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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
92/130

根性

 前半がもうすぐ終わりを迎えている。

 試合の状況はマギドラグの攻勢が続いていた。

「止めるわよ!」

「あぁ⁉」

 相手選手からスライディングでボールを奪うプロス。

 ボールを取られてもすぐさま取り返しえて前線にボールをつなげていく。

 小競り合いはダーディススクラプの自陣で起こり、ボールは常にマギドラグは支配していた。

『マギドラグの激しい攻め! 先ほどダーディススクラプがやったことをやり返しえいるぞ! パスとドリブルでゴールへと進んでいく!』

(ちっ! 簡単に止まんねえな。勢いがついてやがるぜ、お相手さん!)

 心の中で舌打ちをするイクオス。

 シュンの活躍で二点目を取り、それがマギドラグの選手たちに精神的余裕を与えている。それが今の激しい攻めにつながっているのだ。

 今ダーディススクラプがゴールを防げているのはイクオスがシュンをマークし、そしてほかの選手のマジックシュートをイクオスが放つ『風刃脚』で防いでいるからだ。

 だがそれが前半終了まで持つかわからない。

(だが前半はもうすぐ終わる! ここは強気の守りだ、徹底的にシュンにはボールを渡せねえ!)

 前半が終わるまで点を入れさせるわけにはいかない。

 いくら点数をとっても同点になっては意味がない。前半の相手の攻めを防ぎきって後半で反撃してさらに点をつける。

 それが今、イクオスが考えていることだ。

「く! イクオスの奴! 攻めだけで守りも上手いのか! アイツ一人で何でもこなしてやがる!」

 そのイクオス相手にどうやって突破するか考えるトノス。ここでシュートを打っても止められるわ、突破しようにもあの乱暴なディフェンスで制圧もしてくる。

 なんとしてでも前半終わりまでには点を決めて振り出しに戻したい。

「ん?」

 ここはいったん味方にパスをしてイクオスを揺さぶろうと考えたトノス。ボールを蹴りだそうとしたその時、シュンがイクオスにばれないようにこっそり手招きしていた。

 ボールをよこせと言っているのか。

(シュン? いけるのか?)

(マークがつこうが切り抜けるさ。シュートチャンスは俺が作る)

 前にとどまってこぼれ球を狙うばかりでいられるか。イクオスのマークがきつかろうがゴール前まで進んでやる。

 このまま停滞状態が続いても逆転はできないのだ。

 なら攻め手を増やすことが大事だ。

「……よし!」

 リンナイトはシュンの覚悟を感じ取り、パスを出すことを決める。

 シュンに向かって全力でボールを蹴りだした。

「いけ! シュン!」

 ボールはまっすぐシュンに向かって進んでいく。

 それを見てイクオスが動く。

「来やがったか!」

「ああ! 存分に戦ってやるよ!」

「邪魔だ!」

 ボールを取ろうとしてくるシュンに横からショルダーチャージをかますイクオス。

「おっと!」

 それをシュンは回避してボールをトラップしようとするも、

「まだだ!」

 イクオスがすぐさまシュンに近づき、ボールを奪い取ろうと足を強気に振り、そこからショルダーチャージの喧嘩式のディフェンスコンボでシュンを制圧してくる。

 その攻撃を足のカットをバックステップでよけ、ショルダーはボールを足で拾ったあと思いきり横に移動して距離を取りつつかわした。

「シュンの奴、ビビってるぜ!」

「チキン野郎! 避けてないでぶつけ合えよ!」

「やきとり! からあげ! チキンなシュンやろー!」

 他のダーディススクラプのメンバーが挑発してくるも、シュンは無視。

 こんな喧嘩無敗の男相手に力づくで突破するのは無謀、というかシュンのスタイルはスピードとフェイントで相手を抜かし切るスタイル。

 わざわざ相手の得意条件に降りてくる必要はない。

「やりやがる!」

 イクオスの攻めのディフェンスはまだ終わらない。そこからシュンに向かってダッシュで一瞬に近づき、足払いソバットを繰り出す。それもシュンはジャンプで避けるも、それを狙っていたイクオス背中から地面に倒れるように見せかけて、地面に手を付けて腕をバネのように思いっきり伸ばして飛んでいるシュンの両足の突き上げ蹴りをぶつけに来た。

「とどめぇ!」

 ジャンプしている状態ならこの蹴りで確実に仕留められる。

 絶対にボールを奪い取るという執念が込められた蹴りがシュンに迫ってきた。

「チィ!」

 ガシィ!

