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魔導のファンタジスタ  作者: ルジリオ
二章 大会への道筋
91/130

猛攻と反撃

 シュンの技ありのドリブルで点を取り、二対三となった。

 試合前半も残り時間が少なくなっている。

『試合を見れば、常にスコアが変わっている点取合戦! そろそろ終りに近い! またどちらかのチームがスコアを動かすのでしょうか? はたまたこのまま?』

「……パイプ。俺がやりたいこと、わかったよな」

「ええ、でもイクオスさん。それ初めてやりますよね? うまくいきますか」

「うまくいくかどうかじゃねえよ。これが勝ちの最善手だ。それに――」

 パイプは前方にいるシュンに視線を向けながら、

「いいかパイプ。ほかのメンバーの指示はお前に任せる。今からの攻めのリーダーはお前だ」

「了解っス」

 話し合いを終えると、笛の音が鳴り響いた。

 試合再開だ。

 イクオスがパイプにボールを渡す。

「よしいけ! 点を取られたら取り返せ! 何倍にもしてな!」

「「「おう‼」」」

 そして号令を出し、チームの選手たちを勢いづける。

 ダーディススクラプは超攻撃特化のチーム。点を取られても、こちらがより多くの点を取ればいい。そういう考えのチームだ。

 点を取られようが、攻めの姿勢は崩さずマギドラグのゴールへと向かっていく。

「迷いねえな。厄介だぜ」

「おいシーシャ! ボールっス!」

「おっと! 遅いぜ!」

「なっ⁉」

 素早くリンナイトがパスボールの軌道に入ってボールを奪い取る。

『俊敏なリンナイト選手のパスカット! パイプ選手のパスが取られる!』

「先輩としてシュンばかりにたよっちゃあいられないよな」

「返せや!」

「返すかよ!」

 すぐさま高速ステップでパイプを抜き去るリンナイト。すぐさまパスを出そうとする。

「この! すばしっこい奴っス! だが! 『瀑砕昇』!」

 このまま相手選手を見逃すパイプではない。

 するとリンナイトの足元から水柱が吹きあがってきた。

「くっ⁉」

 その水圧に吹き飛ばされてしまうリンナイト。こぼれたボールにパイプが追いついて、

「通しませんよ!」

「うわ⁉」

 同時にバルバロサも追いついていた。視覚外からの回し蹴りスライディングでパイプからボールを奪い去る。リンナイトがボールをカットした瞬間、バルバロサはサポートしようとしてリンナイトに近づいていたのだ。

「トノスさん!」

「ああっ!」

 サイドラインでフリーとなっているトノスに素早くパス。そこから切り込んでいく。

「よっと進むぜ!」

『ボールを奪い返したマギドラグ! 攻めに転じる!」

「ほらよ!」

 トノスお得意の大ジャンプからの空中ダッシュ。前から乱暴にチャージしてくる相手選手を上から切り抜ける。

 そして、味方がどの位置にいるか確認して、

「むっ⁉」

『あーと! これはイクオス選手! 他の選手と共に攻めず、シュン選手の近くに居座り始めた!』

 なんと、イクオスがシュンの近くに立っている。

 そしてシュンの動きについていくように走っていた。

(あのヤロー! シュンにマークしやがった!)

 間違いない。

 イクオスが攻撃にいかずに自陣に籠っている理由。

 シュンをマークするためであったのだ。

(マギドラグはシュンがゴールを決める。ようは攻撃の要はシュンだ。ならばヤツを封じちまえばいい)

 シュンのドリブルやパスで前線を上げて、そこから攻撃のチャンスを作っていく。

 前半の二点はシュンがすべて点を挙げ、攻撃のきっかけもシュンのプレイングによって作り出している。

 ならシュンの動きを封じ込めさえすれば、点を取られる危険を減らせる。

 そう考えてのマークだ。

「おいおい、君らのチームは攻めこそが命、そんな攻撃的チームだと思っていたが、俺を追いかけていいのか?」

「ああ、俺たちのゴールを破くことができるのはシュンお前ひとりだけだ。まったく、どうやら喧嘩以外では俺の感は当てにならないらしい」

 その言葉になるほど、と心の中で頷くシュン。

 先ほどのドリブルでのゴールに加えてゴールへの攻め方。確かに今のところ点を取っているのは全てシュンがかかわっている。だからこそイクオスはシュンこそがマギドラグ魔法学院の攻撃の要だと考えたのだ。

