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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
97/130

流れを変えて

 マギドラグ魔導学院がゴールを奪い一点差まで追いつく。

 マデュランの活躍にチームの雰囲気も良くなっている。

「いける! この勢いのまま私たちが攻めれば勝てるわ! ガンガン攻めていきなさい!」

 ベンチのレイカも応援の激を飛ばしていく。

「お前ら、守りは捨てるぞ。ここからは俺が前線に戻って戦っていく。俺の指示に従ってくれ」

「わかった!」

「わかったっス」

「「「はい!」」」

 味方にそう指示を出してセンターサークルに歩いて向かっていくイクオス。

 ここからの試合、守ることを捨てた。シュンをマークすることを止めて、再び攻撃陣に加わってゴールへと向かうことに決めたのだ。

 このまま自陣に籠っていてはいずれ追いつかれてしまう。

 ならばたとえ点を取られようが、こっちが点を取って点差を広げていけばいい。

 一点取られたのなら二点取る。

 それがダーディススクラプの超攻撃的サッカーなのだ。

 ――ピィィィィッ!

 笛が再びなった。

『さあ試合再開! イクオス選手、ボールを受け取って再び走り出すぞ!』

 キックオフ。

「お前ら! ついてこい!」

「ハイっス!」

 ボールを受け取りゴールへと進む。イクオスと共に他のチームメンバーも前進。

「さあ、来な! 受けて立つぜ!」

 ボールを奪い取るために、シュンがイクオスの前方で構えていた。

 それを見たイクオスはすぐさま視線を左右に動かして、

「ホーラ! 突っ走るなよ!」

「うん!」

 味方のホーラにパスを出す。するとホーラはすぐさま味方にボールを渡した。ダーディススクラプはパスで前線を上げに来ている。

(パス中心に攻めに来たか)

 単独突破で強引にゴールを奪ってきたさっきまでのプレイと比べてチーム全体で前線を上げていく点を取りに来ている。

 イクオスも一人で突破するのは難しいと判断したのか。

 サッカーはチームスポーツ。一騎打ちだけが喧嘩ではない。

「シュン! 君は前線にとどまっていてくれ!」

「わかりました!」

 自分も守備に加わろうとしたが、キャプテンのマデュランの指示に従って前に行くシュン。

「皆! シュートは絶対に打たせるな! 打たせてもブロックして止めるんだ!」

「ああ! わかった!」

 マデュランの指示を聞いて行動を起こすマギドラグ守備陣。

 後半は無失点で抑える。

 あの苛烈なダーディススクラプの攻めを封じ込めてみせる。前半の時の情けないプレイは二度としないために。

 そして勝つためにだ。

「通させるかよ!」

「うわ⁉」

 リンナイトの持ち前のスピードを生かしたスライディングタックルが炸裂。ダーディススクラプの選手を吹き飛ばしながらボールを拾う。

「あめえ!」

 だが簡単に奪わせはくれない。イクオスがリンナイトに鋭く足を振ってボールをカット使用する。

「ちっ!」

 イクオスの足を避けようとボールと共にバックステップで後ろに下がる。足は空振り、そしてリンナイトはイクオスの横を通り抜けようとするも、

「なんと!」

 それを見逃さない、イクオスは背中を思いっきりリンナイトにぶつけた。イクオスお得意の『ケンカサッカー』の攻撃的なディフェンスだ。リンナイトを思いっきり吹き飛ばす。

「ぐぉ⁉」

『冷静! イクオス選手! すぐさまボールを取り返す!』

 攻めは止めさせない。そしてそのままゴールへと進み、

「邪魔だ!」

「ゲフッ⁉」

 ボールを取ろうとしたトイズの腹にボールを当てつつ、そのボールに膝当て。喧嘩サッカー、『ジャンピングニー』だ。何が何でも点を奪ってやるという意思を感じる乱暴すぎるドリブル。それを喰らったトイズは蹴り飛ばされてしまう。