 ぶつかる音、イクオスの足に蹴りの感覚。

「なにぃ⁉」

だがイクオス本人は驚愕の表情。

 蹴ったのはボール。そしてボールは空高く飛んでいく。

「あぶねえな!」

 シュンの声が横から聞こえる。

 見てみると、シュンが地面に着地しており、そこからボールを追いかけるように大ジャンプ。

(よ、避けられただと⁉)

 あの突き上げ蹴りが避けられてしまった。

 どうやって。

 シュンはあの時、イクオスの蹴りを空中で体をそらしつつ地面に倒れないように体勢を整えながら落下した。そうしてイクオスにボールだけを蹴らせて、あとはその蹴られたボールを追いかけて自身の足元に戻す。そうすることによって突破しようと考えた。

 そしてその作戦は成功に終わったみたいだ。

『シュン選手! これはなんて見事な見切り! イクオス選手の暴力的ディフェンスにビビることなく刹那にかわした!』

「ま、マジかよ! イクオスさんの攻撃が当たらねえ⁉」

「なんつうキープ力だよ⁉」

「とりみたいに飛んでる⁉」

 あそこまで見事にかわされると、ダーディススクラプの不良たちも先ほどの挑発の言葉も撤回したくなってしまう。

 一騎打ちに勝ち、イクオスが体勢を崩している。

 ゴールの前にボールを止める壁はもうゴールキーパーしかいない!

「シュートチャンスだ! 頼みますよ! モーグリンさん!」

「うん!」

 上空で地面に落ちていくボールに追いつき、すぐさま味方ダイレクトパスをするシュン。ボールを受け取ったモーグリンはすぐさまシュート体勢。

 シュンが作ったせっかくの得点のチャンスを無駄にするわけにはいかない。のほほんとした表情を抑えてゴールを見る。

(さっき見たけど隅へのシュートに戸惑っていたよね)

 シュンが繰り出したゴール隅へのスライスシュートに反応しきれずバリアで防いでいたシガーの姿を思い出す。

 ゴールキーパーとしてのパワーはあっても、そのパワーを生かしきるには真正面のシュートしか対応できない。それ以外のシュートとなると、フルパワーでキャッチングができない、モーグリンはそう考えた。

