魔法のシュート
魔導士のリーザンがサッカーをした。
そのことがシュンが住むオドロン村に広まり、大人の人もサッカーに夢中になったあの日から一月が経った。
大人たちはきちんとルールを決められたサッカーさえもただの球けりだとおまっていたが、リーザンが魔法を組みわあせたサッカープレイングが大人の心に火をつけたのだ。
以来、オドロン村の中でサッカーは流行するどころか、オドロン村の誰もが遊ぶゲームとして定着したのであった。
そのことにシュンは、最初にドーロンたちとサッカーをしたことを思い出す。
この世界でもサッカーができる。
異世界に住む人々もサッカーを楽しんでくれる。
その事実に歓喜の声を上げた。
大人が加われば、サッカーの技術は高くなっていく。試合内容のレベルもあがり、シュンはよりサッカーにのめり込んでいった。そのおかげでシュンのサッカー技術はより高まっていく。
なにより、サッカーに魔法が加わることによって、未体験の魔法サッカーを見ることができた。前世で見た漫画やゲームの異次元サッカーを体験できる。
いずれ自分もやってみたい、シュンはそう思ったほどに。
そこからか、シュンは魔法も本気で練習するようになった。リーザンから貰った魔法の教科書を読んでは魔法の練習。シュンは体内に貯まる魔力量は少ないため数回魔法を発動するだけでガス欠してしまうが、それでもシュンは魔法を使えるって面白い、と感じながら魔法を勉強していた。前世でありえないことを体験することは楽しいものである。
サッカーをし、魔法を勉強し、家の仕事を手伝う。そんな日常を送っていた。
ちなみに大人たちの協力によってゴールにネットが張られて、より前世でしていたサッカーに近づいて喜んだシュンであった。
村の広場にあるフィールドで素早いドリブルを披露している少年がいた。
「もっと速く行くぜ!」
ボールを持ったシュンがゴール目掛けてドリブルを仕掛ける。
シュンの周囲は大人の人だけしかいない。
シュン以外、全員大人だ。
大人がしているサッカーに、混ざらせてくれ、と頼んで入れさせてもらったのだ。
「本当に子供かよ」
「身体能力は子供ゆえに劣っているが、その短所が技術でなくなっているな」
「喋ってないで止めるぞ!」
相手チームは警戒しながら、シュンを迎え撃つ。
対してシュンは、
「まだまだ行ける!」
どんどんスピードのギアを切り替え、自分より大きな体型の大人さえも軽々と抜き去っていき、ゴールに近づいていく。
マックスからゼロ、ゼロからマックスとスピードを変えていき、緩急のある動きで相手を翻弄しているのだ。
「と、止められない!」
「よし、パスだ!」
相手を抜き去った後、シュンはチームの仲間に速いパスを渡す。
受け取った仲間は同じチームのメンバーとのパス連携で前進していった。
「シュートチャンスだ!」
シュンの言葉通り、ゴールを決めれる距離まで近づいた。ボールを持っている仲間はニヤリと笑うと足を大きく振って、
「飛ばす!」
全力でシュートをかました。大人の力によって放たれたシュートはシュンが放つものよりも速く、そして力強い。
相手のゴールキーパーはシュートを打たれた瞬間に構えて、ボールを真正面から体全体を使って止めようしてきた。
「まだまだ!」
ゴールキーパーの視界の横から人影が。
シュートコースにシュンが突然あらわれた。
完全なる奇襲。
そして、飛んでいるボールに、
「いけっ!」
「なに!?」
ボレーシュートをかました。ボールは更に勢いを増し、軌道変わって、相手のゴールキーパーは反応できずにゴールの中にボールが入っていった。
「ヨシッ! どうだ!」
「横から飛んできてシュートコース変更するとはな。同じチームなのに驚きだぜ」
「ほんと、大人顔負けだ。まあ、村の中じゃあサッカーが一番うまいからな」