 シュートを打たせるどころかボールを持たせるようなことはさせない。

 シュンの動きそのものを封じ込めに来たのだ。

「俺以外にも強いマジックシュートを打てる奴はいるぜ」

「ならその時になったら考えるよ。それに、お前の絶対的なドリブルを止めるのが面白そうだ」

「……そうかい」

「マークされるのは苦手かい?」

「いや、注目されているのは慣れている」

(これはあの時同じだな……マギドラグ学院での選抜戦の時と)

 前に行われた校内でのAクラスとの試合を思い出す。あの時は元サッカー部のフロストンにマークをし続けられた。

 点取り屋として名乗っている以上、誰かにマークされるのは慣れている。

「トノスさん! 今は迷わず前に!」

「おう!」

 シュンからの指示にすぐさま反応してゴールへと向かうトノス。シュンにマークされて以上、こちらが頑張ってゴールを奪うべきだ。

「おら! モココ! ぶち込め!」

「はいはーい♪!」

 フィールドの反対側にいるモココにロングパスを出し、

「この!」

「ふわっとね♪」

 相手チームのミッドフィルダー、カメルの勢いに任せたチャージも柔らかなボールタッチにするりと抜き去る。ふわふわなステップで相手を惑わせた。

(威力は高そうだけど、力押しだから単調だね)

 とにかく相手を吹き飛ばしてボールを奪いに来るダーディススクラプのディフェンスは恐怖こそは感じるものの、冷静に見れば避けやすい。

 そしてすぐに周囲を確認。

 シュンはマークされている。ほかの仲間にパスをするのも攻撃の手を緩めるようなもの。

 ここは速攻を選ぶべき。

「もっと近づいて打ち込む!」

『おっとモココ選手! シュートを打ちに行くか!」

「『リーフカッター』!」

 ペナルティーエリア内からのマジックシュート。鋭い葉の刃と共にボールがゴールへと向かっていく。

「そんな軟弱なシュートなぞ! 『豪腕ロックラリアット』!」

 右腕に魔方陣を展開して、片腕に岩をまといダッシュしながらその腕をボールに激突させる。

 そして足に力を入れて思いっきり体を回転させてボールを弾き飛ばした。

「むっ! なかなか!」

 しかしモココのシュートの威力は中々のもので、はじき返しはしたもののポテンと地面に弾んでこぼれ球となってしまう。シガーはフィールドの中央まで飛ばそうとした。ゴールは防げてたがはじき返しは失敗に終わったのだ。

 そしてそれをモココは見逃さない。

「あっ弾かれた! シュンくん!」

「わかってるぜ!」

 シュンに伝える前に、シュン自身がすでにボールの近くまで走ってきていた。絶好のこぼれ球を逃すわけにはいかない。

 弾かれたボールに飛び上がってボレーシュートの構え。魔法を使った後なら普通のシュートでも脅威になるはずだ。

「やらせるかよ!」

 だがイクオスがそれを見逃さない。横から足を振ってきてシュンのシュートを止めにかかる。渾身の蹴りがボールとシュンを同時に吹き飛ばそうと襲い掛かる。

「甘い!」

 ボレーキックと見せかけて足元にボールを収めて、そのまま横に素早くステップ。イクオスのキックを避けて出し抜いた。

「なっ⁉」

『シュン選手回避! そしてシュートの構え!』

「オラッ!」

 そしてすぐさまシュートに移る。

 足を鋭く振り抜き、ハイスピードでキック。ボールはスピードに乗って相手ゴールへと向かっていく。

「普通のシュートで!」

 ボールに向かって手を伸ばしてワンハンドでつかみ取ろうとするシガー。シュンの放ったシュートは矢の如く速く飛んできている。それでも喧嘩で鍛えた動体視力でシュートに反応して止めにかかる。

 キュイン!