「よし! 『ウォーターシュート』!」

 魔方陣展開。

 嵐の時のあふれだす川のような勢いで水に包まれたボールを蹴り飛ばす。

 足を速く振り、さらに魔力で水を高速で動かして、よりスピードを高めてシュートを放った。

「むっ! 速い!」

 モーグリンの速い『ウォーターシュート』に驚くシガー。しかもコースは地面すれすれ。これでは『豪腕ロックハンマー』を当てるのは難しい。

 ならば先ほどやった『豪腕ロックラリアット』で強引に腕をボールにぶつけて弾き飛ばそうと考え、魔方陣を展開しようとすると、

「無視すんじゃねえ!」

「うおおお!」

 二人の大声が響き渡る。モーグリンが放ったシュートにダーディススクラプのディフェンダー二人組がダッシュで追いかけて、

「腹貫かれても止めろ!」

「わかってるぜ!」

 ダーディススクラプのメンバー、コヒバとスヌースが走りながら、

「いけっ!」

 コヒバがスヌースの腕をつかみ、一回転してぶん投げる。

 そしてスヌースは飛ばされながら魔方陣でバリアを展開して、

「止めてみせるわっ! 『根性ボディ』でな!」

 体の中心、腹部に力を込めてボールを受け止めた。

「うわ! 強っ⁉」

 力強いストレートナックルがボディに喰らったかのような感触。腹部に激痛が走る。

 だがそれでも気合と根性でマジックシュートを止めにかかった。

「うぎゃあ⁉」

 だがそのシュートの威力を止め切れず吹き飛ばされてしまうスヌース。しかしスヌースの根性の守りはマジックシュートの威力を削りきり、ボールは弾かれて転々と転ぶ。

『なんとか弾く! そしてそのボールにイクオス選手が拾いに行くぞ!』

「すぐさま反撃に!」

「させるか!」

『攻守反転! 今度はイクオス選手がシュン選手を抜きにかかります!』

「シュートのチャンスはまだ終わってないぞ!」

 ボールを拾ったイクオスにシュンが走りこんでくる。ボールを奪いに向かってきている。

 魔法を使わないという舐めプはしない。

 シュンの体内の魔力が少ないというのなら、その弱点を狙ってでも突破する。

 相手のエースに仕事をさせないことが、今己がしなければならないことだ。

 イクオスが魔方陣を展開して、

「――遅い! 『ゲイルステップ』!」

 魔法を使おうとしたその時、シュンもまた魔法を発動していた。ドリブルで使う魔法で自身のスピードを底上げし、猛ダッシュでイクオスの懐にまで近づく。そして最低限の動きでイクオスのボールをカットした。

「こいつ! 魔法を使って来やがった⁉」

「シュン、ナイス! パスくれ!」

 イクオスを抜き去り、ほかのディフェンダーもモーグリンのシュートを必死に止めてダメージを受けている。

 まさに絶好のシュートチャンス。

 トノスがボールをくれと声を送ると、

「決めるぞ!」

「え⁉」

 ボールは返ってこなかった。かわりにシュンが魔方陣を展開する。

『シュン選手が魔方陣を展開! ドリブルではなくマジックシュートの構えか!』

「シュン⁉ 『ティルウィンドジェット』を打つ気なの⁉」

 ベンチにいるレイカが驚愕してシュンを見つめる。

「やっぱりそうなのね⁉ シュン君、魔法の過度の使用はまずいのに!」

 クアトルもシュンが魔方陣を展開したときら予想はしていた。だが当たってほしくはなかった。

(おいおいマジかよ! 魔力は限界に近いだろ⁉ なのに打つ気かよ!)

 そしてイクオスもまた信じられないような目でシュンを見ていた。

 限界を超えるつもりだ。

 前半で同点にするために。たとえ魔力切れの反動が体に襲い掛かって気を失う可能性があるとしても、今ここで点を奪い取りに来るつもりなのだ。

 なんて無謀なことを、イクオスはそう思わざるを得ない。

 もし倒れてしまったら試合後半、出られない可能性があるのに。

「――打たせるかよ! 『疾駆韋駄天(しっくいだてん)』!」

 イクオスはまとった風と共に背後からシュンに向かって嵐のショルダーチャージをぶつけにかかった。

 止めなければならない。

 シュンの点を取ってやるという執念じみたシュートを打たせてはいけない。

 嵐と共に突っ走り、シュンを止めにかかった。

「シッ‼」

「ぐっ⁉」

 だがそれを読んでいたシュン。ボールを思いっきり蹴り上げた後、イクオスのショルダーチャージをギリギリのタイミングで回避。魔法の嵐で吹き飛ばされはするも、ショルダーの直撃は受けてないため空中で体と風を動かして上空に高く飛んだ。

『イクオス選手の必死のディフェンスも見事回避! そしてこれは! 超高所からの『ティルウィンドジェット』を放つのか!』

 ――魔方陣が輝きだし右足にまとった風がさらに勢いが増した!

「『ティルウィンドジェット』‼」

 叩き落としのボレーシュートで風の弾丸シュートを発射。

 強烈なスピンがかかったマジックシュートがゴールを狙い一直線に飛んでいく。

「お、俺の筋肉に止められないものはないぞ――」

「シガー、魔法を使うな!」

「え⁉」

 強烈なシュートを前にビビるも、勇気を出して魔方陣を展開――しようとしたその瞬間、イクオスがやめろと声を出す。

(ゴールを狙うストライカーの執念ってやつか……シュンにシュートチャンスを作ったのは俺が原因だ! ならば!)

 イクオスが魔方陣を展開して自身の体に『バリア』をまとい、

「――俺が止めりゃあなんの問題ねえ!」

 顔面を、正確には額をボールに思いっきりぶつけた!