 ディフェンダーは蹴散らした。

 あとは得意のマジックシュートを叩きつけたい、と思いたいが。

「……ここから打っても止められる、か」

 だがシュートは打たない。

 なぜなら打っても入らないとイクオスは感じているからだ。

「マデュランさん! イクオスが来ます! 完璧に防いでください!」

「わかっているさ!」

 ベンチからのレイカの指示を聞いているマデュランを見てそう思った。

(エスバーはどうだっていい。俺なら一騎打ちで楽に勝てる。だがマデュランの奴をどうにかしなければ点は取れねえな)

 今ここでシュートを打てばマデュランの『タワーシールド』止められてしまう。いや、壊すことはできる。渾身の力を込めた『臥龍空牙』ならばいける。

 だがそれはマデュランを突破しただけ。あの『タワーシールド』を壊してもマジックシュートの威力は軽減し、エスバーに止められてしまうだろう。

 イクオスは自身の『臥龍空牙』には絶対の自信を持っている。だからこそ『臥龍空牙」を止めたマデュランは警戒しなくてはならない。

 点を入れるためにはマデュランを吹き飛ばすか、それともブロックをさせないコースに打ち込むか。

 それしかない。

 ならば自分が取るべき選択肢は。

「ゴールも近い! 攻めるぜ!」

『イクオス選手! 真正面から突撃! マデュラン選手もそれに応えるかのように』

「止める!」

 ゴールの近くまで来たのだ。

 確実にシュートをゴールに叩き込むにはマデュランを越えるほかにない。

 先手必勝の強引なドリブル。肩を突き出して真正面から突撃。

 その荒々しいドリブルも冷静に肩をぶつけて相手の衝撃に立ち向かうマデュラン。互いの肩がぶつかり合い、

「く!」

「かなりやる!」

 両者後ずさり、イクオスはすぐさま攻め手を変えて、ハイスピードステップでマデュランの横を抜き去ろうとするが、それを見てすぐさまイクオスを横から二度ショルダーチャージをかましに行った。

 その肩はイクオスにぶつかり、強烈な衝撃に体勢を崩すも、

「うおおおお!」

 根性を見せるように、体を押し返してマデュランを弾く。だがあくまで押し返しただけ、マデュランの攻撃はまだ続く。体勢か崩れているなら素早いディフェンスだ、姿勢を低くしてスライディングタックルを仕掛けに行った。

 それを見たイクオスはすぐさま周囲に視線を巡らせて、

「打て! パイプ!」

「はいっス!」

「なに⁉ ここでパスか!」

 イクオスにとってマデュランが突破することが先決。その突破方法は自分たちのシュートがマデュランに邪魔されないこと。

 完全にマデュランを引き寄せて、そしてあとは味方に託してパスを出した。

「打たせませんよ」

「なっ⁉」

『おっと! ここでバルバロサ選手のカット! マデュラン選手の頑張りに応えるプレイ!』

 これは予想外。

 バルバロサがイクオスのパスボールを奪い去る。

「バルバロサ! 助かった!」

「さて! 行きますよ!」

「うわっ⁉」

 カットしたボールを足元に収めて、そのまま前に向かって走り出す。ボールを奪い返そうとしたダーディススクラプの選手をパワーあふれるドリブルで弾き飛ばしながら進み、

『ダーディススクラプ魔法学校! 完全に攻めを封じられた! バルバロサ選手のサポートが光ります! そしてマギドラグのカウンターが始まるぞ!』

「モココさん! お願いします!」

 味方の位置を確認して、周囲に相手選手がいないモココにボールを渡す。

「うんうん♪ 同点にしちゃおっか!」

「モココさん! 俺にボールを!」

「シュン君! やっちゃってよ!」

『シュン選手にボールは渡る!』

「へっへっ、散々マークされまくったんだ。ぶち抜くぜっ!」

「くっ! シュンが来る!」

「止めろ!」

 必死になってシュンを止めに行くダーディススクラプの選手。彼にシュートを打たせるのはマズイ。たとえ魔力が少ない状態であっても、だ。

 ダーディススクラプのミッドフィルダー軍団がシュンに暴力的なディフェンスを仕掛けに行く。迷いなく鋭く突っ込んでくる。そのプレイに絶対に止めるという意思が見えてきた。