大喜びでガッツポーズをしているシュンに大人達は驚愕する。
本当にサッカーが上手い。ドリブル、パス、シュート、どれもレベルが高い。大人たちとサッカーをしても、力負けはするが技術では凌駕している。
毎日サッカーボールを追いかけているとはいえ、恐ろしい成長力だ。
「へい、なんなら魔法を使ってきてもいいんだぜ」
「シュン、言ってくれるじゃないか。だが魔法は使えん。子供相手に使ったら大怪我をさせてしまうかもしれないからな」
「もうちょっと年をとってからね」
「えー……まあ、そう言うなら我慢するよ。怪我して迷惑かけたくないしな」
残念そうな顔をしながらも大人たちの言葉に従う。
大人達の言う通りではある。
魔法を使ったらプレイはスピードもパワーも増す。大怪我をする可能性も上がってしまう。
だから子供相手には魔法を使うのはマズイ。そしてそのことは子供であるシュンも理解していた。
「まあ、学校の中等部を卒業したらやろうじゃないか」
「本当か!? 楽しみになってきたな! じゃあ、さっさとサッカーを再開するか!」
「待った、俺も混ぜれるか?」
サッカーを始めようとしたその時、聞いたことのある声が聞こえた。
誰もが彼のことを知っている。
「この声は……リーザン!」
「よっ、皆。久しぶりだな」
リーザンが村に再びやってきた。
「ふー、やっぱりサッカーは楽しいもんだな。街の中じゃあドリブルぐらいしかできなかったからよ」
サッカーを楽しんだリーザン。
リーザンがシュンのチームに加わって、二人でシュートを決めまくった。
その後、今度から二人はチームを分かれてくれ、といわれたほどの活躍をした。子供たちに言われたことを大人の人にも言われることになるとは。
「リーザン、久しぶり」
サッカーをして休憩時間、フィールドから離れて、シュンのリーザンは二人っきりで話し合う。
「リーザン、魔導士の仕事は休みなのか?」
今のリーザンの服装は魔導士のローブではなく、動きやすそうな服を着ている。仕事で来たのではないということがわかった。
「ああ、久しぶりに長めの休みを取れてな。だからこの村に帰ってきたんだ。俺、無職じゃないからな。国の魔道士として仕事もしないとな。今日は連日休みを取れたからオドロン村に来れたんだ」
「そうか。魔導士の仕事ってどんなことやってるんだ?」
「俺はこの大陸の危険地域、ようは凶暴なモンスターや過激な自然現象がはびこる場所を探検して、新種のモンスターや魔法に使えそうな植物や鉱石を見つけることだな」
「凄いことやっているね。大変だろ?」
「大変だが、楽しいぜ。俺の知らないことが押し寄せてきて興奮が止まらね……っと、今日は魔導士としてじゃなく、サッカープレイヤーとして遊びに来たからな。仕事の話はサッカーが終わったあとにしてやるよ」
話を中断するリーザン。魔導士としての活躍を話すことより体を動かしたいみたいだ。
「まだまだ一緒にサッカーしようよ、リーザン。前に約束した通り、俺が勝つんだからさ」
先程は同じチームだったため、次は違うチームで戦いを望むシュン。ボールをパスして誘う。
それを受け取ったリーザンは、
「言ってくれるね。いざ勝負――と言いたいところだがよ。もう一つ要件があるんだ」
「要件?」
なにか仕事でもあるのかな、と思っていると、
「仕事じゃないぜ。シュン、完成したぜ」
「なにが?」
「これだ、これ。このボール!」
すると、リーザンは背負っていた鞄からボールを取り出した。赤色のボールだ。それをシュンに渡すように優しく投げ渡した。
「おっと」
シュンは胸元で受け止めてトラップしてボールを貰おうとした。
「このボールは!?」
トラップした瞬間、懐かしい感覚が伝わってくる。
ボールの硬さ、重さ、感触、あのボールに似ている。
(前世の時に、触れていたボールにそっくりだ!)