「なっ⁉」

「「「え⁉」」」

『あ、ああっ⁉ イクオス選手! 顔面をボールにぶつけたっ⁉ 自滅行為ではっ⁉』

「イクオスさん⁉」

「マジっスか⁉」

 まさかのブロックの仕方にフィールドにいる選手だけでなく観客も声を失った。

 ボールが回転してイクオスの顔をこする音だけが聞こえる。

 シュンが放った旋風のボールに後ずさり、吹き飛ばされそうになるも、

「こんの……いい加減に止まりやがれっ‼」

 歯を食いしばり、上半身を思いきり前に押し出して、ボールを受け止める。するとボールの回転が止まり、風も消えて地面にポテンと落ちる。

 頭から血を流しながらも、そんな怪我さえも気にせず勝ち誇った笑みを浮かべて、

「…………はぁ……はぁ……へへ、いいシュートだぜ……今まで受けた拳や魔法よりも……骨に響きやがる……っ!」

『と、止めたっ‼ イクオス選手! 根性の顔面ブロックでシュン選手の『ティルウィンドジェット』を! 止め切りました! なんて度胸! なんて根性!』

「ま、マジかよ⁉」

 シュートを放ったシュンも頬を引きつらせる。

 自身のマジックシュートをゴールキーパーが止められたりディフェンダーがブロックされたら、悔しい、絶対に決めてやると奮起するもの。

 だが目の前にいる男は、顔面で無理やりシュートを止めにかかった。

 その度胸にシュンは悔しさを抱くよりも茫然としてしまったのだ。

「すげーぜ! リーダー! あんなヤベーシュートを止めちまうなんて!」

「さすが喧嘩無敗の名は伊達じゃねえぜ!」

(魔法を使うなと言ったのは、自分で止めるから魔法を使っても魔力の無駄だ、そう伝えたかったのか、イクオスさんは!)

 魔法を使うなと言われたときは驚いたが、まさか己の身一つで止めにかかるとは。シガーは自分が止められなかった『ティルウィンドジェット』を止め切ったイクオスに敬意の念を抱くしかない。