「シッ!」

 なにがなんでもシュンと止めようとしてくるまっすぐなディフェンス。

 だからこそ見切りやすい。

 一人目のショルダーチャージは姿勢を低くしつつ真横を通り抜け。

 二人目のスライディングタックルはボールをチップキックで軽く上げて、そこから自分もジャンプして避けて。

 そして最後の三人目はスピードを高めた高速ショルダーチャージをかましてくるも、それはギリギリ肩が当たる直前に真横によけて、すぐさまダッシュで切り抜ける。

 誰もシュンからボールを取るどころか、足を止めることさえできなかった。

「う、うそ⁉」

「得意の大暴れも効かねえ! 俺が暴れる番だからよ!」

「くそ! バケモンかよ!」

 ダーディススクラプのディフェンダー、コヒバとスヌースも驚愕しながらもなんとかして止めなければならないと守りの体勢に入る。

「絶対に止めないと――」

 シュンを止めようと魔方陣を展開するが、

「遅い! 『ゲイルステップ』!」

 魔法発動。

 風をまとい、旋風と共に走り出し、目にも止まらぬ速さでダーディススクラプのディフェンダーコンビを抜き去った。相手選手が魔法を発動すると察知したシュンは、すぐさま自身も魔法を発動して相手を抜かしたのだ。

「「なに⁉」」

『シュン選手! 五人抜き! イクオス選手が力で強引に突破するなら、シュン選手は技と速さで相手を華麗に抜き去っていく!』

「同点までもう少しだ!」

 ディフェンダーを抜き去り、前にはゴールキーパー、シガーしかいない。

 シュートを打ち込むチャンスが来た。

「打たせるかよ!」

『ああ! イクオス選手ももうすでに戻ってきている! なんて足なのでしょう! シュン選手の背後にいるぞ!』

「マジかよ!」

 だがそう簡単にシュートは打たせてはくれない。

 イクオスが猛スピードでゴールまで走ってきた。ボールを取られたときにすぐさま自陣まで走って戻ってきていたのだ。

「イクオスさん! お願いします!」

「俺ら情けねえ!」

「ああ! 止めてやるよ!」

 もう一点はやれない。

 背後から

「魔方陣⁉ 止める!」

「オラよ!」

 シュンは鋭く足を振り抜き、

『シュン選手! 打たない! シュートと見せかけてフェイント! 味方にパスだ!』

「なにっ⁉」

 そのまま体をひねって真横にいるモーグリンにパスを出した。

「まだ魔力が回復していないのか?」

 まさかの味方へのパス。

 まだ『ティルウィンドジェット』を打てるほどの魔力が回復していないのか、

「モーグリンさん! 打ってください!」

「ん! そういうこと!」

 ボールを受け取、すぐさまマジックシュートの構え。周りには誰もいない。確実にフルパワーのマジックシュートを放つことができる。

「『ウォーターシュート』!」

 激流のシュートが放たれた。

 ゴールに飛んでいくシュートを見ながらイクオスは、

(あの距離ならシガーは止められる!)