この異世界に来る前にたくさん触れてきたから間違えることはない。
このボールは前世で、自分が風間瞬の時に蹴ってきたサッカーボールとまったく同じだ。
試しにドリブルをしてみる。
(しやすい)
「うおっ、スゲー速い!」
今までとは全然違うスピード。その速さにリーザンも驚愕。
そして足を振りかぶってシュート。ボールは真っ直ぐ飛んでいってゴールの中に入った。
そしてボールを蹴ったシュンは自身の足を見つめて、
「この重さ……! 蹴ったって感触が足に残り続けるこの感覚! シュートを打っているんだって体が感じている! サッカーのためにあるボールだぜ!」
「そこまで喜んでくれるか。なら持ってきたかいぎあったぜ」
シュンの反応に喜ぶリーザン。
「しかし、すぐにそのボールに適応できるとはよ」
「いや、ずっと俺の手作りボールを使ってたから、まだ慣れてないよ」
「今のプレイでか?」
「うん。このボールに慣れれば、ドリブルももっと速くなるだろうし、シュートだって速く鋭く曲げれるようになるよ」
「マジか、まあお前ならすぐ慣れるさ。今のプレイを見てそう思ったよ」
あらためてシュンのサッカー技術に驚くリーザン。身体能力なら勝てるがサッカー技術の方はまだ全然追いついてない、と思うほどにシュンはサッカーが上手い。歳が同じなら勝てないな、と思っしまうほどに。
「リーザン、いつの間にこんな凄いボールを作ったの?」
「作ったっていうかモノ作りの得意なやつに頼んだんだ。俺が本気で蹴っても壊れないぐらい頑丈なボールを作ってくれってな。ついでに蹴りやすいって要望も付けてな」
なるほど、と頷く。
リーザンは魔導士だ。
魔法が得意だけでなく、身体能力もこの異世界に住む常人よりも高い。
いつもの手作りボールなら本気でプレイしたら簡単に壊れてしまう。
だから、リーザンは自分が全力を出しても壊れない頑丈かつ、サッカーがしやすいボールを作ってもらったのだ。
「シュン、それやるよ」
「えっ! いいの!?」
まさかのサプライズプレゼントにシュンは驚愕する。
「ああ、たくさん作ってもらったからな。一個ぐらい安いもんさ。なんなら今度またこの村に来たとき沢山持ってきてやるよ」
「やった! ありがとう、リーザン! これでまたサッカーが楽しくなるぞ!」
シュンは喜んでボールに抱きついた。
まさか前世で使っていたサッカーボールに限りなく近いものを手に入れることができるなんて。
より高度なドリブルやシュートの練習ができるようになる。
それはサッカーがより楽しくなるということだ。
「なあ、シュン」
「なに?」
喜びまくっているシュンに声をかける。
リーザンは一息ついて、
「マジックシュートの練習、したいか?」
「したい!」
即答でそう返した。
村の大人が魔法を使ったシュートやドリブルなどを見ていると、自分も使いたくなるのは当然。
教えてもらえるなら、喜んで教えてもらい、そしてマジックシュートを自分のものにしたい。シュンのやる気は満々だ。
シュン言葉を聞いたリーザンは、だろうな、と心のなかでおもい、
「そう言うと思った。ならやろうぜ、このボールなら全力で練習できる。なんせ、このボールを作った一番の理由が、魔法を使ったパフォーマンスを行うため、だからな」
「そんなに頑丈なの?」
「ああ、まあこのサッカーボールができるまでに多くの試作品が壊れたが。だからこそ、このボールの耐久性は保証するぜ。さあ、マジックシュートの練習といこうか」
「おう! あっちょっと待った!」
いざ練習、フィールドに行こうとした瞬間、シュンが止める。
「なんだ?」
「友達も呼んできていいか?」
シュンは村の子供たちをマジックシュートの練習に誘いたいと思った。
せっかく面白いサッカーの技を習得できるチャンスなのだ。だから他の子供たちも呼ぼうと考えたのだ。
「んー、確かに多くの人が魔法を組み込んだサッカー技術を取得すれば、サッカーをより楽しんで貰えるかもしれんしな。あー、わかった。いいぜ」
「おう! 村の皆呼んでくる!」
シュンは広場にいる子供たちに向かって走っていく。その後に他の子供たちを探しに村の中を走り回ってくるだろう。
そしてリーザンは気づく。
「……まさか、大人数に魔法の授業みたいなもんを開かないといけないのか?」
休みの日が仕事より大変な日になるかもしれない、そう思ったリーザンであった。