 だがシガーの手に触れる直前、ボールは横に鋭くカーブ。シュンが放ったのはスライスシュート。急に曲がる高速シュートだ。

「なにっ⁉」

「シガー! バリアだ!」

 急な起動変化に戸惑うシガーにとにかくバリアを展開させるように指示を送るイクオス。

 その言葉に迷うことなく従って、

「『バリア』!」

 手の先に薄い障壁が展開され、それにボールが弾かれた。普通のマジックシュートなら簡単に壊されてしまうほどの硬さのバリアだが、普通のシュートなら何とか防げる。

『なんとかバリアで弾く!』

「マッスルパワー! 全開!」

 さらに腕に力を込めて、バリアに激突したバウンドボールにアッパーカットをかますシガー。全身の筋肉パワーを込めた拳は、ボールを天高く飛ばしシュンのスライスシュートをパンチングでゴールを防いだ。

 シュンのシュートは何とか防げた。

「ダメ!」

「なっ!」

『おっと、モーグリン選手がボールを取る! マギドラグの攻撃は終わってないっ!』

 だがマギドラグの攻撃はまだ終わっていない。

 パンチングして飛んだボールの行く先には、モーグリンが空にジャンプしていた。そしてそのボールを胸で受け取り、

「トノスくん!」

 そして空中でパスを出す。

 不安定な体勢でありながらも、精密なパスはトノスの足元に届き、

「行くぞ! プロス!」

「わかったわ! トノス!」

 トノスとプロスが視線だけで合図し、そして二人同時に魔方陣を展開。

「「『ツインフレイムシュート』だ! いけ!」」

 タイミングを合わせて二人同時にシュートモーション。業火の脚でボールを蹴飛ばし、大きな火の玉をゴールに向けて発射。

「ま、まずい!」

 先ほどシュンのシュートを止めた時に体勢が崩れている。このままでは万全のパワーでシュートを迎え撃つことはできない。

「俺に任せろ! 『風刃脚』!」

 そのシュートを止めに入ったのはシガーではなくイクオスであった。

 炎の弾に横から風の刃が突っ込んでくる。イクオスの鋭い魔法の刃が炎をかき消し、ボールを弾き飛ばす。

 兄姉が放った豪炎は風の刃が吹き飛ばしていく。

「え! オレたちのシュートが!」

「ゴールキーパーじゃなくてフォワードに止められたわ!」

「うおおお! ホーラ!」

 ダーディススクラプのディフェンダー、レッドスタがこれ以上攻めさせてたまるか、と言わんばかりにこぼれ球をキックしてロングパス。そして前線にいるホーラに届いた。

「よっしゃ! こんどはアンのばん!」

「ええい! そう好き勝手に!」

 すぐにゴールに向かおうしたホーラ、その足元にトイズが滑り込んでタックル。すぐさまボールを奪い返す。

「あっ⁉」

『ダーディススクラプのカウンターは失敗! マギドラグの攻めは止まらせない、と守備陣が奮起する!』

(イクオスが守りに入っている分、攻めのパワーがなくなっているのか)

 ダーディススクラプ魔法学校の攻撃力はエースストライカーであるイクオスが強引に攻めて、さらにイクオスは前線での指揮をとることによってチームの攻撃をより苛烈にしていた。

 そのイクオスが自陣にこもりシュンのマークについているためか、ダーディススクラプの攻撃が緩くなっている。

「なあ、攻めに行かなくていいのか?」

 マークしているイクオスにそう聞くと、

「ああ、お前を封じて点を取られなかったらいいさ」

 それに、

「アイツら、守りやチームプレイは褒めたもんじゃあねえが攻めに関しては安心して任せられるぜ」

「……そうか」

 完全にシュンの行動を止めることに集中してきている。

 一度シュンにマークに付くと決めたのなら、よほどの展開が訪れるまで離れることはないだろう。

(そこまで俺に執着するなら、乗り越えてやるぜ)

 彼を切り抜ければゴールのチャンスがやってくる。

 どうにかしてでも突破しなければ、シュンは前半が終わるまでの時間を確認したあとゴールを見た。




(また、シュンにマークが……私がいれば……私が選手として出ていればシュンももう少し自由にプレイできるのに!)

 ベンチにいるレイカが不満そうにフィールドを見ていた。

【エルドラドサッカー日誌】

・炎陣悪競

 ダーディススクラプ魔法学校が使うタクティクス。

 攻め気の強い選手が集まるダーディススクラプ。それに目を付けたイクオスが考えた作戦。イクオスを守るように前に選手が出て、その選手たちと共に全力かつ強引にゴールに向かって走りこむ。その時、前の選手が相手選手を弾き飛ばしてイクオスが守りながらゴールを向かうのである。それによってイクオスに安全にシュートを打たせることができるのだ。

 ダーディススクラプ魔法学校のサッカーは『ケンカサッカー』。

 強引に、豪快に、乱暴に攻めて相手に恐怖の心を植え付けさえて動きを鈍くさせてゴールを量産する。

 凶暴な攻めこそこの学校の戦略である。

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