「……くっ⁉」

「イクオスさん⁉」

 イクオスは膝をつき、それでも倒れないように踏ん張る。

 視界がぐにゃりとゆがむ。

 それに赤く染まってもいる。

 自身の額に触れてみると、手のひらが真っ赤に染まっていた。頭部から出血が起きていることに今気づく。痛みがだんだん強くなっていく。

 シュンの『ティルウィンドジェット』を受けてただで済むわけではない。

 あの強力なマジックシュートを顔面で受け止めたのだ。

 気絶しない方が不思議である。

「……喧嘩したくなるぐらい……いい蹴りじゃねえか……」

「まだだ! まだシュートチャンスだ!」

 啞然としているわけにはいかない。

 ボールは奪われたがイクオスが膝をついている。すぐにボールを奪い返して再びシュートを打つ。

 ボールを取りに行こうとイクオスのもとに向かおうとした。

「……がっ⁉」

 突如、体の中心から激痛が走る。

 その痛みに耐えきれずシュンはその場でひざを折り曲げて息を荒げた。

『ふ、二人同時に膝をつく⁉ イクオス選手はシュートを止めたときのダメージを負っていたためわかりますが、シュン選手は……魔力が底をつきかけているのか⁉』

 無茶をしてマジックシュートを打った反動が襲い掛かってくる。

 立ち上がって前に進もうとしても足が言うことを聞かない。視界もぼやけてきている。魔力不足の症状だ。

 シュンとイクオス、二人の一騎打ちはどちらも停滞で勝敗は決した。

「まずい! シュンが限界よ!」

「俺は大丈夫です! 早くボールを!」

「わかった!」

 膝つくシュンを心配に思うも、シュンの言葉を聞いてボールを追いかけるアイメラ兄姉。

 マズイと焦るイクオス。

 せっかく止めたのにこのボールを相手チームに渡すわけにはいかない。

「うおおおお! イクオスさん!」

 どうすればいいか考えていると背後から声が。

「シガー!」

「ボールを渡してください!」

 シガーがゴールを離れてこちらに向かってきている。

 助けが来た。

「託すぜ!」

「はい! うおおおおおおお! 受け取れっ!」

 何とか足を動かしてシガーがボールを受け取りやすいように横に転がす。

 そのボールをシガーは魔力の込めた右足で全力のパワーで蹴り飛ばす。マッスルパワーによって蹴りだされたボールは前線にいたパイプに渡る。

「だ、大丈夫なのか、リーダー……」

「お前ら、俺の指示を聞け」

「えっ?」

「確実に点を決めるためだ。イクオスさんの頑張りを無駄にするつもりか⁉」

 パイプの言葉に最初は否定的だったメンバーも、最後の言葉でイクオスの勇姿を思い出す。

「ここで自分勝手にプレイするつもりか?」

 そうだ、

 それにダーディススクラプのチームの中でパイプはイクオスと同じぐらい頭脳派。前線での指示も今はイクオスに任されている。

 ならば今点を取るためにとる行動は。

「よっしゃ! パイプ、しじ出して!」

「しゃーねー! イクオスさんのためだかんな!」

 パイプの言葉に頷き、指示を聞くことにしたダーディススクラプのメンバー。

 その対応に安心したような態度を取って、

「それでいいさ。ほら二人組にまとまって攻めるっス! ボールを取られたらすぐさま取り返せるように! 魔法は出し惜しみするな!」

「おう!」

「わかった!」

 仲間にパスを出し、ダーディススクラプのメンバーは全力でゴールに向かって一直線に走っていく。

『ああっ! ダーディススクラプの攻撃陣が一気に駆け上がってくる! 全員攻勢の捨て身の攻撃だ!』

「来るぞ!」

「オラオラオラッ! 邪魔するやつは吹きとばせ!」

 ダーディススクラプの全員攻勢に迎え撃つマギドラグの守備陣。

 前半終了間際、どちらも一歩も引けないターニングポイント。マギドラグからしてみればここで一点取られてしまったら、シュンが縮めてくれた点差がまた開いてしまう。

 そうさせないために絶対に守り通さなければならない。

「打たせない!」

 そこにトイズが鋭くスライディングタックルを仕掛けに行く。

「うわ⁉」

「よし!」

「わざわざごくろうさまっスね!」

「げふっ⁉」

 相手からボールを取った瞬間に横から衝撃が。

 パイプのショルダーが激突してきた。そして地面を跳ねるように飛ばされてボールを取り返されてしまう。

「ナイスサポート! パイプ! 行け!」

「通しませんよ!」

「いや、どうしても通らなくちゃあならないんスよね」

 するとパイプはバルバロサの足元にボールを出し、そこから姿勢を低くしてからの回し蹴り。ボールと共にバルバロサの足を捉え、強引に転ばせた。

 パイプお得意の『回し蹴りドリブル』だ。

「なんと⁉」

「寝てな。ゴールは俺のもんだ」

「『ロックタワー』!」

「くっ⁉」

 相手を突破したその時、パイプの足元から岩の柱が地面から浮き出て姿勢を崩される。

 マデュランの魔法だ。相手の隙を見て確実に魔法のディフェンスを決めに来た。

『いいタイミングでのマジックディフェンス! これでボールはマギドラグのもの!」

「うおお! ふっとべ!『ファイアチャージ』!」

「なっ⁉」

 味方にボールを渡そうと脚をふろうとしたその瞬間、真横から炎をまとったホーラがジャンピングショルダーチャージをぶつけてくる。

 全身全霊の体当たりに思わず体勢を崩してしまうマデュラン。ボールがこぼれ、ダーティススクラプの選手がボールを拾った。

『ふ、再び奪い返した! なんてゴールへの執念! 攻撃の手が全く緩みません!』

 ボールを奪われてもすぐに奪い返せば攻めは継続できる。ゆえのチーム全員による怒涛の集団特攻。

 どんどんゴールへと近づいていく。

「おい! さっさと渡せ!」

『ロックタワー』から立ち直ったパイプがボールを求める。それを見たホーラが素直に頷き、

「パイプ! うけとれ!」

 パイプにパスを出してボールを渡す。それを受け取り、すぐさま魔方陣を展開。

(ここで決めなきゃあ他の奴に鼻で笑われるぜ)

 なりより、

(イクオスの根性を無駄にするわけにはいかねえだろ!)

