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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
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ハーフタイム ダーディススクラブ魔法学校視点

「うわぁっ! スゴイよパイプ! アンたち勝ってるよ!」

 一方、ダーディススクラプ魔法学校サッカー部のベンチ。楽しそうに騒いでいるダーディススクラプメンバー。

「四対二だよ! 二倍だよ、二倍! あっとうてき!」

「ここまで上手くいくとは。相手もたいした実力じゃあないってことっスね」

「試合終わるまで手は抜くなよパイプ」

「わかってますよ」

「ここまでやれているの嬉しいぜ」

「二点取られているけどね」

「点取られるなんて俺らのチームじゃあ当たり前でしょ。その分点取ればいいだけの話だし」

 魔法の名門学院であるマギドラグ魔導学院相手に二点リードしている。

 たとえサッカー部が今年できたばかりの相手だとしても、そんな学院に勝てているのが嬉しく、このままいけば勝てる、そんな気持ちにあふれている。

「リーダー、顔大丈夫っすか? 血流れてましたけど」

 チームの一人がイクオスを心配そうに見つめていた。

 シュンのシュートを顔面で受け止め、頭から血を流し膝をついてしまったのだ。チームの誰もが心配するのは当然だ。

「心配してくれるのか? 問題ねえ。治療士に治させてもらった。もう痛かねえよ」

「さっすがイクオスさん! タフだぜ!」

(……しかし、久しぶりにイクオスが出血するところ見たな。シュンのキック力はそこらの不良なんか目じゃねえってわけか)

 かつてこの学校で喧嘩にイクオスと共に明け暮れていたパイプは、内心シュンの蹴りの威力に驚く。

「よかった! イルマがこうたいしたら、あーし心配でしあいに集中できないよ」

「いや、俺が交代したぐらいで動揺するんじゃねーよ」

「いやいや、あんな怪我してたら心配にもなりますよ」

「試合抜け出して病院に連れていくね」

「まあ、確かに出血している姿見たら心配はするか」

「イクオスさん、どれだけ頑丈でも、やっぱ怪我したらオレら心配なんすよ。あんまし無茶せんでください」

「へいへい、今度からすぐに治療士のとこに行くよ」

(いつ見ても信じられない光景ね……)

 ベンチで座っている教師、このダーディススクラプ魔法学校サッカー部の監督であるティリアは生徒たちの様子を見て、このサッカー部ができる前のことを思い出していた。


 ダーディススクラプ魔法学校は今でこそ不良はまだいるが、それでも他校と変わらない普通の魔法学校であるが、三年前はそうではなかった。

 暴行やら授業のボイコットは当たり前、

 教師に相談しようにもその教師も暴力に怯えたり、中にはその不良生徒の召使のようになって一般生徒に嫌がらせしたり、そもそも性根が不良を同じような教師もいて虐待などを起こすものもいた。

 悪意ある暴力と理不尽な我儘がこの学校の生徒と先生たちを狂わせていた。そしてその被害者は彼らの我儘に怯えるしかない。従うしかない。誰だって一方的な暴力は受けたくないからだ。

 この学校を廃校にしたほうがいいのでは、そんなこともよく耳にしたほど手のつけられない悪人の巣窟へとなり果てていた。

 だがあの日、イクオスがこのダーディススクラプに入学した日、この学校は僅かではあるが、希望の光がさした。

 その時、ティリアは一年の担当、教室に行くとき不安を抱き、せめて他のクラスよりは安心できるクラス出会ってほしいと祈りながら扉を開いた。


 ――ガンッッッ‼


「え⁉」

 扉を開けた瞬間、黒板に一人の生徒が頭から激突して、そのまま地面に倒れる。

 この時、ティリアの脳内は真っ白になる。

「て、テメー! 俺たちに逆らおうってか!」

「生意気だなオイ!」

「うるさい連中だな」

 声が聞こえてハッとするティリア。

 教室のど真ん中で一人の少年が囲まれている。彼こそがイルマ・イクオス。今日この教室に初めて来た。

 そして不良たちに囲まれている。敵意をこれでもかと向けられていた。

「け、喧嘩はやめなさい!」

「うるせえ! 先生は黙ってろ!」

「テメーから先にぶん殴ってやろうか!」

 ダメだ。説得が通じない。

 完全に頭に血が上っている。

「先生。少し我慢してくれ」

「だ、だから喧嘩を」

「ここで見逃してくれたら、あとでジュースおごってやるからよ」

「物でつろうとしない!」

「なに俺ら無視してんだオラ!」

 ティリアとなんてことない会話をしているイクオスに怒りに身を任せながら魔法を発動する。教室にいる他の生徒や先生のことなんて気にしていない。ただイクオスを含めて怒りを発散させようと暴れようとしているのだ。

「うわあ!」

「やめてくれ!」

 教室にいる誰もが展開される魔方陣を見て恐怖の顔を浮かべていると、

「危ねえだろ」

 目にも止まらぬ速さで不良たちの眼前に移動して、そのまま拳を振り上げた。

「ゲフッ!?」

 イクオスの動きを認識していなかった不良は避けることもできず、顎にアッパーカットがクリーンヒット。そのまま真上に殴り飛ばされて天井に頭を激突。そのまま体が突き刺さっていき、上半身が天井に埋まった。

