキックは事情が違う。ゴールキーパーはキッカーのシュートを予測して止めにいく。だがエルドラドの人たちは身体能力も動体視力も半端じゃない。できるんだ――シュートを打たれた瞬間に反応してボールを止めに行くことが)

 そうなのだ。

 魔法や強烈な接触プレイを喰らっても軽い怪我で済むほどエルドラドの人々は強靭な肉体を持っている。

 そしてそれはサッカーにおいて、前世では比べ物にならないほど選手のシュートのパワー、ドリブルの速さ、ディフェンスの堅さ、全てにおいて別次元になっている。

 当然、それはゴールキーパーのキャッチング能力も上がっているということ。

 そう、例えばシュンがシュートを打った瞬間、シガーがシュートコースの読みが外れていたとしても持ち前のパワーがあればそれに反応してボールに追いつけることだってできるだろう。

 なんならシガーはそのままどっしりと構えて、シュンがシュートを放ってボールの進む方向を確認した後に動くだろう。

 それで止める自信がシガーにはある。

 シュンはそう考えている。

(前世ほど、キッカーがガン有利ってわけじゃあない。油断はできねえな、絶対に取らなきゃあならない一点だからよ)

 シュンからしてみれば大きなプレッシャーがかかる場面であろう。せっかく転がってきたチャンスをつかめるかどうか。

 次の一打でそれが決まる。

 だがそんな状況であっても冷静にゴールを見ていた。

「さあ、こい! どんな強烈なシュートだろうが止めてやる!」

 ――ピピィィィッ!

 シガーの言葉とともに笛が鳴る。

 一騎打ちの始まりの合図だ。

 シュンは迷わずボールに向かって走り出す。

(コースはもう決めている!)

 打つべき方向に目を向け、全力の蹴りをボールにぶつけた。

 鋭く脚を振り抜き、蹴られたボールはハイスピードでゴールに向かって飛んでいく。

 ボールの進むコースはシュンから見て右のゴールポストギリギリ。当たるか当たらないかの瀬戸際。十分に狙って放った。ゴールには入る。

「見えた!」

 そしてそのボールの起動を見てすぐさま反応。体を動かし、ジャンプしつつ左腕を伸ばしてゴールを阻止しようとする。

「オラッ!」

 正確無比なシュートボールを掴み取ろうと広げた手がボールの中心を捉えた。手のひらから指先まで力を込めてボールを止めようと握りつぶす。

「とめた!」

 ホーラはシガーがボールに触れたのを確認して歓喜の声を上げる。

「なぁっ⁉」

 そして悲鳴も聞こえる。

 ゴールを決められなかったシュンの落胆の声か。

 ――バシンッ!

 だがペナルティーエリアの中で悲鳴を上げたのはシュンではない、シガーの方だ。

 彼がボールに触れた瞬間、その手は弾かれて大きく体勢を崩してしまう。そしてボールは微塵もぶれることなくゴールへと突き刺さった。ゴールネットの中でボールが回転し続ける。

 一瞬の静寂。

「ッシャ! どうだ!」

 シュンがゴールに入ったボールを見てガッツポーズ。

「ヨッシャー! シュンが決めたぜ!」

「さっすがシュン!」

「ああ、やってくれたな!」

 マギドラグの選手もシュンがゴールを決めて、喜びの声が上がる。

 この大チャンスの場面、プレッシャーに負けず見事に決めてくれた。

「すご! キーパーの手を弾いちゃった!」

「シュン! ナイスよ! これで同点だわ!」

 マギドラグのベンチにいるレイカたちも大喜び。

 これで点数は四体四の同点になった。

 ダーディススクラプの四点に追いついたのだ。

『ゴール! 決めました! シュン選手、このチャンスを見事つかみ取る! シュン選手の放ったシュートはシガー選手の豪腕を弾き、ゴールへと叩きつけました! なんて力強いシュートなのでしょう! これで同点に追いつけた!』

 シュンが考えたシンプルな作戦。

 ゴールポストギリギリのコースを狙いつつ、強烈な回転をかけたシュートを放つ。

 反射で動いて片手で止めても、その手を弾くぐらい威力を込めて放てばいい。

 これこそがシュンのテクニックが極まったシュートだ。

「ま、まじかよ……」

「えー! いまシガー触れたじゃん! なんで手を離したの!」

「わかんねー! てか吹き飛ばされたくね?」

「シュンの野郎、やりやがったな……なんつー強烈な回転をかけてやがんだ」

「回転っスか……足であんなにスピンかけるの化け物かよ……」

 ボールに触れていたのに何故取れなかったか疑問に思っているダーディススクラブの選手。わかっているのはイクオスとパイプだけだ。

「シガー、右腕大丈夫か⁉」

「俺のパワーが……敗れた……一度だけじゃあなく、二度も……」

 ゴール前に倒れているシガーを心配してかけよるイクオス。

 自信喪失しかけていた。自慢のパワーがシュン相手に通じていないことに不安を大きく抱いたのだ。

「まだ試合終わってねえだろ! テメーも喧嘩の最中で手止めるか? 止めないだろ! なら次は止めてやるっていう気概みせろ!」

「い、イクオスさん……」

「お前のパワーは本物だ。根性もな」

 自信を取り戻させるため、腕を引っ張り立ち上がらせて、背中を叩きながら励ましの言葉を送るイクオス。

 その言葉を聞いて目の色が変わった。

「お、俺次は止めてみせます! 俺のパワーは見せ筋じゃあないってこと相手に教えてやるぜ!」

「それでいい」

「そうだ! がんばれシガー!」

「ホーラ、お前に言われなくても! 応援はありがとう!」

(さっきまでの絶望の表情はどこに……まあ、これならゴール任せられるぜ)

 シガーを励ましているイクオスたちを見ながら、パイプはそう思った。

 そしてマギドラグの方もシュンが点を取ってくれたことに喜び大盛りあがりだ。

「シュン! ナイスだ!」

「一瞬、相手のゴールキーパーがシュートボールに触れた瞬間肝が冷えたけど」

「まあ、決めたからいいじゃないですか!」

「これで同点! すぐにもう一点取って逆転しましょう!」

「「「おう!」」」

 二点差を埋めて、同点になった。マギドラグの士気も上がっていく。

 このまま一気に逆転して見せる。

 チーム全員がそう思った。

【エルドラドサッカー日誌】

 エルドラドのペナルティーキックはキッカーがシュートを打ち、そのボールがゴールキーパーに弾かれた後に、他の選手が触れるまで魔法の使用は禁止である。

 これはペナルティーキックだけでなく、スローイン、コーナーキック、フリーキック、ゴールキックにもボールを飛ばした後に他の選手が触れるまで魔法の使用を禁止している。

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