 ここはシュートをブロックしにはいかず、ボールがこぼれてしまった場合を考えてペナルティーエリア内まで移動するイクオス。

 こぼれ球を相手に、特にシュンに渡ったら大変なことになる。

 そう思ってダッシュで移動していると、

「なっ⁉」

 驚きの声を上げるイクオス。

 ボールを見ていると、シュンがボールの軌道にいる。驚いたのはシュンが魔方陣を展開していたからだ。

「『ウィンドボレー』!」

 向かってくるそのボールにジャストタイミングで蹴りを合わせる。

 チェインシュートだ。

 マークが緩くなった今なら確実に打てる。

 シュートの軌道を変えつつ、さらに蹴りの威力をプラス。シュンの高度な技術が組み合わさった風と水の合体シュートがゴールに飛んでいく。

「くそ! シュンの奴! チェインシュートもお手の物ってか⁉」

 悪態をつきながらも、イクオスは走りながら、

「シガー! なんとしても止めろ!」

「は、はい! なんとしても! 『豪腕ロックハンマー』!」

 巨岩の豪腕でシュートを叩き落としにいく。

「ぐぐぐ⁉ 重たい……!」

 だがモーグリンとシュンのコンビネーションシュートの威力は今まで受け止めていたものは一段階上の威力。全力で腕を振り下ろしてもびくともしない。

 それでもこのシュートを入れられてしまったら同点になってしまう。

 ゆえに全力でくい止めてゴールを阻止しようとするシガー。

「耐えろ! シガー!」

「イクオスさん!」

 必死に止めているシガーにイクオスは急いで近づき、そして止めているボールにゴール側から回し蹴りをかました。シガーがくい止めている間に、イクオスが手助けに入った。

 合体技のチェインシュート、シガー一人では止められないが、イクオスが入って二人なら止めることができる。絶対に点を取られてはいけない場面。イクオスもシガーも必死になってマジックシュートを止めにかかる。

「ぐおっ⁉」

「ぐ⁉」

 だがシュートの勢いに押され吹き飛ばされるイクオスとシガー。それでも二人の意地がボールに勝ったのか、なんとか弾くことには成功する。

『弾きました! シュートは決まらない!』

「まだ終わりじゃないぞ!」

 こぼれ球に追いついてすぐさま次の攻勢に移るシュン。

 点取り屋にとってボールが奪われるまでは攻撃のチャンス。それを逃すような真似はしない。

「させるか! イクオスさんばかりに無茶させていいわけないだろ!」

「絶対に止める! 打たせない!」

 魔方陣を展開しながら必死に止めようとしてくるダーディススクラプのディフェンダーコンビ。シュンにシュートを打たせてしまったら確実に決められてしまう。だからこそ決死の覚悟で止めに行くのだ。

「へい、アイメラさん!」

 だがシュン、ここは冷静に味方のトノスに素早くパス。

 今ここで重要なのかマジックシュートをゴールに向かって確実に打つこと。この状況で打ったら目の前にいる二人がシュートをブロックするかもしれない。

 だからこそ、味方にゴールを託した。

 それを受け取ったトノスはプロスと共に魔方陣を展開した。

「へっへっへ! 相手ボロボロだぜ! 絶対に決めるぞ! プロス!」

「うん――」

 ――ピピィィィッ‼

「「え?」」

 突然の笛の音に足を止めてしまうアイメラ兄姉。

「なんだよおい!」

 絶好のシュートチャンスに水を差されて気分を悪くするアイメラ兄姉。打っていれば確実に決まっていたはずなのに。

「しゅ、シュン⁉」

 だがそれは、魔法に巻き込まれて大空に吹き飛ばされているシュンを見て、驚愕の表情へと変わっていた。

『しゅ、シュン選手! 魔法で吹き飛ばされた! ファールだ! 審判、イエローカードも出しています!』

「ぐっ‼」

 地面に打ち付けられて転がるシュン。なかなかの魔法の威力のようだ。地面に倒れたまましばらく蹲るシュン。

「ふぁ、ファール⁉ てかシュン君!」

「シュン、大丈夫か⁉」

「な、何とか……ギリギリ直撃は免れたって感じですね」

 深呼吸をしながらゆっくりと立ち上がるシュン。かなりのダメージを受けたがそれでも気合で何とかする。激痛は走っているが足は無事だ。しばらくすれば痛みは消えるだろう。

「す、すまん……」

「いや、いいさ。怪我はしてないし」

 ダーディススクラプのディフェンダーたちが謝りに来て、シュンは気にしないで、と言葉を返す。

「なにがあったの⁉」

「相手のディフェンダーが魔法を発動したまま、ボールの持っていないシュンくんに激突したんだよね」

 疑問に思っているアイメラ兄姉に先ほどの様子をモーグリンが伝える。

 魔法が来ると思ったシュンがアイメラ兄姉に素早くボールを渡す。だがそれでもダーディススクラプのディフェンダーたちのマジックディフェンスは止まらず、そのまま突撃してボールを持っていない状態のシュンに魔法をぶつけてしまったのだ。

「相手も魔法を止めようとはしていたみたいだがな」

「ペナルティーエリア内でのファールだ。ということは――」

「――PKだな」

 マギドラグ魔導学院とダーディススクラプ魔法学校の試合。

 もっとも重大な場面がやってきた。

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