「あ、アッシュ⁉」

「よそ見すんな」

 吹き飛ばされた仲間に目を向けた不良の腹部に鋭いボディーブロー。内臓が壊れるような一撃をぶち込まれた不良が腹部を抑えて蹲り、

「あぁ……ああ……うぇ……!」

 今にも死にそうな声を上げて体を震わせることしかできない。

「ひ、ヒィィ⁉」

 残った一人が腰を抜かしイクオスから遠ざかるように後ずさる。

 あまりにも一方的だ。

 これは喧嘩ではない。不良に囲まれてしまったイクオスが、その不良相手に弱い者いじめをした、そうとしか見えない。

 それほどまでに実力の差がある。

「な、なあ……この喧嘩は終わりにしよう! 俺たちが悪かった! なあ、頼むぜ!」

 土下座のような体勢を取って命乞いをする。

 勝てないと悟り、痛い目にあいたくない。プライドを捨ててでも自分の身が大事なのだ。

「そうか、わかった」

「は、話がわかるじゃねえか……」

 そして、土下座した不良は思いっきり吹き飛ばされた。

 言葉の終わりと共に放たれた蹴り上げが顔面に命中。そしてそのまま壁に叩きつけられてしまった。

「ほらお望みどうり。喧嘩は終わったぜ」

 まだイラついているイクオスは地面に落ちていた本を拾って、

「頭から水ぶっかけやがって。読書の時間を邪魔すんじゃねえよ」

 そう言って自分の席に戻って本を開いた。

 それが彼、イルマ・イクオスのこの学校での初めての喧嘩であった。

 

 そこからイクオスはダーディススクラプの不良たちに目をつけられてしまう。イクオスにムカついて悪意を向ける者、その実力を見て自身のパシリにしようと暴力で支配しようとするもの、ほかにも様々だ。学校の大部分が彼の敵となっていた。

 だが、そんな連中もイクオスは真正面から蹴散らしていく。自身の拳と魔法で。

 挙句の果てに、悪人教師も殴り飛ばす。本来、魔法を教える教師は生徒よりも強いのに、そんなこと関係ないと言わんばかりに喧嘩で負かしていく。

 彼は暴力と恐怖で支配されていたこの学校の不良を、自身の圧倒的な暴力で蹴散らしたのだ。

 なぜこんなにも強いのか、それを聞いてみると彼の両親は街の冒険者クランに所属していて、街の外によく一緒に旅したという。そして両親と一緒に凶暴なモンスターと戦っていたとか。

 そのおかげ強くなり、不良の恫喝なんてモンスターの咆哮の方に比べれば子供の泣き声のようなものらしい。

 それはともかく、今のダーディススクラプ魔法学校にも不良自体はまだ存在するが、それでも普通の生徒や教師はのびのびと学校生活を送れている。

 誰かに怯えることなく、普通の学校生活を遅れるようになったのだ。

(今、部活動ができているのも。サッカーができているのも、全部彼のおかげ)

 イクオスがこの学校に入学してこなければこのフィールドにみんなはいない。

 今も暴力と恐怖が学校を支配していた。

 サッカーと出会うこともなかった。

(このチームはイクオスさんがいなければ始まらない。皆の動きも士気も貴方の活躍次第でいい方にも悪い方にも変わっていく。イクオスさん、貴方がこのフィールドで活躍するほど、点を取ればとるほどほかの皆も希望を抱いてイクオスさんのためにプレイをしようと頑張れる)

 でもそれは逆に言えば、

(貴方が相手に動きを封じられたら、チームの皆はやる気が下がるでしょうね。イクオスさんに勝てない相手にどうすればいいんだって)

 このチームは爆発力はすごい。だがそれと同時に脆い。

 チームの勝利はイクオスの脚にかかっているのだ。

「しかし、練習試合を頼まれたときはあのマギドラグ魔導学院から来たときは驚いたがよ」

 この試合が行われる一週間前、グラウンドでサッカー部の活動をしているときに校長が突然マギドラグ魔導学院との練習試合のことをいい出した。

 始めて聞いたときはサッカー部全員が驚いた。このエルドラド大陸の中で魔法の名門である学院がこんな悪評判だらけの学校に練習試合を申し込んでくるとは。

 前の地区大会で優勝こそできなかったがベスト4になれたからか。

 そんな名門のマギドラグ魔導学院との勝負を楽しみにしていたイクオスだったが、

「……マギドラグのサッカー部がこれなら、ほかの奴らが来てくれりゃあよかったもんだ」

「イクオスさん」

「ん? なんだい先公」

 思わず愚痴をこぼしてしまうイクオス。

 そんなイクオスに監督は、

「後半戦も貴方に託すわ。チームを勝たせて」

 頼み込む。チームを勝利に導いてくれと。

 イクオスは頷いて、

「ああ、任せろ」

「あと先公って言わない」

「はいはい、わかってるぜ。おいお前ら!」

「はい! なんすかリーダー!」

「試合が終わるまでゴールを狙い続けろ! 何点でも、何十点でもな! 観客が見たら白けちまうぐらい圧倒的に勝つぞ! いいな!」

「「「おう!」」」

「パイプ! 前半に引き続き攻撃の指示はお前に託す!」

「了解っス!」 

「よし! 後半戦、行くぞお前ら!」

「「「はい!」」」

 ダーディススクラブサッカー部、フィールドに出る。

 試合が終わるまで点を取るつもりだ。四点では満足しない。

(ん?)

 グラウンドに向かって歩いている途中、相手の目を見た。どんな雰囲気を醸し出しているかを確かめてみた。

「……お前ら、気を引き締めろ」

「え、なんでですか?」

「さっきみてーに暗い雰囲気がねえ。まだ諦めてねーようだな」

 マギドラグ魔導学院の選手を見て、何かを感じ取るイクオス。

 なにがあったかは知らないが、彼らの闘志は消えていない。

「まだ勝負は続くみたいだな。まあいいさ、そのほうが楽しいもんだ」

 喧嘩は根性が折れるまで続く。

 喧嘩野郎としての直感が勝負ばまだ決まっていないと告げていた。


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