「喰らってくたばれ! 『激流口』!」

 シュートを放ち、そのボールに口から放たれた強烈な水鉄砲がぶつけて飛んでいく。

「……絶対に止める! 『ファイアボール』!」

「うおお! 『ジャンピング・ヘッドバッド!」

「え⁉」

 火の玉を投げようとした、その時、そのシュートにホーラが横からやってきて頭をぶつけて軌道変更してきた。

 予想外の奇襲。

 それでも持ち前の反射神経で起動変更したボールに狙いをつけてファイアボールを投げて当てることができたものの、

(芯を外した⁉)

 ボールの中央に火の玉を当てることができず勢いを完全に止めることができなかった。だがそれで諦めてたまるかと、そのボールを止めようとダイビングキャッチ。

「……くっ!」

 腕がしびれるほどの衝撃はあるも、何とか弾くことに成功する。

「しぶといっスね!」

「やるぜ、エスバー!」

 急いでカットしてこの攻撃を止めなければ。

 リンナイトがボールを追いかける。

「お前ら! そのこぼれ球! ねじこめ!」

「「「おう!」」」

 まだ攻撃は終わらせない。

 パイプの指示で大人数のダーディススクラプのメンバーがボールに殺到する。

「え⁉」

『マギドラグのペナルティーエリアにダーディススクラプの選手たちが集まってきている! 全員特攻だ!』

 エスバーが守るゴールの周りは混戦状態。

(一発で決めれないなら何発もぶち込む! 喧嘩の基本だよな!)

「ボールは俺たちのものだ! 取れ!」

「くらっちゃえ!」

「ぐは⁉」

 ボールを取ろうとしたリンナイトに、ダーディススクラプのシーシャとほかのメンバーが一緒になって鋭いチャージをかまして吹き飛ばす。大人数でチャージを仕掛けられたらさすがに回避できない。

 そしてボールはまだ転がっていて、

「隙見せたな! 『ケンカキック』!」

 いつの間にか追いついていたパイプが右足に水をまとった状態で渾身の突き出し蹴り。喰らった人間を悶絶させそうなほどの鋭さ。足裏でボールを押し出して、

「うっ、うわ⁉」

 先ほどのダイビングキャッチで体勢を崩している状態ではボールを止めることも魔法を使うこともできず、手だけ動かしても届くことはなく、ボールはゴールへと入っていった。

『決まったっ! 

「どうだ! こう見えて俺もやれるもんっスよね!」

「やるじゃんパイプ!」 

「テメー、ゴール奪いやがって! 羨ましいぜオラッ!」

「まあこんなもんっスよ、イタッ⁉ テメーらもう少し手加減を覚えろ! 蹴り返すぞ!」

「よくやった! いい攻撃だったな」

 味方に誉め言葉と共に背中と肩をバンバン叩かれて切れているパイプに、イクオスが声を掛ける。

 するとイクオス以外のダーティクスクラブの選手全員がギョッと驚く顔をする。

 イクオスは頭部から血が流れている状態であった。

「うわっ! 出血してますよ!」

「い、イクオスさん。治療士の方に怪我を治してもらわないと」

「ああ、そうだった。悪い、お前らの活躍見てつい興奮して。痛みもどっか行っちまった。俺、回復魔法使えるから治すか」

「いやいやいやいや、倒れたかけたところ見たら心配しますよ! 少しでも休んでください!」

「イルマ! はやくなおって! ほら、そこの審判、はやくこいっーの!」

「呼ぶのは審判じゃなくて治療士っス」

 チーム全員に言われてイクオスは急いでかけ寄った治療士から回復魔法によるヒーリングタイムを受ける。

 怪我しているのに元気にしているところを見るに試合には出られそうだ。

「やられちまったか……なんて攻めだよ」

 一方、シュンは膝をついて息を荒げながら自陣を見ていた。

「シュン! 大丈夫なの⁉」

「立ち上がれる? 無茶して」

「……レイカ、監督」

 自陣のゴールを心配になってベンチからレイカとクアトルがシュンの体に問題ないか聞いてくる。

「ああ、俺の体は大丈夫だ……しかし」

 スコア、そしてチームのみんなを見てシュンは険しい表情をする。

(再び二点差……逆転が難しくなったな)

 そのあと、試合は再開されるも前半は残り三分しかなく、二対四のまま前半戦が終わったのであった。

【エルドラドサッカー日誌】

・激流口

 キセル・パイプが使うマジックシュート。

 口から水を強烈な勢いでボールに向けて発射することによって、相手ゴールキーパーを欺きつつ勢いのあるシュートをぶつけることができる。

 つば吐きのように見えるがきちんとした魔法であり、口から魔法を出してボールを押し出すことはヘディングシュートに近いものであるとルールブックに書いてあるので審判から止められることはない。

 エルドラドサッカーの火を噴いてシュートをキャッチしたり、口から嵐のような突風を吹いたりする選手もいたりする。

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